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現実世界にドラゴンはいない
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僕はヒロインの唯に告白をした。
心臓が壊れてしまいそうだ。どこか心地良さまで感じる痛みが身体を掛ける。これまで僕は様々な女性からアプローチを受けた。幼馴染、委員長、先輩、妹までもが恋愛対象だった。モテ期もこれでおしまい。他の女の子達には予め断りの挨拶に行った。泣き出す子、笑顔で送り出してくれる子。みんなが僕の背中を押してくれている。
「はい......!!!!私も貴方のことが好きです!!」
大して面白くもないありきたりな小説を区切りまで書き終えると僕は食事を取ることにした。今日の夕食はドラゴンの肝らしい。この世界で書き物屋を営む僕からしてみれば超が付くほどのレア食材である。
「今日もリアさんが挨拶に来てくださったのに、貴方書き物してる時は全く話が通じないんですもの。まあ、貴方がそれだけ没頭して異世界に浸れるからこそこうやって生活ができるんですけどね」
「そうだったのか、それは申し訳ないことをしたな。今日はいいシーンだったんだ」
妻の唯と僕は2人で生活をしている。この世界でもやはり勇者は偉大な存在であった。しかし僕には戦う才能がない。そんな僕でもできる仕事がこれだったわけだ。
大きな爆発音。世界が揺れる。
「おい!!ドラゴンが攻めてきたぞ!!!勇者の軍が全滅したんだ!!!」
外からサイレンと共に叫ぶ声が聞こえる。
「まじか!唯、逃げるぞ!!」
ドアから飛び出ると、僕は唯の手を引き走る。街はすでに火の海と化していた。五感全てから不快な情報しか入ってこない。熱い、臭い、煩い。その時だった。
空が一瞬で暗転した。
ドラゴンである。
あぁ、もうおしまいだ。僕はここで死ぬんだ。唯だけ、唯だけでも......!!!
次の瞬間には唯は重力を無視させられていた。ドラゴンにくわえられ空を飛ぶ。綺麗な夕陽。綺麗な火災。一瞬ドラゴンとその情景の一致に心を奪われる。そして絶望。うずくまる僕はきっと絵になっているだろう。火とうずくまる影、そしてドラゴン。勇者は死んだ。
「僕が、僕が行くしかない。唯はまだ死んでない!!!で、でも」
激しい爆発音と叫び声の間から、この絶望を切り裂くような声が聞こえた。
「力を欲しますか?」
顔をあげると、そこには目を見張るほどの美少女が笑顔でこちらを見ていた。
パソコンを閉じる。4月も中旬だが炬燵はまだ手放せない。僕は現実世界で「ハーレム系を書く物書きが世界を救うシナリオを自ら実践してみた件」という小説を書いている。あまり人気はない。母からの置き手紙が部屋に投げ込まれていた。僕は世界に没入して作品を書くタイプだから置き手紙はよくあることだった。
僕はコーラを一口飲むとごろりと横になる。退屈な日々だ。
青空。旅する雲。
現実世界に冒険などないのだ。その時だった。
うーうーうーうー。
スマホからけたたましい音が発せられた。驚いた僕は急いで画面を開く。
「ドラゴン出現。レベル5」
意味がわからない。現実世界にドラゴンがいるわけないじゃないか。窓から顔を出すと空を覆い隠すほどの巨大な生物が炎を吐いている。あれはなんだ。
あぁ......。もしかしたら。考えたことがないわけではない。なぜなら僕が書いている作品は......。もしかしたら......。
僕は書かれているのかもしれない。
この世界も炎で包まれる。視界には影と炎とドラゴン。僕はきっとここで死ぬだろう。でも最後に知りたい。僕の存在はなんなんだ。
この恐怖感はきっと没入感。死にたくない。これはいい作品になる。死にたくない。ドラゴンの描写が作品に命を与えるんだ。死にたくないよ。
現実世界にドラゴンはいない。
ドラゴンと目が合う。もうおしまいだ。月が自ら光を発してるかのように見えた。
身体が、視界が、思考が炎に包まれる。
意識が遠のいていく中で、現実世界の唯が僕を呼んでいる気がした。
心臓が壊れてしまいそうだ。どこか心地良さまで感じる痛みが身体を掛ける。これまで僕は様々な女性からアプローチを受けた。幼馴染、委員長、先輩、妹までもが恋愛対象だった。モテ期もこれでおしまい。他の女の子達には予め断りの挨拶に行った。泣き出す子、笑顔で送り出してくれる子。みんなが僕の背中を押してくれている。
「はい......!!!!私も貴方のことが好きです!!」
大して面白くもないありきたりな小説を区切りまで書き終えると僕は食事を取ることにした。今日の夕食はドラゴンの肝らしい。この世界で書き物屋を営む僕からしてみれば超が付くほどのレア食材である。
「今日もリアさんが挨拶に来てくださったのに、貴方書き物してる時は全く話が通じないんですもの。まあ、貴方がそれだけ没頭して異世界に浸れるからこそこうやって生活ができるんですけどね」
「そうだったのか、それは申し訳ないことをしたな。今日はいいシーンだったんだ」
妻の唯と僕は2人で生活をしている。この世界でもやはり勇者は偉大な存在であった。しかし僕には戦う才能がない。そんな僕でもできる仕事がこれだったわけだ。
大きな爆発音。世界が揺れる。
「おい!!ドラゴンが攻めてきたぞ!!!勇者の軍が全滅したんだ!!!」
外からサイレンと共に叫ぶ声が聞こえる。
「まじか!唯、逃げるぞ!!」
ドアから飛び出ると、僕は唯の手を引き走る。街はすでに火の海と化していた。五感全てから不快な情報しか入ってこない。熱い、臭い、煩い。その時だった。
空が一瞬で暗転した。
ドラゴンである。
あぁ、もうおしまいだ。僕はここで死ぬんだ。唯だけ、唯だけでも......!!!
次の瞬間には唯は重力を無視させられていた。ドラゴンにくわえられ空を飛ぶ。綺麗な夕陽。綺麗な火災。一瞬ドラゴンとその情景の一致に心を奪われる。そして絶望。うずくまる僕はきっと絵になっているだろう。火とうずくまる影、そしてドラゴン。勇者は死んだ。
「僕が、僕が行くしかない。唯はまだ死んでない!!!で、でも」
激しい爆発音と叫び声の間から、この絶望を切り裂くような声が聞こえた。
「力を欲しますか?」
顔をあげると、そこには目を見張るほどの美少女が笑顔でこちらを見ていた。
パソコンを閉じる。4月も中旬だが炬燵はまだ手放せない。僕は現実世界で「ハーレム系を書く物書きが世界を救うシナリオを自ら実践してみた件」という小説を書いている。あまり人気はない。母からの置き手紙が部屋に投げ込まれていた。僕は世界に没入して作品を書くタイプだから置き手紙はよくあることだった。
僕はコーラを一口飲むとごろりと横になる。退屈な日々だ。
青空。旅する雲。
現実世界に冒険などないのだ。その時だった。
うーうーうーうー。
スマホからけたたましい音が発せられた。驚いた僕は急いで画面を開く。
「ドラゴン出現。レベル5」
意味がわからない。現実世界にドラゴンがいるわけないじゃないか。窓から顔を出すと空を覆い隠すほどの巨大な生物が炎を吐いている。あれはなんだ。
あぁ......。もしかしたら。考えたことがないわけではない。なぜなら僕が書いている作品は......。もしかしたら......。
僕は書かれているのかもしれない。
この世界も炎で包まれる。視界には影と炎とドラゴン。僕はきっとここで死ぬだろう。でも最後に知りたい。僕の存在はなんなんだ。
この恐怖感はきっと没入感。死にたくない。これはいい作品になる。死にたくない。ドラゴンの描写が作品に命を与えるんだ。死にたくないよ。
現実世界にドラゴンはいない。
ドラゴンと目が合う。もうおしまいだ。月が自ら光を発してるかのように見えた。
身体が、視界が、思考が炎に包まれる。
意識が遠のいていく中で、現実世界の唯が僕を呼んでいる気がした。
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感想、お気に入りありがとうございます!ファンタジーも一回くらい書いてみたいなと思いながら書きましたがどうなのでしょうか……。他の作品もぜひご覧になってください。