社員旅行は、秘密の恋が始まる

１日目。1

バスに乗ると、お局様が私を待っていた。
「沖田さん、桜木さんが帰ったんだけど、同室者居なくてもいいかしら」
「あっ、はい、さっき聞きました…大丈夫です」
「まあ、そう言うしかないけどね！1人部屋なんて羨ましいこって」
ひと言ニヤリと笑ったお局様は蔑んだような目で私を見た。
「あはは…」
と乾いた笑いしか出ない私のうしろでボソリと
「もう少し言い方があるのに」
と静観していた部長が、ボソボソと私にしか聞こえない声で呟いた。部長が先に座り私は彼の横に座った。


温泉街を一望できる地上20階建ての洋風のホテル前に到着した。正面入口のバスのロータリーに停めたバスの扉が開くと社員達が手荷物を持ってバスの外へと降りていく。バスの横にある大きなトランクの扉が自動で上へと上がり、社員達の荷物が現れた。順番に荷物を取る人がホテルの中へと入っていく。私も荷物を取りホテルの中へと入る。
ロビーへと入ると、オレンジ色の電気が赤い絨毯と合って高級感漂う。ホテルの真ん中が吹き抜けになっていて、六角形の形をした内装でガラスの柵が全ての階にあり、正面の入り口の反対側にある全ての階数に繋がるガラス張りのエレベーターが3基あった。吹き抜けの数階下の地下を見下ろすと下には大きなグランドピアノが自動で動き、ロビーまで音楽が響いていた。幹事の人から部屋の鍵を貰うと、キーホルダーに付いているルームナンバーを見て、エレベーターへと向かった。
エレベーター前に着くと、何人かの社員が雑談していたり、荷物を持って待っていた。そこには、部長もいて私に気がつくと片手を上げた。ぺこりと頭を下げて、彼の隣に立つと
「結構いいホテルだね、楽しめそう？」
「はい、豪華ですね」
当たり障りない会話をして、到着したエレベーターに乗り込むと部長に、何階？と聞かれ、13階です、と答えボタンを押してくれた。
「…部長は何階ですか？」
数人の社員も居るために、小声で聞くと
「16階の個室だよ、役職付いて良かった点だね」
お茶目にウィンクした部長にクスリと笑いが漏れ、私が降りる13階に到着したので、お先です、と一礼して降りた。



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お風呂から上がり備え付けの浴衣で夕食会場のバイキングを食べた後、そのまま宴会になってしまった会場を抜け出した。残っている男性社員6割くらいで後は女性社員だったが、アルコールを注ぐとセクハラが始まるのを知っていたので、少しずつ抜け出している社員達に紛れて会場をあとにした。

ーーほのかも居ないし、つまらないから…このまま部屋で休もうかな

とぼんやりとエレベーターの方へと歩くと、背後から声をかけられた。
「沖田さん、もう帰るの？」
声の主の方へと視線を向けると、浴衣姿の部長が立っていた。私の横に移動して、一緒に歩き始める。
「部長、抜け出して大丈夫なんですか？」
少し背の高い部長を見上げると、にっこりと微笑む彼が
「…ああ、つまらないしね…どこかに行くの？」
「いいえ…もう部屋で休もうかなって思ってました」
部長には、ウソをついてもダメだと思い素直に告げた。
「そうなんだ…もし…疲れてないならこのラウンジで飲まない？」
「ラウンジですか？」
まさかのお誘いに、目を見開き立ち止まり部長を見た。
「嫌？」
「…いや、嫌ではないですが…私とラウンジで飲んだら会社の人に噂されたり…奥様にも」
彼はうむ、と悩む素振りを見せて、
「…今は宴会中だし何店舗も入っている他のラウンジ行く人は居ないと思うよ…それに、私は独身だから心配ないよ」
左手をヒラヒラと動かし指に何も嵌めていない事を教えてくれた。
「…それなら」
２つの心配が無くなった為に、少しならいいかな、と了承したのだった。