社員旅行は、秘密の恋が始まる

狭山雪菜

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挨拶

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雨降る音が聞こえる、彼の腕の中で微睡む時間が1番幸せだ。背後から彼の寝息が聞こえ、私の腰に置かれた腕の重さが心地よい。

ーー幸せすぎて…怖い…本当に…他に好きな人出来たってパターンにならないのかな

最近よく考える幾度もあった過去の出来事に、心が落ち着かなるのに…そんな私を安心させるように、彼が私に近寄り肌が密着し、瞼を閉じると彼の匂いに包まれて眠りについた。



********************



「…瑠璃この格好でもいいかな?」

今日は、私の親と健吾さんが会う日。親に彼氏を紹介するのも初めてだし…13歳年上の彼氏だとは伝えたが、どうリアクションされるか分からないため数日前からドキドキと過ごしている。
「健吾さんは何を着ていても、かっこいいからずるいなぁ」
口を尖らせ拗ねる私に、苦笑して私の腰を引き寄せる。
「瑠璃のご両親に会うのだから、ちゃんとしないとね」
そう言って、私の頭をぽんぽんとする。紺のジャケットに白いシャツ、細身の黒のズボンがスタイルの良さを醸し出している。
反対に私は、シンプルな青いワンピースを着ていた。

「…では、行こうか、お姫様」

私の頬に軽くキスをすると、彼は私の手を取り玄関へと向かった。





「まぁまぁ、ようこそ、いらっしゃいました」

家に到着すると母が玄関で出迎えてくれ、父もリビングの入り口から顔を出していた。
「初めまして、瑠璃さんとお付き合いをさせて頂いております芝田健吾と申します」
軽く挨拶をして、母に手土産を渡す健吾さんに
「まぁ、いいのに…さっ上がってください」
ぽっと頬を染めた母は、健吾さんからの手土産の紙袋を受け取り、中へと促した。


リビングに通されソファーに並んで座っていると、隠れていた父がやって来たので、健吾さんは立ち上がり挨拶をした。
「…うむ、よろしく」
いつもよりゆっくり喋る父に、緊張しているのかな、と思ったが、何も言わなかった。

しばらく他愛のない話をして、母もテーブルを挟んだ向かいに座ると、居住まいを正した健吾さんが、
「瑠璃さんから聞いていると思うのですが…娘さんとお付き合いをさせて頂いております、芝田健吾です」
改めて自己紹介をして、会社名と役職を告げると、父も母も驚いていた。
「…そんなすごい方と…?」
私の方を見て、ウィンクをした母はきっと、"よくやった!"って思っているだろうなと思った。反対に父は、
「………娘とは、その…将来どう考えているのですか?」
渋い顔をして、健吾さんから視線を外さずに問いかけた。

「はい、結婚をしたいなと、思っております…出来たら近い内に」
初めて聞く、健吾さんからの結婚という言葉に私も驚き、目を見開いてしまう。
そんな私に微笑むと、また父の方へ向き
「瑠璃さんと同棲の報告も併せてお伺いいたしました」
まだ、確証もないまま一緒に暮らすと、返事を渋る私を安心させるために、父と母に伝える健吾に感動して、彼を見つめてしまう。
「…それは…結婚前提なら…なあ、母さん」
隣にいる母に確かめる父、
「ええ、もちろんです…瑠璃」
父に頷き、私の方へ真剣な顔で私の名を呼ぶ母。
「…はい」
久しぶりに見る母の真剣な表情に、背筋が伸びる。
「貴方はいいの?」
私の気持ちを聞く母に、
「…はい、私も健吾さんと…ずっと一緒に居たいです」
頷き、健吾を見つめると、優しい眼差しで私を見ていた。

「…芝田さん、娘をよろしくお願いします」
2人で見つめ合っていた私達を見て、ホッとしたのか頭を下げる母と、遅れて同意した父。
「…娘をよろしく頼む」

こうして緊張はしたのに、呆気なく終わった挨拶は、終始和やかな雰囲気が流れていた。
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