双子の公爵令嬢の姉は騎士団長に今宵も会いに行く

狭山雪菜

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23 甘いひと時に

「ったく、君たちは僕の事を辻馬車だと思っているのかな、僕はこれでも魔法省のトップなんだけど?」
夜にミシェル様が部屋にやってきて、イルゼ様の元へと送ってくださった。何度も来たことある団長専用の部屋だ――と思っていたけど、違うらしい。
「…ここは?」
「君の婚約者の私室だよ、こんな事知れたらルナルス家の当主君のお父様に怒られてしまいよ」
レンガが積み上がっている壁に濃い茶色の床はフローリングになっている。シンプルなベッドと細長いクローゼット、テーブルと椅子ぐらいしかない部屋は、騎士団本部の寮だと分かった。
「僕はこれで行くけど、何かあったら連絡して、このペンダントを握れば僕に知らせが飛ぶから」
「これは…魔法省で…支給されてるペンダントですか?」
「そうだ、普通ならペンダントから発する知らせは、受信部に届くが…ちょっと細工をして直接僕に届くようにしたよ」
「…まぁ…さすがですわ」
魔法省のローブを羽織る私に、ミシェル様が私の手のひらに雫の形をしている麻の紐で結ばれたペンダントを乗せた。このペンダントは、魔法省の特許を取った世紀の大発明と言われるほど凄い品で、これを開発したのがミシェル様だ。
体力のない魔法省に所属する人が討伐や遠征に行く際に支給されるペンダントは、身の危険を感じる時にペンダントを強く握ると、魔法省な受信した電波を元に救出される仕組みだ。
「ミシェル、近すぎだ」
「っ、きゃっ」
私の手の上に乗ったペンダントに指をつけて、説明するミシェル様の話を聞きながら、私もペンダントに視線を落としていると、突然背後から抱きしめられた。びっくりして小さな悲鳴が出てしまったが、抱かれた時にふわっと香る匂いと聞き惚れてしまう声にイルゼ様だと気がついた。
「…あのね、僕は説明を…まぁいいや、日没前に迎えに来る」
「ああ、悪いな」
「あっ…ミシェル様っありがとうございますっ」
呆れた顔ミシェル様はイルゼ様にそう言うと、彼は真剣な表情でお礼を言った。私もミシェル様にお礼をいうと、ミシェル様は手のひらをひらひらとさせて光りの中へと消えてしまった。

2人きりとなると、私は後ろを振り返りイルゼ様の身体に抱きついた。私が両手を伸ばして抱きしめても、イルゼ様の身体が大きくてしがみついているみたいになってしまう。イルゼ様は私の髪に鼻と口を埋めると、
「会いたかった」
と甘い言葉を下さった。
「…私も…会いたかったです、イルゼ様」
婚約しているとはいえ、結婚もしていない私達は本当ならこうして2人きりで会う事も許されない。
――ずっと、一緒にいたい
だけど、この気持ちを抑える事が出来ないのだ。公爵家の務めとして、勉強やレッスンばかりで、外の世界を知らなかったからかもしれない。討伐で夜間だけだったが…イルゼ様と過ごす日々は刺激的すぎて、屋敷でじっとしていたくないのだ。
こめかみに触れるだけの口づけをされ、彼の胸から顔をあげると、最初にふんわりと唇同士が触れるだけのキス。そのまままた重なれば、少し長い時間重なる。だんだんと唇が触れる時間が長くなるにつれて、彼の舌が私の口内へと入っていく。
――キスも好き、眼差しも、逞しいお身体も
貪欲に求められるキスも、優しい重なるだけのキスも好きだ。イルゼ様の背中に回した手を彼の首の後ろへと移動させると、
「っんっきゃっ!」
うっとりとしていたら、急に床に着いた足が浮かんで、身体が横向きになった。イルゼ様にお姫様抱っこをされたのだと知った時には、イルゼ様は歩き出していた。
「…愛している、マギー」
そっと彼の腕から下ろされたのは、固いベッドだった。騎士団の寮は団長室と言っても、そんなに広くないらしい。
ギシッとベッドが軋むと、彼が私の左横に座った。左手は掴まれたままで、お互い何にも発しなかったけど、不満も何もなかった。彼の肩に頭を乗せると、私は口を開いた。
「…間もなく、結婚ですわね」
「ああ…やっと、な」
掴まれていた左手は、手のひら同士が重なり指先が絡まると、繋ぎ方が私とイルゼ様の深い関係を表しているようでドキドキする。大きな手のひらが私の手を隠し、固い手のひらが私の手のひらにあたり、よく遠征にも行くイルゼ様の肌とあまり今から出ない私とでは、絡めた指先の肌の色が全然違う。
「…今度騎士団員が遠征に行く関係で少し忙しくなるが、必ずマギーに会いにくる」
「はい」
――あと少しで彼のものだ
頭を乗せた彼の肩にある腕に、右手で触れると抱きついた。
「…またそんな薄着で…誰かに見られたらどうする」
「イルゼ様しか見ませんわ」
出かける時はしているコルセットは夜だから外していて、今は魔法省に支給されているローブを羽織っている。彼の腕に意図せず付けてしまった胸元は、ローブの下に通常のワンピースタイプの寝衣なので何の固さもなく押し付けてしまっている。
――呆れられてしまったかな…?
公爵令嬢がはしたないと、思われて幻滅されたらどうしよう、と思ったけど、もうつけてしまったのでどうしようもない。
「…嫌になりましたか?」
やっぱり不安になって彼を見上げると、
「マギーを嫌いになる事など無いよ」
彼は低く呟いて屈むと私の顔に近づき、そっと唇が重なった。優しく触れるだけのキス、舌の絡む濃厚な口づけも好きだけど、こうした優しいキスも好きだと改めて思う。
――イルゼ様となら、何でもいい気がするけど
私の唇から離れた彼の唇を見つめながら、ふとした疑問が口から出てしまう。
「…前みたいに、もう触りたくないんですか?」
前――というのは、遠征に行っていた時に過ごした夜だ。抱きしめられてそのまま彼は寝てしまったが、あんなに幸せだったのは生まれて初めてだった。それからは想いが通じ合ってからは、キスをしたり抱きしめられたりするが、そんなに長時間ではない。あの夜に比べたら、ほんのひと時だけなのだ。
「触りたくない訳ないだろ、いつも手を出さないようにしているよ」
イルゼ様は苦しそうに眉を寄せて、私と手が繋がっていない方の膝の上にのせた左手がぎゅっと拳を作っている。
「…どうしてですの?」
首を傾げて見上げると、彼は、うっ、と小さな呻き声をあげてたじろぐ。私も結婚後の関係性も子供がどうやって出来るのか教わったから、全く知らないわけではない。遠征に行った時に教えてもらった娼館も知ったから、男性は恋愛感情がなくても、女性を抱ける――そういうものだとも理解している。だから好きな人を前にしたら、もっと深い関係になりたいと思うのは、ごく普通の考えなんじゃないのか。
「…ここで君の初めてを奪ってしまったら、もう止まらなくなるからだ…次会った時にも…なんならいっそのこと毎日そばにいて欲しくなる」
「難しいかもしれないですが…私は…毎日あなたと過ごしたいです…遠征にいる時も離れたくない」
「…マギー」
イルゼ様を困らせる事を言ってしまったと気がついたが、もう口に出してしまったものは訂正できない。毎日そばにいたいのは私も一緒だけど四六時中一緒に居たい…なんて、迷惑しかないのも知っている。遠征に同行すると決めた時に騎士団長というのは、激務だと知ってしまったからだ。
――こういうところが私のつまらないところなのかしら…
融通が効かなくて、彼の立場も弁えずに自分勝手だ。でもイルゼ様の事になると、我慢したくないのだ。
「どうして…ですの?もう私はイルゼ様のものですわ…身も…心も」
「…マギー、君は俺を煽るのが上手いな」
苦笑するイルゼ様は私を抱き上げると、向かい合わせで膝の上に乗せて私の頬を両手で挟んだ。
「そうだな、君はもう俺のものだ…永遠に離すことはない」
「…はい」
私の頬に手を添えた彼の手の甲に自分の手のひらをそれぞれ重ねると、なんとか返事だけをした。
「…だがなマギー、俺は初夜・・が終わった惚れた女をミシェルに連れて帰らすほど心は広くねぇんだよ」
いつも優しい声色の彼とは打って変わって雑な言葉遣いになって、低くなる声に視線を上げると真剣な眼差しのイルゼ様と視線が絡まった。
「…イルゼ様…?」
「マギー、次はルナルス公爵家に外泊の許可を貰うよ…名目はそうだな…次期公爵家の女主人としてのやり方の指導と視察とでも適当な理由を言って」
それってつまり…彼との関係が進むということなのか。
「イルゼ様っ、あのっ」
嬉しいと思う反面、それでいいのかと不安になる。もう自分が何をしたいのか、わからない。
「反論は認めない、俺を煽ったからな」
にっと笑う彼の顔には、絶対にそうするという意思を感じた。
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