全能無垢の最強賢者 ~「人の心がない」と追放されたので竜のメイドを雇ってみたら運命の相手だった件~

epina

文字の大きさ
2 / 116

第2話 奴隷市場

 結論。
 どうやら俺には人の心がないらしい……。

 修行を終えて下界に降りてから、まだ数年。
 確かに俺は人間社会のことをすべて学んでいるとは言い難い。

 俺は天涯孤独の身だったが、物心ついた頃には『師匠たち』に拾われていた。
 彼らからは様々なことを教わった。
 剣や魔法……ひとりで生き抜くのに必要な力を一通り叩き込まれたと思う。

 しかし、コミュニケーション能力については遂に身に着かなかった。
 とはいえ師匠たちからは「アーカンソー。お前は実力だけは確かだから、冒険者としてだったら一流になれる」と太鼓判たいこばんを押されていた。

 だが、なんとしたことか。
 俺を受け入れてくれたカルンたちを失望させた挙句、真昼間まっぴるまから公園のベンチで無職よろしくウジウジしてるていたらく!

「ねーねー、おかーさーん。あのおじさん何してるのー?」
「シッ! 目を合わせちゃいけませんよ!」

 ほら、今も俺を指差した子供が母親に怒られて連れていかれているじゃないか。
 なんともいたたまれない。

「どうするアーカンソー。このままじゃ師匠たちに申し訳が立たないぞ!」

 なんとか……なんとか自力で解決しなくては……!
 そうだ。たった一度の失敗でクヨクヨしていてどうする。
 何度でもチャレンジすることが大事だと、修行の中であれほど学んだじゃないか!

「だが、俺は昔っから自分ひとりで悩むとロクなことを思いつかない。なんとしても仲間が必要だ……」
 
 仲間が欲しい。
 悩みを分かち合える仲間たちが、喉から手が出るほど欲しい。

「……そうだ。人間の心がないというのなら、人間以外の種族を仲間にしよう!」 
 
 何かが根本的にズレている気もするが、今の俺にはそれぐらいしか思いつかない。
 まあ、失敗したならまた別の方法を試してみればいいだけだ。

「しかし、この王都には人間以外の種族はほとんどいないんだったな」

 ここエルメシア王国は人間の王が治めているせいか異種族が少ない。
 だからこそ人間の俺がひとり暮らしを始めるにはちょうどいいだろうという話だったのだが。

「そういえば他のパーティが異種族の奴隷を連れていた気がするな」

 奴隷についてはそこまで詳しくないが、金銭で購入できる労働力と認識している。 
 もちろん貨幣経済については学習済みだ。抜かりはない。

「つまり、金さえあれば手っ取り早く仲間が買えるということだな」

 今後の方針が決まったことで体の奥から力が湧いてきた。
 こうしてはいられない。
 早速、奴隷市場に直行しなくては。


 ◇ ◇ ◇


「ここが奴隷市場か」

 市場にはさまざまな人々がごった返している。
 奴隷商人たちが思い思いのスペースを陣取り、商品を……つまりは奴隷たちを陳列していた。
 老若男女問わず、あらゆる種族の奴隷が揃っている。
 エルフにドワーフ、ノームやリザードマンといった人間以外のあらゆる種族だ。
 手枷と足枷をされた奴隷たちの多くは死んだ魚のような目をしていた。

 それにしても……。
 
「なんなんだ? この得も言われぬ不快感は……この光景を見て誰も何も感じないのか? いや、そうか。俺に人の心がないからか……」

 人の心があれば、きっと耐えられるのだろう。
 ならば、これは俺にとって試練だ。

「ちょっといいだろうか」

 なんとか吐き気をこらえながら奴隷商人のひとりに声をかけた。

「いらっしゃいませ。ウチの奴隷をご所望で?」
「その……彼らは、どういうアレなんだ?」
「ああ、こいつらですか。山賊稼業をしてたオーク族ですよ。去勢されてるんでもう女を襲うこともないですし、力仕事だったら問題なく働けますよ」
「なるほど。他の商人たちが扱う奴隷もそういった感じなんだろうか」
「だいたいは犯罪奴隷か、借金を返せなくなった連中ですね。何人かはそうじゃないのもいるかもしれませんが」

 話を聞いている間に、なんだか吐き気がひどくなってきた。

「ありがとう。ちょっと別のところのも見に行ってみる」
「どうぞ、ご検討ください」

 その場を辞してから、俺は裏通りのごみ箱に胃の内容物を吐き出した。

「うっぷ。堪えろアーカンソー。人の心だ……人の心を強く持つんだ……」

 なんとか気を取り直して、さきほどとは別の商人に声をかける。

「ちょっといいだろうか。ここの奴隷はどういうのを――」

 そう言いかけて絶句してしまった。

「ちょっと待て! みんなまだ子供じゃないか!」

 俺の視界に入ってきたのは、なんと年少の奴隷たちだったのだ。

「へっへっへ。奴隷は若いうちから仕込んだほうがいいんですぜ、旦那ァ」

 揉み手をしながらいやらしい笑みを浮かべた商人が応対してくれる。
 子供のほうが学習能力が高いというのは、自分でも経験しているからわかる話だが……。

「……いったい彼らが何をしたというんだ?」
「普通に暮らしてただけでさぁ。だけど、親がダンジョンから漏れたモンスターに殺られちまいましてねぇ。あっしが保護したんですよぉ。言っときますけど、この子らは拾われなきゃ野垂れ死ぬだけでしたぜ」
「奴隷になる以外に生きるすべがなかったということか……」

 考えてみれば当然の話。
 奴隷にだって奴隷になるだけの事情がある。
 金を払えば手軽に仲間が手に入る、などと思っていた自分が恥ずかしくなってきた。

「彼らはいくらだ?」
「旦那ァ……その顔は同情心でしょう? いけませんねぇ。生半可な覚悟でこの子たちの一生を決めようとしちゃあ。悪いですけど、お売りできませんねぇ。この子たちはこれまでの不幸が嘘だって思えるぐらい、とっても素敵な人に買ってもらうんですからねぇ」

 商人の目がギラリと光るのを見て、言葉を失った。

「わかった。これにて失礼する」

 奴隷商人に背を向ける。

「俺は肝心なことがわかってなかった。ほんの少しばかり剣や魔法が使えるぐらいで何が賢者だ……」

 途方もない挫折感ざせつかんを味わいながら、その場を離れようとすると。

「旦那ァ」

 商人が声をかけてきた。

「まだ、何か?」
「旦那に見せてない子がいるのを思い出しましてねぇ。きっと気に入ると思いますよ」

 そう言って、商人が天幕を指し示した。
 確かに天幕の中までは見ていない。

「だが、俺に奴隷を買う資格は……」
「いえいえ。お見せしたい子は特別でしてねぇ。奴隷ってわけじゃあ、ないんですよ」

 商人に案内されるがまま、天幕に入る。
 目に飛び込んできた光景に思わず息を呑んだ。

「おい。まさかこいつは――」
「……ええ、そうです。ドラゴンの子供ですよ」
感想 29

あなたにおすすめの小説

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった

竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。 やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。 それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!