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第7話 クラス付与
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「……はい?」
受付嬢が目をぱちくりさせた。
まるで俺の言っていることが理解できないといわんばかりだ。
「そっか! ご主人さまにクラスをもらえばいいんだ!」
ウィスリーのほうは喜色満面の笑みを浮かべている。
「さ、さすがにそれは無理ですよ。いくらアーカンソー様が賢者とはいえ神殿長でもない限り、人にクラスを与えるなんてことは……」
「神官に使える魔法は賢者にも使える。つまり、俺にもできる」
受付嬢の危惧に対し、俺は至極当然の理屈を述べた。
「えっ、まさか本当にできるんですか? 実際にやったことが?」
「いや、ない。具体的にどうやるのかすらわからない」
「だったら――」
「だが……いずれできるようになるなら、俺にとっては今できるのと同じだ」
王都で一番の神官に解けなかったという呪いが、俺には解けた。
ならば、やってやれないはずがない。
「ウィスリー。何か希望のクラスはあるか? わからなければやりたいことのイメージでもいい」
「それなら……あちし、おっきな剣を振り回したい!」
「重戦士か剣闘士だな。軽装で立ち回りたいか重い鎧を着たいか、どっちだ?」
「うーん、ゴテゴテしたのはつけたくないかなー」
「よし、それなら剣闘士がいいだろう。準備をするので少し時間をくれ」
「あい!」
ウィスリーが元気よく挙手した。
「さて、と」
まずは自分の中でしっかり魔法のイメージを固めるとしよう。
冒険者クラスとは、いわば型だ。
一定の法則に従って永続的な強化を授ける。
クラスを付与する魔法とは……とどのつまり、強化魔法の一種だろう。
定義付けが終わったら、次は魔法の開発だ。
神殿長がどのようにクラスを付与するのかは不明だが、そこは新たなオリジナル魔法を開発することで解決する。
自慢じゃないが新魔法の開発は得意分野だ。
いつもどおり、数分あれば事足りる。
「種別:強化魔法。分類:信仰魔法。持続時間:永続。定義完了。新魔法シミュレーション開始――」
「え? ひょっとして、今ここで魔法を開発しようとしてます? 研究施設も魔法陣もないですよ!?」
「すまないが、今は集中しているので後にしてくれ」
「あ、はい」
受付嬢には申し訳ないが、俺にはウィスリーの主人としての責任がある。
こちらの都合で冒険者をやってもらうのだから、足りない条件を整えるぐらいはしてやらねば。
「仮想対象への効果確認:失敗。実験結果:対象の爆散。過去の失敗事例を再度参照。リスク確認完了。魔力付与ペース:低速化。安全性確保を最優先――」
受付嬢がウィスリーに耳打ちする。
「……えっと、ウィスリーちゃん。アーカンソー様が何してるかわかる?」
「ううん、ぜんぜんわかんない!」
「爆散とかいう物騒なワードが聞こえた気がするんだけど」
「なんかかっこいいよね!」
「それでいいの? 話の流れからして爆散するのはウィスリーちゃんだと思うんだけど」
「ご主人さまがそんなことするわけないもん!」
ふたりがそんなやりとりをしている間にも、俺の魔法開発は最終段階に突入した。
「――各課題:並列処理開始。同時実験数:百六十八パターン。全実験結果――整理完了。リスク改善完了。最終処理。魔法効果:最適化完了。全行程終了」
ふぅ、なんとかなったか。
「よし、ウィスリーに冒険者クラスを付与する魔法が完成したぞ」
「ホント? やったー!」
ウィスリーが大喜びで万歳した。
逆に受付嬢は顔を青ざめさせている。
「……わたしの頭が全力で理解を拒んでるんですけど。こっちで雑談してる間に魔法ができちゃったんですか? 普通は何年もかけて複数人が取り組むような大事業を本当に? 大丈夫ですよね? ウィスリーちゃんが爆発四散したりしないですよね!?」
「問題ない。課題はすべてクリアされている」
「もしもそんなことになったら、アーカンソー様といえど通報しますからね!」
また通報されるのか!
「ご主人さま。あちし、爆散するの?」
「もちろん、そんなことにはならないとも」
「だよねー!」
にぱっと笑うウィスリー。
これっぽっちも不安なんて感じてないようだ。
彼女の信頼に全力で応えなくては。
「ではいくぞ!」
「あいあいさー!」
あいあいさー……?
なんだか知らないが、いい返事だ。
こちらも手袋をキュッと締めて気合を入れ直す。
「やめてー! 死人が出るかもしれない魔法を冒険者ギルドの受付で使わないでー!」
受付嬢の叫びを無視して詠唱を開始する。
「賢者アーカンソーの名において、ありとあらゆる神々に命じる。我が求めに応じ、我がしもべに剣闘士の職能と祝福、そして栄光の未来を授けよ」
最後の仕上げに指をパチンと打ち鳴らした。
すると、優しい光がウィスリーの周囲を取り巻く。
「ふわぁ……」
ウィスリーが感嘆の吐息を漏らした。
魔法の光は少しずつウィスリーの中へ吸い込まれて、やがて消える。
「大丈夫か? どこか痛かったりしないか?」
「うん。なんともないよ!」
ほっと息をつく。
どうやら、うまくいったようだ。
「よし。では、改めて冒険者登録をしたい」
「……えっ、あ、はい。それでは一応クラス鑑定しますので、この水晶玉に手を載せてください。クラス名が浮かび上がります」
心ここにあらずといった顔をしていた受付嬢が、カウンターの下から水晶玉を取り出した。
「ほら、ウィスリー」
「う、うん……」
俺に促されると、少し気後れしていたウィスリーが水晶玉に手を置く。
結果はすぐに現れた。
「あ、なんか文字が出た!」
「剣闘士だな」
「ほ、本当にクラスを付与できちゃってるー!?」
受付嬢がびっくり仰天している。
「す、すいません……取り乱しちゃいました。こんなこと前代未聞で」
「いや、構わないとも。では、冒険者登録を頼む」
「かしこまりました!」
やれやれ、思った以上に大変だったが……これでなんとかなったな。
「よかった。あちし、ちゃんとご主人さまの言いつけどーり冒険者になれたんだ!」
ウィスリーの屈託のない笑みが、なんとも眩しい。
頭でも撫でてやろうと手を伸ばしかけたところに、受付嬢がこっそりと耳打ちしてきた。
「ところで、詠唱の中に『神々に命じる』とかいう神殿関係者が耳にしたら一発アウトな文言が混じってた気がするんですけど……」
「……フッ、できれば聞かなかったことにしてくれないか?」
全身からドッと汗を噴き出しながら、俺は苦し紛れの笑みを浮かべるのだった。
受付嬢が目をぱちくりさせた。
まるで俺の言っていることが理解できないといわんばかりだ。
「そっか! ご主人さまにクラスをもらえばいいんだ!」
ウィスリーのほうは喜色満面の笑みを浮かべている。
「さ、さすがにそれは無理ですよ。いくらアーカンソー様が賢者とはいえ神殿長でもない限り、人にクラスを与えるなんてことは……」
「神官に使える魔法は賢者にも使える。つまり、俺にもできる」
受付嬢の危惧に対し、俺は至極当然の理屈を述べた。
「えっ、まさか本当にできるんですか? 実際にやったことが?」
「いや、ない。具体的にどうやるのかすらわからない」
「だったら――」
「だが……いずれできるようになるなら、俺にとっては今できるのと同じだ」
王都で一番の神官に解けなかったという呪いが、俺には解けた。
ならば、やってやれないはずがない。
「ウィスリー。何か希望のクラスはあるか? わからなければやりたいことのイメージでもいい」
「それなら……あちし、おっきな剣を振り回したい!」
「重戦士か剣闘士だな。軽装で立ち回りたいか重い鎧を着たいか、どっちだ?」
「うーん、ゴテゴテしたのはつけたくないかなー」
「よし、それなら剣闘士がいいだろう。準備をするので少し時間をくれ」
「あい!」
ウィスリーが元気よく挙手した。
「さて、と」
まずは自分の中でしっかり魔法のイメージを固めるとしよう。
冒険者クラスとは、いわば型だ。
一定の法則に従って永続的な強化を授ける。
クラスを付与する魔法とは……とどのつまり、強化魔法の一種だろう。
定義付けが終わったら、次は魔法の開発だ。
神殿長がどのようにクラスを付与するのかは不明だが、そこは新たなオリジナル魔法を開発することで解決する。
自慢じゃないが新魔法の開発は得意分野だ。
いつもどおり、数分あれば事足りる。
「種別:強化魔法。分類:信仰魔法。持続時間:永続。定義完了。新魔法シミュレーション開始――」
「え? ひょっとして、今ここで魔法を開発しようとしてます? 研究施設も魔法陣もないですよ!?」
「すまないが、今は集中しているので後にしてくれ」
「あ、はい」
受付嬢には申し訳ないが、俺にはウィスリーの主人としての責任がある。
こちらの都合で冒険者をやってもらうのだから、足りない条件を整えるぐらいはしてやらねば。
「仮想対象への効果確認:失敗。実験結果:対象の爆散。過去の失敗事例を再度参照。リスク確認完了。魔力付与ペース:低速化。安全性確保を最優先――」
受付嬢がウィスリーに耳打ちする。
「……えっと、ウィスリーちゃん。アーカンソー様が何してるかわかる?」
「ううん、ぜんぜんわかんない!」
「爆散とかいう物騒なワードが聞こえた気がするんだけど」
「なんかかっこいいよね!」
「それでいいの? 話の流れからして爆散するのはウィスリーちゃんだと思うんだけど」
「ご主人さまがそんなことするわけないもん!」
ふたりがそんなやりとりをしている間にも、俺の魔法開発は最終段階に突入した。
「――各課題:並列処理開始。同時実験数:百六十八パターン。全実験結果――整理完了。リスク改善完了。最終処理。魔法効果:最適化完了。全行程終了」
ふぅ、なんとかなったか。
「よし、ウィスリーに冒険者クラスを付与する魔法が完成したぞ」
「ホント? やったー!」
ウィスリーが大喜びで万歳した。
逆に受付嬢は顔を青ざめさせている。
「……わたしの頭が全力で理解を拒んでるんですけど。こっちで雑談してる間に魔法ができちゃったんですか? 普通は何年もかけて複数人が取り組むような大事業を本当に? 大丈夫ですよね? ウィスリーちゃんが爆発四散したりしないですよね!?」
「問題ない。課題はすべてクリアされている」
「もしもそんなことになったら、アーカンソー様といえど通報しますからね!」
また通報されるのか!
「ご主人さま。あちし、爆散するの?」
「もちろん、そんなことにはならないとも」
「だよねー!」
にぱっと笑うウィスリー。
これっぽっちも不安なんて感じてないようだ。
彼女の信頼に全力で応えなくては。
「ではいくぞ!」
「あいあいさー!」
あいあいさー……?
なんだか知らないが、いい返事だ。
こちらも手袋をキュッと締めて気合を入れ直す。
「やめてー! 死人が出るかもしれない魔法を冒険者ギルドの受付で使わないでー!」
受付嬢の叫びを無視して詠唱を開始する。
「賢者アーカンソーの名において、ありとあらゆる神々に命じる。我が求めに応じ、我がしもべに剣闘士の職能と祝福、そして栄光の未来を授けよ」
最後の仕上げに指をパチンと打ち鳴らした。
すると、優しい光がウィスリーの周囲を取り巻く。
「ふわぁ……」
ウィスリーが感嘆の吐息を漏らした。
魔法の光は少しずつウィスリーの中へ吸い込まれて、やがて消える。
「大丈夫か? どこか痛かったりしないか?」
「うん。なんともないよ!」
ほっと息をつく。
どうやら、うまくいったようだ。
「よし。では、改めて冒険者登録をしたい」
「……えっ、あ、はい。それでは一応クラス鑑定しますので、この水晶玉に手を載せてください。クラス名が浮かび上がります」
心ここにあらずといった顔をしていた受付嬢が、カウンターの下から水晶玉を取り出した。
「ほら、ウィスリー」
「う、うん……」
俺に促されると、少し気後れしていたウィスリーが水晶玉に手を置く。
結果はすぐに現れた。
「あ、なんか文字が出た!」
「剣闘士だな」
「ほ、本当にクラスを付与できちゃってるー!?」
受付嬢がびっくり仰天している。
「す、すいません……取り乱しちゃいました。こんなこと前代未聞で」
「いや、構わないとも。では、冒険者登録を頼む」
「かしこまりました!」
やれやれ、思った以上に大変だったが……これでなんとかなったな。
「よかった。あちし、ちゃんとご主人さまの言いつけどーり冒険者になれたんだ!」
ウィスリーの屈託のない笑みが、なんとも眩しい。
頭でも撫でてやろうと手を伸ばしかけたところに、受付嬢がこっそりと耳打ちしてきた。
「ところで、詠唱の中に『神々に命じる』とかいう神殿関係者が耳にしたら一発アウトな文言が混じってた気がするんですけど……」
「……フッ、できれば聞かなかったことにしてくれないか?」
全身からドッと汗を噴き出しながら、俺は苦し紛れの笑みを浮かべるのだった。
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