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第37話 第七支部

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 翌朝。
 俺は冒険者ギルド第七支部へと向かった。
 イッチーが「中堅どころだし人も多いから噂を流すならオススメだぜぇ!」と教えてくれたからだ。

「なんだか普段より緊張するな……」 

 なにしろ今の俺は『賢者アーカンソー』の衣装を着ている。
 白いフード付きローブを身にまとい、装飾品をこれでもかと装備しているのだ。
 こころなしか人々の奇異の視線が突き刺さる気もするが、よく考えたら普段からそんな感じだし……何より今の俺は仮面で素顔を覆い隠している。
 誰も俺だとわからないのだから、恥ずかしがる必要もないはずだ。

 ちなみに今はひとりで行動している。
 メルルが『賢者アーカンソー』にウィスリーがくっついていたらバレるかもしれないと意見をくれたからだ。
 ウィスリーもしぶしぶ了承している。

 正直に言うと、ついてきて欲しかった。
 俺ひとりでは自分の『やらかし』に気づけないからな……。
 胸の中は不安でいっぱいだ。

「ここが第七支部か」

 外観は十三支部とそう変わりない木造建築に見えるが、もっと大型だ。
 人の出入りも多くて、入りやすそうな雰囲気を醸し出している。
 早速、人の波に紛れて中に入ると。

「おお、これは……」

 こう言っては何だが内装は十三支部とは比べるべくもなかった。
 清潔だし、観葉植物の類も目を楽しませてくれる。十三支部のような場末感など微塵もなく、公共の施設と呼んで差し支えないレベルだ。
 そして何より受付の数が多い。それでも並んでいる冒険者たちが大勢いるのだから、かなり盛況なのだろう。

「ともあれ、事前に決めておいた手筈どおりに……」

 俺は受付の列に並んだ。
 十分ほど待たされてから受付に到達する。

「こちらの支部は初めてですね。本日はどういったご用件でしょうか?」
「なんでもいいから依頼を受けたい」

 受付嬢の事務的な問いかけに対して、あらかじめ決めておいたセリフを口にした。

「なんでもいいと言われましても、どのくらいの難易度のクエストを提示していいか困ってしまうんですよね……とりあえず、ギルド証を見せていただいても?」
「ん? ああ、わかった」

 これまで誰にも見せたことのないギルド証を提示した。
 すると――

「えっ、プラチナカード……!?」

 受付嬢が驚きの声をあげた。
 確かに俺のギルド証は白金プラチナ製だが……。
 そんなに珍しいものなのか?

「し、しかも縁取りが金色で彩られてるってことはクラスは賢者……し、失礼ですが貴方様はアーカンソー様でいらっしゃいますか!?」
「ああ、そうだが……」
「し、少々お待ちください! ただいまギルド証を鑑定してきますので!」
「構わない」

 俺が首肯すると受付嬢が慌てて奥へ引っ込んでいった。
 
 ちなみに受付嬢の言ったとおり、ギルド証そのものには何故か名前が書いていなかったりする。
 だから、いちいちギルドの鑑定装置を通さねばならないし、公的な身分証としてはほとんど使えない。
 紛失した場合は再発行料がかかるし、あちこち旅して支部を股にかける冒険者でなければ用のないシロモノだ。
 ニーレンは「ギルド証を見せれば一発だの」とか言っていたが……まさか、こんな反応が返ってくるとは……。

「あの怪しい仮面の奴がアーカンソーだって?」
「いや、まさか。第七支部に来るわけないだろ」
「でも、この間は十三支部に現れたって」

 俺の近くで並んでいた冒険者たちがひそひそと囁き合っている。
 先ほど受付嬢が思いっきり俺の名前を叫んでくれたので、これでも充分に噂は広まってくれそうだ。
 しかしサンゲルが「アーカンソー氏なら支部長と会えるはずなんだぜ」とか言っていたが、本当にこの流れでそんなことになるんだろうか?
 俺は依頼を受けに来ただけなんだぞ……?

 と、受付嬢が戻ってきたな。

「お待たせしました! 支部長がお会いになりたいそうです! どうぞ!」

 マジか。

「いや、俺は依頼を受けにだな……」
「ですから、支部長自らが応対を致します! こちらでは人目もありますので!」

 むしろ人目はあってくれたほうが助かるんだが……。

「支部長が会うってさ!」
「マジでアーカンソー!?」
「いかにも賢者って恰好だし、本物か!?」

 いや、今でも充分に目立っているか?

「わかった。まかせる」
「ご案内します! こちらへどうぞ!」

 そんなわけで、俺は注目を集めながらも奥まった一室へと案内されるのだった。
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