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第28話 もうきたなくない

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 わたしの体は、とてもきたないです。

 おばさんにたくさんぶたれて、あちこち傷だらけだからです。

 わたしは自分の体を見るたびに、とても悲しくなります。

 もうずっと消えないのかと思うと、とても悲しくなるのです。

 だから、水浴びはきらいです。

 タカシは体をきれいにしないといけないと言いますが、なにも毎日しなくていいと思います。

 だって、わたしのよごれは、どんなに洗っても落ちないですから。

「はぁ……」

 ため息を吐きながら、タカシがくれた服を脱ぎます。

 服はきたないわたしを隠してくれるので大好きです。

 だけど、このままだと濡れてしまうので仕方ないです。

「……?」

 服に手をかけたときに、なにかがおかしいと思いました。

 おばさんにつけられた小さな火傷の跡がありません。

「なおった、かな?」

 そのときは、あまり気にしませんでした。

 そういうこともあるのかな、と思ったからです。

 ですが、服を脱いで腕を見たときに、はっきりと気づきました。

「きず、ない?」
 
 真っ白な腕が見えました。

 自分の腕なのに、自分のじゃないみたいに思えるくらいきれいです。

「手だけじゃ、ない……」

 信じられないです。

 わたしの体のどこを見ても、傷がありません。

 ほんとうにさっぱり消えてしまったのです。

「なんで……?」

 考えましたけど、ぜんぜんわかりませんでした。

「タカシ……!」

 だから、わたしはいそいそと服を着てから、タカシのもとへ向かいました。

「どうしたの?」

 タカシが笑顔で聞いてきます。

「えっと、えっと」

 そういえば、どう話せばいいのでしょう?

 タカシにはわたしの傷のことは秘密にしていました。

 タカシにきたないと思われたくなかったからです。

「落ち着いて。何があったの?」

 タカシはとても優しいので、わたしをせかしたりしません。

 だけど、わたしは言葉が出てきませんでした。

 傷がなくなったことを話すなら、傷があったことを話さないといけないからです。

「な、なんでもないっ」

 わたしは小川に戻って、急いで水浴びを始めました。

 改めて肌に触れると、ほんとうに傷がなくなっていることがわかります。

 目に見えないんじゃなくて、ほんとうに治っていたのです。

「わたし、もう、きたなく、ない……」

 あたまがグルグルしてたのが、だんだん落ち着いてきました。

 そうすると、ちょっとずつ心がポカポカして、なにか熱いものがこみあげてきます。

「きたなく、ないんだ……!」

 ポロポロと涙が出てきました。

 ぜんぜん止まらなくって、自分ではどうしようもありません。

 なにも考えられなくなって、わたしはつめたい小川のまん中で座り込んでしまうのでした。
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