my dear

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トラブルを呼ぶ探偵

歓迎の意味知ってるか?

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sideシュウジ


「やっと着いたな」
「ほんまっすわ~」


ワシントンDCの近くにある、アメリカ中央支局の正門の手前。
空を写したような蒼色のバイクが一台停まる。
煙草を消して、シュウジはゆっくりと正門に入った。
正門には当然のように門番をしている局員がおり、柊司を訝しげに見ている。


「身分証明書をご提示下さい」
「ああ、ウィプス」
「はいな~」


TNUを起動し、身分証を表示させたウィプスを局員は不思議そうに見ている。
どうやら新人の局員のようだ。


―ってか、ウィプスの事見すぎだろ。


そんな心の声が聞こえたのか、局員が慌てたように確認しようと身分証へと目を向けた。


「えーと、シュウジ・カミナガさんですね...。...は?」
「何か問題でも?」
「こ、これって...」
「?」


何故か固まってしまった局員に言葉を投げ掛けるが、聞こえていないようだ。
仕方がないためウィプスに視線を向ける。
すると此方も固まっていた。


「お前までどうしたんだ?」
「や...。あんな、主殿」
「何だ?変な声出して」
「ちょっと、ヤバい事になっとるで?」
「やばい?何が?」
「ほれ、見てみぃ」


視線の先に目を向ける。
武装した局員が 15人位此方に向かってきていた。


『シュウジ・カミナガ!!お前は完全に包囲されている!!大人しく投降しろ!!』


重苦しい金属音と共に、魔法を放つ為の杖が此方に向けられる。
どうやら、局の魔法士達のようだ。


「はぁ...。それで、どういう事だ?これは」


頭痛がしてきた頭を抑えながら、門番に確認してみる。
すると、彼はさっきとは別人のような真剣な顔をして、俺を睨み付けている。
その手には魔法杖が握られていた。


「白々しいですね。貴方は現在、手配中となっています」
「「は?」」


―何か訳が解らん事言ってる。


だが顔を見る限り、冗談の類いでは無いようだ。
頭痛が酷くなりそうな気配がするが、確認する他ない。

仕方がないので門番に再度聞いてみた。


「大人しくして下さい」
「...手配の理由は?」
「2ヶ月前の局施設の破損ですよ」
「...2ヶ月前?」


2ヶ月前って、確かMABからの依頼が...。


―って、ちょっと待て!!


「...手配の責任者は誰だ?」
「その質問には答える必要がありません」
「いいから。...答えろ」


不機嫌気味に詰め寄ると門番が怯んだ表情になった。


「ミ、ミゼリーナ支局長です」
「...あんの女ぁ」
「またかいなぁ」


俺は憤慨し、ウィプスはタメ息。
端から見たら何とも可笑しい光景だろう。

門番は俺の様子にオロオロし始め、周りを取り囲む武装局員はいつでも取り抑えるられる状況だ。
門番はどうでもいいが、団体さんは相手にしたくない。

そんな事を考えていた俺を見かねたのか、ウィプスがこっそり、魔力を使ったテレパスを使ってきた。


"主殿"
"なんだ?"
"大人しくしといた方がええんとちゃいます?"
"全員は面倒か..."
"それに、また何かあれば雫様に怒られまっせ?"
"納得いかんが、仕方ないな..."


何かあれば、雫に怒られる以上の事になりかねない。
俺は、ゆっくりと両手を上げた。


「...好きにしろ」


*****

拘束されたまま、俺はMABに入った。
前後左右を局員に囲まれているだけで、手錠を掛けられているわけではないが。
とはいえ、動きづらいのは変わりない。
まるで凶悪犯の護送かのような物々しさ。
この状況に、正直ゲンナリする。


「...俺は凶悪犯か?」
「解ってるじゃない」
「...あ?」
「主殿、素が出てまっせ」


俺の呟きにわざわざ悪態を吐かれ、思わず素が出てしまいウィプスに突っ込まれてしまった。
この声には聞き覚えがある。


「...キャシー」
「やっほ~、凶悪犯さん」
「お前な...」
「どうして睨むの?これだから育ちの悪い人は嫌だわ~」
「大した育ちでもないやつには言われたく無いんだが?」
「負け惜しみ?本当、やんなっちゃう」


まるでどんぐりの背比べな言い合いに、周りの武装局員達は目を丸くしている。
恐らく彼女のこんな姿を見るのは初めてなのだろう。
俺から言わせれば、こいつは昔からこういう奴だがな。


「ミゼルを呼び出してくれるか?」
「支局長?どうしてよ」
「彼女にアポを入れている」
「そうなの?」
「ああ、『依頼』があったからな。それなのにこの扱いだ」
「なるほど。それでこの体制ね」


ー何か、すごく引っ掛かる事を言いやがった。


若干ジト目で見ている俺を気にすることもなく、
彼女はポータルを操作した。


「あら、本当~」
「やってもいない事で捕まえられる俺の身にもなってくれないか?」
「ん~、それで罪状は?」
「こちらです」


急に振られて慌てた兵士から、手配書を受け取りそれに目を落とす。


「えーと、...あー」
「解ったろ?早く呼び出してくれないか」
「相変わらずね、支局長」


苦笑気味に俺の方を向いた彼女は、ふと質問をしてきた。
「ところで...。ねぇ、その話し方なによ。気持ち悪いわね」
「何がだ?」
「何時もなら四の五の言わずに銃をぶっ放して、命令するくせに」
「失礼な。俺だって依頼者の所でそんな事はしない」
「ど、堂々とそんな事言う?普通」
「それは、MABの自業自得だ。...そう言えば」


俺は抗議もそこそこに、キャシーの隣に目を向けた。


「見たことがない子だな。新人か?」
「はい!カミラ・アーミット二等情報管理士です!」
「シュウジ・カミナガ。...宜しく」
「こちらこそ宜しくお願いします!」


ビシッと敬礼をする彼女に、少し苦笑した。
なんでこんな扱いにあってる俺にそんなに畏まってるのか。


「そんな犯罪者に敬礼する事ないのよ」
「いえ、先輩と親しい様だったんで、つい」
「仕方ない子ね」
「俺は犯罪者確定かよ...」


俺の抗議には耳も貸さず、ポータルを操作するキャシーを見つつ、俺はタメ息を吐いた。


―いつまでこのままなんだよ、俺...。


俺とキャシーの様子にカミラはただ、オロオロしている。
それを見かねたのか、キャシーがこちらを向く。


「今呼ぶわ。だから睨まないでよ」
「...さっさとしろ」
「結局、口調戻ってるじゃない。...支局長、シュウジ・カミナガさんがお出でです。ええ、解りました」


若干、拗ねたような顔をしていたが、やることはやってくれたようだ。


―やっと用事を済ませられる。


通信が終わったのか、彼女はこちらを向き笑顔を見せた。


「帰れって」


ーよーし、その喧嘩全部買ってやる。


「...望み通り破壊してやる」
「っ!!おい!?ぐあっ!!」
「「「がはっ!!」」」
「うるせぇ、我慢の限界だ」
「主殿、落ち着きぃ」
「付き合ってられねぇ!!」
「しゃーないなぁ」


キャシーの言葉に我慢の限界を超えた俺は、瞬時に周りを取り囲んでいた武装局員を張り倒す。
ウィプスに銃を出させ、構えると叫んだ。


「ぶっ壊す!!」
「あらら」
「先輩!あららじゃないですよ!?」
「大丈夫よ~」
「だって、あの人銃持ってますよ!!」
「大丈夫、大丈夫」


半泣きになったカミラを宥めるようにキャシーが笑うが、カミラはそんな先輩の様子に疑問符を浮かべるしかない。
すると、待っていたかのように奥から声が聞こえた。


「ストップよ」
「ほらね~」


声のがした方へ目をやると、MABの制服を着た女性が立っていた。


「銃を下ろしなさい、シュウジ」
「てめえ...」
「はあ...何を怒ってるのかしら?」
「今回も派手に神経逆撫でしてくれたな」
「あら、誉め「てねぇぞ!?」...んもう、せっかちな男は嫌われるわよ?」
「宇宙の端まで行けそうな気の長さは生憎持ち合わせて無ぇ」


銃を突き付けると、先程張り倒した武装局員達が慌てて杖を構え直す。


「全員、武装解除しなさい」
「で、ですが」
「いいから」
「...」


渋々といった感じだったが、武装局員達は杖を下ろす。
それを確認して、女性がこちらを向いた。


「取り敢えず部屋まで来ないかしら?」
「ずいぶんと手厚い歓迎じゃねーか」
「そう?熱烈な歓迎で嬉しいでしょ」
「...歓迎の意味、知ってるか?」


俺が青筋を立てながら、睨み付けた女―ミゼリーナ・マグリットは不敵な笑みを浮かべていた。
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