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トラブルを呼ぶ探偵
推測と、回答
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WMAB アメリカ支局長ともなると、部屋はかなりの物になる。
調度品に至るまで、機能性に優れた物だ。
「無駄に金を掛けやがって...。何だよこのソファーは」
「ソファーにまで文句付けないでよ」
「つけたくもなる」
「もう。はい、どうぞ」
「...さんきゅ」
目の前に置かれたコーヒーを手に取り、一口飲んでミゼルを睨んだ。
金色に輝く髪を後ろでアップにして纏め、スッキリとした顔立ちにアクセントを添える様にシルバーの眼鏡を掛けている。
見た目はクールな美女といった雰囲気たが、昔からこいつにはひどい目に遭わされてきた為に、見た目になど惑わされない。
「それで、どういう事だ?今日の騒ぎは」
「どういうって?」
「どうして2ヶ月前の件が俺のせいになってる」
「心当たりあるでしょう?」
「...無いんだが?」
2ヶ月前、街中で起きた魔法士による立て籠り事件があった。
どうやらMABに追いかけられていた様で、俺がたまたまその現場に居合わせただけ。
その最中、事もあろうか俺に向かって魔法を放ってきた為に返り討ちにして捕まえたのだ。
だが、問題はこのあと。
逮捕された魔法士が最後の悪足掻きに、支局内で魔法を乱射した事により、同行した俺と局員達が鎮圧。
結果、施設内が破壊されたというおまけ付きとなった。
「大体、施設を破壊したのは犯人とお前達だろうが」
「それもそうね」
「それがどうして俺のせいになる!?」
「だって局員が壊した事にしたら本局に難癖付けられるじゃない」
「だから、俺ってか...」
「そういう事。第一、今日のはただの訓練よ?」
「その割りには物騒だったけどな」
もう、何だか頭痛が酷くなるだけだ。
これだからこいつらと関わるのはゴメンなんだよ。
こめかみを抑え、タメ息を吐いた所で視線を戻した。
「...依頼書は見た。いったい、どういうつもりだ」
「会議自体が急に決まったの。これでも早い方よ」
「時間の事じゃない。不可解過ぎるって言ってるんだよ」
「何が?」
どこまでシラを切るつもりか解らないが、浮かべた笑みを崩さない。
「何が言いたいの?」
「何故、ウチに依頼が来る」
何か別の言葉を予想していたのか、俺の言葉に少し驚いた表情を浮かべた。
だが、それも直ぐに元の笑みに戻る。
「それは貴方の実力を評価してよ。上層部の意見もあったし」
「評価は知らんが、上層部?あの狸共から好かれているとは思えないな」
「それは一部の将官達よ。上層部のほとんどは貴方を評価している」
「評価ねぇ」
ー正直、評価などはどうでもいいが。
俺はこいつ達のような縦社会に属している訳ではないし、興味も無い。
だが、所属している者にとってはそうもいかない。
上官の命令は絶対だ。
そうでなければ、大きな組織の歯車として成り立たないのだから。
「こんな依頼をウチに出したら、また揉め事が起こるだろうが。俺は巻き込まれたくないぞ」
「大丈夫よ、これは私からの直接の依頼だから」
「他の魔法士事務所に頼めよ。それに俺は魔法士じゃない」
「貴方以上に信頼出来る魔法士がいればそうするわ。それに私の依頼程割りのいい物はないでしょう?」
「その依頼が一番トラブってんだよ!?何回執行官とかの奴達とバトりそうになったか」
俺が投げ捨てるように言うと、苦笑いを浮かべる。
これ以上、この話をしても仕方ないようだ。
もう一点の疑問をぶつけてみるしかない。
こいつが大人しく答えるとは思えないけれど。
「それで?今回の会議、何か裏を隠しているだろう?」
ほんの一瞬だったが、いつも何を考えているか解らない笑顔に異変が起こる。
ピクッと眉が動いたのを俺は見逃さなかった。
ーどうやら図星のようだな。
「何を言ってるの?」
「今回の会議、例の事件が絡んでいるのは解ってる」
俺はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み、確信を持って言う。
「MABは何を掴んでる?例の事件に関わっているハグレ達がアクションでも起こしそうなのか?」
「...」
「黙りってことは、図星だな?」
そう言って、コーヒーに口を付けても、相変わらず彼女は黙ったまま。
これでは埒が明かない。
―仕方ない...か。
俺はカップをテーブルに置いて、立ち上がる。
「何も言わないなら、仕方ない。この件は無かった事にさせてもらう」
「...」
「今回の依頼。あんたの『父親』からの依頼でもあったから話をしにきた。だが、それも今日までだな」
俺はミゼルをチラリと一瞥して言葉を続ける。
彼女の表情は伺い知れないが。
「お前が俺に隠し事をするならば、もう信用出来ない」
「...っ」
「それが何を意味するか、解ってるよな?俺とシズクはもう一切関わらない」
ドアの前で足を止めると、振り返らずに別れを告げる。
恐らく初めて会った日から、10年振り位に呼ぶ本名で。
「じゃあな、『ミゼリーナ』」
それは、友人の様な関係である彼女への決別の意味。
それが解らない程、彼女は愚かではない。
「待って」
「...なんだよ」
「それが、...でも聞きたかった?」
「は?なんだって?」
―何か、言いかけた?
振り向いて彼女を見ると、まるで何か思い悩んでいる様な表情をしていた。
「何が言いたい?」
ミゼルにしては、やけに言葉を濁す。
俺も困惑するしかない。
「...まだ予測の範疇だけど」
「ああ」
「多分貴方の推測通り。いえ、それよりもなお悪いかもしれない」
「どういう事だ?」
出来る事なら口にしたくなかったと言った雰囲気で彼女は言った。
「ハグレを操っている魔法士達がいる。それも組織立ってね」
「魔法士組織?何を言ってるか、解ってるんだろうな?」
「まるであの時みたいな、ね」
嫌な予感というのは、最悪の方向に当たってしまう。
思わず俺は、顔を天井へと向けた。
調度品に至るまで、機能性に優れた物だ。
「無駄に金を掛けやがって...。何だよこのソファーは」
「ソファーにまで文句付けないでよ」
「つけたくもなる」
「もう。はい、どうぞ」
「...さんきゅ」
目の前に置かれたコーヒーを手に取り、一口飲んでミゼルを睨んだ。
金色に輝く髪を後ろでアップにして纏め、スッキリとした顔立ちにアクセントを添える様にシルバーの眼鏡を掛けている。
見た目はクールな美女といった雰囲気たが、昔からこいつにはひどい目に遭わされてきた為に、見た目になど惑わされない。
「それで、どういう事だ?今日の騒ぎは」
「どういうって?」
「どうして2ヶ月前の件が俺のせいになってる」
「心当たりあるでしょう?」
「...無いんだが?」
2ヶ月前、街中で起きた魔法士による立て籠り事件があった。
どうやらMABに追いかけられていた様で、俺がたまたまその現場に居合わせただけ。
その最中、事もあろうか俺に向かって魔法を放ってきた為に返り討ちにして捕まえたのだ。
だが、問題はこのあと。
逮捕された魔法士が最後の悪足掻きに、支局内で魔法を乱射した事により、同行した俺と局員達が鎮圧。
結果、施設内が破壊されたというおまけ付きとなった。
「大体、施設を破壊したのは犯人とお前達だろうが」
「それもそうね」
「それがどうして俺のせいになる!?」
「だって局員が壊した事にしたら本局に難癖付けられるじゃない」
「だから、俺ってか...」
「そういう事。第一、今日のはただの訓練よ?」
「その割りには物騒だったけどな」
もう、何だか頭痛が酷くなるだけだ。
これだからこいつらと関わるのはゴメンなんだよ。
こめかみを抑え、タメ息を吐いた所で視線を戻した。
「...依頼書は見た。いったい、どういうつもりだ」
「会議自体が急に決まったの。これでも早い方よ」
「時間の事じゃない。不可解過ぎるって言ってるんだよ」
「何が?」
どこまでシラを切るつもりか解らないが、浮かべた笑みを崩さない。
「何が言いたいの?」
「何故、ウチに依頼が来る」
何か別の言葉を予想していたのか、俺の言葉に少し驚いた表情を浮かべた。
だが、それも直ぐに元の笑みに戻る。
「それは貴方の実力を評価してよ。上層部の意見もあったし」
「評価は知らんが、上層部?あの狸共から好かれているとは思えないな」
「それは一部の将官達よ。上層部のほとんどは貴方を評価している」
「評価ねぇ」
ー正直、評価などはどうでもいいが。
俺はこいつ達のような縦社会に属している訳ではないし、興味も無い。
だが、所属している者にとってはそうもいかない。
上官の命令は絶対だ。
そうでなければ、大きな組織の歯車として成り立たないのだから。
「こんな依頼をウチに出したら、また揉め事が起こるだろうが。俺は巻き込まれたくないぞ」
「大丈夫よ、これは私からの直接の依頼だから」
「他の魔法士事務所に頼めよ。それに俺は魔法士じゃない」
「貴方以上に信頼出来る魔法士がいればそうするわ。それに私の依頼程割りのいい物はないでしょう?」
「その依頼が一番トラブってんだよ!?何回執行官とかの奴達とバトりそうになったか」
俺が投げ捨てるように言うと、苦笑いを浮かべる。
これ以上、この話をしても仕方ないようだ。
もう一点の疑問をぶつけてみるしかない。
こいつが大人しく答えるとは思えないけれど。
「それで?今回の会議、何か裏を隠しているだろう?」
ほんの一瞬だったが、いつも何を考えているか解らない笑顔に異変が起こる。
ピクッと眉が動いたのを俺は見逃さなかった。
ーどうやら図星のようだな。
「何を言ってるの?」
「今回の会議、例の事件が絡んでいるのは解ってる」
俺はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み、確信を持って言う。
「MABは何を掴んでる?例の事件に関わっているハグレ達がアクションでも起こしそうなのか?」
「...」
「黙りってことは、図星だな?」
そう言って、コーヒーに口を付けても、相変わらず彼女は黙ったまま。
これでは埒が明かない。
―仕方ない...か。
俺はカップをテーブルに置いて、立ち上がる。
「何も言わないなら、仕方ない。この件は無かった事にさせてもらう」
「...」
「今回の依頼。あんたの『父親』からの依頼でもあったから話をしにきた。だが、それも今日までだな」
俺はミゼルをチラリと一瞥して言葉を続ける。
彼女の表情は伺い知れないが。
「お前が俺に隠し事をするならば、もう信用出来ない」
「...っ」
「それが何を意味するか、解ってるよな?俺とシズクはもう一切関わらない」
ドアの前で足を止めると、振り返らずに別れを告げる。
恐らく初めて会った日から、10年振り位に呼ぶ本名で。
「じゃあな、『ミゼリーナ』」
それは、友人の様な関係である彼女への決別の意味。
それが解らない程、彼女は愚かではない。
「待って」
「...なんだよ」
「それが、...でも聞きたかった?」
「は?なんだって?」
―何か、言いかけた?
振り向いて彼女を見ると、まるで何か思い悩んでいる様な表情をしていた。
「何が言いたい?」
ミゼルにしては、やけに言葉を濁す。
俺も困惑するしかない。
「...まだ予測の範疇だけど」
「ああ」
「多分貴方の推測通り。いえ、それよりもなお悪いかもしれない」
「どういう事だ?」
出来る事なら口にしたくなかったと言った雰囲気で彼女は言った。
「ハグレを操っている魔法士達がいる。それも組織立ってね」
「魔法士組織?何を言ってるか、解ってるんだろうな?」
「まるであの時みたいな、ね」
嫌な予感というのは、最悪の方向に当たってしまう。
思わず俺は、顔を天井へと向けた。
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