機械の腕に抱かれて

SHIN

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運命分かつ 哀れな少女

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 ラスさん何を仰いますか、今ありがとうってお礼を言っていたじゃありませんか。
 

「って言われてもなぁ。」

「そうよ。むしろ何で貴方に通じてるか知りたいぐらいだもの。」

 
 お姉さんまでそういうなんて。俺はまた少女を見る。少女自身驚いた様子で喉を押さえて、キョロキョロと所在なさげにしている。
 考えられる事は数点ある。
 一つめは異世界補正でこの世界の言語が全て使える事。
 二つめは読唇術または読心術を無意識に使った事。
三つめは、彼女との何かの共通点が会話を可能とした事だ。

 とりあえずは襲われた件も聞かないとだし、どこか小部屋を借りれないかな。

 そう伝えれば、ラスさんはギルド長室を使えと言ってくれた。もちろん、ラスさんも立ち会うみたいだ。


 ラスさんの案内でたどり着いたのは一見普通の部屋。
 だが、慧眼で見るとすごい。部屋の周りには防音、盗聴、侵入阻害の結界が張ってあり、部屋の調度品はとても高価な物ばかり。落ち着かないながらも来客用に置いてあるらしいソファーにつれてかれる。

 この移動の最中、少女は俺に引っ付いて離れませんでした。



「ここなら、大丈夫だろう。」

「そうですね、世界観が変わることを喋っても平気そうですね。」

「出ていようか?」

「ラスさんを巻き込む気満々です。」



 ヤバイのに捕まった。
 ラスさんの顔にはそう書かれている。ははは、最初に絡んできたからには最期まで付き合って貰うから。
 
 なぜ俺がラスさんを巻き込む気満々なのか、訳はラスさんのステータスにある。
 なんと、少女を連れてきた時に見たラスさんのステータスに『転生者』『元勇者』が見えたからです。

 
「ラスさんいや、転生者さん。」

「……本当、お前何者だよ。」

「異界者。それでわかるかな?」

「同郷か!」

「それは後で話そうよ。まずは、この子。」


 ラスさんの食いつきは想像通り。
 彼のステータスを初めて見たとき、協力者としようと考えてたんだよね。今回の件は良いタイミングだったな。
 
 さて、彼女に色々ときこうかな。

 俺は未だ抱きついている少女の手を自分の手のひらに包み、引き剥がすと小柄な彼女に目線を合わせた。
 こういうときは、怖がらせないのが鉄則。


「俺の言葉はわかる?」


 少女はこくりと頷く。
 不安げではあるが、しっかりと判断はできるようだ。最初にあった時も治療すると言った時に反応したことから言葉は通じているのは確かだ。

 俺はラスさんに視線を送る。ラスさんは深いため息を付いて頭をわしわしと掻いたあとに俺に習って少女の前にしゃがみこむ。


「お前さんの名前は?」


 ラスさんの言葉も分かるみたいで口をパクパクさせて、リンファと名乗る。


「何か言っているのは分かるが、それが何かわからん。」

「名前を言ってたよ。リンファだって。」

「やっぱりわかるのか。」


 俺がリンファと声にだすと、嬉しそうに微笑む。可愛い。
 それで、俺の言葉が本当だと理解したのかラスさんは更に難しい顔をする。


「リンファの姿は神族そのもので瞳は魔族。ハーフなのは分かるがそれも関係あるのか?それとも何かしたか?」

「毒の治療と、治癒魔法と慧眼使ったぐらいか?」

「慧眼?」

「鑑定スキルの最上位かな?神様にもらったからな。」

「じゃあ、名前もろもろ知ってたんじゃねぇーか。」


 そこはこの可愛い娘から直接知りたいじゃん。
 リンファの頭をなでなですればリンファの頬が赤く染まりうつむく。照れてる姿も可愛いです。


「ねぇ、リンファ。俺に何があったか教えてよ。」

「こいつの訳が違ってたら仕草で知らせろ。」

「ひでぇ。」


 このやり取りにリンファがクスクスと笑い出す。
 その表情を見ていると胸の奥がほんわりとする。やっぱり女の子はいいねぇ。

 リンファはひとしきり笑った後、森であった事を話し始めた。



 そもそもリンファは森の近くの小さな村に両親と住んでいた。小さな村のためほとんど自給自足だが毎日を楽しく過ごしていたのだ。

 そんなある日、村に大きな荷台の馬車がきた。
 村人は、誰か商人でも来たのではないかと思っており、警戒など誰もしない。
 ある意味その予想も間違いではなかったのでことさらに対応が遅れる事となる。

 商人は商人でも奴隷商であった。

 
「まさか、奴隷狩りかっ!」



 奴隷狩りは、村を襲いすべての者を一度捕まえそこで使えるものと使えないものを選別するのだという。
 選別で洩れたものに待つのは死だという。
 
 リンファも一度は捕まり、目の前でその選別を見せられたのだとか。
 
 そして、奴隷狩りのリーダーがリンファの美しい容貌に目を止め連れ出そうとした時、両親がそれを邪魔し逃がしてくれたのだとか。

 もしかしたら、両親は殺されているかもしれないが助けを求めないとと思いこの街を目指して森を走った。
 後ろからは何人もの奴隷商人の仲間が追いかけてくる。
 一人二人なら倒せたかもしれないが、あまりにも人数が多い。
 何度も足を縺れさせつつ走った。いつの間にか靴も脱げ毒草で毒も受けた。でも、まだいまならもしかしたら村が助かるかもしれない。その思いが走らせた。

 しかし、毒の影響で体力が減り草むらに隠れるしかなかった。

 そこに通りかかったのが俺でした。
 もう時間がたったから村は諦めてはいるが仇はとって欲しいと。更にはもしかしたらまだリンファを探しているかもしれないから保護をたのみたいそうだ。


 声は、必死に草むらに隠れる最中に自分に魔法をかけたのかもしれないな。探されている恐怖から声を消えろとかね。魔法はイメージらしいし。
 俺に通じるのはリンファに信頼されたからかな。


 リンファの話が終わり、ラスさんが大剣を鳴らす。

 奴隷商人討伐ですか?付き合います。
 リンファ、任せて悪者を退治してくるから。大丈夫、まだきっと間に合うよ。いや、間に合わせるから。 

 じゃ、お先に村にいきますね。大丈夫、場所は何となく分かるから。






※※※※※※※※※※※※※※


  ラス視点

 
 ギルド長室の窓から飛び降りる少年の姿に、思わず窓の元に向かえば身軽に街の屋根を飛び回る姿が見えた。

 たしか、奴の名前はユーリと言ったか。

 まさかの異界者とは知らなかったな。
 しかも、私の正体も知られてしまうとは。
 せっかく、王都から離れたこの街でのんびりしてたのになんか巻き込まれる気がする。

 はあ、とりあえず村に向かうか。
 あの森にある小さな村は何ヵ所かあるが、神族と魔族のハーフがいると聞いたのは一ヶ所だけだ。
 きっと、奴隷商人もその噂を聞いたんだろうな。

 胸元に手を組んで祈っているような雰囲気のリンファの頭を撫でてやると受付嬢にリンファを預けてギルドをでる。

 奴隷商人を捕まえたら、逆に奴隷に落とすのも良いかもな。久しぶりに王都に連絡でもとるか。




 


 
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