その異界者、陰陽師なり。

SHIN

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初めての異世界ライフ

異世界の神



※この話から、主人公視点になります。











 巨大な手に捕まれて孔を通るとそこは、ボロボロな屋敷でした。

 皆様はじめまして。僕は蘆屋道満って言います。職業は外法師です。えっ、外法師って何かって?
 早く言えば正当な方法とは異なる事を行う陰陽師ってやつです。と、いっても陰陽師も何かしらないか。

 うーん、陰陽師とは陰陽を司る術者のこと。まだ、難しい?

 世界は陰と陽で分けることが出来るんだ。例えば、男性を陽、女性を陰とかね。それらの調和を正すのが主な仕事。他にも、星読みして凶事を先読みしたりと占い師の様なこともするよ。
 
 あと、僕を含めた一部の陰陽師たちは視える人でね。そっちの仕事も請け負ったなぁ。
 僕はその力が特に強くてさ。帝に捕まっては無理難題押し付けられたよ。ギリッ
 で、通常の陰陽師がやらない仕事、人を呪う事とかを行うのが外法師の仕事。

 外法師の仕事は理を反することが多いから危険な仕事でもあるんだ。そんな仕事をしている僕を良く気に掛けてくれたのが、好敵手の安倍晴明とその師匠である賀茂忠行殿。
 この二人のお陰で僕の世界がひろがった。

 そんなある日、帝が住まう内裏に現れた気味の悪い孔。
 青龍王と呼んでいる式神の言うには、異世界の神が人を誘拐するためのものだそうだ。ちなみに欲しているのは力をもつ退魔師らしく、その場にはそれに当てはまる僕や晴明、忠行殿もいた。
 
 それで、良くしてくれた二人を巻き込むなら自分が行くって感じに孔の手に捕まれて此処に来たのです。

 さてはて、此処は一体なんなのか。
 てっきり神に異世界人を求めた術者でもいるかと思いきや、がいる気配は全くない。

 目の前にあるのは、今にも崩れそうな屋敷のみ。なんか、平安京の外れにある家みたいだよ。何、僕の召喚失敗?実は平安京の外れ?
 うっわ~、忠行殿に色々とぶっちゃけちゃったんだけど。


 そんなことを思って憤慨していると、おんぼろ屋敷からしゃらしゃらと何かが擦れる音がした。音の主を探すべくきょろきょろとしていたら、入口らしき所から飛び出したる影が一つ。
 影は、目の前に着地したかと思うと僕の足元に頭を地面にくっ付けるようにした格好、いわゆる土下座をしていた。
 
 その影の正体は、おんぼろ屋敷から飛び出た割にはきらびやかな衣服を着ている男だった。

 一向に面を上げないこの男をどうするべきか思案していると、首筋からしゅるりと何かが通るゾワリとした感覚がして思わず短い悲鳴をあげた。同時に感触の残る首筋を両手で押さえる。
 うぅ、気持ち悪いよ。

 首筋から出てきたのは、小さな蛇だった。蛇は僕から離れて未だ土下座を続ける男の側に移動すると、ぽふんと煙を立て人の形へと変わる。蛇が居た筈のところに居たのは見覚えのある姿。


「せ、青龍王?!」


 その姿は紛れもなく、先ほどまで居た平安京に置いてきた筈の青龍王であった。
 僕が驚いていると、青龍王がこちらに誰もが見惚れるだろう顔で笑い掛けてきた。それと共に、土下座をしている男の頭を一瞥もせず踏みつける。
  ……地面からぶへぇという変な音が聞こえてきたけどぉ。

 慌てて男に駆け寄り青龍王の足から救い出せば、男はえぐえぐと綺麗な顔を涙でグシャグシャにしながら泣いている。


(あれ?意外と若い。)


 男は、まだ元服して間もない少年のような姿をしている。とりあえず、涙で酷い有り様な顔を小袿で拭いてやり普通に座らせてやれば、涙声でありがとう。と言われた。それについ、苦笑を漏らしてしまう。
 男?が落ち着いたのを確認すると、先ずは土下座をしていた理由を訪ねる事にした。


「大変、申し訳ございませんでした!」


 その台詞と共に頭を下げられ、また土下座されそうになるのを手で制止し続きを促す。ほら、おでこがさっきので赤くなって痛々しいから。やめなさい。

 話を聞くにどうやら、この男?が道満を異世界に誘拐した神様御本人らしい。
 この神様はまだ新神にいがみで世界造りを初めて任されたというのだ。要はこの世界の主神様しゅしんだ。
 しかし、少し世界から目を離した隙に人間達が勝手に異世界から数人、人をこれまた勝手に神の名を理由に召喚してしまったのだという。


 そして、新神は人間に勝手に主神の名の元にと騙られ、神様界の上役には怒られ散々なのだとまた泣きながら叫んでいる。


「どうにか、貴方だけ事情説明できました。」
「他の人達は?」
「私の力及ばず既に向こうです。」


  あれ、でも神の力を人が越えるなどあるのだろうか。じゃなきゃ、主神様が望まないのに異世界転移なんて無理だろう。そもそも、まずそれ自体が理を反してないか?
 その疑問の回答をくれたのは、今まで沈黙をしてた青龍王だった。


「神は、崇める人が居てこそ存在できる。」
「ああ。だが、彼は創世の神なのだろ?」
「こう見えて、こいつは数百万年生きてる。伝説は残っていても崇める対象が刷り変わってしまってな。」
「はい、創世は私の下に付いてた女神が行った事になっています。」


 どうやらこの神は下克上されたらしい。そして、下克上したその女神がこの件に関わってくるみたいだな。

 同時に、この男が出てきた屋敷がボロボロな理由がわかった。人が崇めるのをやめると、というか存在を忘れるとその神が住むお社が整備されずに朽ちてゆくのだ。
 それと共に力も少なくなり、最終的には運命を受け入れ消滅したり人を怨み荒神あらがみになったりする。そんな神を何度も見たことがある。

 このなんとも不憫な神に同情の目を向けつつ、これからどうしたいのか尋ねた。


「貴方にはこの世界の調和を頼みたい。このままでは世界が狂ってしまい、人々が多く死んでしまう。」
「主神様を崇めない人を助けるのか?」
「はい!」


 なんというお人好し。
 自分が消えそうな時に自分の世界の住民のため動くとは、そもそも、僕なら自業自得だと見捨てるがな。
 まあ、こんな甘ちゃん神様嫌いじゃないですけど。

 女神に聞かないとわからないが、もしかしたら力を持つものを召喚したのは同じ理由かもしれないな。だが、女神の助力をしてやる義理は無いな。うん。


「はぁ、分かりました。どうせもう戻れないだろうからのお願いを聞きましょう。その代わり……」
「ありがとうっ!私にできることなら何でもやるよ。」
「主神様の名前を教えてください?」
「へあっ、な、名前ですか?」
「駄目?」


 やっぱり、駄目かな。名前は僕たちにとっても神にとっても重要な役割を持ってるのは知っているし、駄目だったら素直に諦めるか。

 あっ、青龍王がお前も甘い奴だと囁いてる。言っとくが聞こえてるからな。


「私の名は新神 だよ。」

 
 青龍王と目線で会話していると、主神様が名前を教えてくれた。

 シンゴク。

 答えてくれた名を口のなかでを転がす。主神様は久しぶりに名前を呼ばれたのか、嬉しそうに返事を返してくれる。
 僕の顔にも笑みが浮かんでいるだろう。

 僕は言葉に力を乗せて主神様に宣誓をする。


「我、蘆屋 道満ゆきみつ。本名を持ちて、新神 シンゴクを主神と崇め奉る急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう。」


 それは神に捧げる祝詞に近い言葉。
 ちなみに陰陽師は偽名を使う。名前だけで呪をかけられてしまうからだ。だからこそ、今回の僕みたいに本名を捧げることは重要だ。
 ふふ、主神様が僕の宣誓に驚愕の顔をしている。


「一体なぜ……これでは私は……。」
「僕を巻き込んだんだ。僕が死ぬまでは見守っていてくれてもいいだろう?」


 これで、主神様は少なくとも僕が生きている限り消えはしない。だって、僕という崇める者が出来たんだもの。
 
 主神様は、またさめざめと涙を流す。それは嬉し涙なのだと教えてもらった時の思い出を頭に掠めながら、不躾だが主神様の頭を撫でて慰める。
 そりゃあ、誰だって消えるのは怖いよな。それを受け入れるのも辛いだろうし。それをこんな若いのに受け入れるなんて凄いよ。
 まあ、なん万年も生きてる神にとっては僕が生きる数十年なんて瞬き位だろうけど。

 それにしても、その女神とちゃんと創世記を作らなかった人間共をどうしてやろうか。ふっふっふ、楽しみだなぁ。

 僕は、背伸びをしつつ立ち上がると多少ボロ屋敷から改善されたこの場所を見回した。そのあと、主神様に元凶の元に向かうことを伝える。主神様は少し残念そうな顔をしたが世界の調和があるため素直に頷いてくれる。



「ゆきくん、お世話になったから沢山スキルをつけとくね。」
「……いま、何て言った?」
「スキル?」
「その前。」
「ゆきくん?」


 主神様、首を傾げる様はあざと可愛いですが、呼び方なんとかなりません?

 思わず動きを止め、主神様を見ればふるふると震えて目元を潤ませ始めた。
 わわ、分かりましたっ!分かったから泣かないで下さい。その、新神だから若い姿なんで心が痛むんです。

 僕が了承すれば先ほどまでの表情が一変してあどけなく笑う姿に、意外とこの神様強かじゃないか。と心の奥で呟いた。


 はぁ、なんかどっと疲れたな。
 
 主神様は僕の手をとり、円形の紋様が書かれた所に連れてきた。円形の中心には孔が空いており、その孔を通り召喚場所に行くのだという。
 早々と円形の中心に向かい始めると青龍王がまた蛇の姿になり僕の襟首に潜む。
 というか青龍王、お前はなぜいるんだ。

 そんな疑問を考えながら、孔に入る僕に主神様はヒラヒラと手を振って送ってくれた。


 
拝啓、晴明よ。なんか色々と大変な事が起こる予感がするよ。




 僕はここにはいない晴明に不安を呟くのだった。




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