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レヴィンとふたり、子爵の屋敷に通され奥の部屋に案内された。石造りの子爵の屋敷は、城と見まがうくらいに広くて華美だ。部屋にも廊下にも高価そうな絵画や彫刻が飾られていて、護衛のための兵士や使用人たちも大勢働いている。とても個人の屋敷とは思えない。
やがて案内された一室は静かな部屋だった。部屋の大きさもそう広くはない。使用人もいなくて、ルーシスとしては落ち着く部屋だった。
「はじめまして、ルーシスさん。アイル・イーベンガルドです」
イーベンガルド子爵は両手を広げ、にこやかに挨拶をしてきた。ルーシスもそれに応えて自己紹介をする。
白髪交じりのブロンドの髪もきちんと整えられており、落ち着いた風合いの深緑色の服も白いチーフも紳士的な雰囲気がある。顔はごく一般的な顔だと思う。もちろんレヴィンがふざけてみせたような、変な顔じゃない。
「噂どおり、お美しいかたですね」
子爵は微笑みかけてきた。どうやら悪い人ではなさそうだ。
「ありがとうございます。子爵にそう言っていただけてとても嬉しいです」
ルーシスは子爵に気に入ってもらえるように、必死で笑顔を作る。なんとかして、嫁にしたいと思ってもらわなければならない。
「手紙にもあるとおり、私は真剣にあなたをイーベンガルド家にお迎えしたいと考えております」
「はい。私もそのように望んでおります」
イーベンガルド家の者になる、ということはつまり結婚ということなのだろう。一年間の努力が報われるときがきた。
子爵の妻となり、後継ぎを産み、この広い城のような屋敷で暮らす。そんな想像をしただけで、なぜか身体が震え出した。
嫌だ嫌だと、心の奥底から聞いてはいけない本音を感じる。
隣にいるレヴィンにしがみつきたい。結婚などしなくていい、ずっとそばで仕えてくれと引き止めてほしい。
「それはよかった。私はあなたよりも二十も年上です。結婚できなくはないが、誰になんと言われても再婚する気にならないんです」
「え……?」
どういうことだろう。さっきはルーシスを家に迎えるという話をしていたのに。
「なので、あなたには我が息子と婚約を交わしていただきたいのです」
「息子……?」
ルーシスには子爵の話がまるで読めない。
子爵には子はいないと聞いている。だからこそ後継ぎ欲しさに結婚相手を探しているのではなかったのだろうか。
「養子縁組をしたんですよ。なぁ、レヴィン」
子爵はレヴィンに対して意味深な笑みを向ける。
「はい。私に身分を与えてくださり、本当にありがとうございます」
「よいよい。私はお前の腕と頭脳を買っている。これからイーベンガルド家の発展のために尽くせよ」
「かしこまりました。誠心誠意、尽くさせていただきたく存じます」
ふたりのやり取りをはたで聞いていて、ルーシスの胸が高鳴っていく。
まさか、子爵と養子縁組をした、ルーシスの結婚相手というのは……。
「つい昨日、養子縁組をしたばかりだ。ルーシスさん。もうおわかりかな。あなたには我が息子、レヴィンと結婚してもらいたい」
「レヴィン様と、結婚……?」
「そうだ。ゆくゆくはレヴィンに爵位を譲る覚悟もしている。そうなればルーシスは子爵夫人だ。悪い話ではあるまい?」
どこかで聞いたような条件だ。子爵夫人を目指していたルーシスにとって「子爵夫人になる」という言葉は、ずっと呪いのようにルーシスを苦しめていたのに。
「はじめまして、ルーシス。レヴィン・マイヤー改め、レヴィン・イーベンガルドだ」
レヴィンは微笑んで、ルーシスに握手を求めてきた。ルーシスが驚きのあまりに動けないでいると、レヴィンは勝手にルーシスの手を取り、無理矢理握手を交わさせた。
「はじめましてで悪いが、お前を俺の伴侶として迎えたい」
信じられないことが起きた。レヴィンに求婚されるなんて想像すらしなかった。これは夢なんじゃないだろうか。
「相手が誰でも求婚を受け入れるのだろう? いつも偉そうにしている、いけ好かない男でも、無愛想なつまらない朴念仁でもな」
それはさっきイーベンガルド邸に入る前にレヴィンが確認してきたことだ。
あのときからすでにレヴィンはルーシスを自分の妻として迎えることを知っていたのではないか。
偉そうで、無愛想で、朴念仁とは自分のことを指して言っていたに違いない。
「さっき、ここに来る前に自分で言ってただろ? 相手の見た目がこんな顔でも、結婚すると」
レヴィンはその美麗な顔をルーシスに近づけてくる。
目の前にいるのは、この世でルーシスがもっとも好きな人だ。姿を見るだけで胸が躍るくらいに大好きだ。
養子縁組で子爵令息となったレヴィンと結婚すれば、子爵夫人になるという、レヴィンとの約束を果たせる。レヴィンとずっと一緒にいられる。しかも、レヴィンの伴侶として。
言葉を発しようとして気がついた。胸がいっぱいになり、話そうとすると涙があふれてくる。
「ルーシス。俺が必ずお前を幸せにしてやる。だから、俺と結婚してほしい」
レヴィンのブルーの瞳がルーシスを見つめている。レヴィンの形のいい唇から「結婚してほしい」などと、夢のような言葉が発せられる。
レヴィンからの求婚に、涙が止まらなかった。
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
嗚咽混じりで、うまく話せない。それでもレヴィンの気持ちに言葉を使って返したくて、必死で答える。
「落ち着け。どうした、ルーシス」
「すみません、すみません……でも、でも、こんなことって……」
「大丈夫だ。大丈夫だよ」
レヴィンがルーシスを慰めるように腕を回して肩を叩いてくれる。それが嬉しくて余計に涙があふれてくる。
「レヴィン様……っ」
たまらずレヴィンに寄りかかる。それをレヴィンは優しく受け止めてくれた。
「あまり泣くな。俺までつられて泣きそうだ」
レヴィンはそんなことを言いながらも、しばらくのあいだルーシスの背中をさすってくれた。
やがて案内された一室は静かな部屋だった。部屋の大きさもそう広くはない。使用人もいなくて、ルーシスとしては落ち着く部屋だった。
「はじめまして、ルーシスさん。アイル・イーベンガルドです」
イーベンガルド子爵は両手を広げ、にこやかに挨拶をしてきた。ルーシスもそれに応えて自己紹介をする。
白髪交じりのブロンドの髪もきちんと整えられており、落ち着いた風合いの深緑色の服も白いチーフも紳士的な雰囲気がある。顔はごく一般的な顔だと思う。もちろんレヴィンがふざけてみせたような、変な顔じゃない。
「噂どおり、お美しいかたですね」
子爵は微笑みかけてきた。どうやら悪い人ではなさそうだ。
「ありがとうございます。子爵にそう言っていただけてとても嬉しいです」
ルーシスは子爵に気に入ってもらえるように、必死で笑顔を作る。なんとかして、嫁にしたいと思ってもらわなければならない。
「手紙にもあるとおり、私は真剣にあなたをイーベンガルド家にお迎えしたいと考えております」
「はい。私もそのように望んでおります」
イーベンガルド家の者になる、ということはつまり結婚ということなのだろう。一年間の努力が報われるときがきた。
子爵の妻となり、後継ぎを産み、この広い城のような屋敷で暮らす。そんな想像をしただけで、なぜか身体が震え出した。
嫌だ嫌だと、心の奥底から聞いてはいけない本音を感じる。
隣にいるレヴィンにしがみつきたい。結婚などしなくていい、ずっとそばで仕えてくれと引き止めてほしい。
「それはよかった。私はあなたよりも二十も年上です。結婚できなくはないが、誰になんと言われても再婚する気にならないんです」
「え……?」
どういうことだろう。さっきはルーシスを家に迎えるという話をしていたのに。
「なので、あなたには我が息子と婚約を交わしていただきたいのです」
「息子……?」
ルーシスには子爵の話がまるで読めない。
子爵には子はいないと聞いている。だからこそ後継ぎ欲しさに結婚相手を探しているのではなかったのだろうか。
「養子縁組をしたんですよ。なぁ、レヴィン」
子爵はレヴィンに対して意味深な笑みを向ける。
「はい。私に身分を与えてくださり、本当にありがとうございます」
「よいよい。私はお前の腕と頭脳を買っている。これからイーベンガルド家の発展のために尽くせよ」
「かしこまりました。誠心誠意、尽くさせていただきたく存じます」
ふたりのやり取りをはたで聞いていて、ルーシスの胸が高鳴っていく。
まさか、子爵と養子縁組をした、ルーシスの結婚相手というのは……。
「つい昨日、養子縁組をしたばかりだ。ルーシスさん。もうおわかりかな。あなたには我が息子、レヴィンと結婚してもらいたい」
「レヴィン様と、結婚……?」
「そうだ。ゆくゆくはレヴィンに爵位を譲る覚悟もしている。そうなればルーシスは子爵夫人だ。悪い話ではあるまい?」
どこかで聞いたような条件だ。子爵夫人を目指していたルーシスにとって「子爵夫人になる」という言葉は、ずっと呪いのようにルーシスを苦しめていたのに。
「はじめまして、ルーシス。レヴィン・マイヤー改め、レヴィン・イーベンガルドだ」
レヴィンは微笑んで、ルーシスに握手を求めてきた。ルーシスが驚きのあまりに動けないでいると、レヴィンは勝手にルーシスの手を取り、無理矢理握手を交わさせた。
「はじめましてで悪いが、お前を俺の伴侶として迎えたい」
信じられないことが起きた。レヴィンに求婚されるなんて想像すらしなかった。これは夢なんじゃないだろうか。
「相手が誰でも求婚を受け入れるのだろう? いつも偉そうにしている、いけ好かない男でも、無愛想なつまらない朴念仁でもな」
それはさっきイーベンガルド邸に入る前にレヴィンが確認してきたことだ。
あのときからすでにレヴィンはルーシスを自分の妻として迎えることを知っていたのではないか。
偉そうで、無愛想で、朴念仁とは自分のことを指して言っていたに違いない。
「さっき、ここに来る前に自分で言ってただろ? 相手の見た目がこんな顔でも、結婚すると」
レヴィンはその美麗な顔をルーシスに近づけてくる。
目の前にいるのは、この世でルーシスがもっとも好きな人だ。姿を見るだけで胸が躍るくらいに大好きだ。
養子縁組で子爵令息となったレヴィンと結婚すれば、子爵夫人になるという、レヴィンとの約束を果たせる。レヴィンとずっと一緒にいられる。しかも、レヴィンの伴侶として。
言葉を発しようとして気がついた。胸がいっぱいになり、話そうとすると涙があふれてくる。
「ルーシス。俺が必ずお前を幸せにしてやる。だから、俺と結婚してほしい」
レヴィンのブルーの瞳がルーシスを見つめている。レヴィンの形のいい唇から「結婚してほしい」などと、夢のような言葉が発せられる。
レヴィンからの求婚に、涙が止まらなかった。
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
嗚咽混じりで、うまく話せない。それでもレヴィンの気持ちに言葉を使って返したくて、必死で答える。
「落ち着け。どうした、ルーシス」
「すみません、すみません……でも、でも、こんなことって……」
「大丈夫だ。大丈夫だよ」
レヴィンがルーシスを慰めるように腕を回して肩を叩いてくれる。それが嬉しくて余計に涙があふれてくる。
「レヴィン様……っ」
たまらずレヴィンに寄りかかる。それをレヴィンは優しく受け止めてくれた。
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レヴィンはそんなことを言いながらも、しばらくのあいだルーシスの背中をさすってくれた。
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