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7.触れてみたくて
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「冬麻、どう? 気持ちいい?」
「あっ……ちょっ、久我さんそこは……」
「ダメだよ冬麻。ここが冬麻のイイところなんだから」
冬麻が身をよじっても、久我は容赦なく冬麻を攻め立ててくる。
「……はぁ……くっ……! 久我さん……もう無理っ……」
「もう少しだけ。冬麻は立ち仕事なんだから足に負担がかかってるんだよ」
久我はベッドに横になっている冬麻の足裏のツボを押したり、ふくらはぎをマッサージしてくれている。時々悶絶するくらいに痛みを感じるときもあるが、とても気持ちがいい。仕事で疲れた足が軽くなっていくのがわかる。
寝る前に冬麻が「足がダルい」とひとり愚痴をこぼしていたら、久我が「マッサージしたほうがいい。俺にやらせてよ」と提案してきたのだ。悪いとは思ったが、あまりにも久我が熱望するので「じゃあ少しだけお願いしてもいいですか」と言い、冬麻の部屋のベッドに寝転がり久我からマッサージを受ける流れになったのだ。
「あー随分楽になりました。ありがとうございます」
冬麻は起き上がり、「次は久我さんです」と久我の手を取る。
「えっ、冬麻?」
久我は驚いているが、マッサージのお返しをするだけなのにそんなに驚くことかと冬麻は思っている。
「今度は俺がマッサージしますから、久我さんはここに寝てください」
「えっ、ちょっと待って。冬麻のベッドに寝てもいいの?」
「いやいや、ここは久我さんの家でしょう」
この部屋は一応冬麻の部屋となっているが、それは全部久我がしつらえたものだ。
「野郎のベッドは嫌ですか? そしたら久我さんの部屋に行きます?」
「いや行かない。冬麻、ありがとう。俺にそんなことを許してくれて」
成り行きで、ベッドにうつ伏せになった久我の足をマッサージをしている。だが、久我の様子がどこかおかしい。
「はぁ……はぁ……」
別に普通のマッサージなのに、妙に艶めかしいな……。
久我は冬麻が普段使っている枕をやたら愛でている。
「冬麻の匂い……」
ヒェっ……。なんかヤバくないか……?
「冬麻の手は最高に気持ちいいよ。ん、あ……そこ。すごくいい……」
よくわからないが、久我はとてもご満悦の様子だ。まぁ、気持ちがいいのならいつもお世話になっている分くらいはマッサージしてやろうと久我の異常な反応も気にしないことにした。
やがて久我が静かになったので、ふとマッサージの手を止め、顔を覗き込むと久我は目を閉じてすぅすぅ寝息を立てている。
——え。まさか寝てるのか……?
少し様子を伺っていたが、正真正銘、久我は寝ているみたいだ。
久我の寝顔なんて初めてみた。綺麗に整った長いまつげ。理想的な鼻梁のラインも、少しセクシーな唇も精巧にできた人形みたいに完璧だ。見ていてなんだかドキドキするくらい。
いつも何を考えているのかわからない、怖い人だと思っていたけど、眠っている姿は無防備でちょっと可愛くも思えてくる。
「実は疲れてたのかな……」
久我の毎日はとても忙しそうだ。一緒に暮らしてみてその多忙ぶりが見てとれる。それなのに久我は朝早くから二人分の朝食を用意し、職場まで冬麻を送ってくれる。夜は時間があれば夕食の支度やハウスキーパーにはできない部分の家事をこなし、重要な仕事のとき以外はいつも冬麻のそばにいて、冬麻を嬉しそうに構っている。
冬麻は眠ってしまった久我にそっと布団をかけてやる。
「今日は俺を助けてくれて、ありがとうございます」
久我を起こさないように小さな声で礼を言う。面と向かっては言えなかったから。
「頑張りすぎなんですよ」
冬麻は思わず手を伸ばしていた。触れてみたいと思うくらい、久我は綺麗だ。
「俺なんか構ってないで、休めばいいのに」
静かに、久我を起こさないようにとほんの少し、指先だけを使って久我の髪に触れる。
久我は相変わらず寝息を立てている。その様子をみて、あと少しだけ、許してほしいと久我の頬に触れる。
久我の肌の吸いつくような感触に驚いた。同じ人間なのに久我の肌はまったく別のものみたいだ。きめ細やかで滑らかにするりと触れている指が抜けていく。
——やばいやばい。俺はどうしたんだ……?
冬麻は我にかえり、久我に触れていた手を素早く引っ込めた。
なんでこんな変態ストーカー男にドキドキさせられなきゃならないんだよ。こいつのキモさを思い出せ。
久我の会社からの融資も決まって、実家の店は持ちなおすことができた。冬麻はその代償として久我のそばにいるだけだ。それ以外、二人の間には何もない。
——ありえないだろ、なんでこんなやつ……。
「……ん……ううん……」
翌朝、目が覚めると、ソファで寝ていたはずの自分がいつも通りにベッドにいた。
昨日の記憶を思い出してみる。確か久我が冬麻のベッドで寝てしまったから、冬麻はフリースのブランケットを掛けてソファで寝ることにしたんだった。そのあともしかして久我が運んでくれたのか……? 寝ぼけながらも微かにそのようにされた記憶がある。
顔を洗ってからリビングに向かう。
そこには「おはよう、冬麻」といつも通りの朝から爽やかで完璧な久我の姿。
「あー、昨日はすみません。俺を部屋に運んでくれたのは久我さんですか?」
「ああ、そうだよ。俺が冬麻のベッドを占領しちゃったから、冬麻がソファで寝てたんだね。気を遣わないで俺を起こしてくれたらよかったのに」
「久我さん、よく寝てましたから」
冬麻が触れても起きないくらいには深く眠っていたようだったから。
「優しいんだね、冬麻は」
久我のいつもの完璧なスマイル。かっこいい。すごくかっこいいけど、なぜか胸がザワザワする。
「あっ……ちょっ、久我さんそこは……」
「ダメだよ冬麻。ここが冬麻のイイところなんだから」
冬麻が身をよじっても、久我は容赦なく冬麻を攻め立ててくる。
「……はぁ……くっ……! 久我さん……もう無理っ……」
「もう少しだけ。冬麻は立ち仕事なんだから足に負担がかかってるんだよ」
久我はベッドに横になっている冬麻の足裏のツボを押したり、ふくらはぎをマッサージしてくれている。時々悶絶するくらいに痛みを感じるときもあるが、とても気持ちがいい。仕事で疲れた足が軽くなっていくのがわかる。
寝る前に冬麻が「足がダルい」とひとり愚痴をこぼしていたら、久我が「マッサージしたほうがいい。俺にやらせてよ」と提案してきたのだ。悪いとは思ったが、あまりにも久我が熱望するので「じゃあ少しだけお願いしてもいいですか」と言い、冬麻の部屋のベッドに寝転がり久我からマッサージを受ける流れになったのだ。
「あー随分楽になりました。ありがとうございます」
冬麻は起き上がり、「次は久我さんです」と久我の手を取る。
「えっ、冬麻?」
久我は驚いているが、マッサージのお返しをするだけなのにそんなに驚くことかと冬麻は思っている。
「今度は俺がマッサージしますから、久我さんはここに寝てください」
「えっ、ちょっと待って。冬麻のベッドに寝てもいいの?」
「いやいや、ここは久我さんの家でしょう」
この部屋は一応冬麻の部屋となっているが、それは全部久我がしつらえたものだ。
「野郎のベッドは嫌ですか? そしたら久我さんの部屋に行きます?」
「いや行かない。冬麻、ありがとう。俺にそんなことを許してくれて」
成り行きで、ベッドにうつ伏せになった久我の足をマッサージをしている。だが、久我の様子がどこかおかしい。
「はぁ……はぁ……」
別に普通のマッサージなのに、妙に艶めかしいな……。
久我は冬麻が普段使っている枕をやたら愛でている。
「冬麻の匂い……」
ヒェっ……。なんかヤバくないか……?
「冬麻の手は最高に気持ちいいよ。ん、あ……そこ。すごくいい……」
よくわからないが、久我はとてもご満悦の様子だ。まぁ、気持ちがいいのならいつもお世話になっている分くらいはマッサージしてやろうと久我の異常な反応も気にしないことにした。
やがて久我が静かになったので、ふとマッサージの手を止め、顔を覗き込むと久我は目を閉じてすぅすぅ寝息を立てている。
——え。まさか寝てるのか……?
少し様子を伺っていたが、正真正銘、久我は寝ているみたいだ。
久我の寝顔なんて初めてみた。綺麗に整った長いまつげ。理想的な鼻梁のラインも、少しセクシーな唇も精巧にできた人形みたいに完璧だ。見ていてなんだかドキドキするくらい。
いつも何を考えているのかわからない、怖い人だと思っていたけど、眠っている姿は無防備でちょっと可愛くも思えてくる。
「実は疲れてたのかな……」
久我の毎日はとても忙しそうだ。一緒に暮らしてみてその多忙ぶりが見てとれる。それなのに久我は朝早くから二人分の朝食を用意し、職場まで冬麻を送ってくれる。夜は時間があれば夕食の支度やハウスキーパーにはできない部分の家事をこなし、重要な仕事のとき以外はいつも冬麻のそばにいて、冬麻を嬉しそうに構っている。
冬麻は眠ってしまった久我にそっと布団をかけてやる。
「今日は俺を助けてくれて、ありがとうございます」
久我を起こさないように小さな声で礼を言う。面と向かっては言えなかったから。
「頑張りすぎなんですよ」
冬麻は思わず手を伸ばしていた。触れてみたいと思うくらい、久我は綺麗だ。
「俺なんか構ってないで、休めばいいのに」
静かに、久我を起こさないようにとほんの少し、指先だけを使って久我の髪に触れる。
久我は相変わらず寝息を立てている。その様子をみて、あと少しだけ、許してほしいと久我の頬に触れる。
久我の肌の吸いつくような感触に驚いた。同じ人間なのに久我の肌はまったく別のものみたいだ。きめ細やかで滑らかにするりと触れている指が抜けていく。
——やばいやばい。俺はどうしたんだ……?
冬麻は我にかえり、久我に触れていた手を素早く引っ込めた。
なんでこんな変態ストーカー男にドキドキさせられなきゃならないんだよ。こいつのキモさを思い出せ。
久我の会社からの融資も決まって、実家の店は持ちなおすことができた。冬麻はその代償として久我のそばにいるだけだ。それ以外、二人の間には何もない。
——ありえないだろ、なんでこんなやつ……。
「……ん……ううん……」
翌朝、目が覚めると、ソファで寝ていたはずの自分がいつも通りにベッドにいた。
昨日の記憶を思い出してみる。確か久我が冬麻のベッドで寝てしまったから、冬麻はフリースのブランケットを掛けてソファで寝ることにしたんだった。そのあともしかして久我が運んでくれたのか……? 寝ぼけながらも微かにそのようにされた記憶がある。
顔を洗ってからリビングに向かう。
そこには「おはよう、冬麻」といつも通りの朝から爽やかで完璧な久我の姿。
「あー、昨日はすみません。俺を部屋に運んでくれたのは久我さんですか?」
「ああ、そうだよ。俺が冬麻のベッドを占領しちゃったから、冬麻がソファで寝てたんだね。気を遣わないで俺を起こしてくれたらよかったのに」
「久我さん、よく寝てましたから」
冬麻が触れても起きないくらいには深く眠っていたようだったから。
「優しいんだね、冬麻は」
久我のいつもの完璧なスマイル。かっこいい。すごくかっこいいけど、なぜか胸がザワザワする。
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