借金のカタにイケメン社長に囲われる

雨宮里玖

文字の大きさ
7 / 138

7.触れてみたくて

しおりを挟む
「冬麻、どう? 気持ちいい?」
「あっ……ちょっ、久我さんそこは……」
「ダメだよ冬麻。ここが冬麻のイイところなんだから」

 冬麻が身をよじっても、久我は容赦なく冬麻を攻め立ててくる。

「……はぁ……くっ……! 久我さん……もう無理っ……」
「もう少しだけ。冬麻は立ち仕事なんだから足に負担がかかってるんだよ」

 久我はベッドに横になっている冬麻の足裏のツボを押したり、ふくらはぎをマッサージしてくれている。時々悶絶するくらいに痛みを感じるときもあるが、とても気持ちがいい。仕事で疲れた足が軽くなっていくのがわかる。
 寝る前に冬麻が「足がダルい」とひとり愚痴をこぼしていたら、久我が「マッサージしたほうがいい。俺にやらせてよ」と提案してきたのだ。悪いとは思ったが、あまりにも久我が熱望するので「じゃあ少しだけお願いしてもいいですか」と言い、冬麻の部屋のベッドに寝転がり久我からマッサージを受ける流れになったのだ。



「あー随分楽になりました。ありがとうございます」

 冬麻は起き上がり、「次は久我さんです」と久我の手を取る。

「えっ、冬麻?」

 久我は驚いているが、マッサージのお返しをするだけなのにそんなに驚くことかと冬麻は思っている。

「今度は俺がマッサージしますから、久我さんはここに寝てください」
「えっ、ちょっと待って。冬麻のベッドに寝てもいいの?」
「いやいや、ここは久我さんの家でしょう」

 この部屋は一応冬麻の部屋となっているが、それは全部久我がしつらえたものだ。

「野郎のベッドは嫌ですか? そしたら久我さんの部屋に行きます?」
「いや行かない。冬麻、ありがとう。俺にそんなことを許してくれて」

 成り行きで、ベッドにうつ伏せになった久我の足をマッサージをしている。だが、久我の様子がどこかおかしい。

「はぁ……はぁ……」

 別に普通のマッサージなのに、妙に艶めかしいな……。
 久我は冬麻が普段使っている枕をやたら愛でている。

「冬麻の匂い……」

 ヒェっ……。なんかヤバくないか……?

「冬麻の手は最高に気持ちいいよ。ん、あ……そこ。すごくいい……」

 よくわからないが、久我はとてもご満悦の様子だ。まぁ、気持ちがいいのならいつもお世話になっている分くらいはマッサージしてやろうと久我の異常な反応も気にしないことにした。



 やがて久我が静かになったので、ふとマッサージの手を止め、顔を覗き込むと久我は目を閉じてすぅすぅ寝息を立てている。

 ——え。まさか寝てるのか……?

 少し様子を伺っていたが、正真正銘、久我は寝ているみたいだ。
 久我の寝顔なんて初めてみた。綺麗に整った長いまつげ。理想的な鼻梁のラインも、少しセクシーな唇も精巧にできた人形みたいに完璧だ。見ていてなんだかドキドキするくらい。

 いつも何を考えているのかわからない、怖い人だと思っていたけど、眠っている姿は無防備でちょっと可愛くも思えてくる。


「実は疲れてたのかな……」

 久我の毎日はとても忙しそうだ。一緒に暮らしてみてその多忙ぶりが見てとれる。それなのに久我は朝早くから二人分の朝食を用意し、職場まで冬麻を送ってくれる。夜は時間があれば夕食の支度やハウスキーパーにはできない部分の家事をこなし、重要な仕事のとき以外はいつも冬麻のそばにいて、冬麻を嬉しそうに構っている。



 冬麻は眠ってしまった久我にそっと布団をかけてやる。

「今日は俺を助けてくれて、ありがとうございます」

 久我を起こさないように小さな声で礼を言う。面と向かっては言えなかったから。

「頑張りすぎなんですよ」

 冬麻は思わず手を伸ばしていた。触れてみたいと思うくらい、久我は綺麗だ。

「俺なんか構ってないで、休めばいいのに」

 静かに、久我を起こさないようにとほんの少し、指先だけを使って久我の髪に触れる。
 久我は相変わらず寝息を立てている。その様子をみて、あと少しだけ、許してほしいと久我の頬に触れる。

 久我の肌の吸いつくような感触に驚いた。同じ人間なのに久我の肌はまったく別のものみたいだ。きめ細やかで滑らかにするりと触れている指が抜けていく。

 ——やばいやばい。俺はどうしたんだ……?

 冬麻は我にかえり、久我に触れていた手を素早く引っ込めた。
 なんでこんな変態ストーカー男にドキドキさせられなきゃならないんだよ。こいつのキモさを思い出せ。
 久我の会社からの融資も決まって、実家の店は持ちなおすことができた。冬麻はその代償として久我のそばにいるだけだ。それ以外、二人の間には何もない。
 
 ——ありえないだろ、なんでこんなやつ……。





「……ん……ううん……」

 翌朝、目が覚めると、ソファで寝ていたはずの自分がいつも通りにベッドにいた。
 昨日の記憶を思い出してみる。確か久我が冬麻のベッドで寝てしまったから、冬麻はフリースのブランケットを掛けてソファで寝ることにしたんだった。そのあともしかして久我が運んでくれたのか……? 寝ぼけながらも微かにそのようにされた記憶がある。

 顔を洗ってからリビングに向かう。
 そこには「おはよう、冬麻」といつも通りの朝から爽やかで完璧な久我の姿。

「あー、昨日はすみません。俺を部屋に運んでくれたのは久我さんですか?」
「ああ、そうだよ。俺が冬麻のベッドを占領しちゃったから、冬麻がソファで寝てたんだね。気を遣わないで俺を起こしてくれたらよかったのに」
「久我さん、よく寝てましたから」

 冬麻が触れても起きないくらいには深く眠っていたようだったから。

「優しいんだね、冬麻は」

 久我のいつもの完璧なスマイル。かっこいい。すごくかっこいいけど、なぜか胸がザワザワする。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

処理中です...