からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

文字の大きさ
18 / 31
進めない

5.

しおりを挟む
「弦の家まで送るよ」
「いいよ、ここはヒカルの家じゃん」

 玄関先(これまた普通の家のリビング以上の広さがあるが)で、ヒカルに言われるが、ヒカルは既に家にいるのだからわざわざ往復してもらうのも悪くて断った。
 ヒカルはまだ運転免許は持っていない。だから弦と一緒に電車に乗ってまで送るというのでさすがに申し訳なくなった。

「ヒカル。うちの未延に送らせよう」

 二人の会話に突如参加してきたのは一真だ。一真の隣にはスーツを着た真面目そうな中年男性が立っている。確かこの人は一真の車の運転手を務めていた未延だ。

「ヒカルの運転手はもう帰っちゃったでしょ? あの人、必ず定時で帰るよね。ヒカルへの忠誠心がないのかな」
「いつも俺の命令で帰ってる。それのどこが悪い?」
「そうだったの? 知らなかった。なぁ未延、頼めるだろ? 弦を送ってくれないか?」
「承知いたしました。ヒカル様、それでよろしいですか?」

 未延はヒカルに許可を求めている。ヒカルは弦に目を合わせてきた。弦の意思を確認しようとしているのだろう。
 送りなんて必要ないが、これを断ったらヒカルがついてきてしまいそうで、弦はコクンと頷いてみせた。

「わかった。未延、弦を頼む」
「はい。仰せのとおりに」
 
 未延はうやうやしく頭を下げ、「車の支度を整えてまいります」とその場を立ち去った。

「またね、弦」

 一真が弦にひらひらと手を振ってみせるとすかさずヒカルが一真にひと睨みして牽制する。それに対して一真はフンと鼻を鳴らしてヒカルを一瞥する。
 そんな二人を見ていても、まったくいい気分にはならない。
 この二人、昔はもっと仲がよかったはずなのに。





 一真専用高級車のマイバッハの車内。この車には後部座席に乗る弦と運転手の未延の二人きりだ。
 車が動き出してからも特に会話もなく、車内はしんとしていたが、未延と話をしてみたくて弦は身を乗り出した。そうしないと車が大きすぎて運転席まで声が届かなそうだ。

「あの、未延さんは葛葉家に仕えてから長いんですか?」
「…………」

 未延はしばらく沈黙していた。運転手は基本的に主人やその客人と話さないものなのだろうか。

 未延は突然車を道路の端に寄せ、一時停止させた。

「——私と話をするなら、助手席にいらっしゃいませんか?」
「えっ?」

 この声の主は未延ではない。
 カチャリとシートベルトを外し、運転席から後部座席を振り返ったのは、紛れもなく一真だった。

「か、一真?!」
「そう。未延のふり。わかんなかった?」

 一真は黒のスーツに身を包み、白い綿手袋をしている手を顔のそばで振ってみせた。


「弦、こっちおいで。俺と話そう」

 一真に呼ばれて弦は助手席に移動する。一真は笑顔で「未延からスーツ借りた」と笑っている。

「一真、びっくりしたよ……」
「だってヒカルがうるさくて、こうでもしないと弦と話せないんだ。あいつは弦の番犬かよっ」

 たしかにヒカルは弦と一真が話すことを快く思っていないようだった。ヒカルと恋人になる以前はそんなことはなかったのに。

「これでやっと二人きりだ」

 一真はマイバッハのハンドルを握り、車を発進させる。

「一真。よく運転できるな」

 この車は左ハンドルだ。右ハンドルと感覚が異なるから運転が難しいのではないか。

「なんとかね。未延にできて俺にできないなんてことはない。でも右のクセで意識してないと車体が右によっちゃうんだよね。弦。右に寄り過ぎてたら俺に教えてよ。あと右折のとき弦の目を貸して」
「うん」

 一真は面白いな。こんなことまでして会おうとするなんて。

 それから一真は、新しい大学での生活のことや、弦の父親の現状などを訊ねてきた。「よかったね、大学で友達がたくさんできて」とか「お父さんは元気なんだね。安心した」と穏やかに話を聞いてくれる。

 ヒカルだったら、弦が大学の友人の話を褒めたりしたら「弦はそいつのことが好きなのか」と詰め寄られそうだ。

「ねぇ、弦。来月はヒカルの誕生日だろ?」
「えっ? うん……」

 そうだ。ヒカルの誕生日はもうすぐだ。
 恋人になって初めての誕生日だ。去年まではヒカルと一緒にいることすらできなかったから、きちんとお祝いをしてあげたい。

「でさ。俺とヒカルへのプレゼント、一緒に買いに行かない?」
「プレゼントか……」

 まだ少し先の話かと思ってプレゼントを何にするかまでは考えていなかった。
 ヒカルが喜ぶものってなんだろう。はっきり言ってヒカルは欲しいものならなんでも手に入れることができるから、欲しいものなんてないんじゃないだろうか。

「俺ね、ヒカルの欲しがりそうなもの、だいたい検討はついてるんだよ」
「えっ?! 何っ?!」
「だから一緒に買いに行こうよ、弦」

 さすがはヒカルの兄貴だ。弦よりも長い時間をヒカルと過ごしてきたのだからヒカルのことを弦よりも知っているのだろう。

「わかった。いいよ、買いに行こう」

 弦がそう返事をすると、一真は「よっしゃ」と小さくガッツポーズまでしている。

「ヒカルにはこのことはもちろん内緒だ。サプライズだからな」
「うん。ヒカルには言わない」

 弦が今思いついたヒカルへのプレゼントもある。でもそれは品物ではないから、一真に見てもらってヒカルへのプレゼントを何か選べたら嬉しい。

「じゃあ決まりっ! 今日付と時間、待ち合わせ場所まで決めよう。ヒカルのことだから弦のスマホをチェックしてるかもしれないだろ?」
「まさか」

 そんなこと、ヒカルがするはずがない。ヒカルがそのようなことをする必要はないし、勝手に人のメールを覗き見するような奴じゃない。

「念のため。あいつ、変に鋭いんだ。俺が未延と入れ替わったことだってすぐに気がついて——」

 そのとき弦のスマホが振動した。見るとヒカルからの着信だ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

妹の代わりにシロクマ獣人と真っ白婚!?

虎ノ威きよひ
BL
結婚相手が想像以上にシロクマでした!! 小国の王子ルカは、妹の代わりに政略結婚することになってしまった。 結婚の相手は、軍事大国の皇子のクマ獣人! どんな相手だろうと必ず良い関係を築き、諸外国に狙われやすい祖国を守ってもらう。 強い決意を胸に国を渡ったルカだったが、城の前にデンッと居たのは巨大なシロクマだった。 シロクマ獣人とは聞いていたが、初対面で獣化してるなんてことがあるのか! さすがに怯んでしまったルカに対してシロクマは紳士的な態度で、 「結婚相手のグンナルだ」 と名乗る。 人の姿でいることが少ないグンナルに混乱するルカだったが、どうやらグンナルにも事情があるようで……。 諸事情で頻繁にシロクマになってしまう寡黙な美形攻め×天真爛漫でとにかく明るい受け 2人がドタバタしながら、白い結婚から抜け出す物語 ※人の姿になったりシロクマ姿になったりする、変身タイプの獣人です。 ※Rシーンの攻めは人間です。 ※挿入無し→⭐︎ 挿入有り→★ ※初日4話更新、以降は2話更新

【書籍化決定】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ 平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、 どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。 数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。 きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、 生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。 「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」 それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて―― ★リブレ様にて紙書籍・電子書籍化が決定しました! 応援してくださった皆様のおかげです! 本当にありがとうございます! 発売日などの詳細は、決まり次第、作者のXや近況ボードなどでご報告させていただきますのでお待ちいただければ幸いです。

処理中です...