からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

文字の大きさ
17 / 31
進めない

4.

しおりを挟む
 ヒカルは怒っている。
 なんであれだけのことで怒るのだろうと思うが、弦の腕を掴んでずんずんと歩くヒカルに声をかけることすらままならない。
 
 ヒカルの部屋に入るなり、ヒカルは乱暴にドアを閉めた。
 そして振り返りざまに、弦にキツイ視線を向けてきた。

「な、なに?! どうしたんだよヒカル……」
「弦は今後一切、一真と話すなっ」
「はぁ?! なんだよそれ」
「一真はダメだ。許さない」
「ヒカルっ、そんなの無理だ! 一真はヒカルの兄貴だろ? これからだって何度も顔を合わせることになるのに……」

 話をするくらい、なんでもないことだ。それすらダメだなんておかしくないか?!

「わかった。もういい。弦の好きにしたらいい」

 ヒカルは完全に拗ねて、弦に背を向け部屋の奥に行ってしまった。
 ヒカルの部屋はとても広い。20~30畳くらいあって、デスクや本棚のある場所と、ウォークインクローゼット、ベッドのある寝室とそれぞれエリア分けされている。
 だから奥に行かれてしまうとヒカルの姿が見えなくなる。

 もう十八歳なのだから子供みたいな態度を取るなよと思うし、一真と話さないなんてやっぱり無理、それは受け入れられないと思う。

「待てよヒカルっ」

 それでもヒカルをひとりぼっちにはできない。弦はヒカルを追いかける。

「ヒカル。そんなことで怒るなよ、な? 機嫌直せって」

 弦が話しかけてもヒカルは振り返らない。

「ほら、そうだ、何? 俺に見せたいものって。教えてよ」

 なんとか明るい声を出してヒカルをなだめようとする。ヒカルの顔を見て話をしたいと弦はヒカルの前にまわり込み、ヒカルを見上げた。

「——見せたいものなんてない」

 ヒカルの重苦しい声。

「えっ?」
「弦は簡単に騙されるんだな」

 急にヒカルに肩を掴まれ、身体をぐいぐい押されて後退させられる。
 なんだなんだと思っているうちに、ベッドまで追いやられ、ドンッとベッドに突き飛ばされる。そのあとすぐヒカルが全身で覆い被さってきた。

「ヒ、ヒカル……?」

 ヒカルの目を見ただけでドキッとした。ヒカルの様子がいつもと全然違う。弦を押さえつける力は強くて身動きできないし、ヒカルは獰猛な目で弦を見下ろしている。

「見せたいものなんてない。外じゃ弦に手を出せないから、理由つけて弦をここに呼びたかっただけ。俺は弦と恋人らしいことがしたい」
「こっ……」

 恋人らしいこと……?!

「……ちょ、待って、ヒカ……っ!」
「俺はやっぱり一真みたいにはなれない。愛想笑いもできないし、弦を大切にしたいと思ってるのに、今は弦が困らせたくてしょうがない。弦を苛めて、この愛しい顔が快楽で歪むのを見てみたくてたまらないんだよ」

 ヒカルは下半身を弦の下半身に擦りつけてきた。衣服の上からでもそこが反応を示していることがわかり、弦はビクッと身体を震わせる。

「いい人ぶろうとしても、俺にはできない。本来の俺は自分本位でわがままなんだ。弦が他の奴と話してるだけでイライラするし、いつも弦に拒絶されるたびに苦しくなる。なのに大人ぶって、余裕ぶって……でももう限界だっ」
「待って、ああっ……! ヒカル…っ…んっ…!」

 強引に唇を奪われ、塞がれる。いつもの優しいキスじゃない。乱暴に求められて息が苦しくなって半開きになった唇をこじ開け、ヒカルは口内まで熱い舌で犯していく。

 ヒカルの手で服を乱され、触れられる。
 なんでこんな急にと思うが、抗えない。ヒカルに求められてキスをされて、何も考えられない。ヒカルのせいで頭の中がぐちゃぐちゃになったみたいだ。

「んっ……んぅ…っ…」

 どうすればいい……? このままヒカルに流されたら、この身体はどうされるんだろう……。

「ごめん……」

 突然ヒカルがパッと弦から身体を離した。

「ごめん、弦、俺どうかしてた……」

 ヒカルは弦のすぐ横、ベッドに座りうなだれている。
 ヒカルは少しだけ冷静になったのかもしれない。

 弦は身体を起こして、隣で落ち込んでいるヒカルの肩に頭をのせて寄りかかる。

「ヒカル。いいよ」

 弦の声にヒカルがぴく、と身体を震わせた。

「俺、じゃないよ。だってヒカルのこと好きだから」

 弦はヒカルの身体にそっと腕を回す。
 ヒカルとは恋人同士なのだから、いつかは身体の関係になるのかな、なんて漠然とは思っている。
 自分には何の知識もないからつい尻込みしてしまうけど、ヒカルがそれを望むなら受け入れたい。

「みんなヒカルのこと誤解してるよな。だからヒカルまで『自分は冷たい奴』って思い込んでる。でもヒカル、言ってたじゃん。俺と一緒にいるとき気持ちが楽になるって。俺といるときのヒカルが本当のヒカルなんじゃないの? だとしたらヒカルはすごく優しいよ」

 ヒカルは何も言葉を返してこなかった。その代わりに弦を抱き締めてきた。

 抱き合ったままの二人——。
 しばらくしてヒカルが口を開いた。

「……弦にキスしたい。キスだけ。それ以上はしないから」

 さっきキス以上だって「いい」って言ったのに、と弦は思うが、こういうものはお互いの気持ちが大切だ。

「ん……」

 弦が目を瞑り、ヒカルのキスを待ちわびるとすぐにヒカルの唇が落ちてきた。

「あっ……ふ…ぁ…」

 ヒカルとのキスはいつも気持ちいい。
 どうしてだろう。やっぱりヒカルはなんでもできるから、キスも上手なのかな。

「弦、可愛い。もっとその顔見せて……」

 ヒカルの手で両頬を挟まれ、またキスをされる。
 濃厚なキスだけど、ヒカルの優しさも感じる。

 やっぱりヒカルが好きだ。

 ヒカルは冷たくみえるけど実は優しくて、落ち着いてみえるけど内心は業火のような強い感情を持ち合わせている。
 気がついたらヒカルに惹かれていて、こうして付き合うことになって、ヒカルの内面を知るたびにその気持ちは強くなっていく。
 ヒカルは弦のことを知りたいと言っていたが、弦も同じくらいヒカルのことを理解したいと願っていた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています

二三@冷酷公爵発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…? ※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

特等席は、もういらない

香野ジャスミン
BL
好きな人の横で笑うことができる。 恋心を抱いたまま、隣に入れる特等席。 誰もがその場所を羨んでいた。 時期外れの転校生で事態は変わる。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズでも同時公開してます 僕の居場所も、彼の気持ちも...。 距離を置くことになってしまった主人公に近付いてきたのは...。

処理中です...