からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

文字の大きさ
22 / 31
仲違い

3.

しおりを挟む
『弦。来週は会える?』

 ドラッグストアでのアルバイトを終えて、スマホを確認したら、ヒカルから連絡がきていた。

『ごめん。土日バイトなんだ。人手足りなくて』

 人手が足りないというのは嘘ではないのだが、弦自身がお金を稼ぎたいというのもある。ヒカルの誕生日までに、まとまったお金を稼ぎたかった。

 目的はヒカルへの誕生日プレゼントだ。
 以前、ヒカルが「一緒に暮らさないか」と誘ってくれた。弦はその誘いにのってみたいと思って父親に相談した。
 ルームシェアの相手は高校時代の男の友人だと伝えた。まさか御曹司のヒカルで、さらに恋愛関係にあるとまでは父親に話をすることはできなかった。

 すると父親は「やってみたいならいいんじゃないか」と認めてくれた。お金の話をしたら「少しなら援助してやる」とまで言ってくれた。
 弦としては家にお金を入れていたのに、まさか援助までしてもらえるとは思わず、これならヒカルと同等にルームシェアして暮らせるかもしれないと希望が見えた。
 それでヒカルの誕生日にその話をして、敷金礼金など初期費用のための貯金をしていると伝えようと考えていた。

 形になるプレゼントは、一真と買いに行ったパスケース。
 そして、形にはならないが、サプライズとしてヒカルにルームシェアしようと話を持ちかける算段だ。
 ヒカルは何度も「一緒に暮らしたい」と誘ってきたから、それを弦が了承したら飛び上がって喜んでくれるかもしれない。勢い余って抱きついてくるかもしれない。
 そんなヒカルの姿を思い浮かべるだけでアルバイトも頑張れた。単発の日雇いバイトまでこなした。

『わかった』

 ヒカルからは、またもや短い返事のみ。
 そういえばヒカルからの連絡頻度も少なくなっているような……。アルバイトを理由に弦の返信が遅いのも一因かもしれないが。

『再来週のヒカルの誕生日には会えるよ』

 訊かれてもないのにヒカルにメールを送ってしまった。なんだか心がザワザワしたからた。

『楽しみにしてる』

 よかった。ヒカルに嫌われたりはしていないようだ。
 あと少し。
 あと少し耐えればヒカルとの二人暮らしが叶うかもしれない。
 

 ◆◆◆


 今日はヒカルの誕生日だ。
 弦は午前零時の日付が変わると同時にヒカルに電話をかけた。

「ヒカル、誕生日おめでとう」
『ああ。今日で十九になった。早いな。10代もあと一年で終わりだ』
「うん」

 ヒカルと初めて出会ったときはまだ小学生だった。今はもうお互いすっかり大人だ。

『なぁ弦。今日の夜は会えるんだよな?』
「うん。会える」

 昼間はお互いいつもの学生生活があるが、夜は予定を空けている。やっとヒカルに会える。

『ずっと弦に会いたかった』

 電話越しでも、ヒカルの言葉が嬉しかった。最近ずっと会ってないせいか不安に思っていたから。

「俺も。早くヒカルに会いたい」

 久しぶりの生ヒカルだ。電話やメールじゃ触れ合えない。ヒカルに直接会って、今日くらいはちょっとだけヒカルに甘えてみてもいいかな。



 大学での講義を終えたあと、弦はヒカルの通う大学へと向かう。講義が終わったらヒカルが連絡をくれると言っていたが、少しでも早く会えたらと思ったからだ。

 大学の正門前まで来てから戸惑う。ここで待っているとちょっと視線を感じるし、かと言って大学内に入るのも勇気が要る。やっぱり最寄駅付近のファーストフード店で待ってようかとまごまごしていたときだ。

「弦?」

 正門から友人たちと出てきたのは一真だ。
 ヒカルも優秀なら一真も優秀。この二人は同じトップクラスの大学に通っているんだった。

「こんなとこで弦に会うなんて!」

 一真は笑顔で近づいてきた。

「もしかして、ヒカルを待ってるの?」
「えっ、まぁ……」
「だよね。今日あいつ朝から浮かれてたよ」
「ヒカルが?!」

 ヒカルが浮かれている姿なんて想像できない。

「そう。ヒカルの野郎さ、朝から鼻歌歌ってやんの。俺、初めて聴いたかも」
「ヒカルが、鼻歌……」

 フンフ~ン♪   と鼻歌を歌うヒカル。まったくもって想像つかない。

「ヒカル、もうすぐ来るんじゃないかな、あ、ほらっ噂をすれば」

 スマホを弄りながらヒカルが正門をくぐって歩いている。
 と、同時に弦のスマホが鳴った。タイミング的にヒカルからの『今終わった』の連絡かもしれない。

 スマホから視線を外してヒカルが顔を上げたとき、目が合った。

「ヒカルっ……」

 てっきり驚いて笑顔を向けてくれるかと思ったのに、ヒカルは無表情のままだった。なんの感情も表さないままこちらへ向かってくる。

「ヒカル、怒んなって。俺は何もしてない、ただここで偶然弦に会っただけ」

 一真がぽんとヒカルの肩を叩くと、ヒカルはその手を即座に振り払った。

「怒ってない。一真も好きなときに弦と話せばいい」

 一真はヒカルを「怒っている」と言っていたが、ヒカルの表情は無だ。弦にはヒカルが怒っているようには見えない。反対に喜んでいるようにも見えないが。

「こんな日に二人の邪魔はしないよ。じゃあね、弦! それ、ヒカルが気に入ってくれるといいね」

 一真は弦が手にしていたプレゼント用の小さな紙袋を指して、さっさとその場を立ち去っていった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

処理中です...