からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

文字の大きさ
23 / 31
仲違い

4.

しおりを挟む
「なんでこんなところに弦がいるんだよ。終わったら連絡するって言ったじゃん」
「あの、ヒカルに少しでも早く会いたくて……」
「そうなんだ。別にここまでしてくれなくてもいい。俺が迎えにいくから」

 ヒカルの顔を見上げても、ヒカルの表情からは何も感情が読み取れない。
 ヒカルは今、何をどう思っている……?
 ここに来たことを怒っている?
 それとも、喜んでくれている?



 なんとなくヒカルと並んで歩き出したが、二人の間に会話がない。
 シーンとしたままの雰囲気がなんだか重苦しく感じるが、ヒカルに話しかけにくい。

 なんだかヒカルが遠い人に感じる。
 付き合う前の、冷酷王子ヒカルと一緒にいるみたいだ。

「なぁヒカル……」
「何?」
「俺は一真と話してもいいの?」

 さっきのヒカルの言葉が気になって、ヒカルにそっと確認する。ヒカルはさっき一真に「好きなときに弦と話せ」と言っていたから。

「いいよ。勝手に話せよ」

 ヒカルの声には感情がない。怒ってもいないし、優しさもない。

「それを認めないと弦は俺を捨てるんだろ。捨てられるくらいならまだそっちのほうがいい」

 ヒカルにそう言われて気がついた。一真と話をさせろと言いだしたのは自分なのに、そのことでヒカルに我慢を押し付けるようなことになるのは不本意だと思った。

「ヒカル……」

 ヒカルが遠くに行ってしまいそうで不安になり、弦は隣を歩くヒカルの小指に自分の小指を絡ませる。
 その指をヒカルは避けた。

「外での接触は禁止だよな。弦はさっきから俺を試してるのか?」

 どうしよう。ヒカルがわからない。しばらく会わないうちにヒカルのことがわからなくなってしまった。

「試してなんかない……」

 ヒカルと久しぶりに会ったのに全然楽しくない。むしろヒカルが怖いくらいだ。

「弦はわかってると思うけど、俺は一真が大嫌いだ。ああいう善人ヅラしてる奴が一番ムカつくんだよ」
「えっ……」

 ヒカルは一真が嫌いなのか?
 ……本当に?

「弦。一真には気をつけろよ。あいつ絶対に弦を俺から奪う気だ。仮にも俺は弟だぞ? 弟の恋人を狙うなんて頭おかしい」

 違う。ヒカルは一真のことを嫌いになってしまったんだ。その原因はもしかしたら弦にあるではないか。

 確かに二人は幼い頃から比べられて争ってきたように見られているかもしれない。
 だが、弦の思い出の中の二人は仲がよかった。
 十一歳のとき、山で遭難したときも二人は力を合わせて弦を助けてくれた。
 高校のイベントに遊びに来た一真とヒカルはごく普通の兄弟として話していた。
 間違いなく二人はこんなにいがみ合ったりしていなかった。

 ——俺のせいで、ヒカルと一真が……。

 二人は血の繋がりのある兄弟だ。さらには家柄もよくて、大学を卒業してからもきっと家業を継ぐはずだ。そんな二人が弦ごときの問題で仲違いして手を取り合わないでどうするんだ?!

 ——どうしよう。どうしたら二人を仲直りさせられる……?



「弦。なんだよ聞いてたか? 俺の話」
「ごめん……なんだっけ……」
「だから一真に気をつけろって話だ」
「わ、わかった……」

 気をつけろも何も、一真には既に二回目の告白をされてしまった。弦にはヒカルという恋人がいると知っていての告白だった。

 弦が一真に告白されたことを知ったら、ヒカルはさらに一真を嫌いになるのではないか。そう思うとヒカルには話せなかった。





 それからヒカルが行きたいと言っていた渋谷の夜カフェに向かった。この店を選んだ理由を訊ねたら、ヒカルは「誕生日くらいケーキを食いたかった」と返してきた。
 その返答も、店の選び方も、ヒカルらしくないと思うが、そもそもヒカルらしいってなんだろうとも思う。

 二人は二階のソファ席に案内された。奥まった席で、ひと目を気にせず二人で過ごせそうな落ち着ける席だ。

 注文を終えたあと、弦は紙袋ごとヒカルに買っておいたパスケースを手渡した。

「ヒカル。誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「開けてみてよ」

 弦の言葉に従ってヒカルが包装紙をいた。
 ヒカルは小さな箱から黒のパスケースを取り出し眺めている。

「ヒカル、電車で通学してるんだろ? それならパスケース使ってくれるかな……って」
「使う。しかもこれ、弦のと色違いだよな」
「そう。気がついた? よくあるタイプのパスケースだけど、このリールとレザーのストラップが意外に便利なんだ」

 弦はヒカルの持っていたパスケースのストラップを指す。

「嬉しい」

 ヒカルが笑った。今日初めてヒカルが笑った。ヒカルが喜んでくれたのが伝わって、弦の心まで弾んだ。

「俺、弦と同じやつ、ずっと欲しいと思ってたんだ。なんでわかった?」
「それさぁ、一真が……」

 言いかけて、すぐにやめた。だが時既に遅しだった。

「一真?」
「いや、なんでもない、あのっ……」
「あいつから聞いた?」

 ヒカルの顔から再び笑顔が消えた。もはやヒカルとの会話に『一真』という言葉は禁句だ。

「……ごめん」
「なんで謝る? 俺、一真と話をしてもいいって言ったけど」
「そうだよな、ごめん……」

 しょげ返る弦。ヒカルは「ほんと一真は目障りな奴だな。俺の目の前から消えろよ」と忌々しそうに呟いた。

 そのとき、ヒカルのスマホが鳴った。

「父さんだ……」

 ヒカルは立ち上がり、店の隅で話をしている。ただならぬ雰囲気のヒカルを見ていると弦まで不安になってきた。

 通話を終えたヒカルが、弦を見る。

「未延が事故った。一真を乗せた状態で、交通事故だ」
「えっ……!」

 驚きすぎて頭が真っ白になった。事故、事故って……。

「大丈夫。大きな事故じゃなくて、二人とも軽症みたいだから。もう病院から家に帰ってきていて大きな問題はないらしい」
「よかった……」

 無事だと聞けて、心が一気に落ち着いた。

「ヒカル。俺も一緒にヒカルの家に行きたい。連れてってくれないか?」

 弦としては、大切な人が事故に遭ったらまずはこの目で無事を確認したいと思っていた。だが、ヒカルから思いもよらない答えが返ってきた。

「行かなくても大丈夫だろ。父さんがいるみたいだし、一真も未延も軽症なんだから」
「えっ……」
「俺が行ってなんになる?」
「ヒカルは心配じゃないのか?! 俺はすごく心配だ。一真に会いたい。別に何もしてやれることはなくても会って話がしたい。ひと目一真の無事を見るだけでもいいから」

 弦の訴えにヒカルが「わかった」と頷き、すぐさまスマホで連絡を入れた。

「迎えの車を頼んだから、弦はそれに乗ってけよ」
「えっ? ヒカルは?」
「俺はいい。行かない」
「だって一真は兄貴だろ?!」
「一真も俺に会いたくないはずだ。あいつは弦だけいればいいんだから」
「そんなことない!」

 ヒカルもおかしいし、一真もおかしい。ふたりとも優秀なはずなのになんで……。

「ヒカルも一緒に行くんだよっ」

 こうなったら半ば無理矢理だ。弦はヒカルの腕を引っ張って店の外に出た。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

処理中です...