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仲違い
5.
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一真は首を痛めたものの、特に問題はないという診断だった。自室のベッドで休んでいた一真は、弦の姿を見て「心配して来てくれたの?!」と飛び起きることができるくらいだから大丈夫みたいだ。
運転していた未延も別状はなし。幹線道路を走行中に少しボーッとしていたら、無理な車線変更をしてきた車がいることに気がつくのが遅れて、慌てて回避行動をとり、電柱に車体をぶつけてしまったという自損事故だったらしい。
未延は責任を取って辞職を申し出たが、一真がそれを許さず「責任とってくれるならこれからも俺のそばにいてよ」と未延を引き留めたそうだ。
「一真がこき使うからだろ。未延は休みなしでずっとお前に仕えてるから、過労で注意力散漫になってたんだ」
ヒカルはベッドにいる一真に辛辣なことを言う。
「違う。未延がなんでも俺の世話をやりたがるんだ!」
「それはそうだろ。『やるな』と厳しく命令しない限り、俺たちに尽くしてくる。それがあいつらの仕事だ。もっとはっきり言ってやれ。未延はお前の家族じゃない。家に帰れば本当の家族がいるんだから」
「俺はヒカルの方が変だと思う。せっかく仕えてくれてるのにあの偉そうな態度はなんなんだよ! 厳しく命令しないと尽くしてくる? 尽くすことのどこが悪い? そんな態度だからお前に誰もついてこないんだよ。ヒカルに人望がないのはお前自身のせいだ!」
「おい! やめろよ!」
弦は黙っていられなくて二人の間に割って入る。
ヒカルと一真が一斉に弦のほうを見る。迫るような二人の視線に弦はたじろいだ。
「弦はどう思う?」
一真にずいと顔を近づけられ、凄まれて弦はドキッとした。
「俺とヒカル、どっちが正しいと思う?」
「それは……」
未延の忠誠心は素晴らしいと思うし、一真は上に立つ者として人を上手に使えるタイプなのかもしれない。でも少し立場に甘えすぎている気もする。
ヒカルの言い分もわかる。未延はきっと一真に尽くしすぎだ。仕事なのだから雇われている側のプライベートだって大切だ。
未延の働き方を見ている葛葉家の雇用人は、自分もあのくらい働かないといけないと頑張り過ぎてしまう。それをヒカルは良しとせず、きっちり線引きしているのだ。
その言い方がぶっきらぼうで冷たく聞こえてしまうのは、ヒカルの素直じゃない性格のせいだ。雇用人を思い遣っているのなら、もっと優しい言葉を使えばいいのに。
「どっちも間違ってる。俺だったら一真みたいなことも、ヒカルみたいなこともしない」
弦は顔を上げた。
「お互いがお互いを見習えばいいんじゃないのか? 二人ともすごい能力の持ち主だし、将来有望だろ? もっと二人で協力し合えばいいのに」
「無理だ。こんな人のものを奪おうとする奴と協力なんてできるか」
ヒカルが一刀両断。弦の話を断ち切った。
「俺も無理。弦とだったら協力していけるんだけどなぁ」
「はぁ? やめろ。弦は関係ないだろ」
「なんで? いいじゃん俺が弦と仲良くしても」
二人ともいがみ合い。すっかり昔と変わってしまった。悲しいくらいに二人の間には隔たりができてしまっている。
「わかったよ。よくわかった」
この二人を仲直りさせる方法がわかった。
「俺、もう帰るね」
踵を返して部屋の出口に向かう弦に「家まで送る」とヒカルがついてきた。
「いい。一人でいい」
「ダメだって!」
ヒカルはしつこくついてくる。一真の部屋を出て、階段を下り、玄関に来てもまだついてくる。
「大丈夫だよ。ヒカル」
「嫌だ。嫌な予感がする。弦を一人で帰したくない」
ヒカルは弦に目線を合わせて膝を折る。弦の目の前にヒカルの綺麗な顔があって、芸術的に整った双眼が心配そうに弦を見つめている。
ヒカルは優しい。でも少し意地っ張りで素直じゃないところがあって、その本性を氷の仮面の裏に隠している。
弦の前では重たい仮面を取っ払って、優しさを見せてくれるのに。
「ヒカル。誕生日おめでとう」
弦はヒカルの頬に手を触れる。
ヒカルの肌は滑らかで、その輪郭にも一切の無駄がない。こんな完璧な人間を他に見たことがない。
見つめるたび、ヒカルの漆黒の瞳に魅せられていく。
ヒカルの美しさに引き寄せられるようにして、弦はヒカルの唇にそっと唇を重ねた。
ヒカルは目をしばたかせて固まっている。驚きのあまりになんの言葉も出ないようだ。
「またね、ヒカル」
弱々しく弦が笑みを向けるとヒカルがぎゅっと抱き締めてきた。まるで弦に縋るみたいに、切ない抱擁だった。
ああ。不器用なヒカルのことが好きだ。少しずつヒカルのことがわかってきた。できるならこのままずっと一緒にいたかった。
でも、この関係を終わりにしなければならない。
運転していた未延も別状はなし。幹線道路を走行中に少しボーッとしていたら、無理な車線変更をしてきた車がいることに気がつくのが遅れて、慌てて回避行動をとり、電柱に車体をぶつけてしまったという自損事故だったらしい。
未延は責任を取って辞職を申し出たが、一真がそれを許さず「責任とってくれるならこれからも俺のそばにいてよ」と未延を引き留めたそうだ。
「一真がこき使うからだろ。未延は休みなしでずっとお前に仕えてるから、過労で注意力散漫になってたんだ」
ヒカルはベッドにいる一真に辛辣なことを言う。
「違う。未延がなんでも俺の世話をやりたがるんだ!」
「それはそうだろ。『やるな』と厳しく命令しない限り、俺たちに尽くしてくる。それがあいつらの仕事だ。もっとはっきり言ってやれ。未延はお前の家族じゃない。家に帰れば本当の家族がいるんだから」
「俺はヒカルの方が変だと思う。せっかく仕えてくれてるのにあの偉そうな態度はなんなんだよ! 厳しく命令しないと尽くしてくる? 尽くすことのどこが悪い? そんな態度だからお前に誰もついてこないんだよ。ヒカルに人望がないのはお前自身のせいだ!」
「おい! やめろよ!」
弦は黙っていられなくて二人の間に割って入る。
ヒカルと一真が一斉に弦のほうを見る。迫るような二人の視線に弦はたじろいだ。
「弦はどう思う?」
一真にずいと顔を近づけられ、凄まれて弦はドキッとした。
「俺とヒカル、どっちが正しいと思う?」
「それは……」
未延の忠誠心は素晴らしいと思うし、一真は上に立つ者として人を上手に使えるタイプなのかもしれない。でも少し立場に甘えすぎている気もする。
ヒカルの言い分もわかる。未延はきっと一真に尽くしすぎだ。仕事なのだから雇われている側のプライベートだって大切だ。
未延の働き方を見ている葛葉家の雇用人は、自分もあのくらい働かないといけないと頑張り過ぎてしまう。それをヒカルは良しとせず、きっちり線引きしているのだ。
その言い方がぶっきらぼうで冷たく聞こえてしまうのは、ヒカルの素直じゃない性格のせいだ。雇用人を思い遣っているのなら、もっと優しい言葉を使えばいいのに。
「どっちも間違ってる。俺だったら一真みたいなことも、ヒカルみたいなこともしない」
弦は顔を上げた。
「お互いがお互いを見習えばいいんじゃないのか? 二人ともすごい能力の持ち主だし、将来有望だろ? もっと二人で協力し合えばいいのに」
「無理だ。こんな人のものを奪おうとする奴と協力なんてできるか」
ヒカルが一刀両断。弦の話を断ち切った。
「俺も無理。弦とだったら協力していけるんだけどなぁ」
「はぁ? やめろ。弦は関係ないだろ」
「なんで? いいじゃん俺が弦と仲良くしても」
二人ともいがみ合い。すっかり昔と変わってしまった。悲しいくらいに二人の間には隔たりができてしまっている。
「わかったよ。よくわかった」
この二人を仲直りさせる方法がわかった。
「俺、もう帰るね」
踵を返して部屋の出口に向かう弦に「家まで送る」とヒカルがついてきた。
「いい。一人でいい」
「ダメだって!」
ヒカルはしつこくついてくる。一真の部屋を出て、階段を下り、玄関に来てもまだついてくる。
「大丈夫だよ。ヒカル」
「嫌だ。嫌な予感がする。弦を一人で帰したくない」
ヒカルは弦に目線を合わせて膝を折る。弦の目の前にヒカルの綺麗な顔があって、芸術的に整った双眼が心配そうに弦を見つめている。
ヒカルは優しい。でも少し意地っ張りで素直じゃないところがあって、その本性を氷の仮面の裏に隠している。
弦の前では重たい仮面を取っ払って、優しさを見せてくれるのに。
「ヒカル。誕生日おめでとう」
弦はヒカルの頬に手を触れる。
ヒカルの肌は滑らかで、その輪郭にも一切の無駄がない。こんな完璧な人間を他に見たことがない。
見つめるたび、ヒカルの漆黒の瞳に魅せられていく。
ヒカルの美しさに引き寄せられるようにして、弦はヒカルの唇にそっと唇を重ねた。
ヒカルは目をしばたかせて固まっている。驚きのあまりになんの言葉も出ないようだ。
「またね、ヒカル」
弱々しく弦が笑みを向けるとヒカルがぎゅっと抱き締めてきた。まるで弦に縋るみたいに、切ない抱擁だった。
ああ。不器用なヒカルのことが好きだ。少しずつヒカルのことがわかってきた。できるならこのままずっと一緒にいたかった。
でも、この関係を終わりにしなければならない。
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