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8.自宅デート
ピンポーン。
日曜日の昼過ぎに家の玄関のチャイムが鳴った。
パタパタと俺の母ちゃんが玄関に向かっていく。
「早坂くんが来たわよーっ!」
って、ええっ?!
なんで早坂?! 約束した覚えなんてないけど……?!
慌ててリビングから玄関に向かうと、「お邪魔します」と言って早坂が家に上がるところだった。
「早坂?! なんでお前っ……」
「あの、乃木のお母さんが是非遊びに来てって誘ってくれたから……」
「えっ?! 母ちゃん?!」
「だって毎朝、あんたを迎えに来てくれるから、早坂くんにお礼がしたくって」
いつの間にふたりはそんな話をしていたのだろう。
だから母ちゃん、朝から気合い入れて化粧して、家をめちゃくちゃ掃除してたんだな……。
「あの、これうちの母に持っていけって言われて渡されました」
早坂は菓子折りまで持参しており、それを母ちゃんに手渡している。
「あらありがとう! ふたりで食べたら?」
「いえ。お菓子は別に持ってきてますから」
早坂が見せてくれたビニール袋の中にはスナック菓子やらお菓子が色々入っている。
上がるときに靴まで揃えているし、母ちゃんは「なんてしっかりした子なの!」と早坂に感動すら覚えている。
早坂って、所作も綺麗だし、礼儀正しくて本当にすごいな。
とりあえず二階の俺の部屋に早坂を案内する。
浮かれた母ちゃんは、見たこともない、こんなの家にあったんだという綺麗なカップソーサーにふたり分の紅茶を入れて運んできた。
「早坂、なんで遊びに来たんだよ、ウチの母ちゃんの言うことなんて無視していいんだから」
母ちゃんの浮かれ具合からみると、きっと母ちゃんのほうが無理に早坂を誘ったのだろう。
「嬉しかったんだよ。俺、休みの日も乃木と過ごしたかったから。ほら、ポッキー持ってきた。乃木の好きな動画でも見ようよ」
早坂は物静かなくせに、割と遠慮ないところがあるんだな……。
まぁ、どうせ今日もひとりでダラダラ過ごすつもりだったら早坂がいてもいいけど。
俺の部屋には机とベッドしかない。ダラダラする場所といえばベッドの上しかないので、なんとなく早坂とふたり、ベッドをソファ代わりにして座ることになった。
適当にお菓子を食いながら、タブレットで動画を観る。
動画の合間にチラッと早坂を盗み見る。早坂は横顔も完璧だ。
こんなかっこいい奴が世の中に存在していて、しかも俺の隣にいる。
動画を見て、笑ったり切なそうな顔をしたり、表情が変わるさまがまた魅力的だ。
かっこいい。本当にかっこいい。見るたび『好き』という二文字しか浮かんでこない。
——これが、告白ゲームなんかじゃなかったらな……。
今までの早坂の態度や言葉が全部本物だったらよかったのに。
早坂が本気で俺と一緒にいたいと思っていてくれていたらよかったのに。
「乃木?」
俺の視線に気がついた早坂がこちらを振り返った。
俺はポッキーを一口食べて、口に咥えたままという間抜けヅラ状態で早坂と視線が合う。
「それ、俺も食べたい」
早坂は俺が咥えていたポッキーの端にかじりついてきた。
「んんっ?!」
え?! こいつ、何を?!
早坂はもう一口かじった。俺の唇までの距離はあと2~3センチ。これ以上近づかれたら、早坂とキスすることになる……!
早坂が俺の頬に手を添わせて目を閉じる。
早く、早く逃げないと……。
でもダメだ。心と身体がいうことをきかない。こんなことしたらダメだって頭ではわかっているのに。
そっと早坂の唇が触れた。
「甘い……」
唇を離して、早坂が俺を見つめながら吐息を洩らした。
「あ……」
ファーストキスだった。それを早坂に許してしまった。ただ触れるだけだったのに、ドクンドクンと心臓がめちゃくちゃうるさくなる。
「乃木。好きだ。俺と付き合って」
早坂のストレートな告白の言葉。
それをぶつけられて気がついた。
俺は早坂を好きになっていた。
早坂と一緒にいたくて、早坂のことをもっと知りたくて、早坂とさっきみたいなドキドキすることをしてみたくて——。
早坂みたいな最強男に狙われて、それに抗うなんて無理だったんだ。
これは告白ゲームだと、どんなに防御線を張っていても、早坂はじわじわと俺の心を染めていき、いつの間にか俺の心は早坂でいっぱいに埋め尽くされていた。
色々画策したのに、結局は早坂の思うツボだ。早坂の手にかかったら、平凡な俺なんてあっという間に落とされてしまった。
この告白は断らなくちゃ。
これを受けたら告白ゲームは終了。早坂は「やっぱり乃木はチョロかったな」とでも言いふらし、あっさり俺を捨てるに違いない。
ゲームだったのに本気になったと波田野たちに笑われ、チョロい奴だと嫌なレッテルを貼られるに違いない。
「嫌だ。早坂とは付き合わない」
必死で勇気と声を振り絞って早坂に向き直る。
「俺たち、キスまでしたのに?」
早坂の綺麗なダークブラウンの瞳が揺れている。そんな懇願するような顔をされても、早坂の告白だけは受けられない。
「あれは、お前が無理矢理……」
「違う。乃木は嫌がらなかった」
「い、嫌だったんだよ!」
「嘘だ。そんなことなかった。乃木だって、俺と同じ気持ちでいてくれたって思ったのに」
早坂に嘘が通じない。全部見透かされている。
「ダメか? 俺はずっと、ずっと前から乃木のこと……」
「ずっとって、早坂と会ってからまだ三ヶ月しか経ってない!」
早坂は何を言ってるんだ?! たった三ヶ月で、ずっと……?
「俺は乃木を諦めたくない。どうしたら俺と付き合ってくれる……?」
どうしたらって……。早坂はしつこいな。そんなにゲームに勝ちたいのかよ。
早坂が、嫌がることを言わなくちゃ。早坂が絶対に断ってくること。
「じゃ、じゃあさ、今すぐ俺を抱いてよ」
「えっ?!」
金縛りに遭ったみたいに、急に早坂の動きが止まった。
「そうしたら付き合ってやる」
どうだ。これはさすがに無理だろう。好きでもない奴と、ただのゲームのためだけにそんなことできるはずがない。
諦めろ、早坂っ!
「……それはできない」
初めて早坂が俺の無理難題を断ってきた。さすがの早坂でも、男を抱けと言われたら無理なようだ。
「今すぐは無理だ。そういうことは、付き合ったあと、ちゃんとしたタイミングでしたい。こんな成り行きみたいなことで、乃木を抱くなんて無理だ」
最もらしい言い訳を考えたようだが、男を抱きたくないだけだろ。
よし! 俺の勝ちだ!
ついに早坂が諦める日がきた!
早坂の思いどおりになってたまるか。告白を受けた途端に俺を捨てるつもりのくせに!
「ごめん急に変なこと言って……俺、帰るね」
早坂はサッと立ち上がり、俺に背を向け部屋を出て行った。
日曜日の昼過ぎに家の玄関のチャイムが鳴った。
パタパタと俺の母ちゃんが玄関に向かっていく。
「早坂くんが来たわよーっ!」
って、ええっ?!
なんで早坂?! 約束した覚えなんてないけど……?!
慌ててリビングから玄関に向かうと、「お邪魔します」と言って早坂が家に上がるところだった。
「早坂?! なんでお前っ……」
「あの、乃木のお母さんが是非遊びに来てって誘ってくれたから……」
「えっ?! 母ちゃん?!」
「だって毎朝、あんたを迎えに来てくれるから、早坂くんにお礼がしたくって」
いつの間にふたりはそんな話をしていたのだろう。
だから母ちゃん、朝から気合い入れて化粧して、家をめちゃくちゃ掃除してたんだな……。
「あの、これうちの母に持っていけって言われて渡されました」
早坂は菓子折りまで持参しており、それを母ちゃんに手渡している。
「あらありがとう! ふたりで食べたら?」
「いえ。お菓子は別に持ってきてますから」
早坂が見せてくれたビニール袋の中にはスナック菓子やらお菓子が色々入っている。
上がるときに靴まで揃えているし、母ちゃんは「なんてしっかりした子なの!」と早坂に感動すら覚えている。
早坂って、所作も綺麗だし、礼儀正しくて本当にすごいな。
とりあえず二階の俺の部屋に早坂を案内する。
浮かれた母ちゃんは、見たこともない、こんなの家にあったんだという綺麗なカップソーサーにふたり分の紅茶を入れて運んできた。
「早坂、なんで遊びに来たんだよ、ウチの母ちゃんの言うことなんて無視していいんだから」
母ちゃんの浮かれ具合からみると、きっと母ちゃんのほうが無理に早坂を誘ったのだろう。
「嬉しかったんだよ。俺、休みの日も乃木と過ごしたかったから。ほら、ポッキー持ってきた。乃木の好きな動画でも見ようよ」
早坂は物静かなくせに、割と遠慮ないところがあるんだな……。
まぁ、どうせ今日もひとりでダラダラ過ごすつもりだったら早坂がいてもいいけど。
俺の部屋には机とベッドしかない。ダラダラする場所といえばベッドの上しかないので、なんとなく早坂とふたり、ベッドをソファ代わりにして座ることになった。
適当にお菓子を食いながら、タブレットで動画を観る。
動画の合間にチラッと早坂を盗み見る。早坂は横顔も完璧だ。
こんなかっこいい奴が世の中に存在していて、しかも俺の隣にいる。
動画を見て、笑ったり切なそうな顔をしたり、表情が変わるさまがまた魅力的だ。
かっこいい。本当にかっこいい。見るたび『好き』という二文字しか浮かんでこない。
——これが、告白ゲームなんかじゃなかったらな……。
今までの早坂の態度や言葉が全部本物だったらよかったのに。
早坂が本気で俺と一緒にいたいと思っていてくれていたらよかったのに。
「乃木?」
俺の視線に気がついた早坂がこちらを振り返った。
俺はポッキーを一口食べて、口に咥えたままという間抜けヅラ状態で早坂と視線が合う。
「それ、俺も食べたい」
早坂は俺が咥えていたポッキーの端にかじりついてきた。
「んんっ?!」
え?! こいつ、何を?!
早坂はもう一口かじった。俺の唇までの距離はあと2~3センチ。これ以上近づかれたら、早坂とキスすることになる……!
早坂が俺の頬に手を添わせて目を閉じる。
早く、早く逃げないと……。
でもダメだ。心と身体がいうことをきかない。こんなことしたらダメだって頭ではわかっているのに。
そっと早坂の唇が触れた。
「甘い……」
唇を離して、早坂が俺を見つめながら吐息を洩らした。
「あ……」
ファーストキスだった。それを早坂に許してしまった。ただ触れるだけだったのに、ドクンドクンと心臓がめちゃくちゃうるさくなる。
「乃木。好きだ。俺と付き合って」
早坂のストレートな告白の言葉。
それをぶつけられて気がついた。
俺は早坂を好きになっていた。
早坂と一緒にいたくて、早坂のことをもっと知りたくて、早坂とさっきみたいなドキドキすることをしてみたくて——。
早坂みたいな最強男に狙われて、それに抗うなんて無理だったんだ。
これは告白ゲームだと、どんなに防御線を張っていても、早坂はじわじわと俺の心を染めていき、いつの間にか俺の心は早坂でいっぱいに埋め尽くされていた。
色々画策したのに、結局は早坂の思うツボだ。早坂の手にかかったら、平凡な俺なんてあっという間に落とされてしまった。
この告白は断らなくちゃ。
これを受けたら告白ゲームは終了。早坂は「やっぱり乃木はチョロかったな」とでも言いふらし、あっさり俺を捨てるに違いない。
ゲームだったのに本気になったと波田野たちに笑われ、チョロい奴だと嫌なレッテルを貼られるに違いない。
「嫌だ。早坂とは付き合わない」
必死で勇気と声を振り絞って早坂に向き直る。
「俺たち、キスまでしたのに?」
早坂の綺麗なダークブラウンの瞳が揺れている。そんな懇願するような顔をされても、早坂の告白だけは受けられない。
「あれは、お前が無理矢理……」
「違う。乃木は嫌がらなかった」
「い、嫌だったんだよ!」
「嘘だ。そんなことなかった。乃木だって、俺と同じ気持ちでいてくれたって思ったのに」
早坂に嘘が通じない。全部見透かされている。
「ダメか? 俺はずっと、ずっと前から乃木のこと……」
「ずっとって、早坂と会ってからまだ三ヶ月しか経ってない!」
早坂は何を言ってるんだ?! たった三ヶ月で、ずっと……?
「俺は乃木を諦めたくない。どうしたら俺と付き合ってくれる……?」
どうしたらって……。早坂はしつこいな。そんなにゲームに勝ちたいのかよ。
早坂が、嫌がることを言わなくちゃ。早坂が絶対に断ってくること。
「じゃ、じゃあさ、今すぐ俺を抱いてよ」
「えっ?!」
金縛りに遭ったみたいに、急に早坂の動きが止まった。
「そうしたら付き合ってやる」
どうだ。これはさすがに無理だろう。好きでもない奴と、ただのゲームのためだけにそんなことできるはずがない。
諦めろ、早坂っ!
「……それはできない」
初めて早坂が俺の無理難題を断ってきた。さすがの早坂でも、男を抱けと言われたら無理なようだ。
「今すぐは無理だ。そういうことは、付き合ったあと、ちゃんとしたタイミングでしたい。こんな成り行きみたいなことで、乃木を抱くなんて無理だ」
最もらしい言い訳を考えたようだが、男を抱きたくないだけだろ。
よし! 俺の勝ちだ!
ついに早坂が諦める日がきた!
早坂の思いどおりになってたまるか。告白を受けた途端に俺を捨てるつもりのくせに!
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※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中