親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング① 2.

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 そのとき、不意に布団の上から誰かが吉良に覆いかぶさってきた。
 この逞しい腕。吉良の頬をくすぐる柔らかな髪の匂い。

「吉良」

 そして聞き慣れた吉良の名を呼ぶ声。



「た……てやま……?」

 吉良は身をよじって仰向けの姿勢をとる。そこには暗がりの中、楯山の姿があった。

「お、お前、起きてたのか……?」

 楯山はもう寝ているのかと思っていた。だから、スマホの通知が届いても朝まで気がつかずに眠っているのではと。

 
「ああ。眠れなくて……そしたら俺にとって最高の通知が届いたから……」
「つ、通知……?」
「そうだよ。信じられなくて何度も見返した。それでも信じられなくて本人に直接確認しにきた」

 楯山はヘッドボードの明かりをつけ、吉良のことを見つめてきた。



「俺、ずっと吉良に言いたかった。でも、言えなかった。それが親衛隊のルールだったから」

 楯山は今にも泣き出しそうなのに笑顔を浮かべている。

「俺、吉良のことが好きだ。一年の頃からずっと、お前のことが好きで、好きで、どうしようもなく好きで、胸が張り裂けそうなくらいに好きで……」

 こんなに楯山の近くにいたのに。
 こんなに楯山は想ってくれていたのに。



「ああ。やっと言えた。吉良に告白できただけでも嬉しいのに、まさか吉良が俺を『選んで』くれるなんて……! 嘘みたいだ。まだ信じられない……」

 おいおい、そんなに大袈裟に喜ぶことないだろう。たかが俺に好かれたくらいで……。

 
「楯山こそ……。俺のどこがそんなによかったんだよ……」

 こんな自分を好きになってくれる人なんていないと思っていた。
 だからこそ楯山の想いにも気づかなかった。



「全部だよ。お前は俺の全て。吉良と過ごす毎日、そのなんでもない一日が俺の幸せだったんだ。くっだらない話をしたり、真面目な話をしたり、吉良と一緒にいると、すごく心地よかった。なんて言うかな……自分らしくいられるっていうか……すげぇ癒されるっつーか……」

 楯山は穏やかな笑みを吉良に向けてきた。

「そんなこと、思ってくれてたのか?」

 嬉しい。
 吉良も同じことを思っていたから。楯山と過ごす時間はとても心地よかったから。

「ああ」

 楯山は優しく吉良の髪に触れた。楯山からこんなふうに愛情をはっきり向けられたのは初めてで、胸がいっぱいになる。



「良かった……俺、楯山の親衛隊になったけど、そっ、そのあとどうしたらいいのかわからなくなって……もし楯山が俺じゃない誰かを推してるかもしれないと思うと、怖くなって……」

 自由に恋愛ができない親衛隊制度はすごく不便だ。気持ちもはっきり伝えられないままの状態で両想いにならなきゃ恋を成就させることは不可能なのだから。



「吉良。それって、俺と両想いになりたかったってことなのか……?」
「へっ……?」

 うん。まぁ、そうだ。そう言う意味になるよな……。だって好きな人に好かれたいって思うのは普通のことじゃないのか……? 


 うわヤバい。なんか恥ずかしくなってきた。

 自分の顔が熱くなるのがわかる。心拍数がドキドキ速くなるのがわかる。


「吉良。じゃあ俺たち、付き合うってことでいい?」
「えっ!」

 そうか、そうだよな。やっぱりそうなるよな……

「吉良は? 嫌じゃない?」

 楯山に真剣に訊かれて、さらにまた恥ずかしくなる。
 答えは決まっているのに、それを楯山に伝えようとすると、また心臓の音がうるさくなる。



「吉良。俺の恋人になってくれ。卒業してもずっとそばにいてよ」 

 ああ。まさか楯山からこんなことを言ってもらえる日がくるとは思わなかった。

「俺も……」

 心音がバクバクうるさい。この音がすぐ近くにいる楯山に伝わってしまいそうだ。

「楯山の、恋人になりたい……卒業してからもお前とずっと一緒がいい……」

 ついに打ち明けてしまった。心の底にしまっていた想いを。


 


 楯山が吉良の唇にそっと優しいキスを落とす——。

 最初は何が起こったのかと理解が追いつかなかったが、楯山から二回目のキスをされ、ようやく、ああ、これがキスなんだと思った。

 なんだろう。このドキドキするのに、頭が痺れたみたいにぼんやりするものは。
 まるで麻薬みたいだ。唇を重ねた途端に楯山のことしか考えられなくなる。

 
「楯山……」

 吉良が楯山の首に両腕を伸ばすと、楯山が再び吉良に口づけてきた。三度目のキスをされ、なんだかふわふわした変な気持ちになる。
 ただ楯山のことを愛しく思い、もっと感じたくなって、吉良は楯山の身体を抱き寄せた。

 それにピクリと反応した楯山が、ふたりの間を隔てていた布団をいきなり剥ぎ取り、吉良の身体を思いきり抱き締めてきた。

「吉良、好きだ」

 楯山は吉良を抱きながら、四度目のキスをする——。





 結局、楯山と離れがたくなって、狭い吉良のベッドでふたり身体を寄せ合って眠った。
 朝、目覚めてもすぐそばに楯山がいて、「吉良、おはよ」と首の後ろにチュッとキスされた。

 昨夜はあれから楯山と目が合うたびに「好きだ」と囁かれ、何度もキスをした。触れるだけのキスを何度も。何度も。

 夜はその行為にすっかり酔いしれていたけれど、朝になってみたら、思い出すだけで恥ずかしくなってきた。



 これ、ヤバいぞ。ヤバい。楯山との距離感がまるで変わってしまった。

 恋人同士になったのだから、今までの友達とは違うのかもしれないが、吉良はなんだか落ち着かない。

「吉良」
「ひぁっ!?」

 楯山に声につい過剰に反応してしまう。恋人なんて今までいたこともないし、どうしたらいいのだろう。

「おい、吉良……」

 楯山が吉良にずいと迫る。それだけですぐにまた緊張してしまう。身体がこわばってしまう。

「俺が怖い……? 昨日、俺がお前に手を出したから……?」

 楯山がしゅんとしている。

 恋人同士になったばかりなのに、どうしてこんな寂しそうな顔をしてるんだ……。そんな顔、してほしくないのに。

「そ、そうじゃない。そうじゃなくて……」
「俺、昨日はちょっと調子に乗っちまったんだ。今後は気をつける。吉良のこと大事にするから、やっぱ別れるとか言うな……」

 楯山。お前は何も悪くない。昨日のこと全部、嫌じゃなかった。

「や、じゃない……」
「え……?」
「楯山。嫌じゃない……。お前に触られるのは全然嫌じゃないから……」

 駄目だ。恥ずかしすぎて、楯山の目の前からいなくなりたいくらいだ。

「したいときに、してくれていいから……」

 楯山の顔なんてまともに見られない。でも、昨日結ばれたばかりで楯山と離れることになるのは嫌だから。




「吉良。抱いていい……?」

 楯山は吉良の腰を抱き寄せてきた。吉良も楯山の胸板にそっと寄りかかってみる。
 あったかくて気持ちがいい。でも、吉良のそれと同じくらい、楯山の鼓動も速い。楯山もドキドキしてるんだ、俺だけじゃなかったんだと思ったら嬉しくなった。

 楯山が更にぐいぐい迫ってくるので、吉良は立っていられなくなり、ベッドに尻もちをついた。

 それでも楯山はまだぐいぐい迫る。やがてベッドに倒されたが、それでも楯山は吉良を抱き締め離さない。

 
「えっ! おいっ!」

 吉良はさすがに抵抗をみせるが、楯山は、服がめくれて露わになった吉良の腹を撫でてくる。

「ちょっと待てよっ……あっ……」

 まさか、さっきの「抱いていい?」って、そういう意味じゃないよな?!




 ——エンディング①  楯山Ver. 完。

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