親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

文字の大きさ
46 / 69
二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング① 2.

しおりを挟む
 そのとき、不意に布団の上から誰かが吉良に覆いかぶさってきた。
 この逞しい腕。吉良の頬をくすぐる柔らかな髪の匂い。

「吉良」

 そして聞き慣れた吉良の名を呼ぶ声。



「た……てやま……?」

 吉良は身をよじって仰向けの姿勢をとる。そこには暗がりの中、楯山の姿があった。

「お、お前、起きてたのか……?」

 楯山はもう寝ているのかと思っていた。だから、スマホの通知が届いても朝まで気がつかずに眠っているのではと。

 
「ああ。眠れなくて……そしたら俺にとって最高の通知が届いたから……」
「つ、通知……?」
「そうだよ。信じられなくて何度も見返した。それでも信じられなくて本人に直接確認しにきた」

 楯山はヘッドボードの明かりをつけ、吉良のことを見つめてきた。



「俺、ずっと吉良に言いたかった。でも、言えなかった。それが親衛隊のルールだったから」

 楯山は今にも泣き出しそうなのに笑顔を浮かべている。

「俺、吉良のことが好きだ。一年の頃からずっと、お前のことが好きで、好きで、どうしようもなく好きで、胸が張り裂けそうなくらいに好きで……」

 こんなに楯山の近くにいたのに。
 こんなに楯山は想ってくれていたのに。



「ああ。やっと言えた。吉良に告白できただけでも嬉しいのに、まさか吉良が俺を『選んで』くれるなんて……! 嘘みたいだ。まだ信じられない……」

 おいおい、そんなに大袈裟に喜ぶことないだろう。たかが俺に好かれたくらいで……。

 
「楯山こそ……。俺のどこがそんなによかったんだよ……」

 こんな自分を好きになってくれる人なんていないと思っていた。
 だからこそ楯山の想いにも気づかなかった。



「全部だよ。お前は俺の全て。吉良と過ごす毎日、そのなんでもない一日が俺の幸せだったんだ。くっだらない話をしたり、真面目な話をしたり、吉良と一緒にいると、すごく心地よかった。なんて言うかな……自分らしくいられるっていうか……すげぇ癒されるっつーか……」

 楯山は穏やかな笑みを吉良に向けてきた。

「そんなこと、思ってくれてたのか?」

 嬉しい。
 吉良も同じことを思っていたから。楯山と過ごす時間はとても心地よかったから。

「ああ」

 楯山は優しく吉良の髪に触れた。楯山からこんなふうに愛情をはっきり向けられたのは初めてで、胸がいっぱいになる。



「良かった……俺、楯山の親衛隊になったけど、そっ、そのあとどうしたらいいのかわからなくなって……もし楯山が俺じゃない誰かを推してるかもしれないと思うと、怖くなって……」

 自由に恋愛ができない親衛隊制度はすごく不便だ。気持ちもはっきり伝えられないままの状態で両想いにならなきゃ恋を成就させることは不可能なのだから。



「吉良。それって、俺と両想いになりたかったってことなのか……?」
「へっ……?」

 うん。まぁ、そうだ。そう言う意味になるよな……。だって好きな人に好かれたいって思うのは普通のことじゃないのか……? 


 うわヤバい。なんか恥ずかしくなってきた。

 自分の顔が熱くなるのがわかる。心拍数がドキドキ速くなるのがわかる。


「吉良。じゃあ俺たち、付き合うってことでいい?」
「えっ!」

 そうか、そうだよな。やっぱりそうなるよな……

「吉良は? 嫌じゃない?」

 楯山に真剣に訊かれて、さらにまた恥ずかしくなる。
 答えは決まっているのに、それを楯山に伝えようとすると、また心臓の音がうるさくなる。



「吉良。俺の恋人になってくれ。卒業してもずっとそばにいてよ」 

 ああ。まさか楯山からこんなことを言ってもらえる日がくるとは思わなかった。

「俺も……」

 心音がバクバクうるさい。この音がすぐ近くにいる楯山に伝わってしまいそうだ。

「楯山の、恋人になりたい……卒業してからもお前とずっと一緒がいい……」

 ついに打ち明けてしまった。心の底にしまっていた想いを。


 


 楯山が吉良の唇にそっと優しいキスを落とす——。

 最初は何が起こったのかと理解が追いつかなかったが、楯山から二回目のキスをされ、ようやく、ああ、これがキスなんだと思った。

 なんだろう。このドキドキするのに、頭が痺れたみたいにぼんやりするものは。
 まるで麻薬みたいだ。唇を重ねた途端に楯山のことしか考えられなくなる。

 
「楯山……」

 吉良が楯山の首に両腕を伸ばすと、楯山が再び吉良に口づけてきた。三度目のキスをされ、なんだかふわふわした変な気持ちになる。
 ただ楯山のことを愛しく思い、もっと感じたくなって、吉良は楯山の身体を抱き寄せた。

 それにピクリと反応した楯山が、ふたりの間を隔てていた布団をいきなり剥ぎ取り、吉良の身体を思いきり抱き締めてきた。

「吉良、好きだ」

 楯山は吉良を抱きながら、四度目のキスをする——。





 結局、楯山と離れがたくなって、狭い吉良のベッドでふたり身体を寄せ合って眠った。
 朝、目覚めてもすぐそばに楯山がいて、「吉良、おはよ」と首の後ろにチュッとキスされた。

 昨夜はあれから楯山と目が合うたびに「好きだ」と囁かれ、何度もキスをした。触れるだけのキスを何度も。何度も。

 夜はその行為にすっかり酔いしれていたけれど、朝になってみたら、思い出すだけで恥ずかしくなってきた。



 これ、ヤバいぞ。ヤバい。楯山との距離感がまるで変わってしまった。

 恋人同士になったのだから、今までの友達とは違うのかもしれないが、吉良はなんだか落ち着かない。

「吉良」
「ひぁっ!?」

 楯山に声につい過剰に反応してしまう。恋人なんて今までいたこともないし、どうしたらいいのだろう。

「おい、吉良……」

 楯山が吉良にずいと迫る。それだけですぐにまた緊張してしまう。身体がこわばってしまう。

「俺が怖い……? 昨日、俺がお前に手を出したから……?」

 楯山がしゅんとしている。

 恋人同士になったばかりなのに、どうしてこんな寂しそうな顔をしてるんだ……。そんな顔、してほしくないのに。

「そ、そうじゃない。そうじゃなくて……」
「俺、昨日はちょっと調子に乗っちまったんだ。今後は気をつける。吉良のこと大事にするから、やっぱ別れるとか言うな……」

 楯山。お前は何も悪くない。昨日のこと全部、嫌じゃなかった。

「や、じゃない……」
「え……?」
「楯山。嫌じゃない……。お前に触られるのは全然嫌じゃないから……」

 駄目だ。恥ずかしすぎて、楯山の目の前からいなくなりたいくらいだ。

「したいときに、してくれていいから……」

 楯山の顔なんてまともに見られない。でも、昨日結ばれたばかりで楯山と離れることになるのは嫌だから。




「吉良。抱いていい……?」

 楯山は吉良の腰を抱き寄せてきた。吉良も楯山の胸板にそっと寄りかかってみる。
 あったかくて気持ちがいい。でも、吉良のそれと同じくらい、楯山の鼓動も速い。楯山もドキドキしてるんだ、俺だけじゃなかったんだと思ったら嬉しくなった。

 楯山が更にぐいぐい迫ってくるので、吉良は立っていられなくなり、ベッドに尻もちをついた。

 それでも楯山はまだぐいぐい迫る。やがてベッドに倒されたが、それでも楯山は吉良を抱き締め離さない。

 
「えっ! おいっ!」

 吉良はさすがに抵抗をみせるが、楯山は、服がめくれて露わになった吉良の腹を撫でてくる。

「ちょっと待てよっ……あっ……」

 まさか、さっきの「抱いていい?」って、そういう意味じゃないよな?!




 ——エンディング①  楯山Ver. 完。

しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

処理中です...