親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング④ 1.鳴宮エンド

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 ——この恋は叶いません。

 親衛隊サイトから、そう言われているようなものだ。吉良はこのサイトの残酷なシステムに打ちのめされた。

 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルールになっているはずだ。
 吉良が承認してから既に一ヶ月が過ぎた。ここまで待って何の通知が来ないということは、鳴宮は吉良の親衛隊ではないということか、親衛隊だったとしても承認していないかのどちらかだろう。
 それを確かめたくても方法がない。
 吉良は11月以来、一度も鳴宮に会っていない。



 鳴宮のことを好きだと自覚したのが遅すぎたのだ。三年生の一月では、他の生徒たちも受験勉強を理由にして寮に戻らない選択をする者も少なくないのに、プロミュージシャンの多忙な鳴宮がここに戻ってくるわけがない。



 11月の後夜祭のあと。どうしてあのとき走り去って行った鳴宮の背中を追いかけなかったのかと何度後悔してもしきれない。

「じゃあねバイバイ」
 吉良の記憶の中の鳴宮は笑顔で手を振っている。
 鳴宮はあれが吉良との最後の別れのつもりだったのだろうか。
 そんなことにも気がつかないで、また会えるなんて呑気に考えていたあの頃の自分を思いきりブン殴ってやりたい。



「お! 鳴宮だ!!」

 廊下から誰かの声が聞こえて、吉良はベッドから立ち上がった。寮の部屋を飛び出し、その声のするほうへと慌てて駆けていく。

 鳴宮がいたのは、談話室にあるテレビの中だった。
 そうだ。今日は生放送歌番組に鳴宮が出演する日だった。
 鳴宮は、平凡な吉良とは全く異なる華やかな世界線に生きている。

 TVの中の鳴宮は、会うことすらままならない、遠い遠い存在だ。

 少し前に鳴宮のアルバムが発売になったので吉良はそれを購入した。
 初回限定盤のみ、鳴宮のトークイベントの抽選に申し込みするためのシリアルコードが封入されていたため、試しに応募してみたが、落選した。限定100名だったからきっと激戦だったのだろう。

 世の中には鳴宮に会いたいと思うファンがたくさんいる。
 吉良だけに向けてくれていた鳴宮の笑顔。あの頃をすごく懐かしく思った。


 ◆◆◆


「鳴宮の連絡先? ごめん、僕も知らないんだ。あいつ、11月に連絡先を変えたみたいでさ、SNSのアカウントも削除されてたし、電話も通じない。なんかあったのかな……」

 鳴宮と同室の隠岐ですら、鳴宮の連絡先はわからないようだ。

「そっか。ありがとう」
「吉良、鳴宮になんか話があるの?」
「え……?」

 隠岐に問われてハッとする。鳴宮に会えたとしても、親衛隊のルールで鳴宮には想いを伝えることもできない。

「別に話なんかないんだけどさ。ただ鳴宮に会いたくて……」

 吉良はそれでもいいと思った。どうせ鳴宮との未来なんてない。それでも鳴宮に会いたいと思った。

「話はできないけど、会うだけならできるよ」
「えっ?!」
「2月25日。鳴宮のアルバムツアーの東京公演のチケット、要る? ひとり分だけど」
「隠岐、お前なんでそんなの持ってるんだ?!」

 吉良も抽選に申し込みはしたが、東京が最終日だったため、こちらも落選した。

「鳴宮の歌、僕は結構好きなんだ。でも国立大の前期のテストを受けることにしたから勉強しなきゃな、と思って。よかったら吉良に譲るよ」
「ガチで嬉しい! 隠岐、お前最高だな!」

 これで鳴宮に会える。久しぶりに鳴宮の生の声を聞けると思うと気分が上がってきた。

「吉良も鳴宮のファンだったんだね! 僕と音楽の趣味が合うね! 今度鳴宮のライブがあったら一緒にいかない?」

 ファン……?

 吉良はたしかに鳴宮のファンだろう。CDを買ったり、ライブに行こうとしているのだから。

 親衛隊という存在も、ファンみたいなものだ。『推し』の特別になれるなんておこがましいことを願っても叶うわけがない。


 ◆◆◆

 
 鳴宮のツアー最終日が行われたのは八千人収容のホールだった。
 吉良は三階スタンド席の前の方だった。そこそこの席から観覧できたので、裸眼でもじゅうぶんに楽しめた。


 ——すごいな。ここにいる人達は全員鳴宮に会いに来たんだよな……。

 アンコールまでを含めたすべての公演が終わり、規制退場の指示を待っている間、吉良は会場内を見渡していた。
 列になって退場していく人の群。忙しなく働いているスタッフ。これだけの人を動かす力のある鳴宮には同級生として素直に尊敬する。

 吉良の周りの人たちが立ち上がり、出口へと向かっていく。吉良がいた座席の退場の順番になったのだ。
 周りに倣って吉良も座席から立ち上がったとき、吉良はひとりの男が目についた。

 黒の鳴宮ツアー限定デザインパーカーと黒キャップを身につけて、白マスクをしている男が人群を逆流している。忘れ物でもしたのだろうか。

 男はちょうど吉良の列の座席に座っていたのか、人をかき分けこちらへ向かってくる。吉良も邪魔にならないよう、身体を端に避けて男が通れるように道を作っていた。


 吉良のすぐ隣まできた男にぐいっと腕を引っ張られ、座席に座るように促される。

「はぁ?!」

 なんだよこいつ! と吉良は眉をひそめた。

「吉良! 座って!」

 え、なんで俺の名前を知ってるんだと男の顔を覗き込んだら、男は目深にしていたキャップのつばを上げ、吉良に微笑みかけてきた。

「な、鳴宮……!?」

 驚き過ぎて一瞬大声を出しそうになったが、ここに鳴宮がいることがバレたら会場がパニックになるのではと思い、慌てて声のボリュームを落とす。
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