親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑦ 1.安居院エンド

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 忘れられない人がいる。
 同じ教室にいて、気がついたらいつも姿を目で追ってしまう。
 吉良は最初、その理由を、学校一の有名人で、周りには常に取り巻きの生徒がいて目立つから、目につくだけなのかと思っていた。
 でも違う。
 安居院と学園祭の係が一緒になり、恋心ごっこをしてから気がついた。
 目で追ってしまうのは、安居院が気になっているからだ。
 安居院とのひとときを今でも大切に思っているのは、居心地がよかったからだ。

 吉良は。もう一度、安居院とふたりで出かけてみたいと願っている。




「安居院は卒業と同時に婚約発表するらしい」

 そんな噂がまことしやかに吉良の耳にも届いた。
 十八歳にして婚約とは、さすがお家柄がよろしい安居院は違う。
 まぁ、超有名企業グループの一人息子である安居院の結婚相手発表となれば、ニホンの株価に影響が出るくらいの出来事だ。注目度が高いから、発表時期だって企業としての戦略もあるのかもしれない。

 誰だろう。たしか候補は三人いて、そのうちのひとりが隠岐の姉だったと聞いた。他ふたりは知らないが、きっとすごいお家柄のお嬢様なのだろう。

 実は、吉良は今、安居院の親衛隊に加入している。承認ボタンまで押しているのに、反応がないということは、安居院は吉良の親衛隊ではないということだろう。
 完全なる片想いだ。
 わかってはいたものの、安居院の気持ちが吉良に向いていないという事実が辛い。普通の片想いなら、ワンチャン好かれてるかもしれないと一縷の望みをもてるのに、この親衛隊システムは本当に残酷だ。

 安居院は雲の上の人で、親衛隊もたくさんいる。この想いが叶うなんて思ってもいない。
 ただ、卒業前にもう一度だけ安居院と話がしてみたい。
 今日も吉良は、教室の片隅からみんなに囲まれている安居院を眺めているだけだ。

「吉良ーっ!」

 安居院の取り巻きのひとり、隠岐が吉良のもとにやってくる。

「もうすぐ卒業だね」
「ああ」
「入学式に吉良と出会って三年か……安居院くんと吉良のおかげで楽しい高校生活だったよ」
「うん。俺も」

 ここの高校の奴らはいい奴ばかりだった。卒業してもずっと友達でいてくれたらいいなと思うくらいのメンバーばかりだ。

「あのさ、吉良、今週末は暇?」
「まぁ、暇だけど……」
「ほんとっ? じゃあ、僕の家に遊びに来てよ! 寮から僕と一緒に行こう。内輪のパーティーがあるんだ」

 隠岐に誘われることなんて初めてのことだ。なんで誘ってきたのか吉良は首をかしげながらも「絶対に絶対に来て!」と隠岐が念を押してくるので断れない。
 隠岐に誘われた3月10日は、奇しくも安居院の婚約発表の日と同じ日だ。まぁ、吉良は安居院の生きるセレブな世界とは無縁の平凡な高校生で、安居院の婚約発表式に呼ばれることもないが。


 ◆◆◆


 3月10日。隠岐と隠岐の家の執事が迎えに来て、吉良は車に乗り込む。連れて行かれた先は都内の高級そうなホテルだった。
 かなりの規模のパーティーだ。立食パーティーで、招待客も三百人を超えているだろうか。見るとメディアの記者らしき人もいる。
 これが、隠岐にとっては内輪のパーティーなのだろうか。

「やっば、俺、場違い……」

 気後れする吉良の背中を隠岐が「大丈夫だから」と優しく押すが、吉良は若干、廊下に引き返した。会場に入るのには、ちょっと勇気がいる。
 なんかみんな煌びやかな格好をしているのに、吉良はいつもの制服姿だ。一応制服だから正装だけど、やっぱり落ち着かない。
 このパーティーは隠岐の高校卒業とMIT進学の送別会も兼ねていると隠岐から聞かされた。普通、卒業とか誕生日でいちいち派手にパーティーなんか開かないだろと思うが、金持ちの社交会としてはごくごく普通のことらしい。
 それにしても隠岐の家のパーティーでこの規模なのかと吉良は舌を巻く。
 この高校の奴らは本当に選ばれし奴らしかいない。こいつらの将来が末恐ろしくなる。
 やっぱり持つべきものは友達だ。卒業しても高校時代のコネクションだけは手放してはいけない。

「あ! 安居院くんっ!」

 その名前を聞いてドキッとした。恐る恐る振り返るとそこには安居院がいた。
 今日は取り巻きもいない。安居院は制服姿ではなくて、艶のあるダークグレーの高級そうな生地のスーツを着ている。それがまた安居院にめちゃくちゃ似合うから、すっかり大人みたいだ。

 ——このビジュアルで、御曹司で、超絶優秀で、やばいだろ……。

 かっこよすぎて安居院を直視できない。さすがはあの選ばし者が通う高校で、ナンバーワンの人数と言われるほどの親衛隊を連れていただけはある。安居院は別格だ。

「吉良がなんでここに……?」

 安居院は驚いて固まっている。

「ごめん、俺もなんでここにいんのかわかんない……」

 吉良は引きつった笑みだ。こんなところにいたら安居院に笑われるんじゃないだろうか。

「あ、安居院も隠岐に呼ばれたの? 俺さ、こんなにすごいパーティーとは思わなくて、安居院はこういうの慣れてんだろうけど俺はちょっと……」

 これは絶対、安居院に「平民が何してんの」と思われるパターンだ。

「嘘だろ、こんなところで吉良に会えるなんて……」

 どうした安居院。なぜそんなに涙ぐんでいる……?

「吉良。ついに覚悟を決めてくれたのかっ?」
「は? なんの覚悟?」

 友人の卒業パーティーに来るくらいで、そんなに覚悟が必要なものなのだろうか。まぁ、たしかに世間一般のパーティーとはレベルが違うが。

「……ひとりじゃないってことか」
「んんっ?」

 ひとりじゃないってこと、という言葉を聞いて思い出した。たしか卒業式で歌う歌の歌詞にそのようなものがあった気がする。
 安居院は卒業式のことでも思い出したのだろうか。

「吉良。俺、決めた」
「えっ? あっ? うわわっ!」

 安居院に突然、身体を持ち上げられた。しかも横抱っこだ。吉良は安居院に落とされないように、咄嗟に安居院の首に腕を回した。

「吉良、一緒に来てくれ」

 安居院は吉良を抱いたまま、どこかへ連れて行こうとする。
 連れて行かれるのは結構。ただ、連れて行きかたがどうかしている。
 安居院の奇行に周囲がザワザワしている。それもそのはず、男が男を姫抱っこしてるのだから。しかも安居院は吉良をガッチリ抱きしめて離さない。

「お、おいっ、安居院っ! 恥ずいからおろせって!」

 ひと言文句を言ってやろうと吉良は安居院を見上げる。

「少し黙ってろ」

 安居院は吉良の額に優しく唇づけする。
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