親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑧2.

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 高校三年生の冬休み。迅と共に実家に帰省していたときだ。

「なぁ、吉良。お前はいったい誰の親衛隊に入ったんだ?」
「え……っ」

 迅からの衝撃の言葉。なぜそのことを知っているのかと吉良は目を丸くした。
 吉良は高校三年になり、恋に気がついた。
 中学生のころはまだ気がつけなかった。本当に恋がなんなのかわからずにいた。
 でも、高校生活を日々過ごす中、自分にとって一番大切な存在が誰なのか、いつだって見守ってくれていたのは誰なのかということに気がついた。
 吉良は、承認はしていない。だからまだ相手に通知はいっていないはず。

「琉平、いやだ……どこにも行かないで……」
「どこにも行かないよ……」

 吉良の布団の中で、迅とふたり抱き合う。迅の身体は怯えた子どもみたいに震えていた。

 しばらくの間、抱き合っていた。
 従兄弟とか、男同士とか、そこに違和感なんてなくて、こうして抱き合っていることが、ごく自然のことのように思えた。

「迅。俺さ、やっぱり迅といるときが一番安心するな……」

 吉良は迅の胸板に頭を寄せる。
 いくら親族とはいえ、従兄弟で仲が良すぎるといつも言われる。
 でも、それでもこうして迅といるときの自分が一番自然体でいられると思う。

「あんまり安心されちゃ困るんだけどな」

 その言葉はどういう意味かと、吉良は迅の顔色を伺うように覗き込む。

 あっ、と声を発しようとしたときには、迅に唇を奪われていた。
 唇と唇が触れる感覚なんて初めてのことで、それがこんなにも特別なものなのだと思った。

「俺、いつまでも子どもじゃないから」

 唇を離したあと、迅は妙に艶っぽい目で吉良を見てくる。
 キスをされ、同じ布団の中で腰を抱かれて、そんな熱い眼差しを受けると、たまらない。

「子どものフリして琉平にくっつくの、やめる。それじゃくっつく以上のことができないから」
「え……?」

 くっつく以上に、迅は何がしたいと考えているのだろう。

「琉平、キスは初めてだった……?」
「ま、まぁ……」

 吉良は恥ずかしくなって迅から視線をそらす。

「じゃあ、こっちは?」

 迅の手が吉良の服の中へと侵入してきて、背中や腹の肌を撫で回す。その意地悪な手は吉良の敏感なところへと伸びていく。

「あっ……! えっ? エェッ?」

 やばい。人に触られて、こんな気持ちになるのは初めてだ。

「待てよ、迅っ! これ、だめ……変な気持ちになるからっ」

 吉良が身をよじって逃げ出そうとしたら、迅が全身でホールドしてきた。

「琉平。親衛隊のルールでは、告白以外の行為は許されるんだ」
「は……?」
「あのさ、身体から入る関係ってのも、アリだと思う」

 迅は艶かしい手つきで吉良に触れてくる。まだお互いの気持ちを確かめ合ってない。恋人でもないのに。

「こういうことしたら、俺のこと男だって意識してくれるだろ?」
「あ、あのさっ、こんなことしなくても俺はじゅうぶん迅のこと男だって思ってるって!」

 どっからどう見ても男だろうが! お前を女だって思ったことなんて一度もねぇよ!

「そうじゃない。恋愛対象としての男だよ。もう一度キスしないとわからない? 俺がずっとどんな気持ちでお前の隣にいたか」
「ひぁ……!」

 迅の様子が尋常じゃない。これは絶対にやばいやつだ。このままじゃ、迅のいいように食われる!

「迅っ! 落ち着けって!」
「琉平、騒ぐな、一階に聞こえるだろ」

 一階には吉良の両親がいる。あんまりドタバタして騒いだら何事かと吉良の部屋に乗り込んできそうだ。

「迅、これを見ろってっ!」

 吉良は天下の印籠のようにスマホの親衛隊サイトの画面を迅につきつける。
 そこには、
『あなたは神埜迅さんの親衛隊に加入しました』
 とある。
 たしかにまだ承認はしていない。でもこれを見せつければ迅の暴走を抑えられるはずだ。

「え……?」

 迅の動きが止まり、吉良のスマホの画面に釘付けになっている。

「そ、そういうことだよ……わかった? 迅が何慌ててんのか知らねぇけど、俺は、お前のこと結構特別に想ってるし、お、お前になら何をされたって……」

 迅は固まったままだ。あの、頭の回転の速い迅が、思考停止しているところなんて初めて見た。
 迅がおもむろに吉良のスマホ画面に手を伸ばす。そして迷いなくトンッと画面をタップした。

 ん? 今、迅はどこをタップした……?

 迅のスマホと吉良のスマホから同時に振動音が聞こえた。

「ま、まさか迅、お前っ!」

 吉良は慌ててスマホを奪い返す。そこには『新たな通知があります』と表示されている。

「勝手に承認しやがった……」

 吉良は迅を信じられないという顔で見る。でも、迅を見たら怒ることができなくなった。
 迅が、泣いていた。
 迅の泣き顔なんて初めてみた。迅は泣かない。迅は太陽みたいに明るい奴だから。

「琉平の親衛隊のメンバーは最強なんだぜ? あいつらに比べたら、俺なんか勝てるところなんてひとつもなくて……絶対に琉平を取られたと思ってたのに……」
「迅は俺の親衛隊の隊長だったってことか?」

 吉良の言葉に迅が頷く。ということは、迅は隊長権限で、親衛隊のメンバーすべてを把握することができたのか。

「あのさ、俺の親衛隊って誰……?」
「言わない! あんなすごい奴らが琉平を想ってるって知ったら、お前の気持ちが傾くかもしれないだろっ」
「心配しすぎだよ……」

 物心ついたころから一緒にいるくせに、今だって一緒に寝ているくせに、それでも不安になるのか。

「大丈夫だよ。俺はちゃんと迅のこと、想ってるから」

 吉良は迅の身体を抱きしめてやる。こうしてやれば迅の不安も少しは拭えると思ったから。

「琉平。よかった……これでずっと琉平といられる……」

 迅も抱きしめ返してきた。

「琉平。これで心置きなく俺たち交われるな」
「へっ?」
「琉平の初めて、全部俺にちょうだい」
「えっ? ちょっ……! 今っ? 母ちゃんたち下で寝てるし!」
「琉平が喘がなきゃ大丈夫だから」
「はぁっ?」
「ごめん、俺もう我慢できない」
「いきなりすぎるって!」
「いきなりじゃない。何年我慢したと思ってんだより今までずっと琉平の隣に寝てて、手を出さなかったことを褒めてもらいたい」

 迅の手つきがやばい!

「行けるところまで、一緒に行こう」

 いや、俺はキスまでで限界だって!



 ——エンディング⑧    迅Ver. 完。
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