親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑧1.迅エンド

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 吉良琉平の『初めて』は、いつも神埜迅だった。

 物心ついたころ、吉良家と神埜家で温泉旅行に出かけたことがある。それが吉良の生まれて初めての旅行で、迅とふたりで大きなお風呂ではしゃいで怒られたことを、今でも断片的に覚えている。

 小学生になっても自転車に乗れなかった吉良。それが悔しくて毎日練習するものの、なかなか乗れるようにならない。
 そんなとき、夏休みに遊びに来た迅は、つきっきりで自転車の練習に付き合ってくれた。
 まずはペダルを外した自転車でバランス感覚を掴む練習。
 それができたらペダルをつけて漕ぐ練習。
 迅のサポートと指導のおかげで、初めて自転車に乗れるようになった。

 中学生になり、迅が吉良の家に居候するようになった。そうすると、ますます迅との距離は近づいた。
 迅は全寮制の学校に通っていたが、長期休みはふたりで毎日一緒にいた。吉良の友達と遊ぶときも、迅は無理矢理割り込んできて、みんなの輪の中に混ざってきた。
 昼間は迅と一緒、夜も布団を並べて一緒に眠る。すごく仲のいい従兄弟だと周りからも散々言われた。



 中学三年の夏休みのことだ。

「なぁ、迅」
「ん? なに?」

 寝る前、吉良も迅も、お互い布団にくるまりながら話をする。

「今度の土曜日さ、一緒に遊園地に行かない?」
「えっ?」

 迅が驚いて身体を起こした。

「琉平から誘ってくるなんて初めてじゃん。土曜日は予定あるけど、そっちはいつでも大丈夫な予定だからキャンセルする。行こう! 俺も夏休み最後に琉平と思い出作りたいなって考えてたんだよ。琉平とふたりで遊園地なんてサイッコーだ!」

 迅はめちゃくちゃ乗り気だ。もともと出かけるのは好きなタイプだから、遊園地も好きなのかもしれない。

「ふたりじゃなくて、4人でもいい?」
「4人……?」

 はしゃいでいた迅が一気にトーンダウンした。

「うん。俺の中学の友達も一緒」
「ああ……」

 迅がどんどんこの話に興味を失くしているのがわかる。吉良にとっては中学の友達だが、別の中学に通う迅にとっては吉良の友人といえども気をつかう相手なのだろう。

「俺の中学の同じクラスの女子がさ、迅のこと、気になってんだって。こないだ一緒に遊んだ萌愛って子」

 吉良はなんでもないことのように伝えたが、実は萌愛はかなり本気だった。
 吉良たちのグループに迅が混ざって遊んでいたときに、迅を好きになり、どうしてもどうしても迅のことが忘れられないという。

「萌愛は、うちの学校では一番可愛いって言われてる。性格もいいし、人気あるんだぜ」

 迅は幸せ者だと思う。吉良の学校で一番人気の女子に好かれるなんて、他の男子たちがさぞかし羨んでいることだろう。

「ふーん」

 迅は素っ気ない返事。
 昔から迅はモテるのにこんな感じだ。恋愛には興味がないタイプなのだろうか。

「俺、迅を誘ってほしいって頼まれちゃってさ。向こうも萌愛と西澤の女子ふたりで来るから、俺と迅の四人で遊びに行かないかって」
「それってダブルデートじゃん」
「まぁ……そうかな」

 吉良だって女子と出かけたことなんてない。でも今回、どうしても迅にこの話をしてほしいと萌愛に言われてしまい、とりあえず迅に言うだけ言ってみようと思い立ったのだ。

「琉平は? その、萌愛じゃない、西澤って女子のこと、好きなの?」
「えっ?」
「俺に萌愛って女とデートしろっていうなら、琉平は西澤とデートするんだろ? なんなのそいつ、まさか琉平が好きな女? そいつとデートしたいから、交換条件に俺を誘ってんの?」

 迅がものすごい圧をかけてくる。なんだか怒ってるみたいだ。
 吉良が自分がデートしたいがために、迅を利用したと思ったのだろう。

「違うって、俺は西澤のことはなんとも思ってないっ! 西澤が萌愛の親友だから、今回こういう企画を西澤が思いついたの!」

 今回の遊園地デートだって、発案者は西澤だ。親友の恋わずらいのために西澤が吉良に話しかけてきただけのことだ。

「じゃあ、琉平は西澤って奴のことなんとも思ってない……?」
「うわっ!」

 迅はついに、寝ている吉良の布団の上から覆い被さるような姿勢で追いつめてくる。
 いつもの迅は笑ってばかり。明るくて優しい奴なのに、今はめちゃくちゃ怖い顔をしている。
 いくらコミュ力高めの迅でも、これは普通に遊びに行くのとは意味合いが違い、嫌だと思う気持ちもわかる。
 吉良は安易に迅にこの話をしてしまったことをすぐに後悔した。

「わかった、ごめんっ! 断るから!」
「……答えになってない。琉平がそいつのことを好きか嫌いか聞いてんの!」
「ただの友達だよっ」
「本当に?」

 迅の尋問が続く。友達って言ったのに、なんでこんなにしつこく聞いてくるのだろう。

「本当だ。……俺、恋愛とかまだよくわかんないし、好きって気持ちがなんなのか……」

 中学校にはすでに『誰々と付き合ってる』だの『片想いをしてる』だの言ってる人はいる。でも吉良にはそういったことは、いまいちピンと来ない。

「そうなんだ……琉平にはそういう人、いないんだな……」

 迅はやっと吉良から離れてくれた。まったく今日に限って、どうして迅はしつこかったのだろう。

「迅。お前もだろ? 彼女なんかできたことねぇじゃん」

 吉良は起き上がり、今度は逆に迅にぐっと顔を寄せる。
 自分ばっかり恋愛も知らない子ども認定されるのは悔しいから、迅に言い返してやりたかった。

「そうだよ、いない。だから琉平、俺と遊んで」
「彼女いない同士だもんな」
「そ。寂しい俺の相手してよ。俺から離れて行かないで~!」

 迅は吉良をぎゅむむっ~と強く抱きしめてきた。

「出たよ、お前ってホント見かけによらず、甘えてくるよなぁ」

 外での迅は、誰がみても明るい元気な奴に見えているはずだ。でも、吉良とふたりきりになると迅は時々こうして吉良に抱きついてくる。

「ごめん。でも、あと少しだけこのままがいい」
「はいはい、俺で良ければいくらでもどーぞ」

 吉良はぽんぽんとゆっくりしたリズムで、優しく迅の背中を叩く。それに迅は「ん……」と心地よさそうに、静かな吐息をもらした。

 なんでもできて、明るくて、悩みなんてないみたいに見える迅にも、辛いことはあるに違いない。
 兄弟もいない、両親は多忙、学校で陽キャを演じていたら迅が休まる場所は、従兄弟の自分しかいないのだろう。
 勉強を教えてもらったり、吉良の両親が仕事に行っているとき昼メシを作ってくれたり、普段は迅に頼りっぱなしだ。
 だから迅が吉良を頼ってくれるときくらい、力になりたかった。
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