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3.仕返し
「神乃。今日、決行するぞ」
自宅マンションで、富永は高級スーツに身を包み、スイス製の高級腕時計HUBLOT《ウブロ》のビック・バンを装着する。長身で顔立ちの恐ろしく整った男が質の良いものを身に付けていると、まるで雑誌のモデルみたいに完璧だ。
富永の行動力はすごい。神乃が仁井の家を出てから僅か一週間で復讐の決行を決めた。
神乃は適当な服を着て、富永と二人、富永の愛車のBMWに乗り込んだ。
目的地は仁井行きつけの店だ。仁井は会社の帰りによくクラフトビールの専門店に立ち寄る習慣がある。神乃もクラフトビール好きで、そこは仁井と気が合うところだった。
「行くぞ」
富永と二人目配せをして頷き合う。そして富永は店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」という店員の声を聞きながら、空いている席を探しているフリをしながら仁井の位置を確認する。
いた!
仁井はカウンターで一人座っている。
だが神乃は仁井に気づかない素振りをして4人掛けのテーブル席、仁井の視界に十分入る場所を選択する。
席についた神乃がビールを注文し、口をつけた辺りで富永が行動を開始する。富永は運転手なのでビールは頼んでいない。完全なる神乃の付き添いだ。
「なぁ。神乃。よかったらこれ、貰ってくれないか?」
富永が鞄から取り出したのは、ルイヴィトンの小さな紙袋だ。
「こんな高価なものは貰えないよ。俺、お前に何もしてやれてないし……」
お世話になっているのは神乃の方だ。
「お前に似合いそうだなって思って買ったんだ。お前の財布、少し古くなってただろ? 遠慮なんか要らない。使ってくれ」
神乃が今使っている財布は使用して二年以上が経過している。仁井とお揃いで買った黒の皮財布で、確かに傷だらけだし、形もすっかり歪んでしまっている。
「でも……」
「神乃。頼む! 俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
富永の声のボリュームが大きいので、他の客も何事かと振り返った。そのうちの一人に仁井がいた。
仁井は神乃の存在に気がついたようで、徐にこちらにやってくる。
「よぉ、神乃! お前も来てたのか!」
あんな事があった後でも仁井は気さくに神乃に声をかけてきた。その図太い神経どうかしている。
仁井は手に持っていたビールをテーブルに置いて、神乃の隣の席に座ろうとする。
「待てよ」
富永は立ち上がり、そんな仁井を牽制した。
「俺の連れに気安く話しかけるなよ」
仁井を睨みつけ、神乃を庇うように腕を伸ばして富永は二人の間に割って入る。
「はぁ? 何言ってんだ。こいつは俺の同居人だよ。三年も一緒に暮らしてる。な? 神乃」
神乃の事をあんなに罵っておいて、それでも仁井はまだ神乃との関係性が続いていると思っているのか。そのめでたい頭に辟易する。
「仁井。俺達もう終わってるだろ」
神乃は事実を理解できていない仁井に冷ややかな視線を向けた。
「お前が仁井か!」
富永は今知ったかのような態度でわざと驚いて見せている。
「仁井。お前の悪業は全部聞いた。そして神乃は俺の恋人だ。今は俺と一緒に暮らしてる」
「え?! 神乃! お前もう恋人ができたのか?!」
仁井は富永の言葉に瞠目し、信じられないといった表情で神乃を見てきた。
「そうだ。お前に捨てられて、今はこの人と付き合ってる」
「嘘だろ?!」
「本当だよ。お前よりも優しくて俺には勿体ないくらいの人だ」
仁井は富永を値踏みするように見た。高身長イケメン、高級スーツに腕にはHUBLOTのビック・バン。ちなみにこの高級腕時計は仁井の憧れのブランドの時計だ。
見た目だけでも既に仁井は富永に完敗だろう。
「仁井、お前は一番の女と仲良くやってろよ。別れてお互い幸せになれて良かったな」
神乃は席を立ち、仁井を一瞥し、店を出ようとする。そんな神乃を優しく富永がエスコートする。仁井から見たら、神乃は金持ちイケメンを従えているように映っていることだろう。
富永は「騒がしくてすみません。ここにいる皆さんの分もお支払いします」と店長に沢山の一万円札を握らせて、神乃の後に店を出た。
店を出て、二人はその場に留まる。すると二人の思惑通り「神乃っ! 待ってくれ!」と慌てて仁井が店から飛び出してきた。その姿を見て仁井の方を振り返る。
「お前は知らないと思うけど、あれから俺は藍羅と別れたんだよっ」
藍羅と別れた……? その事実は神乃は知らなかった。
「浮気して悪かった! もうしない! 謝るから戻ってきてくれ!」
仁井は必死な顔で訴えてきた。
「お前がいなくなってから家もめちゃくちゃでさ……。家事って地味に大変なんだな。今まで全部やってくれてたお前に心から感謝するよ。これからは俺も手伝うから、また一緒に暮らそう。な? 神乃?」
今の俺には富永というハイスペック新恋人がいると知って、よく寄りを戻そうなんて言えるなと呆れてしまう。……まぁ、本当は恋人のフリをしているだけなのだが。
「浮気して、散々俺の事をコケにした奴のことなんて信じられるわけないだろ」
「頼むよ。お前を大切にしなかった俺がバカだった。何度でも謝る。許してくれっ! 俺の元に帰ってきてくれ! 好きだっ神乃っ! 愛してるから……」
何を今さら。付き合ってる時には言いもしなかった「好き」だの「愛してる」だの叫んでるんだよ……。
しかもみっともなく仁井は泣き出した。
「さっき言っただろ? 俺にはもう恋人が出来たんだ。お前と寄りを戻すなんてことはあり得ないんだよ。じゃあな!」
仁井に背をむけ、その場を立ち去った。
自宅マンションで、富永は高級スーツに身を包み、スイス製の高級腕時計HUBLOT《ウブロ》のビック・バンを装着する。長身で顔立ちの恐ろしく整った男が質の良いものを身に付けていると、まるで雑誌のモデルみたいに完璧だ。
富永の行動力はすごい。神乃が仁井の家を出てから僅か一週間で復讐の決行を決めた。
神乃は適当な服を着て、富永と二人、富永の愛車のBMWに乗り込んだ。
目的地は仁井行きつけの店だ。仁井は会社の帰りによくクラフトビールの専門店に立ち寄る習慣がある。神乃もクラフトビール好きで、そこは仁井と気が合うところだった。
「行くぞ」
富永と二人目配せをして頷き合う。そして富永は店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」という店員の声を聞きながら、空いている席を探しているフリをしながら仁井の位置を確認する。
いた!
仁井はカウンターで一人座っている。
だが神乃は仁井に気づかない素振りをして4人掛けのテーブル席、仁井の視界に十分入る場所を選択する。
席についた神乃がビールを注文し、口をつけた辺りで富永が行動を開始する。富永は運転手なのでビールは頼んでいない。完全なる神乃の付き添いだ。
「なぁ。神乃。よかったらこれ、貰ってくれないか?」
富永が鞄から取り出したのは、ルイヴィトンの小さな紙袋だ。
「こんな高価なものは貰えないよ。俺、お前に何もしてやれてないし……」
お世話になっているのは神乃の方だ。
「お前に似合いそうだなって思って買ったんだ。お前の財布、少し古くなってただろ? 遠慮なんか要らない。使ってくれ」
神乃が今使っている財布は使用して二年以上が経過している。仁井とお揃いで買った黒の皮財布で、確かに傷だらけだし、形もすっかり歪んでしまっている。
「でも……」
「神乃。頼む! 俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
富永の声のボリュームが大きいので、他の客も何事かと振り返った。そのうちの一人に仁井がいた。
仁井は神乃の存在に気がついたようで、徐にこちらにやってくる。
「よぉ、神乃! お前も来てたのか!」
あんな事があった後でも仁井は気さくに神乃に声をかけてきた。その図太い神経どうかしている。
仁井は手に持っていたビールをテーブルに置いて、神乃の隣の席に座ろうとする。
「待てよ」
富永は立ち上がり、そんな仁井を牽制した。
「俺の連れに気安く話しかけるなよ」
仁井を睨みつけ、神乃を庇うように腕を伸ばして富永は二人の間に割って入る。
「はぁ? 何言ってんだ。こいつは俺の同居人だよ。三年も一緒に暮らしてる。な? 神乃」
神乃の事をあんなに罵っておいて、それでも仁井はまだ神乃との関係性が続いていると思っているのか。そのめでたい頭に辟易する。
「仁井。俺達もう終わってるだろ」
神乃は事実を理解できていない仁井に冷ややかな視線を向けた。
「お前が仁井か!」
富永は今知ったかのような態度でわざと驚いて見せている。
「仁井。お前の悪業は全部聞いた。そして神乃は俺の恋人だ。今は俺と一緒に暮らしてる」
「え?! 神乃! お前もう恋人ができたのか?!」
仁井は富永の言葉に瞠目し、信じられないといった表情で神乃を見てきた。
「そうだ。お前に捨てられて、今はこの人と付き合ってる」
「嘘だろ?!」
「本当だよ。お前よりも優しくて俺には勿体ないくらいの人だ」
仁井は富永を値踏みするように見た。高身長イケメン、高級スーツに腕にはHUBLOTのビック・バン。ちなみにこの高級腕時計は仁井の憧れのブランドの時計だ。
見た目だけでも既に仁井は富永に完敗だろう。
「仁井、お前は一番の女と仲良くやってろよ。別れてお互い幸せになれて良かったな」
神乃は席を立ち、仁井を一瞥し、店を出ようとする。そんな神乃を優しく富永がエスコートする。仁井から見たら、神乃は金持ちイケメンを従えているように映っていることだろう。
富永は「騒がしくてすみません。ここにいる皆さんの分もお支払いします」と店長に沢山の一万円札を握らせて、神乃の後に店を出た。
店を出て、二人はその場に留まる。すると二人の思惑通り「神乃っ! 待ってくれ!」と慌てて仁井が店から飛び出してきた。その姿を見て仁井の方を振り返る。
「お前は知らないと思うけど、あれから俺は藍羅と別れたんだよっ」
藍羅と別れた……? その事実は神乃は知らなかった。
「浮気して悪かった! もうしない! 謝るから戻ってきてくれ!」
仁井は必死な顔で訴えてきた。
「お前がいなくなってから家もめちゃくちゃでさ……。家事って地味に大変なんだな。今まで全部やってくれてたお前に心から感謝するよ。これからは俺も手伝うから、また一緒に暮らそう。な? 神乃?」
今の俺には富永というハイスペック新恋人がいると知って、よく寄りを戻そうなんて言えるなと呆れてしまう。……まぁ、本当は恋人のフリをしているだけなのだが。
「浮気して、散々俺の事をコケにした奴のことなんて信じられるわけないだろ」
「頼むよ。お前を大切にしなかった俺がバカだった。何度でも謝る。許してくれっ! 俺の元に帰ってきてくれ! 好きだっ神乃っ! 愛してるから……」
何を今さら。付き合ってる時には言いもしなかった「好き」だの「愛してる」だの叫んでるんだよ……。
しかもみっともなく仁井は泣き出した。
「さっき言っただろ? 俺にはもう恋人が出来たんだ。お前と寄りを戻すなんてことはあり得ないんだよ。じゃあな!」
仁井に背をむけ、その場を立ち去った。
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