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9.神乃は可愛い 〜富永side〜
「それは無理だ。その代わり金なら出す」
「えーっ、お金かぁ。それもいいかも。じゃ、今度にーくんに会ったときに別れてくるねっ!」
なんという軽い女だ。でも正直、金で解決できるなら助かる。これで神乃の幸せが守れるのなら。
それから藍羅から連絡がきた。神乃が出張でいないから仁井に家に泊まりに来いと誘われたと。今日そこで仁井と話をして別れてくるとのことだった。
富永は仁井の家の最寄りのファミレスで待機していた。藍羅がきちんと別れてきたら報酬としての金を渡すために。
だが予想外のことが起きた。富永のいたファミレスに、スーツケースを抱えた神乃が暗い顔をしてやってきたのだ。
出張に行っていたはずの神乃がどうしてここに来たのだろう……。
放ってなどおけなかった。富永は神乃に声をかける。なんでこんなところに偶然昔の同級生がいるのだと神乃はものすごく驚いていたが、それもお構いなしに富永は神乃に事情を聞いた。
可哀想な神乃は、仁井の浮気を知ってしまったのだ。
この世の終わりかのような顔をして、涙ぐむ神乃。よっぽど仁井が好きだったに違いない。
神乃の知らぬうちに仁井の浮気をやめさせたかったのに、富永の陰の努力は実らなかった。あと一歩のところで神乃に先に気づかれてしまった。
ただ神乃の話を聞いていて、富永の知らなかった実情が見えてきた。
三年も別れずに一緒にいるのだから、ふたりはてっきり仲睦まじく暮らしているのだろうと富永は思い込んでいた。
藍羅との浮気も一過性のもので、つい魔が差しただけ。当然仁井は神乃のことを愛していて、神乃を選ぶとばかり。
だが、神乃の話を聞けば聞くほど、あの男のもとに神乃を置いておくなんてできない、と思った。
「神乃! お前、行く当てあるのか?!」
仁井に神乃は渡さない。
「神乃。俺の家に来い。次の住むところが決まるまでいつまでもいてくれていい」
神乃に不自由な思いなどさせたくない。神乃の幸せのためならなんだってやってやる!
そう思っていたが、気がつけば富永自身が幸せなときを過ごしていた。神乃とのふたり暮らしは想像を絶するくらいに素晴らしいものだった。
家に帰ると富永のために料理をしてくれて、風呂の準備までしてくれている。
そしてエプロン姿でパタパタとスリッパの音を鳴らして富永を出迎えてくれる神乃がめちゃくちゃ可愛い。
ご飯にする? お風呂にする? ってそれは新婚夫婦のやりとりだ。つい神乃を抱き締めてベッドに連行したくなったが、そんなことをしたら神乃にこの家から出て行かれてしまうので、必死でこらえた。
仁井への復讐を果たしてからも、神乃を言いくるめて引き続き富永の家に住むように説得した。
神乃と過ごす日々が楽しくて仕方がない。神乃は仁井と別れてフリーになったのだから、今すぐ告白して神乃と本物の恋人同士になりたいとまで考えていた。
たが、三年前、神乃に告白して振られたときのことを思い出す。
あの時の自分は傲慢だった。起業して若き社長だと持て囃され、富永に言い寄る人間もたくさんいた。
富永が昔から一途に好きなのは神乃だった。まずは男として完璧になって、それから神乃を迎えに行こうだなんて悠長な考えでいた。
完璧になった自分は、神乃に告白して断られるなんて思いもしなかったからだ。
だが、現実は違った。
——ごめん。富永。お前とは付き合えない。俺、今好きな人がいるんだ。ちょっと前からその人と一緒に暮らしてる——。
青天の霹靂だった。傲慢な自分のプライドも、積年の想いも全てが崩れ去った瞬間だった。
でも良かった。神乃にポッキリと心を折られたことで、自信過剰な自分と決別できたのだから。プライベートだけでなくビジネスの場でも謙虚になれるようになった。
そんなふうに思ったせいか、振られてからも、神乃が仁井と付き合っていた時も、今でもずっと神乃が好きだ。
富永と暮らしている神乃は時々ふとすごく寂しげな表情をみせた。
手を洗うと言って突然走っていった神乃が洗面所でひとり静かに泣いている姿を見たこともある。
三年も付き合っていた仁井と別れたばかりだ。そんな簡単に気持ちを吹っ切れるはずがないのだろうと富永は寂しく思った。
決定打は、マンションの前で仁井と濃厚なキスを交わしている神乃を見たときだ。
神乃は公衆の面前でキスをされ「こんなところでっ……!」と口では怒ってはいたものの、仁井にキスされたことで、なんとも蕩けた可愛らしい顔をしていた。
仁井とのキスは、まんざらでもない様子だった。
悔しかった。意地になって神乃を仁井から引き剥がしたものの、やっぱり神乃の心はまだ仁井にあるようだった。
「なぁ、富永。もう離せよ……」
マンションのエレベーターの中で、離したくないと神乃の手を強く握っていたのに、神乃に拒絶された。
仁井とはキスするくせに、富永とは手を繋ぐことすら嫌なのだろう。
三年前、神乃が選んだのは富永ではなく仁井なのだから。
仁井とは付き合いの歴史が違う。神乃は仁井と数えきれないくらいのキスをして、ベッドの上では仁井の前で何度も身体を開いたことだろう。
そして今も神乃の心の中にいるのは、
仁井だ。
「えーっ、お金かぁ。それもいいかも。じゃ、今度にーくんに会ったときに別れてくるねっ!」
なんという軽い女だ。でも正直、金で解決できるなら助かる。これで神乃の幸せが守れるのなら。
それから藍羅から連絡がきた。神乃が出張でいないから仁井に家に泊まりに来いと誘われたと。今日そこで仁井と話をして別れてくるとのことだった。
富永は仁井の家の最寄りのファミレスで待機していた。藍羅がきちんと別れてきたら報酬としての金を渡すために。
だが予想外のことが起きた。富永のいたファミレスに、スーツケースを抱えた神乃が暗い顔をしてやってきたのだ。
出張に行っていたはずの神乃がどうしてここに来たのだろう……。
放ってなどおけなかった。富永は神乃に声をかける。なんでこんなところに偶然昔の同級生がいるのだと神乃はものすごく驚いていたが、それもお構いなしに富永は神乃に事情を聞いた。
可哀想な神乃は、仁井の浮気を知ってしまったのだ。
この世の終わりかのような顔をして、涙ぐむ神乃。よっぽど仁井が好きだったに違いない。
神乃の知らぬうちに仁井の浮気をやめさせたかったのに、富永の陰の努力は実らなかった。あと一歩のところで神乃に先に気づかれてしまった。
ただ神乃の話を聞いていて、富永の知らなかった実情が見えてきた。
三年も別れずに一緒にいるのだから、ふたりはてっきり仲睦まじく暮らしているのだろうと富永は思い込んでいた。
藍羅との浮気も一過性のもので、つい魔が差しただけ。当然仁井は神乃のことを愛していて、神乃を選ぶとばかり。
だが、神乃の話を聞けば聞くほど、あの男のもとに神乃を置いておくなんてできない、と思った。
「神乃! お前、行く当てあるのか?!」
仁井に神乃は渡さない。
「神乃。俺の家に来い。次の住むところが決まるまでいつまでもいてくれていい」
神乃に不自由な思いなどさせたくない。神乃の幸せのためならなんだってやってやる!
そう思っていたが、気がつけば富永自身が幸せなときを過ごしていた。神乃とのふたり暮らしは想像を絶するくらいに素晴らしいものだった。
家に帰ると富永のために料理をしてくれて、風呂の準備までしてくれている。
そしてエプロン姿でパタパタとスリッパの音を鳴らして富永を出迎えてくれる神乃がめちゃくちゃ可愛い。
ご飯にする? お風呂にする? ってそれは新婚夫婦のやりとりだ。つい神乃を抱き締めてベッドに連行したくなったが、そんなことをしたら神乃にこの家から出て行かれてしまうので、必死でこらえた。
仁井への復讐を果たしてからも、神乃を言いくるめて引き続き富永の家に住むように説得した。
神乃と過ごす日々が楽しくて仕方がない。神乃は仁井と別れてフリーになったのだから、今すぐ告白して神乃と本物の恋人同士になりたいとまで考えていた。
たが、三年前、神乃に告白して振られたときのことを思い出す。
あの時の自分は傲慢だった。起業して若き社長だと持て囃され、富永に言い寄る人間もたくさんいた。
富永が昔から一途に好きなのは神乃だった。まずは男として完璧になって、それから神乃を迎えに行こうだなんて悠長な考えでいた。
完璧になった自分は、神乃に告白して断られるなんて思いもしなかったからだ。
だが、現実は違った。
——ごめん。富永。お前とは付き合えない。俺、今好きな人がいるんだ。ちょっと前からその人と一緒に暮らしてる——。
青天の霹靂だった。傲慢な自分のプライドも、積年の想いも全てが崩れ去った瞬間だった。
でも良かった。神乃にポッキリと心を折られたことで、自信過剰な自分と決別できたのだから。プライベートだけでなくビジネスの場でも謙虚になれるようになった。
そんなふうに思ったせいか、振られてからも、神乃が仁井と付き合っていた時も、今でもずっと神乃が好きだ。
富永と暮らしている神乃は時々ふとすごく寂しげな表情をみせた。
手を洗うと言って突然走っていった神乃が洗面所でひとり静かに泣いている姿を見たこともある。
三年も付き合っていた仁井と別れたばかりだ。そんな簡単に気持ちを吹っ切れるはずがないのだろうと富永は寂しく思った。
決定打は、マンションの前で仁井と濃厚なキスを交わしている神乃を見たときだ。
神乃は公衆の面前でキスをされ「こんなところでっ……!」と口では怒ってはいたものの、仁井にキスされたことで、なんとも蕩けた可愛らしい顔をしていた。
仁井とのキスは、まんざらでもない様子だった。
悔しかった。意地になって神乃を仁井から引き剥がしたものの、やっぱり神乃の心はまだ仁井にあるようだった。
「なぁ、富永。もう離せよ……」
マンションのエレベーターの中で、離したくないと神乃の手を強く握っていたのに、神乃に拒絶された。
仁井とはキスするくせに、富永とは手を繋ぐことすら嫌なのだろう。
三年前、神乃が選んだのは富永ではなく仁井なのだから。
仁井とは付き合いの歴史が違う。神乃は仁井と数えきれないくらいのキスをして、ベッドの上では仁井の前で何度も身体を開いたことだろう。
そして今も神乃の心の中にいるのは、
仁井だ。
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