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25.神乃の決意
神乃side
富永は神乃にはもったいないくらいの恋人だ。
まさか学生時代の初恋の相手と、この年になってから恋人同士になるとは思いもしなかった。
実らないはずだった恋。それなのに諦めることなく神乃を愛してくれた富永のお陰で今の幸せがある。
「はぁ……」
今日からの三週間は辛い仕事になるかもしれない。
神乃の勤めている会社は、主にシステム構築と運用を請け負っており、神乃はそこでSE(システムエンジニア)として働いている。
以前システム構築した保険会社へwebシステム保守運用のために、神乃の会社から数名のSEが出向している。そこでは契約管理や最新の情報でシュミレーションできるようにシステムのアップデートなどの作業を行っているのだが、今回大幅なアップデートと一部に新システム導入があり、神乃もそこへ駆り出されることになった。
その保険会社がまさに仁井の勤めている会社なのだ。
仁井との出会いも、神乃が保険会社にシステム開発メンバーのうちのひとりとして何度も顔を出していたときだった。
あれから四年が経ち、その間、仁井と付き合って別れて、しつこい連絡をすべて無視していたのに、今度はまさかの再会が待ち受けている。
仁井は保険会社のDX (デジタルトランスフォーメーション)部門にいるから、おそらく顔を合わせることになるだろう。
気まずい。会いたくない。
だが仕事なのでこの三週間は耐えるしかない。
富永にはこの件は言わないことにした。変に心配をかけてしまうし、期間が終われば今までどおりに過ごせるのだから。
仁井の勤める保険会社に行った初日。
残業でデスクの前のパソコンと格闘し、追い込みの仕事をしていたときに「おい神乃」と仁井に声をかけられた。
「これ。全部お前の仕事だから」
仁井が神乃に押しつけてきたタブレットのには「バグ管理表」とタイトルがついたExcel画面が表示されていた。
「神乃は仕事が早いし、内容もしっかりしてる。俺はお前を信頼してるから仕事を任せたいんだよ」
仁井は含み笑いをしながら神乃を見下げている。
こいつは最悪だ。嫌がらせするために神乃に無理な仕事を押しつけようとしているのだろう。
「こんな量、ひとりでできる訳がないだろ!」
神乃が睨み返すと、仁井は「じゃあ一晩俺に付き合うか?」と耳元で囁いてきた。
「ふざけるなよ」
今すぐぶっ飛ばしてやりたいが、周りにはまだ人が残っている。神乃は震える手をグッと握りしめて堪えた。
「あーあ。昔の可愛い神乃はどこに行っちゃったんだろうぁ」
「うるさいな、あっちに行けよっ」
神乃が邪険にしているのに仁井はしつこく絡んでくる。
「新しい男ができた途端に冷たくなっちゃってさ。あいつが現れるまでは俺の前で喜んで股開いてたくせによ」
浮気して俺を捨てたのは仁井、お前じゃないか。それをまるで俺が男を作ったみたいな言い方しやがって!
それにここは職場だ。職場で下世話な話はしないで欲しい。周囲に人がいなくても、誰がどこで聞いているとも限らないのだから。
「俺と100回エッチしたのが101回になっても大した問題じゃないだろ? ほら、今からウチに来いよ。そしたら嫌がらせはやめてやるから」
「お前……っ!」
さすがに黙っていられなくて神乃が勢いよく立ち上がったときに、デスクにあった筆記用具入りの缶に勢いよく手が当たり、缶を床にぶち撒けてしまった。
そのとき缶が床に当たる音やペンが散らばる派手な音がして、何事かと神乃たちの方へ周囲の視線が集まった。
「すみませんっ!」
神乃は仁井に言い返す機会を失い、周囲に頭を下げて、床に散らばった筆記用具を拾い集める。
仁井もその場にしゃがみ込み、ペン拾いの手伝いをするように見せかけて、一本だけペンを手に取りそれでペチペチと神乃の頬を叩いてきた。
「早く俺に抱かれろよ。気持ちよくさせてやるから」
「誰が……っ、お前なんかと……!」
仁井に抱かれるなんて絶対に嫌だ。
神乃のこの身体は今や富永のものだ。どんな目に遭おうとも他の男に身体を許すことはない。
あんな最高のパートナーができたのに富永を悲しませるようなことだけはしたくない。
「あっそ。じゃあせいぜい頑張れよ」
仁井は持っていたペンをポイっと投げ捨てて立ち去っていった。
神乃はペンを拾い終えたあと、仁井の置いていったタブレットのバグ管理表を眺めた。
これは仁井たち顧客側が運用テストを行った際の不具合を表にしたもので、本来ならそれぞれ担当を割り振って修正、再テストしていくのだが、仁井は無理だとわかっていて神乃ひとりに押しつけてきたのだ。
「見てろよ仁井」
神乃はバグ管理表が表示されているタブレットを確認し、目の前のキーボードを叩き始めた。
休み返上の神乃の復讐がここから始まった。
富永は神乃にはもったいないくらいの恋人だ。
まさか学生時代の初恋の相手と、この年になってから恋人同士になるとは思いもしなかった。
実らないはずだった恋。それなのに諦めることなく神乃を愛してくれた富永のお陰で今の幸せがある。
「はぁ……」
今日からの三週間は辛い仕事になるかもしれない。
神乃の勤めている会社は、主にシステム構築と運用を請け負っており、神乃はそこでSE(システムエンジニア)として働いている。
以前システム構築した保険会社へwebシステム保守運用のために、神乃の会社から数名のSEが出向している。そこでは契約管理や最新の情報でシュミレーションできるようにシステムのアップデートなどの作業を行っているのだが、今回大幅なアップデートと一部に新システム導入があり、神乃もそこへ駆り出されることになった。
その保険会社がまさに仁井の勤めている会社なのだ。
仁井との出会いも、神乃が保険会社にシステム開発メンバーのうちのひとりとして何度も顔を出していたときだった。
あれから四年が経ち、その間、仁井と付き合って別れて、しつこい連絡をすべて無視していたのに、今度はまさかの再会が待ち受けている。
仁井は保険会社のDX (デジタルトランスフォーメーション)部門にいるから、おそらく顔を合わせることになるだろう。
気まずい。会いたくない。
だが仕事なのでこの三週間は耐えるしかない。
富永にはこの件は言わないことにした。変に心配をかけてしまうし、期間が終われば今までどおりに過ごせるのだから。
仁井の勤める保険会社に行った初日。
残業でデスクの前のパソコンと格闘し、追い込みの仕事をしていたときに「おい神乃」と仁井に声をかけられた。
「これ。全部お前の仕事だから」
仁井が神乃に押しつけてきたタブレットのには「バグ管理表」とタイトルがついたExcel画面が表示されていた。
「神乃は仕事が早いし、内容もしっかりしてる。俺はお前を信頼してるから仕事を任せたいんだよ」
仁井は含み笑いをしながら神乃を見下げている。
こいつは最悪だ。嫌がらせするために神乃に無理な仕事を押しつけようとしているのだろう。
「こんな量、ひとりでできる訳がないだろ!」
神乃が睨み返すと、仁井は「じゃあ一晩俺に付き合うか?」と耳元で囁いてきた。
「ふざけるなよ」
今すぐぶっ飛ばしてやりたいが、周りにはまだ人が残っている。神乃は震える手をグッと握りしめて堪えた。
「あーあ。昔の可愛い神乃はどこに行っちゃったんだろうぁ」
「うるさいな、あっちに行けよっ」
神乃が邪険にしているのに仁井はしつこく絡んでくる。
「新しい男ができた途端に冷たくなっちゃってさ。あいつが現れるまでは俺の前で喜んで股開いてたくせによ」
浮気して俺を捨てたのは仁井、お前じゃないか。それをまるで俺が男を作ったみたいな言い方しやがって!
それにここは職場だ。職場で下世話な話はしないで欲しい。周囲に人がいなくても、誰がどこで聞いているとも限らないのだから。
「俺と100回エッチしたのが101回になっても大した問題じゃないだろ? ほら、今からウチに来いよ。そしたら嫌がらせはやめてやるから」
「お前……っ!」
さすがに黙っていられなくて神乃が勢いよく立ち上がったときに、デスクにあった筆記用具入りの缶に勢いよく手が当たり、缶を床にぶち撒けてしまった。
そのとき缶が床に当たる音やペンが散らばる派手な音がして、何事かと神乃たちの方へ周囲の視線が集まった。
「すみませんっ!」
神乃は仁井に言い返す機会を失い、周囲に頭を下げて、床に散らばった筆記用具を拾い集める。
仁井もその場にしゃがみ込み、ペン拾いの手伝いをするように見せかけて、一本だけペンを手に取りそれでペチペチと神乃の頬を叩いてきた。
「早く俺に抱かれろよ。気持ちよくさせてやるから」
「誰が……っ、お前なんかと……!」
仁井に抱かれるなんて絶対に嫌だ。
神乃のこの身体は今や富永のものだ。どんな目に遭おうとも他の男に身体を許すことはない。
あんな最高のパートナーができたのに富永を悲しませるようなことだけはしたくない。
「あっそ。じゃあせいぜい頑張れよ」
仁井は持っていたペンをポイっと投げ捨てて立ち去っていった。
神乃はペンを拾い終えたあと、仁井の置いていったタブレットのバグ管理表を眺めた。
これは仁井たち顧客側が運用テストを行った際の不具合を表にしたもので、本来ならそれぞれ担当を割り振って修正、再テストしていくのだが、仁井は無理だとわかっていて神乃ひとりに押しつけてきたのだ。
「見てろよ仁井」
神乃はバグ管理表が表示されているタブレットを確認し、目の前のキーボードを叩き始めた。
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