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29.カフェにて
「決行日は12月1日だな。その日に富永の了解も得た」
渋谷駅近くの比較的静かなベーカリーカフェで、神乃は藍羅と顔を突き合わせている。
「部屋は隣同士のほうが入れ替わりやすいから、知り合いだって言ってホテルの人にお願いしとく。それでホテルのバーで待ち合わせね。ヒロくんたちには何も言わずに偶然会ったことにしようね」
「ああ。それでふたりを酔わせて皆で部屋に戻る。そこで入れ替わりだな」
「朝になったら私はとみーに責任を追求する。かみのんもヒロくんに抱かれといて」
抱かれといて……こいつは本当に簡単にものを言うな。
「俺が協力するのはそこまでだ。あとは富永次第だからな」
「うん。とみーは真面目だからきっと責任取ってくれると思うの。子供ができたら結婚までいけるかな。まぁ、そこまではいけなくても恋人でいてくれたらいいな。とみーを連れて友達に自慢したいの」
こんな姑息な手で人の心を手に入れられると思うなよ。
お前に富永は絶対に渡さない。
「そろそろ約束のものを返せよ」
「え? ああ、アレね」
藍羅は茶封筒を手渡してきた。中を確認するとかなりの量の一万円札が入っている。
「それ、手切れ金と動画代。とみーすごいんだよ? これだけ払ってもなんともない顔してた」
これだけの金額は神乃にしてみれば大金だ。だが富永にとっては大したことない金額なのだろう。
たしかに富永は三十万円もするコートを「神乃も要るか? もし着るならついでに買うけど」などと平気で言うような男だ。
「あーあ、ちょっと惜しいな。でもとみーと恋人になれればすぐに取り返せるよね」
こいつは恋人を金ヅルか何かと勘違いしているんだろうか。
「惜しくなんかないだろ。仁井とは別れる気だったし、俺はゆすられるような動画を撮られた覚えはない。もとからお前の金じゃないんだ」
あれから『かみのん動画』の意味について考えてみた。藍羅はそれを使って富永から金をせびったということは、ゆすりのネタになるような動画という意味だろう。
神乃としてはそのような動画を撮られた記憶も撮らせた記憶もない。
「えー。にーくんなら動画とか撮りそうだなって思ったのにな……本当にないの?」
「ない」
「とみーはあるって信じてくれたのに……」
富永は人がいい。疑うことを知らないというほどではないが、基本的に人を信じるタイプなのだろう。
「ヒロくんはお前の彼氏だろ? よく自分の彼氏を人に差し出すようなことを考えるな」
「え? あんなの要らないよ。気が利かないし、ヒロくんは大人しくて地味でつまんない。デートしててもあくびが出るよ。かみのんのほうが気が合うんじゃない?」
藍羅は悪びれもせずに恋人の悪口を言う。
「へぇ。それ、本音か?」
「まぁね。ヒロくんは運用部のファンドマネジャーになったから付き合っただけ」
「それ肩書きだろ」
「そだよ。悪い? でなきゃあんなブサイクと付き合わないよ」
「ふーん……」
神乃はジャケットの袖の中に密かにボイスレコーダーを忍ばせている。それはこのカフェに来たときからずっとオンのままだ。
それから藍羅を誘導して、ヒロくんについて喋らせた。
藍羅の口から悪口が出るわ出るわ。
軽自動車で女を迎えに来る男はあり得ない。
デートのときに夕食の店を予約していなくて、全国チェーンのラーメン店に連れて行くなんて最悪だ。
私服がダサい。ファストファッションの服ばかり。
母親の具合が悪くなったから病院に付き添うことを理由にデートをドタキャンした。そういうマザコン男は嫌い。
神乃は藍羅の話を聞いていて、お前こそ考えを改めろと思ったが、話の骨を折らないようにと黙って聞いていた。
藍羅は小狡い。だが男の前ではそれを巧妙に隠しているので、みんな藍羅の見た目と小手先の言動に騙されるのだ。きっとヒロくんも藍羅の本性を知らない。知っていたら藍羅の恋人になんかならないだろうから。
渋谷駅近くの比較的静かなベーカリーカフェで、神乃は藍羅と顔を突き合わせている。
「部屋は隣同士のほうが入れ替わりやすいから、知り合いだって言ってホテルの人にお願いしとく。それでホテルのバーで待ち合わせね。ヒロくんたちには何も言わずに偶然会ったことにしようね」
「ああ。それでふたりを酔わせて皆で部屋に戻る。そこで入れ替わりだな」
「朝になったら私はとみーに責任を追求する。かみのんもヒロくんに抱かれといて」
抱かれといて……こいつは本当に簡単にものを言うな。
「俺が協力するのはそこまでだ。あとは富永次第だからな」
「うん。とみーは真面目だからきっと責任取ってくれると思うの。子供ができたら結婚までいけるかな。まぁ、そこまではいけなくても恋人でいてくれたらいいな。とみーを連れて友達に自慢したいの」
こんな姑息な手で人の心を手に入れられると思うなよ。
お前に富永は絶対に渡さない。
「そろそろ約束のものを返せよ」
「え? ああ、アレね」
藍羅は茶封筒を手渡してきた。中を確認するとかなりの量の一万円札が入っている。
「それ、手切れ金と動画代。とみーすごいんだよ? これだけ払ってもなんともない顔してた」
これだけの金額は神乃にしてみれば大金だ。だが富永にとっては大したことない金額なのだろう。
たしかに富永は三十万円もするコートを「神乃も要るか? もし着るならついでに買うけど」などと平気で言うような男だ。
「あーあ、ちょっと惜しいな。でもとみーと恋人になれればすぐに取り返せるよね」
こいつは恋人を金ヅルか何かと勘違いしているんだろうか。
「惜しくなんかないだろ。仁井とは別れる気だったし、俺はゆすられるような動画を撮られた覚えはない。もとからお前の金じゃないんだ」
あれから『かみのん動画』の意味について考えてみた。藍羅はそれを使って富永から金をせびったということは、ゆすりのネタになるような動画という意味だろう。
神乃としてはそのような動画を撮られた記憶も撮らせた記憶もない。
「えー。にーくんなら動画とか撮りそうだなって思ったのにな……本当にないの?」
「ない」
「とみーはあるって信じてくれたのに……」
富永は人がいい。疑うことを知らないというほどではないが、基本的に人を信じるタイプなのだろう。
「ヒロくんはお前の彼氏だろ? よく自分の彼氏を人に差し出すようなことを考えるな」
「え? あんなの要らないよ。気が利かないし、ヒロくんは大人しくて地味でつまんない。デートしててもあくびが出るよ。かみのんのほうが気が合うんじゃない?」
藍羅は悪びれもせずに恋人の悪口を言う。
「へぇ。それ、本音か?」
「まぁね。ヒロくんは運用部のファンドマネジャーになったから付き合っただけ」
「それ肩書きだろ」
「そだよ。悪い? でなきゃあんなブサイクと付き合わないよ」
「ふーん……」
神乃はジャケットの袖の中に密かにボイスレコーダーを忍ばせている。それはこのカフェに来たときからずっとオンのままだ。
それから藍羅を誘導して、ヒロくんについて喋らせた。
藍羅の口から悪口が出るわ出るわ。
軽自動車で女を迎えに来る男はあり得ない。
デートのときに夕食の店を予約していなくて、全国チェーンのラーメン店に連れて行くなんて最悪だ。
私服がダサい。ファストファッションの服ばかり。
母親の具合が悪くなったから病院に付き添うことを理由にデートをドタキャンした。そういうマザコン男は嫌い。
神乃は藍羅の話を聞いていて、お前こそ考えを改めろと思ったが、話の骨を折らないようにと黙って聞いていた。
藍羅は小狡い。だが男の前ではそれを巧妙に隠しているので、みんな藍羅の見た目と小手先の言動に騙されるのだ。きっとヒロくんも藍羅の本性を知らない。知っていたら藍羅の恋人になんかならないだろうから。
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