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38.独身の理由
藍羅はヒロくんは寝ていると言っていたが、神乃が部屋に入るとヒロくんは起きていて、ベッドの端に座っていた。
ヒロくんは神乃の姿を確認するなり「神乃さんっ」と神乃を呼んだ。
「おはようございます、起きていたんですか?」
「おはようございます、寝たフリに決まってるじゃないですか。これ、見てくださいっ」
ヒロくんのスマホの画面をみるよう促された。神乃もヒロくんの隣に座り、画面を覗きみた。
それはSNSの画面で、某保険会社の内輪の内容が書き込まれているようだが、『事務のA子にNTR』とか『A子は不倫してる』などという恨みつらみが並んでいる。
「僕は知りませんでした。社内の男女のいざこざには興味がなく、SNSなんて見たことなかったんです。でもこれ、どう考えても藍羅のことなんです」
「そうなんですね……」
保険会社部外者の神乃だと個人を特定するのは難しいが、見る人が見れば、藍羅のことだと見てとれる書き込みなのだろう。
そんな予感がしていたが、藍羅が犯した罪は仁井のことだけではなかった。人の彼氏でもいいと思えば誘惑して寝取ったり、不倫と知っていて上司の愛人になったりする女のようだ。
「何も知らず、あんな女と結婚しようだなんて、一瞬でも考えた僕が浅はかでした」
ヒロくんは怒っているのかグッと拳を握り締めた。
「だから暴露してやったんです」
「暴露?」
「はい。藍羅の悪行を全部です」
「全部?!」
ヒロくんという人を全然知らないが、実はかなり気性の激しいタイプなのか?!
「藍羅の不倫相手は僕の直属の上司だった人です」
「そうなんですか?!」
「部下には厳しく、上には媚びへつらって自分の出世のことばかり気にしてる嫌な人です。いまの部署に抜擢されて一番嬉しかったのはこの上司から離れられることでしたから」
サラリーマンも楽ではない。日々いろんなしがらみの中、みんな仕事をこなしている。
「あいつの部署と、藍羅の部署に不倫の事実を書いた怪文書メールをばら撒いてやりました」
「うわ……」
明日、ヒロくんの元上司と藍羅が出社したら恐ろしいことが起こるかもしれない。
「社内のゴルフコンペのとき、朝早くから上司の家まで車で迎えに行かされたお陰で住所も知ってます。なので奥様宛にも怪文書を送るつもりです」
て、徹底している……。そこまでするなんてヒロくんの身が心配になるくらいだ。
「この彼氏寝取られの事実も藍羅の上司にあたる、鈴木さんにメールで相談することにしました。藍羅のせいで、うちの部署に精神的にまいっている子がいると。一夜限りの過ちでも許すことができずに、婚約間近の彼氏とも修復不可能になったと。鈴木さんは藍羅の悪行を一切何もご存知ないようだったので、藍羅に対する印象が百八十度ガラッと変わったとおっしゃってました」
「いつの間にそんなに……」
ヒロくんの行動力にも脱帽だ。神乃がヒロくんに藍羅の正体を暴露したのは昨日だというのに。
でもこれで、藍羅はもう今の会社に居場所を失うのではないだろうか。
「復讐ですよ。僕をバカにして見下した罰だ。あいつが落ちぶれる姿を見るまでは絶対に許さない」
ヒロくんの目がやばい。仕返しのためならなりふり構わないという強固な意志を感じる。
神乃としては藍羅がヒロくんに振られて終わりだと思っていた。だがさらに藍羅はヒロくんの壮絶な復讐をくらうハメになる。
まぁ、神乃は藍羅に同情の余地はないとすっかりヒロくんの味方だが。
「俺も俺の復讐のためにヒロく——西嶋さんに協力を持ちかけましたが、藍羅と別れることは正解だと思います」
「はい。全部神乃さんに出会えたから決断できたことです」
よかった。ヒロくんも納得してくれて。
「それと、僕のことはヒロくんと呼んでくださって結構ですよ」
「あ、はぁ……」
神乃は苦笑いだ。ヒロくんにすっかり同志だと思われたらしい。
「僕がどうしてこの年まで独り身だったか理由を話してもいいですか?」
ヒロくんは急にぽつり話し出した。
「僕は女性は苦手なんです。子供の頃からずっと苦手でした。そして好きになるのはいつだって同性でした」
同性……?
「でも相手はノンケって言うんでしょうか? 男に興味なんてなくて、恋愛関係にもなれずにいつも叶わない片想いをしていました」
ヒロくんは神乃の両肩を突然ガッと掴んできた。神乃はヒロくんのほうを向かざるを得ない。
「だから結婚なんてできなくて、でもそれじゃ世間体が保てないので無理に女性と結婚しようとしたんです。相手は誰でもよかったのですが、藍羅だけはナシでしたね。でもそのお陰で、こんな素敵な人と藍羅を恋人交換することができました」
「えっ、あ、あの何か勘違いされてますよね……?」
恋人交換にのってほしいとヒロくんに話はしたが、それは藍羅に言い逃れをさせないためのものであって、本当に交換はしない。ただ藍羅を騙せばいいだけだ。
ヒロくんは神乃の姿を確認するなり「神乃さんっ」と神乃を呼んだ。
「おはようございます、起きていたんですか?」
「おはようございます、寝たフリに決まってるじゃないですか。これ、見てくださいっ」
ヒロくんのスマホの画面をみるよう促された。神乃もヒロくんの隣に座り、画面を覗きみた。
それはSNSの画面で、某保険会社の内輪の内容が書き込まれているようだが、『事務のA子にNTR』とか『A子は不倫してる』などという恨みつらみが並んでいる。
「僕は知りませんでした。社内の男女のいざこざには興味がなく、SNSなんて見たことなかったんです。でもこれ、どう考えても藍羅のことなんです」
「そうなんですね……」
保険会社部外者の神乃だと個人を特定するのは難しいが、見る人が見れば、藍羅のことだと見てとれる書き込みなのだろう。
そんな予感がしていたが、藍羅が犯した罪は仁井のことだけではなかった。人の彼氏でもいいと思えば誘惑して寝取ったり、不倫と知っていて上司の愛人になったりする女のようだ。
「何も知らず、あんな女と結婚しようだなんて、一瞬でも考えた僕が浅はかでした」
ヒロくんは怒っているのかグッと拳を握り締めた。
「だから暴露してやったんです」
「暴露?」
「はい。藍羅の悪行を全部です」
「全部?!」
ヒロくんという人を全然知らないが、実はかなり気性の激しいタイプなのか?!
「藍羅の不倫相手は僕の直属の上司だった人です」
「そうなんですか?!」
「部下には厳しく、上には媚びへつらって自分の出世のことばかり気にしてる嫌な人です。いまの部署に抜擢されて一番嬉しかったのはこの上司から離れられることでしたから」
サラリーマンも楽ではない。日々いろんなしがらみの中、みんな仕事をこなしている。
「あいつの部署と、藍羅の部署に不倫の事実を書いた怪文書メールをばら撒いてやりました」
「うわ……」
明日、ヒロくんの元上司と藍羅が出社したら恐ろしいことが起こるかもしれない。
「社内のゴルフコンペのとき、朝早くから上司の家まで車で迎えに行かされたお陰で住所も知ってます。なので奥様宛にも怪文書を送るつもりです」
て、徹底している……。そこまでするなんてヒロくんの身が心配になるくらいだ。
「この彼氏寝取られの事実も藍羅の上司にあたる、鈴木さんにメールで相談することにしました。藍羅のせいで、うちの部署に精神的にまいっている子がいると。一夜限りの過ちでも許すことができずに、婚約間近の彼氏とも修復不可能になったと。鈴木さんは藍羅の悪行を一切何もご存知ないようだったので、藍羅に対する印象が百八十度ガラッと変わったとおっしゃってました」
「いつの間にそんなに……」
ヒロくんの行動力にも脱帽だ。神乃がヒロくんに藍羅の正体を暴露したのは昨日だというのに。
でもこれで、藍羅はもう今の会社に居場所を失うのではないだろうか。
「復讐ですよ。僕をバカにして見下した罰だ。あいつが落ちぶれる姿を見るまでは絶対に許さない」
ヒロくんの目がやばい。仕返しのためならなりふり構わないという強固な意志を感じる。
神乃としては藍羅がヒロくんに振られて終わりだと思っていた。だがさらに藍羅はヒロくんの壮絶な復讐をくらうハメになる。
まぁ、神乃は藍羅に同情の余地はないとすっかりヒロくんの味方だが。
「俺も俺の復讐のためにヒロく——西嶋さんに協力を持ちかけましたが、藍羅と別れることは正解だと思います」
「はい。全部神乃さんに出会えたから決断できたことです」
よかった。ヒロくんも納得してくれて。
「それと、僕のことはヒロくんと呼んでくださって結構ですよ」
「あ、はぁ……」
神乃は苦笑いだ。ヒロくんにすっかり同志だと思われたらしい。
「僕がどうしてこの年まで独り身だったか理由を話してもいいですか?」
ヒロくんは急にぽつり話し出した。
「僕は女性は苦手なんです。子供の頃からずっと苦手でした。そして好きになるのはいつだって同性でした」
同性……?
「でも相手はノンケって言うんでしょうか? 男に興味なんてなくて、恋愛関係にもなれずにいつも叶わない片想いをしていました」
ヒロくんは神乃の両肩を突然ガッと掴んできた。神乃はヒロくんのほうを向かざるを得ない。
「だから結婚なんてできなくて、でもそれじゃ世間体が保てないので無理に女性と結婚しようとしたんです。相手は誰でもよかったのですが、藍羅だけはナシでしたね。でもそのお陰で、こんな素敵な人と藍羅を恋人交換することができました」
「えっ、あ、あの何か勘違いされてますよね……?」
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