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41.事情
ホテルの部屋に富永とふたりきり。
富永はベッドの端に神乃を座らせ、富永自身は神乃の目の前に立ち、こちらを見下ろしている。
「話すのが遅くなってごめん。でも富永はもうほとんど見抜いてたな。さすが富永だ」
神乃が説明する必要もないくらいに、富永の推測は完璧だった。
「恋人交換なんて言い出したのは藍羅で、俺はそれにのったフリをして、藍羅を逆に騙してやろうと考えたんだ」
「なんで? 俺にはそこがわからない。そんなことして神乃に得はないだろ? 俺を捨てたいならはっきり俺に嫌いだと言ってくれればいい」
「そうじゃない!」
神乃は思わず目の前にある富永の手を掴んだ。
富永へのこの気持ちだけは、疑われたくない。
「俺は藍羅が不相応に手に入れた金を取り戻したかったから。それとあいつが表だけはいい顔して、裏ではどれだけ悪い奴なのか知ってるからそれを今の藍羅の彼氏に暴露してやろうと思って……」
「へぇ。神乃らしくない」
自分でもそう思う。でもどうしても嫌だった。自分のせいで富永が金銭的な負担を受けたことが。
「富永は、俺がまだ仁井と付き合ってる頃、金を払って仁井と藍羅を別れさせようとしたんだろ? それって俺のため?」
「え? あぁ……あのときは仁井があんな酷い奴だとは知らなかったから。神乃にとってはそれが一番幸せなのかと……」
「やっぱり俺のためだ。じゃあ、藍羅から『かみのん動画』とかいう、俺の動画の話をされて、金を払ったのも俺のため?」
「なっ、なんでそんなことまで……!」
富永の動揺っぷりから、富永は神乃に知られないうちに解決することを目論んだのだろう。
いかがわしい動画が存在していたことを知ったら神乃が傷つくと思いやって。
「見たのか?」
「いや! 見てない! 断じて見てない!」
富永は大きくかぶりを振った。そこまで全力で否定しなくてもいいのに。
「いったいどんな動画って藍羅から聞かされたんだ?」
「え? はぁっ?! いやそれは……」
やばい。空想の動画の中の俺はいったい何をさせられていたのだろう。
「ないよ。俺は動画なんて撮られてない。それは藍羅の嘘だ」
「嘘?!」
「うん。富永は騙されたんだよ」
富永が目を泳がせた。
「本当に?! 仁井に目隠しされたことないか?!」
「目隠し……」
思い出してみてもそれはなかったから「ない」と答えると、富永がホッとした顔をした。
「ないならそれが一番いい。仁井のことだから、俺はてっきり……」
富永はどすんと神乃の隣に座った。動画がなかったことに、かなり安心したらしい。
「神乃はその金を藍羅から取り返そうとしたのか?」
「ああ。実はもう取り返した。その支払いの代わりに恋人交換することが条件だったから」
神乃は藍羅から取り返した金額を富永に合ってあるか確認する。確かにその金額で間違いなかった。
「富永にとっては大したことない金額なんだろ? それでも俺は許せなくて……」
「まぁ、そうだけど。若干こんなもののためにって思うし、俺のことなんて心配しなくてもいいし、神乃のためなら藍羅への復讐に手を貸してやってもいいって思うけど」
富永はぐっと神乃に顔を近づけてきた。
「俺を他人に差し出すのは酷い。どうせやるなら俺にひと言言っておいてくれ! そしたらもっと——」
「無理だ。知ってたら藍羅を騙せなかった。富永に演技なんてできるわけがない」
「はぁ? いや、できるだろ!」
神乃は首を横に振る。
富永には無理だと思う。富永は自分で思っている以上に感情が顔と態度に出るタイプだ。
「でもごめん。本当に謝る。朝起きて、俺じゃなくて藍羅がいたらびっくりするなと、富永に悪いなと思ってたんだ」
「ああ。俺は一瞬、藍羅を抱いたのかと思った。藍羅がお前の服を着ているのを見て、そのせいでお前と藍羅を間違えたのかと心臓が止まったよ」
「ごめん……」
「でも、この紐の結び方を見て気がついた」
富永のために用意したスウェットにはズボンに腰紐が付いている。普段は一般的な蝶々結びをするところを神乃はキャンプのときにテントやタープを固定するときにする、もやい結びにした。キャンプ好きな富永なら解くことができるし、この特殊な結び方をしたのは神乃だと気がついてくれるのではと思った。
「それにどんなに酔ってても相手は間違いない。あれは神乃だ」
富永に真っ直ぐ見つめられて神乃は頷く。昨日の夜、富永に抱かれたのは間違いなく神乃だ。
そのときの富永は別人みたいに激しくてかなりドキドキしたが。
富永はベッドの端に神乃を座らせ、富永自身は神乃の目の前に立ち、こちらを見下ろしている。
「話すのが遅くなってごめん。でも富永はもうほとんど見抜いてたな。さすが富永だ」
神乃が説明する必要もないくらいに、富永の推測は完璧だった。
「恋人交換なんて言い出したのは藍羅で、俺はそれにのったフリをして、藍羅を逆に騙してやろうと考えたんだ」
「なんで? 俺にはそこがわからない。そんなことして神乃に得はないだろ? 俺を捨てたいならはっきり俺に嫌いだと言ってくれればいい」
「そうじゃない!」
神乃は思わず目の前にある富永の手を掴んだ。
富永へのこの気持ちだけは、疑われたくない。
「俺は藍羅が不相応に手に入れた金を取り戻したかったから。それとあいつが表だけはいい顔して、裏ではどれだけ悪い奴なのか知ってるからそれを今の藍羅の彼氏に暴露してやろうと思って……」
「へぇ。神乃らしくない」
自分でもそう思う。でもどうしても嫌だった。自分のせいで富永が金銭的な負担を受けたことが。
「富永は、俺がまだ仁井と付き合ってる頃、金を払って仁井と藍羅を別れさせようとしたんだろ? それって俺のため?」
「え? あぁ……あのときは仁井があんな酷い奴だとは知らなかったから。神乃にとってはそれが一番幸せなのかと……」
「やっぱり俺のためだ。じゃあ、藍羅から『かみのん動画』とかいう、俺の動画の話をされて、金を払ったのも俺のため?」
「なっ、なんでそんなことまで……!」
富永の動揺っぷりから、富永は神乃に知られないうちに解決することを目論んだのだろう。
いかがわしい動画が存在していたことを知ったら神乃が傷つくと思いやって。
「見たのか?」
「いや! 見てない! 断じて見てない!」
富永は大きくかぶりを振った。そこまで全力で否定しなくてもいいのに。
「いったいどんな動画って藍羅から聞かされたんだ?」
「え? はぁっ?! いやそれは……」
やばい。空想の動画の中の俺はいったい何をさせられていたのだろう。
「ないよ。俺は動画なんて撮られてない。それは藍羅の嘘だ」
「嘘?!」
「うん。富永は騙されたんだよ」
富永が目を泳がせた。
「本当に?! 仁井に目隠しされたことないか?!」
「目隠し……」
思い出してみてもそれはなかったから「ない」と答えると、富永がホッとした顔をした。
「ないならそれが一番いい。仁井のことだから、俺はてっきり……」
富永はどすんと神乃の隣に座った。動画がなかったことに、かなり安心したらしい。
「神乃はその金を藍羅から取り返そうとしたのか?」
「ああ。実はもう取り返した。その支払いの代わりに恋人交換することが条件だったから」
神乃は藍羅から取り返した金額を富永に合ってあるか確認する。確かにその金額で間違いなかった。
「富永にとっては大したことない金額なんだろ? それでも俺は許せなくて……」
「まぁ、そうだけど。若干こんなもののためにって思うし、俺のことなんて心配しなくてもいいし、神乃のためなら藍羅への復讐に手を貸してやってもいいって思うけど」
富永はぐっと神乃に顔を近づけてきた。
「俺を他人に差し出すのは酷い。どうせやるなら俺にひと言言っておいてくれ! そしたらもっと——」
「無理だ。知ってたら藍羅を騙せなかった。富永に演技なんてできるわけがない」
「はぁ? いや、できるだろ!」
神乃は首を横に振る。
富永には無理だと思う。富永は自分で思っている以上に感情が顔と態度に出るタイプだ。
「でもごめん。本当に謝る。朝起きて、俺じゃなくて藍羅がいたらびっくりするなと、富永に悪いなと思ってたんだ」
「ああ。俺は一瞬、藍羅を抱いたのかと思った。藍羅がお前の服を着ているのを見て、そのせいでお前と藍羅を間違えたのかと心臓が止まったよ」
「ごめん……」
「でも、この紐の結び方を見て気がついた」
富永のために用意したスウェットにはズボンに腰紐が付いている。普段は一般的な蝶々結びをするところを神乃はキャンプのときにテントやタープを固定するときにする、もやい結びにした。キャンプ好きな富永なら解くことができるし、この特殊な結び方をしたのは神乃だと気がついてくれるのではと思った。
「それにどんなに酔ってても相手は間違いない。あれは神乃だ」
富永に真っ直ぐ見つめられて神乃は頷く。昨日の夜、富永に抱かれたのは間違いなく神乃だ。
そのときの富永は別人みたいに激しくてかなりドキドキしたが。
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