浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖

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7.真相

「俺があの日一緒にいたのは環の彼氏!」

 ん? どういうことだ……?

「バイトの飲み会のときに俺は、環と環の彼氏になった同じバイト先の俺の後輩に『実は俺達付き合ってます』ってカミングアウトされたんだよっ。俺は昔、環に言い寄られた時に、男の恋人がいることを話したから、なんか色々相談されちゃってさ……」

 環は遠堂に迫っていたが、遠堂に恋人がいると知り、諦めた。そして今はもう新しい彼氏が出来てたのか。

「久しぶりに会った環はすげぇ幸せそうだったよ。やっぱり恋人が出来るとどこかキラキラしてるよな」

 環は別人みたいだったと遠堂は言っていた。あれはそういう意味だったのか。

「環の彼氏はさ、もともとノンケで環が初めての男の恋人でさ。あの、男同士のやり方がわからないみたいな相談をされて……。それで、俺の部屋でふたりでエロ動画を……」
「はぁっ?」

 エロ動画……?!

「最初は俺のレクチャーだったんだけど、その話が結構盛り上がってちょっとだけそういう動画を見て研究しようってことになって……」
「お前、いったいなんの話をしたんだよ……」

 環の彼氏に何をレクチャーした?!
 まさかふたりの恥ずかしいことを話したりはしてないだろうな!

「だ、大丈夫。誓って紀平に恥はかかせてないっ。誰が大事な紀平のことを他の男なんかに話すかよ!」

 大事……に思ってくれてるのか?

「つまり俺が聞いた変な声は動画だったってことか……?」
「それを聞いて紀平は勘違いしたのか……。そんなの見てるなんて紀平が知ったら、俺のこと嫌いになるだろ? だから紀平が帰ってくるまでには退散するように、みたいな感じで、なんにもなかったことにしたかったっつーか……」
「確かにいい気はしないけどさ……」
「ごめん。お前がいないうちに全部内緒で終わらせようとしたんだ」
「じゃああの日なんでシーツなんか洗ってたんだよ。お前が洗濯するなんて珍しくないか?」
「へっ……? あれは環の彼氏が帰ったあと俺が汚したから……」
「なんで?」
「い、いやその……妙な気持ちになって、ひとりで……お前の写真を使って……」

 遠堂は歯切れが悪い。多分これは察するに自慰、ということか……?

「俺の写真でそんなことを……」
「だって紀平はいないしさ、そうするしかねぇじゃん……」

 エロ動画を観て自慰して。たしかに恋人に言えるようなことじゃない。

「でもそのせいで、紀平は俺が浮気をしたって勘違いしたんだな……。気付いてたなら、黙ってないで俺に言ってくれたらすぐに説明できたのに。そもそも俺が浮気したって思ったなら、俺を責めろよ! 黙って見なかったことにするとか、あり得ねぇんだけど。お前、俺が浮気しても構わねぇの? 浮気した俺とでも、まだ恋人でいたいって思ってくれてたのか?」
「えっ……」

 さっきまで遠堂と別れる気満々だったけど、今の遠堂の話が本当なら、遠堂は浮気はしていないことになる。さっきまでの決別の覚悟が揺らいできた。



「紀平。俺は昨日、バイトが終わったあと、日付が変わる前には家に帰るって思ってたんだ。バイトだってホントはやりたくなかったけど、店長の奥さんが妊婦で、破水したとかなんとかで、それでも店長が仕事するっつー話をアルバイトリーダーから聞いて、『俺今日バイト入れます。だから奥さんのとこ行って下さい』とかカッコつけちゃったんだよ!」
「遠堂はお人好しだもんな……」

 昔から人にすぐ手を差し伸べる、自分本位になれない遠堂のことを優しい奴だなと思って、そんなところにも惹かれたことを紀平は思い出した。

「お前は記念日なんてどうでもいいタイプかもしれないけど、俺は毎年お前の誕生日だけはどんな形になったとしても祝うって決めてたから、バイトの後急いで家に帰ろうとしたんだ。でも俺がバイトを終わるのを待ち構えてた男がいたんだよ。俺がこの世で一番嫌いな奴、宮内だ」
「宮内が?!」

 昨日の夜、遠堂は宮内と一緒だったのか。

「あいつムカつくわ。最低だぜ? 紀平があんな奴と友達だなんてマジで許せねぇ。てか宮内はお前のこと友達だなんて思ってねぇよ。お前にベタ惚れだ。お前が好きすぎて四六時中お前のことばっかり考えてる。紀平には俺がいるのによく人の恋人に手ェ出そうとするよな! 最低野郎だよ!」

 宮内は、紀平から遠堂の浮気の話を聞いてからアプローチをかけてきた。そこまで最低野郎ではないんだけどな、と思うが、それを今、遠堂に言ったら大変なことになりそうで紀平は口をつぐむしかない。

「宮内と公園で話すことになってさ、そしたらあいついきなり『紀平と別れろ。これ以上紀平を苦しめるな』とか言い出しやがって、ムカついたからぶん殴ったら、宮内もやり返してきやがって! 二十歳過ぎて本気で殴り合いのケンカするなんて思わなかったよ」

 遠堂の怪我は、宮内との殴り合いのときのものだったのか。

「そしたら誰が通報したのか知らねぇけど、警察が来ちゃってさ。そのまま連行されてグダグダやってるうちに、紀平に会えないまま、お前の誕生日が終わっちゃったんだよ! 今考えると宮内は確信犯じゃないのか?! 俺が紀平に会えないようにあいつが邪魔したんだ! そうに決まってる!」

 遠堂の話によると、最初に殴ったのは遠堂。宮内はやり返しただけだろと思ったが、それも遠堂に言うのはやめた。宮内を庇うような発言は控えたほうがいい。



 ひとしきり興奮状態で言い訳を並べた遠堂は、呼吸を整えてから紀平に向き直る。

「こんなに紀平と言い合うのも、なんか久しぶりだな。さっきみたいにお前に怒られるのも久しぶりで嬉しかったよ」

 紀平もそうだが、遠堂もひとしきり感情を吐き出したお陰で落ち着いた様子だ。



「俺さ、ケンカの後も宮内と少しだけ話をしたんだ」

 遠堂の声はいつもの優しいトーンに戻っている。

「あいつはすげぇよ。見た目も性格もいいけど、紀平に対する想いも本物だしさ、紀平があいつに惹かれるのもわかる。紀平は前からよく宮内の話を俺にしてたよな。俺はそれをいつもイライラしながら聞いてたけど、あいつの話、面白いもんな。あれじゃ一緒にいて楽しいはずだ。それに紀平の好きなものとか、苦手なものとか、俺よりもよく知ってたよ。比べて俺は、お前を不安にさせてばっかりで、それでもお前を繋ぎ止めたくて、誕生日すらまともに祝ってやれない。宮内を知ったら、どっちが紀平の恋人に相応しいかをはっきりと突きつけられたみたいで怖くなった」

 紀平は反対に思うことがある。死ぬほど嫌いだと思っていた奴の長所をきちんと認められる遠堂もすごい。

「夜中だったし、まさか紀平が起きて待ってるなんて思わなかったしさ、今後の俺たちのことをひとりで悶々と考えちゃって、お前のいる家に帰れなかった。そしたら朝になって紀平から『別れよう』のLINEが来て、俺は覚悟を決めたんだ」

 迷っていても遠堂にはとりあえず家に帰ってきて欲しかった。遠堂はいつも紀平を想うがゆえにひとりで悩んだり、嘘や隠し事をすることがある。変に気を遣わずにいつだって何でも相談して欲しい。

「そこに置いてあるプレゼントはきっと宮内からだ。家のポストに入ってたんだ。一瞬、捨ててやろうかと思ったけどGUCCIって文字見てもったいないからやめた。あいつ、昨日紀平に会いに来てたんだな。紀平は宮内に会ってないのか?」
「会ってない。宮内がここまで来てたことも知らなかった」

 宮内は家まで来て、紀平の電話もLINEも反応がないからプレゼントと手紙を残して引き返したのだろうか。そしてそのまま遠堂に会いに行ったのかもしれない。

「なんで会わなかったの? まだ俺と別れてなかったから? 本当に律儀な奴だな、紀平は」

 そうじゃない。あの日紀平は遠堂が帰ってきてくれると信じていたから、宮内に会う気にならなかっただけだ。

「俺としては、最後までちゃんとお前の恋人でいさせてもらえて死ぬほど嬉しいけどさ」

 最後——。その言葉、紀平の心に何か引っかかる。

 このまま遠堂と別れるのか?
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