暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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一度めの夜

4. ※

 カイルの部屋にふたりきりになった。扉の向こう側には兵士が構えているものの、ユリスの望んでいた暗殺の機会が訪れたのだ。

 だがユリスの困ったことに、さっきまでの話を聞いて暗殺の決意が揺らいでいる。
 カイルは愚王だと思っていたからこそ、暗殺すべきと思っていたのに、それは間違っているのではないか。
 カイルを知るにつれ、どうしてもカイルが悪者には思えなくなってきた。悪者どころかもし本気でカイルがユリスを望んでくれているのだとしたら、そしてアルファとオメガが結婚できる世の中ならば、カイルの妃になってもいいと思ってしまうくらい。

 ——それはない!

 会って間もないカイルを信用して、祖国を裏切るなんて可笑しな話だ。
 ただいつもより対象者と長く過ごしたから情がわいただけ。これは王命なのだから、相手のことなど深く考えずにさっさと任務を遂行して国に帰ればいい。
 いつものように色香でアルファの男を誘い、油断した相手を殺す。それだけのことだ。




「ユリス。ア、アレクの言うことは気にするな。さっきも言ったようにケレンディアでは無理に結婚させられることはない。それが例え国王でもそうだ」

 アレクはどこかぎこちない。

「お、俺はその気で連れてきたが……あの……ユリスはユリスが好きな人と結婚すべきだし、俺の求婚は断ってくれてもいい……いや、やっぱり少しでもいいと思うなら受け入れて欲しいというか……」

 カイルはなぜか頬を赤らめている。いつも威風堂々とした西国ケレンディアの国王のこんな姿をレオンハルトが見たら卒倒しそうだ。

「正式な求婚もまだだったな」

 カイルはユリスを優しい瞳で見つめてくる。

「俺はユリスを我が妃に迎えたい。即位して一年、ユリスを迎え入れる準備を整え、やっとこうして会うことができたのだ。ユリスが許してくれるのならば、城に戻ったときに皆にユリスを妃と話してもよいだろうか」

 真っ正面から言われて心が震える。
 まさか自分が誰かと結婚するなんて未来は考えたこともなかった。
 だがよりによって相手はカイルだ。
 カイルはこれから殺さねばならない相手なのに。

「カイル様……」

 カイルの翡翠色の目を間近で見ていたら、ユリスの身体に異変が訪れた。ドキドキと心拍数が上がり、身体が熱くなってくる。
 この感覚は間違いない。薬の効果が現れ始めたのだ。


「ユリス……? どうした……?」

 はぁはぁと息を切らすユリスを見て、カイルが心配そうな顔をする。

「カイル様。すみません……私はヒートの発作が起きることがあるんです……」
「オメガのヒートか……」

 カイルの目つきが変わっていくのがわかる。ユリスのフェロモンに当てられて発情しているようだ。

「どうか人払いをお願いします……」

 ユリスが弱々しく懇願すると、カイルはすぐに扉の向こう側にいた兵にここから離れるように命を下した。
 これで多少の物音なら誰にも気がつかれないし、ユリスが逃げ出すときも楽になる。

「ユリスからすごくいい匂いがする……これは、もう……」

 アルファのカイルはオメガのフェロモンには抗えないようだ。

「カイル様。私を抱いてくださいませんか……? 身体が、苦しくて……」

 ユリスはいつもどおりに暗殺対象となるアルファをベッドに誘う。
 ここまではユリスの思ったとおりだった。


 薬の効果とはいえ、ヒート状態なのだから、ユリスの身体も欲情する。でもそれはいつも自制できる程度のものなのに、なぜか普段以上に身体がどんどん熱を帯びてくる。

 ——薬の量を間違えたか……?

 いや、そんなことはない。いつも飲んでいる薬をきちんと小分けにして瓶に詰め持ってきたのだから。

「はぁ……はぁ……」

 ドクンドクンと心臓が激しく動くのがわかる。こんなことは初めてだ。
 下半身も熱い。本来のヒートとはこんなに身体が反応するものなのか。
 アルファの匂いがたまらなく欲しくなり、思わず目の前にいるカイルにすがりつく。

「ユリス。俺がすぐに楽にしてやる」

 倒れそうな身体をカイルの両腕でぐいっと抱え込まれた。
 カイルと接近して身体はさらに熱くなる。気がつけば自力で動けないくらいにひどくなっている。

 ——どうしよう……!

 これでは暗殺どころではない。
 いつもはベッドに連れ込まれたところで、行為に至る前に何かしらの方法で相手を仕留めることができていたのに。

 このままでは、身体をカイルのいいようにされてしまう。作戦は失敗だ。早くこの場から逃げなければと思っているのに、ユリスを抱えるカイルの腕からも逃れられない有り様だ。

「ああっ……」

 苦しい。身体が震え出した。今すぐに身体を触ってほしい。醜い欲望を吐き出してしまいたい。
 心とは裏腹に本能が自分の中で暴れ出すのがわかる。

「大丈夫か?!」

 ベッドに下ろされた頃にはもうユリスは自ら身体を起こすことすらできないくらいの状態だった。
 その熱った身体をカイルに抱き締められ、たまらない気持ちになる。
 すぐ近くにアルファの匂いと体温を感じる。こうしてベッドの上で抱かれているだけでも身体が楽になっていくのを感じる。

「はぁっ……はぁ……」

 駄目だ。しっかりと自分を保たないといけないのに、目の前のアルファのフェロモンのせいか、ぼうっとしてきて何も考えられなくなる。

「薬……」

 そうだ。抑制薬があることを思い出した。
 ユリスは身につけていたマントをむしりとり、ベストのボタンを震える手で外していく。薬はベストの裏ポケットにひっそりと一錠だけ隠し持っている。

「薬? どこにある?」

 カイルがユリスを手伝い、ベストのボタンをすべて外す。

「ここに……」

 ユリスがその場所を示すと「これか?!」とポケットの中から錠剤を取り出し、カイルは薬をユリスの口に運ぶ。

「水を持ってくるっ」

 カイルは水瓶からグラスに注いだ水を持ち、ユリスの身体を抱き起こして飲ませようとする。
 だが身体が震えて上手く飲めない。

「ユリス。許せ」

 カイルは自ら水を口に含み、ユリスの唇まで運んできた。
 唇と唇を重ね合わせる。カイルのその柔らかな唇の間から冷たい水が流れてくる。
 カイルはユリスの介助をしているつもりなのだろうが、これは甘美なキスみたいだ。こんなことをされるなんて思ってもみなかった。

「んっ……」

 カイルから与えられた水でなんとか薬を飲み込んだ。薬を飲んだのだから、あとは早く身体が収まってくれれば——。

 そう思っているのに、一向に身体の熱が収まらない。次第にユリスの意識が朦朧としてきた。

「ユリス大丈夫か?!」

 カイルに背後から声をかけられるが、振り返り反応する余裕もない。
 この熱を解放する方法は知っている。すっかり反応を示している下半身をなんとかすることだ。

 ユリスは耐えきれずに自らのものに手をのばす。普段は抑制薬を飲んでヒートが起きないようにして生活しているし、暗殺のため、誘発薬を使ってもこんな目に遭ったことはない。こんなに熱くなるのは初めての経験だ。


「ユリス。お前を決して傷つけたりしない。だから触れてもいいか……?」

 カイルがユリスの手に触れる。そんなことは駄目だと心では思っているのに身体がそれをものすごく欲している。

 やがてユリスの手に代わり、カイルの手がユリスの下半身に触れる。

「ああっ……!」

 それだけでどうしようもなく感じてしまう。

「ユリス。俺に身を委ねてくれるか?」

 後ろから抱き締められ、衣類を緩められる。

「はぁ……はぁ……」

 息が絶え絶えになる。自分の身体が自分のものではないみたいだ。

「大丈夫だ。すぐに楽にしてやる」

 ズボンを下げられ、カイルの温かい手でそこを握られると、つい艶めかしい吐息が漏れてしまう。

「やぁ……っ。そんなこと……」

 こんな恥ずかしいことはない。出会ったばかりの男に自らの淫らな姿をさらすなんてどうかしている。

「ユリス。さっきは俺に抱いてくれって言ってたのに、急に恥ずかしくなったのか?」

 違う!
 と頭の中でユリスは叫んでいる。さっきのは暗殺のためのいつもの誘い文句であって、実際に行為をする気なんてなかった。

「やめっ……」

 なけなしの理性がやめろと訴えてくるが、ユリスの身体はカイルからの刺激を正直に求めている。

「大丈夫。怖くない。ユリスはただ感じてくれればいいから」

 耳元で甘く囁かれ、下半身は丁寧に上下に扱かれる。

「あっ……もうっ……はぁ……ん……」

 いつもは薬で強制的にヒートを起こしても自ら収めたりしない。それもまた任務を終えたあと薬で無理矢理抑え込んでいた。
 だから、ヒート中の欲望を叶えることがこんなにも気持ちのいいことだとユリスは知らなかった。


「はあっ……こんなの……」

 甘美な刺激に身体を何度もピクつかせ、身体はすっかりカイルにされるがままだ。

「こんなの初めてか? 気持ちよければこのまま俺の手に出していい。そうすると楽になる」

 カイルの手に放つ……。そんなことはできないとユリスはふるふる頭を横に振るが、ユリスのそこはすっかり勃ち上がっている。

「ユリス。大丈夫。お前のそばには俺しかいない。好きにしていいんだ」

 カイルに抱き締められ、温かな手で扱かれユリスは絶頂へと導かれていく。

「もう……ああっ……!」

 ヒートの身体でこれ以上の我慢などできなかった。
 ユリスは白濁をカイルの手の中に解き放った。
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