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番外編『忘れられたオメガは番を愛せない』
2.優しい朝
朝の光の中、まどろんでいた俺のもとに優しいキスが落ちてきた。
「おはよう、ノア」
俺の名前を呼ぶ優しい声がする。
聞き覚えのある、大好きな声だ。
低く穏やかな声の持ち主はライオネル・バーノン。俺の夫で、アルファの番。
そう。俺の一番大切な人だ。
「そろそろ起きてくれ。約束に遅刻してしまうぞ」
ゆらゆらと肩を揺さぶられても、瞼は動かない。昨夜、ライオネルのやつが妙に張り切ってきたからすごく疲れたんだ。
毎日一緒にいるんだから、あんなに何度もすることないだろ。……まぁ、すごく気持ちよかったけど。
「ノア」
温かい手のひらが頬を挟むようにして添えられる。そして唇にもう一度、柔らかなものが触れた。
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前にはライオネルの整った顔があって、穏やかな笑みを浮かべている。さっき俺にキスを与えてきた唇は「お目覚めか?」と語りかけてくる。
「おはよ、ライオネル」
寝起きの鈍い手をぎこちなくライオネルの頬に伸ばすと、ライオネルはそれに応えて俺の手を大きな手のひらで包み込んできた。
「キスして起こすなんて」
「寝顔をずっと眺めていたらつい。だって可愛いんだ。こんなに愛おしい寝顔は他にない。毎日が夢の中にいるみたいだ」
「またそんなこと言ってさ」
ライオネルは冗談抜きに毎日、夢のようだ、夢のようだと言ってくる。
まぁ、気持ちはわからなくもない。ライオネルは三十歳までしか生きられない呪いをかけられていたし、俺とライオネルがこうして結婚して気持ちを通わせていることも奇跡みたいなものだと思う。
俺がライオネルに初めて出会ったのは九歳。そんな昔の純粋だった思い出を拗らせて、複雑な感情を抱えたままライオネルと政略結婚することになった。
本当は、俺は何もかもをライオネルから奪ってやるつもりだった。でも、気がつけば俺はこうしてライオネルのそばにいるし、今ではライオネルのためならなんだってできる、この命さえも惜しくないと思うくらいに惚れている。
好きな人に、好きになってもらえる幸せ。
それは俺も夢のようだなとは思ってるけどさ。
「可愛いノアをずっと眺めていたいが、そうもいかない。今日は王都に行くのだろう?」
「あー、うん」
目覚めたばかりの鉛のような身体をなんとか起こし、乱れた髪を手櫛で整える。
そうだった。ライオネルの言うとおりだ。
ライオネルが無事に三十歳の誕生日を迎えて、俺たちが番になってからひと月が過ぎ、辺境の地でライオネルと甘々イチャイチャ……いや、人々の生活を守るため公務に邁進していた俺のもとに、中央にいるこの国の王、マードック陛下から王命が届いた。
今、第一王子が謎の奇病にかかっているそうだ。
発熱と激しい咽頭痛に見舞われる病で、もっとも特徴的なことは、時々悪魔言葉のような謎の言語をつぶやき、奇妙な行動をするらしい。
俺に与えられた使命は、この原因を解明し、奇病にかかっている第一王子を治すことだ。そのための知恵を絞り、解決に向けて行動するためのメンバーが招集されるらしいんだけど、その中のひとりに俺が選出された。
陛下が俺の何を買ってくれたのかはわからない。でも、ライオネルの冤罪を訴えたとき、平等な裁きをしてくれた陛下から力を貸してほしいと言われたら断れないよ。
でも、それに不満げな様子を見せたのはライオネルだ。
「それにしてもなぜ俺ではなくノアなんだ」
そうなんだ。選ばれたのは俺だけ。ライオネルは辺境の地においてけぼりだ。
「ライオネルには辺境伯としての仕事があるからな」
「いいや、今やバーノン公爵の爵位を持っているのはノアだ。なぜノアが危険な任務につき、俺が城を守らねばならないのか。普通は反対だ」
「まぁまぁ。適材適所って言うだろ。今回の敵はモンスターじゃなくて病なんだから、ライオネルの剣の腕は必要ないっていうか……」
そこまで言って俺は口をつぐむ。ライオネルに思い切り睨まれたからだ。
「ノアにとって俺は、いてもいなくてもいい存在なのか?」
「そんなことは言ってない。ライオネルにはライオネルの役割があるって意味」
ぽんと肩を叩いてやっても、ライオネルは拗ねた子どもみたいな顔のまま「不安で夜も眠れない」と泣きごとを言った。
「おはよう、ノア」
俺の名前を呼ぶ優しい声がする。
聞き覚えのある、大好きな声だ。
低く穏やかな声の持ち主はライオネル・バーノン。俺の夫で、アルファの番。
そう。俺の一番大切な人だ。
「そろそろ起きてくれ。約束に遅刻してしまうぞ」
ゆらゆらと肩を揺さぶられても、瞼は動かない。昨夜、ライオネルのやつが妙に張り切ってきたからすごく疲れたんだ。
毎日一緒にいるんだから、あんなに何度もすることないだろ。……まぁ、すごく気持ちよかったけど。
「ノア」
温かい手のひらが頬を挟むようにして添えられる。そして唇にもう一度、柔らかなものが触れた。
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前にはライオネルの整った顔があって、穏やかな笑みを浮かべている。さっき俺にキスを与えてきた唇は「お目覚めか?」と語りかけてくる。
「おはよ、ライオネル」
寝起きの鈍い手をぎこちなくライオネルの頬に伸ばすと、ライオネルはそれに応えて俺の手を大きな手のひらで包み込んできた。
「キスして起こすなんて」
「寝顔をずっと眺めていたらつい。だって可愛いんだ。こんなに愛おしい寝顔は他にない。毎日が夢の中にいるみたいだ」
「またそんなこと言ってさ」
ライオネルは冗談抜きに毎日、夢のようだ、夢のようだと言ってくる。
まぁ、気持ちはわからなくもない。ライオネルは三十歳までしか生きられない呪いをかけられていたし、俺とライオネルがこうして結婚して気持ちを通わせていることも奇跡みたいなものだと思う。
俺がライオネルに初めて出会ったのは九歳。そんな昔の純粋だった思い出を拗らせて、複雑な感情を抱えたままライオネルと政略結婚することになった。
本当は、俺は何もかもをライオネルから奪ってやるつもりだった。でも、気がつけば俺はこうしてライオネルのそばにいるし、今ではライオネルのためならなんだってできる、この命さえも惜しくないと思うくらいに惚れている。
好きな人に、好きになってもらえる幸せ。
それは俺も夢のようだなとは思ってるけどさ。
「可愛いノアをずっと眺めていたいが、そうもいかない。今日は王都に行くのだろう?」
「あー、うん」
目覚めたばかりの鉛のような身体をなんとか起こし、乱れた髪を手櫛で整える。
そうだった。ライオネルの言うとおりだ。
ライオネルが無事に三十歳の誕生日を迎えて、俺たちが番になってからひと月が過ぎ、辺境の地でライオネルと甘々イチャイチャ……いや、人々の生活を守るため公務に邁進していた俺のもとに、中央にいるこの国の王、マードック陛下から王命が届いた。
今、第一王子が謎の奇病にかかっているそうだ。
発熱と激しい咽頭痛に見舞われる病で、もっとも特徴的なことは、時々悪魔言葉のような謎の言語をつぶやき、奇妙な行動をするらしい。
俺に与えられた使命は、この原因を解明し、奇病にかかっている第一王子を治すことだ。そのための知恵を絞り、解決に向けて行動するためのメンバーが招集されるらしいんだけど、その中のひとりに俺が選出された。
陛下が俺の何を買ってくれたのかはわからない。でも、ライオネルの冤罪を訴えたとき、平等な裁きをしてくれた陛下から力を貸してほしいと言われたら断れないよ。
でも、それに不満げな様子を見せたのはライオネルだ。
「それにしてもなぜ俺ではなくノアなんだ」
そうなんだ。選ばれたのは俺だけ。ライオネルは辺境の地においてけぼりだ。
「ライオネルには辺境伯としての仕事があるからな」
「いいや、今やバーノン公爵の爵位を持っているのはノアだ。なぜノアが危険な任務につき、俺が城を守らねばならないのか。普通は反対だ」
「まぁまぁ。適材適所って言うだろ。今回の敵はモンスターじゃなくて病なんだから、ライオネルの剣の腕は必要ないっていうか……」
そこまで言って俺は口をつぐむ。ライオネルに思い切り睨まれたからだ。
「ノアにとって俺は、いてもいなくてもいい存在なのか?」
「そんなことは言ってない。ライオネルにはライオネルの役割があるって意味」
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