策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖

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番外編『忘れられたオメガは番を愛せない』

26.同じ気持ち


 部屋に着くなりライオネルは「すまなかった」と俺に謝ってきた。

「ゲランドールと一緒にいるノアを見て、無性に腹が立った。俺がノアを追い出したようなものなのに、どうしても許せなかった」
「悪いことはされてないよ。公爵はきっと俺を慰めようとしてくれてただけだ」

 ゲランドールからは悪意のようなものは感じなかった。それなのにライオネルは「あいつに気をつけろ。ゲランドールは何を考えているかわからない恐ろしい男だ」と俺に忠告してきた。
 ライオネルの心配性は相変わらずみたいだ。

「ノア、泣いたのか?」

 ライオネルは俺の顔を覗き込み、涙の痕跡探しをしているみたいだ。「目が赤い」と不安げな目をする。

「だから、大丈夫だって」
「いいや、ノアを泣かせるなんてダメだ。さっきは本当に申し訳ないことをした」

 さっきって、あれだよな。俺から抱いてっていったくせに、逃げ出したこと。 

「ノアに怖い思いをさせてしまった」
「怖くなんてなかった」

 言葉をかぶせるようにすぐに反論する。

「あれは、その、以前のライオネルと違うと思って。そうしたら、なんか悲しくなって……俺のほうこそ、ごめん」

 急に飛び出していったら気にするよな。本当にライオネルに悪いことをした。

「いいや、俺が悪いんだ。ノアは何も悪くない。い、今だから白状する」
「んっ?」

 なんだ、どうしたんだ急に。

「実は、恋人のことを忘れてしまった男の話があってだな。それはもちろん作り話なのだが、その話では、よ、夜の行為をしたら記憶が戻ったとなっていて、それで……」

 あれ。その話、俺の思っていたことと一緒だ。

「はっきり言うと、ノアに下心があった。本当にすまない。あんなよこしまな気持ちを抱えていたら、ノアに逃げられて当然だ」

 ライオネルはクソ真面目に謝ってくれている。こんな可愛らしい男には、早く俺の気持ちを伝えないと。

「ライオネル、実は俺もなんだ」

 ちょっと恥ずかしいけど、言わなくちゃ。

「俺も、え、エッチなことしたら、もしかしたらライオネルの記憶が戻るかなって……」

 やっばいぞ、これは恥ずかしい。
 ライオネル、よくこんなこと俺に白状できたな。この恥ずかしさは尋常じゃないぞ。

「ノアもっ?」
「え、あ……う、うん……」

 顔が熱い。お伽話を信じて性交にこぎつけようとしただなんて、本当に恥ずかしい。

「嘘だろう。お前は絶対にそんなタイプじゃない。俺の知るノアは、初心なオメガだ」
「俺の、知るノア……?」
「ああ。数日ノアと過ごしてきて、そのくらいはわかるようになった。ノアは可愛い。座っているとさりげなく俺にくっついてくるし、その綺麗な瞳で常に俺のことばかり見ている。それなのに俺が視線を合わせると、急に頬を赤くして……」
「へっ?」

 バレてる、俺の行動がいろいろライオネルにバレてる!

「政略結婚の夫に、こんなことをするか? あまつさえ俺が誘ったら抱いていいと言う。これに落ちない男がいるはずがない」
「それって……」

 それって、どういう意味だろう。はっきりとしたことが知りたくて、じっとライオネルを見上げる。
 ライオネルは咳払いをひとつしたあと、緊張の面持ちで俺を見返してきた。

「つまり、だな。俺はノアに恋をした」

 見ればライオネルの顔は紅潮している。照れながらも、気持ちを伝えようとしてくれているのがわかる。

 もう一度、俺を好きになってくれた……?

「以前の俺たちがどう過ごしていたかはわからない。政略結婚だからそれなりの距離感を保っていてのかもしれない。ただ言えることは、今の俺はノアが好きだ」

 突然の告白に胸が震える。
 ライオネルが、ライオネルが俺を好きだって。

「本当に?」
「あぁ、本当だ」
「そしたら俺のこと捨てたりしない?」
「捨てる? なぜそんなことを」
「だって俺のこと覚えてもないのに、好かれても迷惑かなって思ったし……俺、気持ちを表すのはすごく、苦手で……」

 ライオネルに忘れられたことを知ったとき、途方に暮れた。
 だって俺たちの関係はライオネルの溺愛あってこその関係だったように思えた。
 好きって言わなくてもライオネルは俺を好きでいてくれたから。素直じゃない俺はそれに甘んじていただけ。
 それなのに、ライオネルの気持ちが消えてしまったらどうなる? 関係が破綻するに決まっている。

「何を言う、ノアはとても可愛かったぞ」
「か、かわ……っ」
「最初は政略結婚の嫁だから無理に一緒にいるのかと思っていたが、ノアの態度を見ていると、どうやら違ったみたいだな。もしかしたら、俺たちはお互いに気持ちを通わせていたのではないか?」

 ライオネルに言われて、俺はまた泣きそうになる。
 ああ。そのとおりだよ。
 政略結婚から始まった俺たちの間には、何よりも固い絆があった。

「ノアは以前の俺のことが好きだったのだろう?」

 そう問われて違うとは言えなかった。俺は静かに頷いた。

「好き、だったよ。ライオネルは覚えていないだろうけど、俺は十年前からずっと、ずっとライオネルのことが好きだった」

 政略結婚してからライオネルを好きになったんじゃない。好きだから、政略結婚したんだ。
 俺の憧れも、愛しい人も、この世でたったひとり、ライオネルだけ。 
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