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番外編『忘れられたオメガは番を愛せない』
51.ライオネルの抱っこ
ライオネルは全然、俺を解放してくれない。俺を抱えたまま、城内を平気な顔で歩いていく。
結構な視線を感じる。でも降ろしてもらえないなら、抵抗するよりしっかりライオネルに掴まって身体を預けた方が楽だろうなという気持ちになり、俺はライオネルに寄りかかることにした。
「これは王命だからな」
何か言いたげな俺の視線に気がついたのか、ライオネルは急に言い訳をしてきた。
「王命って、陛下は連れ帰れって言っただけだろ?」
「だから連れ帰っている。ノアを抱えたら、陛下は大変満足そうな顔をされていたぞ。これは陛下の御心を察してしていることだ」
無理矢理こじつけた感じもあるけど、まぁ、抱えられていると歩かなくていいから楽だしいいか。
「ノアもそろそろ俺に運ばれることに慣れたか?」
「は?」
「早く慣れてくれ。これは俺の幸せな時間なんだ」
「嘘だろ……」
運ばれるほうは楽だけど、運ぶほうは重くて大変だろ。そう思うから少しでも負担をかけないようにライオネルにくっついているのに。
「こうしていると、ノアを手中に収めたと思えるのだ。そしてこうして外を歩くことでいい牽制になる。いつどこにノアを狙う不届き者がいるかわからないからな。誰にもノアを渡す気はないと主張の意味もある」
「牽制って」
番ってるんだから俺を狙う奴なんていないよ、と言いかけてやめた。
ゲランドールのことを思い出したんだ。この世にはバース性を凌駕してくるようなことも起こり得る。
あのままライオネルが来てくれなかったら俺はどうなっていたんだろう。考えるだけで怖くなってきた。
「それに、こうしていればノアをいつでも守ってやれる」
ライオネルは俺に微笑みかけてきた。まるで俺の気持ちを見透かしたようなタイミングで、ハッとする。
なんでわかるの、たった今、俺が不安になったって。
「俺は死んでも生き返る、不死身のライオネルだからな」
「冗談はやめてくれ」
ライオネルは自分を死んだことにして姿を消し、俺に爵位を譲ろうとしたことがある。そのときのことを冗談めいて言っているのだろう。
「わかったわかった、もうノアの前から消えたりしないよ」
あのときのことをこうやって笑って話せるときが来たことを嬉しく思う。
ライオネルは俺のことは忘れても、姿を消していた事実は覚えていたんだな。
部屋に戻ってきたあとは、俺とライオネルはふたりきりだ。
記憶を失ったばかりのときはふたりきりが気まずく感じたけど、今はもう大丈夫。慣れたものだ。
ソファーでくつろいでいたライオネルは、俺を呼ぶ。呼ばれてライオネルの隣に座ろうとしたら、「そこじゃない」とライオネルに注意された。
「ノア、ここに来い」
ライオネルは自分の太腿を叩いて手を伸ばしてくる。
え?
ライオネルの膝の上に座れって?
「近くがいい。できるだけ俺の近くにいてくれ。有識者の話では、記憶を取り戻すにはできるだけ接触が多い方がいいらしい」
そんなことを言われたから断れない。俺のことを思い出すきっかけになるなら、できるだけ協力したい。
「じゃ、じゃあ、失礼します」
おずおずとライオネルの膝の上に乗ると、ライオネルは不安定な俺を支えるように腕を回してくる。
最初は子どもみたいで恥ずかしいと思っていたけど、これ、悪くない。
近いな。目線も合いやすいし、感じる体温が心地いい。
「ノアの髪はいい匂いがする」
俺の髪に鼻を寄せ、ライオネルはご満悦の様子だ。
「くすぐったいよ」
「五感を刺激するのはいいと聞いたのだ。少しだけ我慢してくれ」
「わかった。好きにしろ」
そうだな。俺はそれも聞いた。感覚から記憶が戻ることもあるって。
髪の匂いをスンスンされるくらいなんだ。恥ずかしがってる場合じゃないな。
俺の匂いを堪能したライオネルは、今度は「顔が見たい」と言って俺の顔を覗き込んでくる。
こんな至近距離でじっくり見られるの、落ち着かない。視線をどうしたらいいかわからなくなって、目があちこち泳ぐ。
「触れてもいい?」
「う、うん」
それも恥ずかしいけど、ダメとは言えない。ライオネルは頑張って記憶を取り戻そうとしてくれているに違いない。
ライオネルは俺の鼻に指で触れてきた。その指は頬を伝う。
「ノアのまつ毛は綺麗だ」
ライオネルがまつ毛に触れてくるから、思わず目を閉じる。すると、俺の唇に柔らかいものが触れた。
ライオネル、キスしやがった!
ハッと目を開けると「可愛くて」とニヤニヤしている。
この野郎、やり返してやろうかと俺が思ったとき。
ふと視線が止まる。
ライオネルの胸ポケットにある白いハンカチはヨレヨレだ。
貴族らしからぬ、安物で薄汚れたハンカチ。
「あれ、ライオネル。これ捨てるって言ってなかったか?」
俺がハンカチに手を伸ばすと、ライオネルが慌てて「これは捨てない!」と制してくる。
え? どういうことだ……?
結構な視線を感じる。でも降ろしてもらえないなら、抵抗するよりしっかりライオネルに掴まって身体を預けた方が楽だろうなという気持ちになり、俺はライオネルに寄りかかることにした。
「これは王命だからな」
何か言いたげな俺の視線に気がついたのか、ライオネルは急に言い訳をしてきた。
「王命って、陛下は連れ帰れって言っただけだろ?」
「だから連れ帰っている。ノアを抱えたら、陛下は大変満足そうな顔をされていたぞ。これは陛下の御心を察してしていることだ」
無理矢理こじつけた感じもあるけど、まぁ、抱えられていると歩かなくていいから楽だしいいか。
「ノアもそろそろ俺に運ばれることに慣れたか?」
「は?」
「早く慣れてくれ。これは俺の幸せな時間なんだ」
「嘘だろ……」
運ばれるほうは楽だけど、運ぶほうは重くて大変だろ。そう思うから少しでも負担をかけないようにライオネルにくっついているのに。
「こうしていると、ノアを手中に収めたと思えるのだ。そしてこうして外を歩くことでいい牽制になる。いつどこにノアを狙う不届き者がいるかわからないからな。誰にもノアを渡す気はないと主張の意味もある」
「牽制って」
番ってるんだから俺を狙う奴なんていないよ、と言いかけてやめた。
ゲランドールのことを思い出したんだ。この世にはバース性を凌駕してくるようなことも起こり得る。
あのままライオネルが来てくれなかったら俺はどうなっていたんだろう。考えるだけで怖くなってきた。
「それに、こうしていればノアをいつでも守ってやれる」
ライオネルは俺に微笑みかけてきた。まるで俺の気持ちを見透かしたようなタイミングで、ハッとする。
なんでわかるの、たった今、俺が不安になったって。
「俺は死んでも生き返る、不死身のライオネルだからな」
「冗談はやめてくれ」
ライオネルは自分を死んだことにして姿を消し、俺に爵位を譲ろうとしたことがある。そのときのことを冗談めいて言っているのだろう。
「わかったわかった、もうノアの前から消えたりしないよ」
あのときのことをこうやって笑って話せるときが来たことを嬉しく思う。
ライオネルは俺のことは忘れても、姿を消していた事実は覚えていたんだな。
部屋に戻ってきたあとは、俺とライオネルはふたりきりだ。
記憶を失ったばかりのときはふたりきりが気まずく感じたけど、今はもう大丈夫。慣れたものだ。
ソファーでくつろいでいたライオネルは、俺を呼ぶ。呼ばれてライオネルの隣に座ろうとしたら、「そこじゃない」とライオネルに注意された。
「ノア、ここに来い」
ライオネルは自分の太腿を叩いて手を伸ばしてくる。
え?
ライオネルの膝の上に座れって?
「近くがいい。できるだけ俺の近くにいてくれ。有識者の話では、記憶を取り戻すにはできるだけ接触が多い方がいいらしい」
そんなことを言われたから断れない。俺のことを思い出すきっかけになるなら、できるだけ協力したい。
「じゃ、じゃあ、失礼します」
おずおずとライオネルの膝の上に乗ると、ライオネルは不安定な俺を支えるように腕を回してくる。
最初は子どもみたいで恥ずかしいと思っていたけど、これ、悪くない。
近いな。目線も合いやすいし、感じる体温が心地いい。
「ノアの髪はいい匂いがする」
俺の髪に鼻を寄せ、ライオネルはご満悦の様子だ。
「くすぐったいよ」
「五感を刺激するのはいいと聞いたのだ。少しだけ我慢してくれ」
「わかった。好きにしろ」
そうだな。俺はそれも聞いた。感覚から記憶が戻ることもあるって。
髪の匂いをスンスンされるくらいなんだ。恥ずかしがってる場合じゃないな。
俺の匂いを堪能したライオネルは、今度は「顔が見たい」と言って俺の顔を覗き込んでくる。
こんな至近距離でじっくり見られるの、落ち着かない。視線をどうしたらいいかわからなくなって、目があちこち泳ぐ。
「触れてもいい?」
「う、うん」
それも恥ずかしいけど、ダメとは言えない。ライオネルは頑張って記憶を取り戻そうとしてくれているに違いない。
ライオネルは俺の鼻に指で触れてきた。その指は頬を伝う。
「ノアのまつ毛は綺麗だ」
ライオネルがまつ毛に触れてくるから、思わず目を閉じる。すると、俺の唇に柔らかいものが触れた。
ライオネル、キスしやがった!
ハッと目を開けると「可愛くて」とニヤニヤしている。
この野郎、やり返してやろうかと俺が思ったとき。
ふと視線が止まる。
ライオネルの胸ポケットにある白いハンカチはヨレヨレだ。
貴族らしからぬ、安物で薄汚れたハンカチ。
「あれ、ライオネル。これ捨てるって言ってなかったか?」
俺がハンカチに手を伸ばすと、ライオネルが慌てて「これは捨てない!」と制してくる。
え? どういうことだ……?
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⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。