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第2章
33.王都へ
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「辺境伯代理としてエルドリックを任命する」
「えっ!? 俺がライオネル様の代わりに辺境伯の仕事をするんですかっ?」
俺がエルドリックを任命したら、エルドリックは大慌てだ。
「無理です、私はそこまでの身分ではありません……」
「エルドリックに足りないものは身分だけだ。大丈夫。他に問題はない」
「それが一番の問題ですよ……」
エルドリックは情けない声を出しているが、俺の気持ちは変わらない。
「それと、ジャン。ユクレシア卿の領地にいる農民なんだが、あれはなかなか頭が切れる男だ。ユクレシア卿は高齢のため、その仕事をゆくゆくはジャンに任せたい」
「の、農民が、領地を管理する!? いくらなんでもそれは無謀です、ノア様。ユクレシア様の後継ぎには、ローマイヤ男爵が……。この前の税の二重取りの事件も、大いに反省しているようですし……」
「違う。あいつじゃない。今からジャンに仕事を覚えてもらって、ジャンに任せたい」
ローマイヤは信用できない。あんな男に後を継がせるものか。
う
「ノア様、やり過ぎですよ……」
「俺に全部を任せたライオネルは普通で、なんで俺はやり過ぎなんだ? エルドリックも俺も子爵令息なのに」
俺だってもともとは田舎貴族の令息だ。大した身分じゃないのに、ライオネルのおかげでここまでのし上がってきただけのことなのに。
「いいえ。ノア様は公爵夫人であられましたし、今やバーノン公爵家を継ぐ御方です」
どうしても俺は留守をエルドリックに任せたい。エルドリックはライオネルのそばにいて、ライオネルのことを誰よりもよくわかっているし、仕事に卒がない。
「……エルドリック。俺は王都に行ってくる。陛下に呼ばれているんだ」
「そうですよね。それは存じております。では、ノア様がお戻りになるまでなら、俺が取り仕切ります」
エルドリックはなんとか覚悟を決めてくれた。エルドリックなら問題なくこなしてくれると思う。
俺はキールに乗って王都にある中央の城に降り立った。
俺は国王陛下に会いに、謁見の間を目指しているんだが、中央にいる奴らの俺を見る目は厳しい。
それもそのはず、俺は、男オメガということを利用して、嫁のくせにライオネルの爵位と財産を奪った、狡猾な悪者扱いだ。
もともと評判は悪かったんだから、そう思われても仕方がない。それに当初は、噂どおりライオネルからすべてを奪うための政略結婚だった。
つまり、ここに俺の味方はキール以外、誰ひとりいないってことだ。キールは竜騎士の訓練場に置いてきた。キールは、あの場所にトラウマがあるかと思ったら、それはなかったようで俺は安心した。
俺は謁見の間の目の前に着く。そこには鉄仮面をつけ、長槍を持った、屈強そうな兵士が左右に立っており、「こちらで少々お待ちください」と止められた。
「久しぶりだな、ノア」
謁見の間の前で待機していたとき、俺に声をかけてきたのはヴィクトール第二王子だった。
ヴィクトールとは、辺境の地でのモンスター討伐の日以来だ。
「お久しぶりです、殿下」
俺はいつもの得意の笑顔を見せる。それを見てヴィクトールは「ライオネルがいなくなってから、ノアは一段と美しくなったんじゃないのか?」と俺に絡んできた。
「そんなことありませんよ。毎日寂しさに打ちひしがれております」
この言葉は嘘じゃない。いつの間にかライオネルに惹かれていた俺は、今ではライオネルの帰りを心から望んでいる。
「よくそんなセリフが簡単に出てくるな。さすがノアだ」
ヴィクトールは俺を見てニヤニヤしていたが、俺にスッと耳打ちしてきた。
「ライオネルを崖に突き落としたのは、ノア、お前なのだろう?」
「は……?」
耳にかかるヴィクトールの吐息が気持ち悪くて、俺は思わず距離を取った。
俺が明らか嫌がっているのにも関わらず、ヴィクトールは言葉を続ける。
「城ではもっぱらそういう噂が広がっている。『夫殺しのノア』だってな」
「違う……」
俺が、ライオネルを殺した?
そんなことあるわけないだろ。
「よかったな。ノアの思いどおりになって。ずっとこの日を待ち望んでいたのだろう?」
違う。そうじゃない。
俺はそんなものまったく望んでいなかったことに気づいたんだ。
「おかげで命拾いしたよ。ありがとう、ノア」
命拾い……?
何が?
「離婚は? まだか? ノアが一日も早く離婚して、俺のもとに来てくれる日を楽しみにしているよ」
ヴィクトールに肩を抱かれて、俺は無意識のうちにその手を振り払った。
これはまだ俺の予感でしかない。
でも、ヴィクトールの母方の家系は国を創造したメンバーのうちのひとり、『騎士』の家系だ。
ライオネルが消えて一番恩恵を受けるのは誰か、と俺は勘繰ってしまう。
ヴィクトールにはある噂がある。
第一王子を押しのけて、この国の王座を狙っていると。
いつの世も、第二王子はそのような噂を立てられるものだ。
でも、もしかしたらヴィクトールは……。
「えっ!? 俺がライオネル様の代わりに辺境伯の仕事をするんですかっ?」
俺がエルドリックを任命したら、エルドリックは大慌てだ。
「無理です、私はそこまでの身分ではありません……」
「エルドリックに足りないものは身分だけだ。大丈夫。他に問題はない」
「それが一番の問題ですよ……」
エルドリックは情けない声を出しているが、俺の気持ちは変わらない。
「それと、ジャン。ユクレシア卿の領地にいる農民なんだが、あれはなかなか頭が切れる男だ。ユクレシア卿は高齢のため、その仕事をゆくゆくはジャンに任せたい」
「の、農民が、領地を管理する!? いくらなんでもそれは無謀です、ノア様。ユクレシア様の後継ぎには、ローマイヤ男爵が……。この前の税の二重取りの事件も、大いに反省しているようですし……」
「違う。あいつじゃない。今からジャンに仕事を覚えてもらって、ジャンに任せたい」
ローマイヤは信用できない。あんな男に後を継がせるものか。
う
「ノア様、やり過ぎですよ……」
「俺に全部を任せたライオネルは普通で、なんで俺はやり過ぎなんだ? エルドリックも俺も子爵令息なのに」
俺だってもともとは田舎貴族の令息だ。大した身分じゃないのに、ライオネルのおかげでここまでのし上がってきただけのことなのに。
「いいえ。ノア様は公爵夫人であられましたし、今やバーノン公爵家を継ぐ御方です」
どうしても俺は留守をエルドリックに任せたい。エルドリックはライオネルのそばにいて、ライオネルのことを誰よりもよくわかっているし、仕事に卒がない。
「……エルドリック。俺は王都に行ってくる。陛下に呼ばれているんだ」
「そうですよね。それは存じております。では、ノア様がお戻りになるまでなら、俺が取り仕切ります」
エルドリックはなんとか覚悟を決めてくれた。エルドリックなら問題なくこなしてくれると思う。
俺はキールに乗って王都にある中央の城に降り立った。
俺は国王陛下に会いに、謁見の間を目指しているんだが、中央にいる奴らの俺を見る目は厳しい。
それもそのはず、俺は、男オメガということを利用して、嫁のくせにライオネルの爵位と財産を奪った、狡猾な悪者扱いだ。
もともと評判は悪かったんだから、そう思われても仕方がない。それに当初は、噂どおりライオネルからすべてを奪うための政略結婚だった。
つまり、ここに俺の味方はキール以外、誰ひとりいないってことだ。キールは竜騎士の訓練場に置いてきた。キールは、あの場所にトラウマがあるかと思ったら、それはなかったようで俺は安心した。
俺は謁見の間の目の前に着く。そこには鉄仮面をつけ、長槍を持った、屈強そうな兵士が左右に立っており、「こちらで少々お待ちください」と止められた。
「久しぶりだな、ノア」
謁見の間の前で待機していたとき、俺に声をかけてきたのはヴィクトール第二王子だった。
ヴィクトールとは、辺境の地でのモンスター討伐の日以来だ。
「お久しぶりです、殿下」
俺はいつもの得意の笑顔を見せる。それを見てヴィクトールは「ライオネルがいなくなってから、ノアは一段と美しくなったんじゃないのか?」と俺に絡んできた。
「そんなことありませんよ。毎日寂しさに打ちひしがれております」
この言葉は嘘じゃない。いつの間にかライオネルに惹かれていた俺は、今ではライオネルの帰りを心から望んでいる。
「よくそんなセリフが簡単に出てくるな。さすがノアだ」
ヴィクトールは俺を見てニヤニヤしていたが、俺にスッと耳打ちしてきた。
「ライオネルを崖に突き落としたのは、ノア、お前なのだろう?」
「は……?」
耳にかかるヴィクトールの吐息が気持ち悪くて、俺は思わず距離を取った。
俺が明らか嫌がっているのにも関わらず、ヴィクトールは言葉を続ける。
「城ではもっぱらそういう噂が広がっている。『夫殺しのノア』だってな」
「違う……」
俺が、ライオネルを殺した?
そんなことあるわけないだろ。
「よかったな。ノアの思いどおりになって。ずっとこの日を待ち望んでいたのだろう?」
違う。そうじゃない。
俺はそんなものまったく望んでいなかったことに気づいたんだ。
「おかげで命拾いしたよ。ありがとう、ノア」
命拾い……?
何が?
「離婚は? まだか? ノアが一日も早く離婚して、俺のもとに来てくれる日を楽しみにしているよ」
ヴィクトールに肩を抱かれて、俺は無意識のうちにその手を振り払った。
これはまだ俺の予感でしかない。
でも、ヴィクトールの母方の家系は国を創造したメンバーのうちのひとり、『騎士』の家系だ。
ライオネルが消えて一番恩恵を受けるのは誰か、と俺は勘繰ってしまう。
ヴィクトールにはある噂がある。
第一王子を押しのけて、この国の王座を狙っていると。
いつの世も、第二王子はそのような噂を立てられるものだ。
でも、もしかしたらヴィクトールは……。
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