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「すまないが俺はひとりしか愛せない。俺には婚約者がいるし、他に側室を迎える気は一切ない。早く妃候補という立場から解放し、国に帰れるよう努力するからあと少しだけ耐えてくれ」
(あ、やっぱりそうですよね……)
エルヴィンは視線を落とす。
エルヴィンの妄想のような夢はあっさりと消えた。一途な狼獣人が、妃の他に六人も側室を抱える話など聞いたことがない。
「殿下の婚約者とはどなたなのですか……?」
犬獣人はしょんぼりと耳を垂れながらルークに訊ねた。
気になる。すごく気になる。やはり噂のとおり、アイルなのだろうか。
「事情があり話せないが、いつか公にできる日がくるだろう」
ルークは婚約者の存在は明かしてくれたが、それが誰かまでは伏せた。きっとアイルを守るためだろう。
「さぁ、エルヴィン。デートに行こうか」
「えっ……?」
この流れで、デートなんて言っちゃうのかっ?
ほら、ふたりとも「殿下とエルヴィンがデートっ?」とびっくりしすぎて声が裏返っている。
「たしか友人としてのデートだよな? エルヴィン」
ルークは愛おしそうにエルヴィンを見る。その色っぽい視線は全然友達に向ける視線じゃない!
「え、え、え、えーっと……」
「エルヴィンとふたりで行きたい場所があるのだ。今日一日、俺にエルヴィンの時間をくれる約束、きっちり守ってくれよ」
「は、はい……」
たじたじのエルヴィンと嬉しそうにエルヴィンの肩を抱くルーク。ふたりの様子をみて、「ど、どういうことなの……」と兎獣人のニイナが青ざめている。
「他言無用だ。これ以上は察してくれ」
ルークはそう言い捨てて、エルヴィンの肩を抱きながらその場を立ち去る。背後から「あの貧乏エルヴィンがなんで殿下とデートができるのよっ」と負け惜しみみたいな声が聞こえる。
ルークと一緒に歩きながら、エルヴィンは青ざめる。
これはまずい。
ルークの記憶違いなのに、間違った噂が広がってしまう!
「で、殿下っ、僕との仲はどうか内密に……」
エルヴィンが訴えると「そうだな」とルークがエルヴィンの肩から手を外してくれた。
「あのふたりは気に入らない。エルヴィンのことを蔑むような目で見ていた。俺は身分なんかで人を差別したくない」
「え……」
一瞬で、ルークがそこまで見抜いていたとは驚いた。実はあのふたりは、あまり性格がよろしくないのだ。
「あの場でエルヴィンが婚約者だと言ってやりたかったのを必死でこらえたのだ。そのことでエルヴィンの身に何かあったらと思うと明言はできない。だが俺はエルヴィンが心から好きだと叫びたい。早くエルヴィンを正式な妃にしてしまいたいよ」
ルークはだいぶ元気になったのに、記憶違いだけは相変わらず治らないようだ。
可哀想なルークだ。目の前にいるのはルークの婚約者ではなく、ただのぼろ雑巾みたいな汚い猫なのに。
「僕は今のままでもいいですよ」
エルヴィンはルークに笑顔を向ける。
「こうして殿下のおそばにいられますし、デートにだって誘ってもらえるんですから」
今のままがいい。このままずっとルークが記憶を取り戻さず、エルヴィンをそばにおいてくれたらいいのに。
「そうはいかない。一日も早く正式に妃になってもらいたい」
ルークはすぐに言葉をたたみかけてきた。
ルークの言うことは正しいとわかっているし、本当は一日でも早く元の状態に戻らないといけない。
でも、でも、嫌だ。
こうしてルークと毎日一緒にいたい。
「正式な妃でなくとも、今という時間はここにあります。たとえ偽りでも、僕にとっては楽しい思い出のひとつに違いありません」
エルヴィンはぎゅっと自分の身につけているトラウザーズの端を握る。
「殿下。今日はお出かけに誘ってくださりありがとうございます。精一杯楽しみましょう」
ルークがエルヴィンを忘れてしまっても、エルヴィンはルークのことを忘れない。ルークが記憶を取り戻しても、今日の思い出は消えることはない。だってエルヴィンは今日のことを決して忘れない。忘れられるわけがない。
ルークに対するドキドキなこの気持ちも、ルークとのキラキラな思い出も、きっと全部エルヴィンの心の中に残るだろう。
(あ、やっぱりそうですよね……)
エルヴィンは視線を落とす。
エルヴィンの妄想のような夢はあっさりと消えた。一途な狼獣人が、妃の他に六人も側室を抱える話など聞いたことがない。
「殿下の婚約者とはどなたなのですか……?」
犬獣人はしょんぼりと耳を垂れながらルークに訊ねた。
気になる。すごく気になる。やはり噂のとおり、アイルなのだろうか。
「事情があり話せないが、いつか公にできる日がくるだろう」
ルークは婚約者の存在は明かしてくれたが、それが誰かまでは伏せた。きっとアイルを守るためだろう。
「さぁ、エルヴィン。デートに行こうか」
「えっ……?」
この流れで、デートなんて言っちゃうのかっ?
ほら、ふたりとも「殿下とエルヴィンがデートっ?」とびっくりしすぎて声が裏返っている。
「たしか友人としてのデートだよな? エルヴィン」
ルークは愛おしそうにエルヴィンを見る。その色っぽい視線は全然友達に向ける視線じゃない!
「え、え、え、えーっと……」
「エルヴィンとふたりで行きたい場所があるのだ。今日一日、俺にエルヴィンの時間をくれる約束、きっちり守ってくれよ」
「は、はい……」
たじたじのエルヴィンと嬉しそうにエルヴィンの肩を抱くルーク。ふたりの様子をみて、「ど、どういうことなの……」と兎獣人のニイナが青ざめている。
「他言無用だ。これ以上は察してくれ」
ルークはそう言い捨てて、エルヴィンの肩を抱きながらその場を立ち去る。背後から「あの貧乏エルヴィンがなんで殿下とデートができるのよっ」と負け惜しみみたいな声が聞こえる。
ルークと一緒に歩きながら、エルヴィンは青ざめる。
これはまずい。
ルークの記憶違いなのに、間違った噂が広がってしまう!
「で、殿下っ、僕との仲はどうか内密に……」
エルヴィンが訴えると「そうだな」とルークがエルヴィンの肩から手を外してくれた。
「あのふたりは気に入らない。エルヴィンのことを蔑むような目で見ていた。俺は身分なんかで人を差別したくない」
「え……」
一瞬で、ルークがそこまで見抜いていたとは驚いた。実はあのふたりは、あまり性格がよろしくないのだ。
「あの場でエルヴィンが婚約者だと言ってやりたかったのを必死でこらえたのだ。そのことでエルヴィンの身に何かあったらと思うと明言はできない。だが俺はエルヴィンが心から好きだと叫びたい。早くエルヴィンを正式な妃にしてしまいたいよ」
ルークはだいぶ元気になったのに、記憶違いだけは相変わらず治らないようだ。
可哀想なルークだ。目の前にいるのはルークの婚約者ではなく、ただのぼろ雑巾みたいな汚い猫なのに。
「僕は今のままでもいいですよ」
エルヴィンはルークに笑顔を向ける。
「こうして殿下のおそばにいられますし、デートにだって誘ってもらえるんですから」
今のままがいい。このままずっとルークが記憶を取り戻さず、エルヴィンをそばにおいてくれたらいいのに。
「そうはいかない。一日も早く正式に妃になってもらいたい」
ルークはすぐに言葉をたたみかけてきた。
ルークの言うことは正しいとわかっているし、本当は一日でも早く元の状態に戻らないといけない。
でも、でも、嫌だ。
こうしてルークと毎日一緒にいたい。
「正式な妃でなくとも、今という時間はここにあります。たとえ偽りでも、僕にとっては楽しい思い出のひとつに違いありません」
エルヴィンはぎゅっと自分の身につけているトラウザーズの端を握る。
「殿下。今日はお出かけに誘ってくださりありがとうございます。精一杯楽しみましょう」
ルークがエルヴィンを忘れてしまっても、エルヴィンはルークのことを忘れない。ルークが記憶を取り戻しても、今日の思い出は消えることはない。だってエルヴィンは今日のことを決して忘れない。忘れられるわけがない。
ルークに対するドキドキなこの気持ちも、ルークとのキラキラな思い出も、きっと全部エルヴィンの心の中に残るだろう。
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