23 / 44
4-6
しおりを挟む
「エルヴィンは欲がないな。そういう控えめなところもとても好みだ。だが今後は俺の立場を考えてくれ。衣食住くらいは整えさせてほしい」
「ええっ……」
ルークはどれだけのものをエルヴィンに贈ろうとしているのだろう。アイルに贈るならいい。でもエルヴィンのサイズに仕立ててしまった小さい服は、黒狼獣人のアイルが着ることはできないだろう。
「殿下のお気持ちはとても嬉しいです」
エルヴィンはルークをまっすぐに見つめる。まっすぐと言っても、エルヴィンからしたら背の高いルークをかなり見上げないといけないのだが。
「今日は、服を弁償してくださったということで、贈り物をありがたく頂戴いたします。ですが、これきりでいいです」
「これきり……? このようにしたのは今日が初めてだ。そんなに嫌だったのか……?」
ルークは寂しそうな顔をする。
「いいえ、とても嬉しいですよ。ですが僕は真実に気がつかれた殿下が落ち込む顔を見たくないのです」
これ以上贈り物をもらってはいけない。本来ならばルークに贈り物をされるべきはアイルだ。ルークが記憶を取り戻したときに、なんであんなどうでもいい猫獣人に貢いでしまったんだと思ってほしくない。
「エルヴィンは何を言っている……?」
「ですから……」
エルヴィンが言いかけたとき、店の扉が開く音が聞こえた。誰かが店に入ってきたのだ
店を訪れたのはアイルだった。
まずい、ルークとふたりで買い物デートをしているところを、アイルに見られてしまった。
店に入ってきたときはいつものようににこやかなアイルだったのに、ルークとエルヴィンの姿を見た途端に表情を曇らせた。アイルは決して穏やかではない。
「馬車があったので殿下がいらっしゃっているのではと推察しましたが、まさかこのような形とは思いませんでした」
アイルの言い方はどこか棘がある。
多分、馬車を見てルークがいると思って嬉々として店に来たのに、まさかの連れがいた。アイルからしたらかなりショックなことだろう。
「ああ、奇遇だなアイル」
ルークは動揺している様子はない。ルークは本当に自分の婚約者がわからなくなってしまったのだろう。思い出していたら、婚約者に他の獣人とデートをしているところを目撃されたことになるから、もっと慌てるはずだ。
「なぜエルヴィンさまと一緒に?」
アイルは早速ルークを問い詰める。それに対してルークは堂々としたものだった。
「エルヴィンに服を贈りたかった。ずっと助けてもらった礼ができなかったが、今日やっと外出の許可が出たからエルヴィンに無理を言って一緒に来てもらったのだ」
「へぇ……」
アイルが厳しい視線でふたりを見る。それに耐えきれなくなって、エルヴィンは「と、友達としてですっ!」と聞かれる前から弁明する。
「あの、殿下が服を弁償してくださったんですっ。それだけのことで、他意などなくてですね……」
しどろもどろになりながらもエルヴィンはなんとかこの場を収めようとする。
「他意がないなら弁償代を支払えばいいだけのこと。それをわざわざふたりきりで出かけるとは……」
うわぁ……アイルは完全に疑っている。しかもアイルのいうことは正論だ。婚約者がいるのにふたりで出かけた時点で許せないだろう。
「俺が誰と何をしようがお前は別に構わないだろう? 結婚前にふたりで出かけることのどこが悪い?」
ルークの言葉にエルヴィンは青ざめた。もっとうまく誤魔化してくれればいいのに、それではアイルにわざわざケンカを売っているようなものだ。
「結婚前? 誰と誰が婚約していると? 殿下の口からはっきりとお聞きしたい」
アイルは容赦なくルークに迫る。
今のルークは記憶違いになっている。このままではルークはアイルではなくエルヴィンのことを婚約者だと言ってしまう。そんなことを聞いたら、ルークの事情を知らないアイルはショックを受けてしまう……!
「アイルさま、これには深い事情がありまして……ちょっとだけふたりでお話を……」
こうなったらアイルに今のルークの事情を懇切丁寧に伝えるしかない。エルヴィンはアイルを密かに誘う。
「ええっ……」
ルークはどれだけのものをエルヴィンに贈ろうとしているのだろう。アイルに贈るならいい。でもエルヴィンのサイズに仕立ててしまった小さい服は、黒狼獣人のアイルが着ることはできないだろう。
「殿下のお気持ちはとても嬉しいです」
エルヴィンはルークをまっすぐに見つめる。まっすぐと言っても、エルヴィンからしたら背の高いルークをかなり見上げないといけないのだが。
「今日は、服を弁償してくださったということで、贈り物をありがたく頂戴いたします。ですが、これきりでいいです」
「これきり……? このようにしたのは今日が初めてだ。そんなに嫌だったのか……?」
ルークは寂しそうな顔をする。
「いいえ、とても嬉しいですよ。ですが僕は真実に気がつかれた殿下が落ち込む顔を見たくないのです」
これ以上贈り物をもらってはいけない。本来ならばルークに贈り物をされるべきはアイルだ。ルークが記憶を取り戻したときに、なんであんなどうでもいい猫獣人に貢いでしまったんだと思ってほしくない。
「エルヴィンは何を言っている……?」
「ですから……」
エルヴィンが言いかけたとき、店の扉が開く音が聞こえた。誰かが店に入ってきたのだ
店を訪れたのはアイルだった。
まずい、ルークとふたりで買い物デートをしているところを、アイルに見られてしまった。
店に入ってきたときはいつものようににこやかなアイルだったのに、ルークとエルヴィンの姿を見た途端に表情を曇らせた。アイルは決して穏やかではない。
「馬車があったので殿下がいらっしゃっているのではと推察しましたが、まさかこのような形とは思いませんでした」
アイルの言い方はどこか棘がある。
多分、馬車を見てルークがいると思って嬉々として店に来たのに、まさかの連れがいた。アイルからしたらかなりショックなことだろう。
「ああ、奇遇だなアイル」
ルークは動揺している様子はない。ルークは本当に自分の婚約者がわからなくなってしまったのだろう。思い出していたら、婚約者に他の獣人とデートをしているところを目撃されたことになるから、もっと慌てるはずだ。
「なぜエルヴィンさまと一緒に?」
アイルは早速ルークを問い詰める。それに対してルークは堂々としたものだった。
「エルヴィンに服を贈りたかった。ずっと助けてもらった礼ができなかったが、今日やっと外出の許可が出たからエルヴィンに無理を言って一緒に来てもらったのだ」
「へぇ……」
アイルが厳しい視線でふたりを見る。それに耐えきれなくなって、エルヴィンは「と、友達としてですっ!」と聞かれる前から弁明する。
「あの、殿下が服を弁償してくださったんですっ。それだけのことで、他意などなくてですね……」
しどろもどろになりながらもエルヴィンはなんとかこの場を収めようとする。
「他意がないなら弁償代を支払えばいいだけのこと。それをわざわざふたりきりで出かけるとは……」
うわぁ……アイルは完全に疑っている。しかもアイルのいうことは正論だ。婚約者がいるのにふたりで出かけた時点で許せないだろう。
「俺が誰と何をしようがお前は別に構わないだろう? 結婚前にふたりで出かけることのどこが悪い?」
ルークの言葉にエルヴィンは青ざめた。もっとうまく誤魔化してくれればいいのに、それではアイルにわざわざケンカを売っているようなものだ。
「結婚前? 誰と誰が婚約していると? 殿下の口からはっきりとお聞きしたい」
アイルは容赦なくルークに迫る。
今のルークは記憶違いになっている。このままではルークはアイルではなくエルヴィンのことを婚約者だと言ってしまう。そんなことを聞いたら、ルークの事情を知らないアイルはショックを受けてしまう……!
「アイルさま、これには深い事情がありまして……ちょっとだけふたりでお話を……」
こうなったらアイルに今のルークの事情を懇切丁寧に伝えるしかない。エルヴィンはアイルを密かに誘う。
962
あなたにおすすめの小説
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる