記憶違いの黒狼王弟殿下は婚約者の代わりに僕を溺愛してくる

雨宮里玖

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「エルヴィンは欲がないな。そういう控えめなところもとても好みだ。だが今後は俺の立場を考えてくれ。衣食住くらいは整えさせてほしい」
「ええっ……」

 ルークはどれだけのものをエルヴィンに贈ろうとしているのだろう。アイルに贈るならいい。でもエルヴィンのサイズに仕立ててしまった小さい服は、黒狼獣人のアイルが着ることはできないだろう。

「殿下のお気持ちはとても嬉しいです」

 エルヴィンはルークをまっすぐに見つめる。まっすぐと言っても、エルヴィンからしたら背の高いルークをかなり見上げないといけないのだが。

「今日は、服を弁償してくださったということで、贈り物をありがたく頂戴いたします。ですが、これきりでいいです」
「これきり……? このようにしたのは今日が初めてだ。そんなに嫌だったのか……?」 

 ルークは寂しそうな顔をする。

「いいえ、とても嬉しいですよ。ですが僕は真実に気がつかれた殿下が落ち込む顔を見たくないのです」

 これ以上贈り物をもらってはいけない。本来ならばルークに贈り物をされるべきはアイルだ。ルークが記憶を取り戻したときに、なんであんなどうでもいい猫獣人に貢いでしまったんだと思ってほしくない。

「エルヴィンは何を言っている……?」
「ですから……」

 エルヴィンが言いかけたとき、店の扉が開く音が聞こえた。誰かが店に入ってきたのだ
 店を訪れたのはアイルだった。
 まずい、ルークとふたりで買い物デートをしているところを、アイルに見られてしまった。
 店に入ってきたときはいつものようににこやかなアイルだったのに、ルークとエルヴィンの姿を見た途端に表情を曇らせた。アイルは決して穏やかではない。

「馬車があったので殿下がいらっしゃっているのではと推察しましたが、まさかこのような形とは思いませんでした」

 アイルの言い方はどこか棘がある。
 多分、馬車を見てルークがいると思って嬉々として店に来たのに、まさかの連れがいた。アイルからしたらかなりショックなことだろう。

「ああ、奇遇だなアイル」

 ルークは動揺している様子はない。ルークは本当に自分の婚約者がわからなくなってしまったのだろう。思い出していたら、婚約者に他の獣人とデートをしているところを目撃されたことになるから、もっと慌てるはずだ。

「なぜエルヴィンさまと一緒に?」

 アイルは早速ルークを問い詰める。それに対してルークは堂々としたものだった。

「エルヴィンに服を贈りたかった。ずっと助けてもらった礼ができなかったが、今日やっと外出の許可が出たからエルヴィンに無理を言って一緒に来てもらったのだ」
「へぇ……」

 アイルが厳しい視線でふたりを見る。それに耐えきれなくなって、エルヴィンは「と、友達としてですっ!」と聞かれる前から弁明する。

「あの、殿下が服を弁償してくださったんですっ。それだけのことで、他意などなくてですね……」

 しどろもどろになりながらもエルヴィンはなんとかこの場を収めようとする。

「他意がないなら弁償代を支払えばいいだけのこと。それをわざわざふたりきりで出かけるとは……」

 うわぁ……アイルは完全に疑っている。しかもアイルのいうことは正論だ。婚約者がいるのにふたりで出かけた時点で許せないだろう。

「俺が誰と何をしようがお前は別に構わないだろう? 結婚前にふたりで出かけることのどこが悪い?」

 ルークの言葉にエルヴィンは青ざめた。もっとうまく誤魔化してくれればいいのに、それではアイルにわざわざケンカを売っているようなものだ。 

「結婚前? 誰と誰が婚約していると? 殿下の口からはっきりとお聞きしたい」

 アイルは容赦なくルークに迫る。
 今のルークは記憶違いになっている。このままではルークはアイルではなくエルヴィンのことを婚約者だと言ってしまう。そんなことを聞いたら、ルークの事情を知らないアイルはショックを受けてしまう……!

「アイルさま、これには深い事情がありまして……ちょっとだけふたりでお話を……」

 こうなったらアイルに今のルークの事情を懇切丁寧に伝えるしかない。エルヴィンはアイルを密かに誘う。
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