その告白は勘違いです

雨宮里玖

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1 告白したつもりはない

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「あ、あのさ、有馬に頼みたいことがあって……お前って成績いいだろ? それで、ちょっとだけ勉強のコツを俺に教えてくれないかなって……」

 俺は下手に出た。有馬の機嫌を損ねたら交渉もなにもない。とりあえず偉ぶっちゃダメだ。

「勉強? 七沢は俺と友達になりたいの?」
「友達っていうか、なんつーか……今からでも本気で頑張りたいっていうか……」

 別に友達になってくれなくてもいい。ただ勉強を教えてもらえないかなってだけで。でもここで「別に友達になりたいわけじゃない」ってはっきり言うのは絶対によくない気がする。

「友達じゃダメなんだ」
「だ、だ、ダメってわけじゃない! そうだよな、俺たちはお互いのことを知らないから、まずは友達になるってのもいいよな!」 

 俺は必死で弁明する。

 たしかに、友達でもないやつに勉強教えるのは嫌だよな。すべては友達になってから! うん。それがいい。

「それでな、それでなっ! 有馬は教え方がうまいって聞いて俺に勉強教えてくれないかなって。俺さ、成績がギリギリで、なんとかしなきゃいけなくて……」
「なんで俺がそんなことしなきゃいけないの?」

 有馬の冷たい視線が俺のミジンコみたいな心に突き刺さる。

 こいつ、親切心ってのがないのかっ? 俺が名前も知らないレベルでも、仮にもクラスメイトがこんなに丁寧に頼んでるんだから聞けよ!

「有馬は委員長なんだからさ、クラスメイトが困ってたらそこは助けるところだろ? ほら、クラスの評判が下がると委員長のお前のせいになる。有馬のクラスは学年いちのいいクラスだって言われたいだろっ?」 

 俺は両手を顔の前で擦り合わせて懇願する。
 これは有馬が学級委員長ということを利用して助けてもらおうという、小狡い作戦だ。

 頼む、頼むよ有馬! 可哀想な俺を助けてくれ!

「興味ない」

 ばっさり! 俺が考えてきた最高の口説き文句をばっさり!

 無言のまま、有馬はじっと俺の目を伺うように見つめてくる。

「な、なに……?」

 俺は思わず一歩後ずさるが、その間合いをすぐに有馬は詰めてきた。

 有馬の顔がすぐ近くにあって、俺だけを見つめている。

 有馬の目ってすごく綺麗だ。まつ毛が長くて二重でくっきりしているのもあるけど、なんか、こう、吸い込まれそうになる。
 性格は人相に現れるって言うけど、有馬の視線からはあったかい包み込むような優しさを感じる。
 なんでだろう。もっとクールな男かと思ってたのに、メガネの奥を覗き込んでみると違う。有馬って本当は冷たい男じゃないのかな。

「本気で?」

 さっきまで心の温かいやつだと思っていたのに、急に有馬の目つきが鋭く変わった。

「は……?」
「お前、本当に勉強やる気あるのかって聞いてる」
「うん、あるよ、もちろん」
「本当に? その言葉、信じていいの?」

 有馬は俺から視線を外さない。俺がどう答えてくるかを待っている。

 やばい。
 この状況をなんとかしなきゃ。

 なんて答えればいい?
 なんて言えば、有馬は俺に勉強を教えてくれるようになる……?

 ここで判断を間違えたら終わりだ。
 どうしたら俺の本気を有馬に伝えられる……?



「なんでもする」

 俺は有馬を強い視線で見つめ返す。

「お前が勉強を教えてくれるなら、お前の望むこと、なんでもしてやるよ」

 これは嘘じゃない。
 卒業するためならなんでもやってやる。
 俺には有馬に返せるものなんてない。この身ひとつしかないんだ。
 ちっぽけなプライドなんてかなぐり捨ててやる。こいつの召使いになったっていい。なんだってやってやるから、卒業させてくれ!

「なんでもって、お前さ……」
「わかってるよ、バカだって言いたいんだろっ? でもどうしようもないんだって! 中間のぶんを期末で取り戻さないと俺は一学期でこの学校から消える。だからお前を頼るしかないの!」

 俺は必死で訴える。
 有馬だけが頼りだ! 俺を救ってくれよ、この可哀想な俺を!

「……わかった。そこまで言うなら教えてやるよ」

 有馬が頷いた。
 有馬が、オッケーしてくれた!

「ありがと、有馬!」

 俺は嬉しさのあまりに小躍りする。軽くステップしてから、やべぇこんなんで踊ってたら変なやつって思われると即座にやめたけど。
 せめて笑ってくれよ、有馬。そんな冷ややかな視線で見られるとこっちが恥ずかしいわ!

「と、とにかく! これからよろしくな、有馬!」

 気を取り直して俺は有馬に手を伸ばす。これはもちろん、友好の握手を求めるためのものだ。

 俺のその手を、有馬は見て見ぬふりをした。

 俺からの好意を有馬は無表情のまま受け取らなかった。

「じゃあ、明日からやろう」

 有馬の返事はそれだけ。俺の手は宙ぶらりんのまま、有馬は背中を向けてさっさといなくなってしまった。
 その有馬の態度に俺はポカンだ。

「なにあれ……」

 俺は行き場を失った自分の手を力無く下ろす。
 有馬って、もしかして極度の恥ずかしがり屋なのか……?

 そういえば有馬が誰かにベタベタしているところなんて見たことがない。俺と裕太みたいに肩組んだり、触れ合っているところなんて見たことがない。

 俺、この先、大丈夫かな。

 有馬とうまくやっていけるか、ものすごく自信ない!

 


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