その告白は勘違いです

雨宮里玖

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1 告白したつもりはない

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 帰りのショートホームルームが終わったあと、俺は裕太に言われたとおりに第二校舎の裏で待つ。
 第二校舎の裏は植え込みの木々と備蓄倉庫しかない、ほとんど人が通らない場所だ。だからちょっとした内緒話をするにはもってこい。俺と裕太は時々授業をサボって、ここで学食にある自販機で買った菓子パンを食っている。

「はぁー……マジ緊張する……」

 一応作戦は考えてある。でも、それで有馬が勉強を教えてくれるかどうかはわからない。こんなんだったらもっと前から有馬と仲良くなっておくべきだったなと今さら後悔してもしきれない。

 落ち着かなくて、同じ場所を行ったり来たりしていた俺の背後から「おい」と誰かが声をかけてきた。

 振り返ると、有馬がそこに立っている。

 見慣れたグレーの制服ブレザーにダークグレーのスラックス。五月でも暑いからブレザーなし、白シャツ一枚の俺と違って、有馬はシャツの一番上のボタンまできっちり留めている。
 規則どおり窮屈そうに制服を着ているのに、有馬は涼しい顔をしてやがる。

「あ、有馬! 忙しいのにごめんな!」
「俺を呼んだのって、お前……?」

 有馬は俺を見つけてなぜか目をしばたたかせて驚いている。

 こいつ、誰に呼び出されたのか知らなかったのか……?

 そういえば裕太はどうやって有馬をここに呼んだんだろう。

「あー、うん。俺。……やだった?」
「別にいいけど。ちょっと意外だった」

 意外ってなんだよ。俺が話しかけてくるなんて思わなかったってことかな。

「あのさ、ちょっと前にメッセージ送ったんだけど、気づいてた……?」
「気づいた。でも何かの間違いだと思った」
「そ、そうだったんだ……」

 間違いだと思っても『誰かと間違えてない?』とか反応よこせよ、と俺はツッコミを入れたくなったのを必死でこらえた。

 俺はまっすぐに有馬と対峙する。
 なんか、有馬を初めてまともに見た気がする。
 くっきりとした目鼻立ちにシャープな輪郭。肌も綺麗で透明感があるから、どこか作り物みたいでクールな印象を受ける。
 有馬って目が綺麗なんだよな。近くで見るとキリリとした形のよさがよくわかる。
 残念なのは、真っ黒ながっつり前髪とメガネだ。それが有馬をいかにも優等生って感じの雰囲気にさせている。

 メガネの奥の目は決して笑っていない。有馬はさっきから俺を何こいつ、みたいな目で見てくる。その冷たい視線がグサリときたが俺は負けない。負けてたまるか!

「えーっと、同じクラスなのはわかるんだけど……名前、なんだっけ?」

 はぁあっ?

「俺の名前も知らないのっ?」
「ごめん。わからない」

 はっきり言うなよ。

 うわぁ、普通にショックだ。

 でも同学年には二百八十八人もいる。ほとんど話もしたことないし、有馬とは高三になって初めて同じクラスになった。有名人の有馬は誰もがその名前を知ってるけど、俺はそうじゃない。

 だから、怒っちゃいけない、冷静に、冷静に……。

「七沢だよ、七沢莉紬!」

 俺がフルネームを教えてやると「ななさわりつ……」と有馬はボソッと俺の名前を呟いた。まるで幼い子どもが初めて知ったものを確認するみたいに。

「七沢莉紬。いい名前だな」
「あ、そう? ありがと」

 急に褒められて、俺はこそばゆくなる。
 それにしても有馬、いい声してんな。有馬に名前を呼ばれてちょっとドキッとした。
 今はそんなこと全然関係ないけど。なんか好き。こいつの声。

「なぁ。あの手紙に書いてあったことって、本気?」
「手紙……?」

 やっべぇ、有馬がなんのこと言ってんのか俺にはわからない。裕太が有馬に手紙を書いたってことなんだろうか。
 そのあたり、もっと裕太から真面目に聞いときゃよかったなぁぁ。

「それとも俺をからかった?」
「からかってなんかないよ! そんなことするわけないって、俺の気持ちは本気に決まってるだろ」

 ここで、からかったんだよ、なんて頷いたら話が終わる。俺はよくわかんないまま適当に話を合わせた。

「で、何? 俺とどうなりたいの?」

 有馬は抑揚のない声で言った。
 こいつ、さっきから俺を懐疑的な目で見てる。呼び出されたことに対してちょっとイラついてるのかな。
 しかも「どうなりたい」って言い方なんなんだよ。

 裕太はなんて手紙を書いたんだろう。でも、名前も知らないクラスメイトからいきなり手紙で呼び出されたら有馬だって身構えるよな。
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