その告白は勘違いです

雨宮里玖

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6 手紙

6-2

 その日の放課後、俺がのろのろと帰り支度をしていると、珍しいやつが俺に声をかけてきた。
 テニス部部長で、有馬の友人で、陽キャのモテ男、佐久間だ。

「さっきは仕事代わってくれてありがと! お礼にジュース奢らせて」
「いいのっ?」
「いいよ! 一緒に来て来て。好きなの選んで」

 爽やかな笑顔で誘ってくるところは、さすが佐久間だ。
 奢ってもらうのを申し訳ないと思わせない。すごく上手な言い方だな。


 俺は佐久間に誘われるまま、教室を離れてカフェテリア前にある自販機コーナーまでついていく。俺はそこでオレンジジュースを選び、佐久間に奢ってもらった。

「ありがとう、佐久間。じゃあ……」
「待って」

 俺が教室に戻ろうとしたとき、佐久間に腕を掴まれた。動き出したところを急に掴まれた反動で俺は「うぁっ」とのけぞった。

「話、させて。結構大事な話」
「え……?」

 佐久間が俺に言う大事な話ってなんだろう。

 自販機の並んでいる場所の近くには、ベンチがある。カフェテリアは人の目につく。佐久間はあまり人の視線のない、奥のベンチへと俺を誘った。

「あのさ、本当に気を悪くしたらアレだなって思ってんだけど」

 佐久間はふざけてはいなかった。いつになく真面目な顔をして、俺に迫る。

「うん」
「はっきり言うよ?」
「あ、う、うん……」

 なんだよ前置きがあるのが怖いわ。

「七沢さ、有馬に告ってフラれた?」
「へぁぁっ?」

 いやーっ! 前置きあってもショックだ。きっつい。相当キツいよ、その言葉……。

 しかもなんで俺の重大機密を佐久間が知ってるんだろう。
 まぁ、実際は、告白もせずにフラれたんだがな。

「七沢と有馬、一緒に神社のお祭り行ったでしょ?」
「あっ……」

 なんでバレてるっ? あのとき佐久間の姿を見つけて俺と有馬は逃げたのに。

「有馬って背が高いからさ、目立つんだよね、あいつ」

 先に見つかってたの有馬だったんだ!

 あのときの俺たちは何してた……?
 そうだ。ふたりで小指をぎゅっとして、ドキドキしながら歩いてた。周りをよく見てたかって言われると、ものすごく自信ない。少なくとも俺は有馬のことばかり考えてた。

 有馬は、有馬はあのときどう思っていたのかな。
 小指だけだったけど、俺は今でもあのときの有馬の指が俺にしがみつくように絡みついてきたことを覚えている。
 なんていうんだろう、俺を求めてくれてるみたいに感じた。
 あのときの俺が感じたものは、なんだったんだろう。盛大な勘違いだったのかな。

「あのときだろ。有馬と何かあったの」

 ここまで言い当てられて、隠し事はできなかった。俺は「そうだよ」と素直に認めた。

「有馬はもう俺と話もしたくないみたいだった……」

 ぽつりと言葉をこぼしてみてわかる。
 あのとき有馬と仲違なかたがいしたことは、裕太にも誰にも話していない。こうして誰かに聞いてもらうのは実は初めてだ。

 ずっと俺の中だけに閉じ込めていた想い。
 こんなこと、誰にも話せなかった。

「これ」

 佐久間は制服のポケットから、一通の手紙を取り出した。

「そ、それ……!」

 見覚えのある水色の封筒は、少しクシャクシャになっている。それでも「有馬へ」の文字はしっかりと読める。
 間違いない。これはあの日、俺が失くした手紙だ。

「ごめん、中身読んじゃった。でも読んだのは俺だけだし、他のやつにはこのことは一切話してないよ」
「だから、わかったんだね。俺の気持ち」

 いくら佐久間が鋭くても、まさか男の俺が有馬に好意を寄せていることはわからないよな。でも、俺が有馬のことがどれだけ好きかを恥ずかしいくらいに綴ったこの手紙を見れば一目瞭然だ。

「お前、これを落とすって相当バカじゃね?」
「言うなや! ……それ失くして、めちゃ落ち込んだんだから」

 わかってるよ、そんなこと!
 肝心なときにダメなのが俺なんだ。

 昔からそうなんだよ。普段そんなにやらかさないのに、ありえないっていうようなときだけミスをする。
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