恋して☆ひつじゅひん!

ゆずタルト

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2.転校生(1)

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 わたし 立花たちばな ひつじ。
 どこにでもいる女子高生だと思いたいんだけど、わたしには変なものが見える。
 最初に見たのは、いつだったか忘れてしまったけど祖父母宅にあった日本人形。ケースから抜け出してこっちに歩いてくるから、驚いて親に伝えたけど信じてもらえなかった。そんなわたしに祖母は「もしかしたら、ひつじは神様を見たのかもしれないねぇ」なんて優しく笑った。
 物につく神様って”付喪神つくもがみ”っていうやつだよね? でもたぶん違うと思う。今わたしに見えているみんなは、神様にしては品がないし変態だもん。

 あ。
 でも、あの子は、優しかったけど……


「ひつじ、何か考え事ですか?」
「っ、あ、なななに?!」

 そうだ、隣を歩いているすぐるさんも、わたしには人間の姿に見えるけど本来の姿はスクールバッグなの。
 卓さんは、みんなより落ち着いていてお兄さんって感じ。でも、怒らせると笑顔が怖いから、たまにお母さんらしくもある。

「……いえ。ただちゃんと前を見て歩かないと危ないですよ」
「うん、ごめ――」

「ねえ、今日放課後どこか遊び行こうよー」
「いいねいいね、みんなも誘っちゃう?」

「っ……」

 卓さんたちは、みんなには見えない。
 だから、周りからはわたしが”見えない何かと会話をする頭のおかしい子”って言われている。気を付けてはいるんだけど、幼少期から見えている私にとっては日常と変わりのない一部だから、つい反応してしまう。

 そのせいで、以前辛いことがたくさんあった。

「ひつじ、大丈夫ですか?」
「……うん。ごめんなさい、話の途中で黙ってしまって」
「いいえ、気にしないでください。さあ、先を急ぎましょう」
「うん」

 今日も今日とて、卓さんに手を引かれて登校する。
 その手は、夢にみたらん君よりも大きくて力強かった。




「おはよー!」
「おーす」
「昨日テレビでさー」

 教室に入ると、クラスメイトたちが賑やかに談笑している、わたしはその中を静かに通り抜けて席に着く。
 2年3組のベランダ側の一番後ろ。落ち着く場所だ。

「教科書とノート、筆箱です」
「ありがとう」

 これだけ賑やかなら、わたしの独り言なんて誰も耳にする人は居ない。卓さんから教材を受け取れば1限目の授業の準備をして、その他のものは机の中にしまった。

「卓さん、今日もありがとう。もう大丈夫だよ」
「分かりました。少し休ませていただきます」

 周りの人には見えていないからって授業中ずっと立たせるのも申し訳ないし、卓さんには元の姿に戻ってもらう。膝の上でカバンを優しく撫でてあげた。

「うっわ、カバン撫でるとか変な奴」
「ぁ、秋口くん……おはよう」

 わたしを見下ろす彼は、秋口あきぐち 利樹としき君。小学校の頃からのお友達。

「こいつ、小学ん頃から毎日毎日カバン撫でてるんだよ」
「え。秋口は、カバンを撫でる立花を見てたってこと?」

 秋口くんのお友達は、わざとらしく言葉を主張すればニヤニヤと笑った。

「もしかして、立花に”ほの字”ってやつか?」
「なっ、ば、ちげーよ! 誰がこんな頭いかれたやつのことなんか!」
「っ……」
「っ、ち、ちげーかんなっ!!」

 秋口君は、わたしと目が合うと友達を追いかけていった。
 それと同時に、HRの時間になって担任の先生が教室に入ってきた。

「おら、席に着けー。今日は転校生の紹介をするぞー」

 転校生、どんな子なのかな。
 男子かな、女子かな。
 みんなも気になるみたいで、教室がざわつき始めた。しかし先生は思い出したように言う。

「と、その前に出席確認なー」
「そんなことやってる場合じゃないよー!」
「はやく転校生紹介してー!」

 生徒たちのブーイングに肩をすぼめれば、先生はひとりひとり見渡して「よし、全員出席」と呟いた。

 「んじゃあ、」と口を開けばみんなの視線は教室の前の扉へ。わたしもなんだかんだで気になってしまう。女の子だったら、お友達になれるかななんて……。

「桐谷入っていいぞー」

 先生の掛け声に扉が開けば、男の子が入ってきた。

 「きゃあああ」と女子たちが盛り上がれば男子たちは肩を落とした。わたしも小さくため息。だって自分から声かけられないし、それにわたしが”変な子”だって噂も、すぐ耳に入るんだろうなぁ。あ、でもそれは女の子だったとしても、だよね……。

「やっぱり、わたしは友達なんて……」

「今日からこのクラスの一員になる桐谷だ。よし、自己紹介よろしく」
「はい。桐谷きりたに らんです。この街には初めて来たのになんだか懐かしい気分で、みなさんとはやく仲良くなれそうな気がします。よろしくお願いします」

 桐谷、蘭君。名前、らん君と同じだ。
 一礼する桐谷君のさらさらと流れる茶色の髪の毛が綺麗で眺めていたら、目が合った。

「!」
「あ」
「桐谷、どうかしたか?」
「……いえ、なんでもないです」

 思わず目を逸らしてしまったけど、失礼なことしちゃったかも……。何か言いたげに口が開いたもんね……はあ、印象悪くしちゃったかな。もし話す機会があれば、謝ろう。


「んじゃ、桐谷は…………」
「!」

 先生はまた教室の中をゆっくりと見渡す。

「立花の隣な。立花、手を上げろ」
「っ……は、はい」
「あいつの隣だ」
「はい、分かりました」

 わたしの隣が桐谷くんの席。
 早速謝る機会がやってきた……けど、なんか女子の視線が痛いなぁ……。

「立花ひつじちゃん、かな?」
「え、どうしてわたしの名前を……」
「僕のこと、覚えてない?」

 蘭君のこと?
 覚えてるも何も、蘭君とは今日初めて出会ったばかりだし……

「ごめんなさい」
「そっか」
「おいそこー、喋るならHR終わってからにしろー」
「はい、すみません」
「……すみません」



 なんだか、不思議な人だなぁ。


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