復讐に燃えたところで身体は燃え尽きて鋼になり果てた。~とある傭兵に復讐しようと傭兵になってみたら実は全部仕組まれていた件

坂樋戸伊(さかつうといさ)

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亮平

亮平 -01

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 大昔に地上の世界は崩壊し、汚染物質を避けるため、人類は一部の施設を残し地下に世界を作った。

--今の世界は表向き企業が国と呼ばれていた集合体の役割を担っているらしい。

 だが、俺達にとって、自分たちが所属しているモノが企業であるか、国であるか、という差しかないように習ったときに思った。
 地下世界において、格差はかつて地上で生きていた人々よりも格段に広がったらしいが、生まれた時から企業トップ層との差はよく解っていたので、格差がどうのと言われてもピンとこない。住む世界が違う、異次元の人たちが俺達の生活基盤となる部分を時々動かしている、程度に思っている。
 殺伐とした空気が流れそうなものだが、実際のところ時折発生する企業同士の小競り合いは、巻き込まれない限り対岸の火事としてとらえていた。ニュースを見ても、大変そうだなあくらいにしか思えないのだ。
 
 スクールでこの世界の成り立ちを知り、超々巨大企業が提供するサービスとは何か、各都市に置かれた(お飾りの)首長と都市警備隊ガードが居て、たいていのインフラは大企業たちが牛耳るこの世界、企業のトップ層に入り込むには人を捨てた何かになるくらいじゃないとダメだろうとか、トップの人間たちは魚という食材を使った生臭い料理を食っているらしい、なんて話を言いあいながら俺--杉屋 亮平は日々を少ないながらも存在する友人と日常をそれなりに過ごしていた。

 そんな日常の中、俺たちの街は地獄に変わった。

 この街を支配している企業に敵対する者たちが雇った傭兵が無茶苦茶に暴れて回ったおかげで、俺が住んでいた5番地は、阿鼻叫喚の様相になっていった。
 突然の警報、それと同時に、爆発の衝撃、銃声。シティガードはその傭兵を取り押さえようと必死に動くが、見る間に街はその紅い機体に蹂躙された。

 左肩に、刃を交差させたエンブレム。

 紅く、まがまがしいほどに紅いその巨体は、砲口をあちこちに向け、その劫火をさらに広げんと街の中を走り回っていた。一緒に逃げていたはずの友人が、避難所へ向かう途中爆風で吹き飛ばされ、なんとか避難できそうな建物に居合わせた人たちも、避難場所の天井が崩落し、下敷きになって次々と死んでいった。
 やがて爆音と銃声がやみ、シティガードが生き延びた人に呼びかける。
 そのころにはもう、街は瓦礫と炎で埋め尽くされ、周りは血と硝煙の匂いが充満していた。なんとか身を潜めていたところからはい出し、家族を、友人を呼んでみる。

「親父ぃーーーーっ!」

 声の限り、空気の熱さも忘れ呼び掛ける。
 だれか、誰かいないか。
 
 俺の大切な、大切な人たちはいないのか、と。

 こんな状況、生きている人はそこまで多くないかもしれない。それでも生きていると信じたかった。

「誰も!」

 どこにも、もういなかった。学校から帰った時、時々声を掛けてくれていた近所の気のいいおじさんも、気分転換に公園へ行ったとき、無邪気に遊んで欲しいとせがんできていたあの子も。誰も、見つけることはできなかった。
 気づかぬうちに身体には限界が来ていたのだろう、足がなかなか前に進まない。身体を引きずる様に廃墟と化した通りを徘徊し、探し回る。ふと気づくと、親父が勤めている会社があるブロックへ来ていた。いなくなって欲しくないと、親父の影を探す。無事でいてほしい、と。そうやって必死に探していたところに、見覚えのある時計をした腕が、がれきから出ているのが見えた。

 親父の腕だった。

 がれきから出ていた手に腕を伸ばし、引き上げようとすると、それは予想外に軽く、勢いよく俺はそのまま後ろに倒れた。
 何が起きたかわからなかったが、自分が引き出したその腕の先を見ると、ちょうどひじから少し先の部分はなく、ちぎれた腕を俺は驚いて離してしまった。切断面からぐちゃりと落ち、全く力が入る様子はなく地面に落ちる。

「っなんっ……だ」

 親父の腕だけが、見つかった。
 誕生日だ、と言って、初めてバイトして買った時計。
 嬉しそうな、誇らしげな顔をして受け取ってくれた時計。

「もう……嘘だろ……」

 自分の置かれている状況に、思考は混濁の極致にあった。そんな中で何故かフェイス部分のガラスはひび割れていてフレームが歪んでいても、その盤面の特徴は記憶にあった親父へ贈ったものに違いないと判った。
 そして、この世界でたった一人の家族が失われたという事実も。
 取り落した親父の腕を自分に引き寄せ、掻き抱き、俺は叫ぶ。
 どす黒く沈んだ、その憎悪をありったけぶちまける。涙が尽き果てることが無かったように、あらん限り、喉がかすれ切っても、獣のように吠えた。

「絶対に……絶対に殺してやる!待っていろ!」

 だが、その声は、誰に届くこともなく、暗い闇の底に沈んで消えた。


 ネットワーク上で紅いFAVについて情報を集めいていた俺は、すこしばかり有名になっていたらしい。SNSやらBBSやらでやたらとBAN警告される発言が多かったらしく、大体は「妄想乙wwww」とか「今更wwww」なんていう返しを受けることが大方だった。
 そんな中で、ダイレクトメッセージを送ってきた人物の中に「傭兵になって直接対決したらどうか」と持ち掛けてきたやつがいた。実際のところ、そんな風に俺の中にある復讐したい欲求へ直接訴えかけるようなメッセージを送ってくるようなやつはそれこそ大量にいたし、

【悲報】とある傭兵に復讐を誓った俺氏、盛大に釣られる

 なんていうタイトルで、やり取りを晒すサイトが作られたりして、どこの誰とも知らないやつにオモチャにされたりもした。

 だが、そんな中で、本当に俺にコンタクトしたいと言う、奇特な人間がいた。

「私なら本当に傭兵にして、お前の願いをかなえてやれる」

 具体的なプランまで添えてコンタクトをしてきたそいつは、「アリス」と名乗っていた。偽名だろう。

「そのFAVを使う傭兵について、調べておいた」

 とも。

 表面上、トップランクにいる傭兵であれば、アリーナに顔を出すことが多いので一般人でも知っていることが多いが、アリーナにほとんど顔を出さないタイプでは知名度は相当に低い。調べても、その機体の構成、戦術などは出てこないうえ、ほとんどの情報はL A Sランスアンドシールドが持つプロテクトで一般の回線からは見られないはずだった。

 だが、その女(最初のメッセージで女だと言ってきた)からの情報は違った。
 俺がこうなった原因となる作戦の、依頼の内容を知らせてきたのだ。

「実際にはどちらの陣営が依頼を出したのか」
「企業からの達成評価」
「その当時の機体構成」

 すべてを俺に知らせてきた。

 お互いに妄想を拗らせてしまっていたのかもしれない。
 願いをかなえてやる、というメッセージとともに、その当時の機体構成とエンブレムの情報が決定打になり、ミーティングをするスケジュール調整をすることになった。
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