2 / 29
亮平
亮平 -02
しおりを挟む
アリス、と名乗った女は、俺がその話にのる、という返答をした後、こう言った。「私がお前のマネージメントをしてやる」と
そのうえで、必要な時には直接対面しよう、とも。
マネージメントというか、育成という方がいいやり取りが開始された。
メッセージを介して、どういう手続きが必要か、どういう知識や技術の習得が必要か、ということをレクチャーされていく。まだ実際に会っていないときに、半信半疑で指定されたFAVのガレージに行ったとき、すでに担当は状況を把握していて、俺にシミュレーターを操作するように指示されたあたりで、あの女の本気度をようやく理解した。
シミュレーションの内容は歩行、ジャンプなどの基本動作がメインだったが、講義で聞いていた通りにはなかなか動かせなかった。一通りの移動操作ができるようになったところで、回避行動のシミュレーションに移る。
相手の射線からいかに早く離脱するか、関節部などの重要なところにいかにダメージをもらわないようにするかなどを訓練するわけだが。
「スコアは控えめに言って、まあ最悪だな」
胃の中を空っぽにするまで吐き倒したあと、ややはっきりしない意識を抱えながら、マネージャーの評価を受ける。言い返そうにも、言葉を出せなかった。これまで全く体験したこともないような縦横無尽に襲い来る加速、減速時のGで、内臓と意識がシェイクされ、前後不覚になるレベルだったのだ。
「ただ、初めていろいろ操作をした割には、こちらの指示を理解して動かそうとしているところは見て取れた。あとは、FAVの四肢が自分の手足並みに動かせるように今後の訓練だな。」
そうなるまでは依頼を受けない、とまで言いそうな雰囲気だったが、あの傭兵にとどめを刺すまでになるには必要なことだと、付け加えられた。そういわれて、いよいよ自分は地獄へ一歩踏み出そうとしているんだと実感した。
今思い返せば、その予感は確かに的中はしていた。しかし、それは自分が思っていた以上に、昏く、深い闇の底だった。一条の光さえも差し込むことのない、怨嗟に塗れた魂の闇だった。
「さて、いよいよL A Sの登録オーディションだが、聞いておきたいことはあるか?」
最低点を刻み付けた初回のシミュレーター訓練から3か月。
いよいよ実機での戦闘機動の訓練を開始したあたりで、アリスは俺に尋ねてきた。
「聞いておくも何も、俺はアリスの指図通りしか今は動けない。
オーディションとは実戦形式なのか?くらいしか聞くことがないな。」
いつものように、そう答えつつ、初めて対面した時のことを思い出していた。
シミュレーターで基礎動作の確認と、初回の回避機動のテスト後、日を空けてアリスと対面することになった。何度か音声でやり取りをしたことはあったり、自己紹介時にも申告があったので女性、ということはわかっていたが、それ以上に経歴や、生い立ちは知らない。それらのことは大したことじゃない、と深追いする意識を割り振らなかった、というのが大いにあるが、名前と、彼女の今の立場を理解できればそれでいいと思っていたのだ。
だから、実際に会う、なんて話を持ち掛けられたときは正直面倒くさいと思った。テキストや音声通話だけで成り立つと思い込んでいたからだ。だが、彼女はそうしなかった。直接対面しようと言い出して、一方的に日程を言い渡された。まったくこちらの都合を無視された形だ。待ち合わせは、最初にFAVのシミュレーター訓練を受けたその場所で落ち合うことになった。
そうして実際に待ち合わせた際に目にしたのは相当に整った、ブランド服の広告モデルでもやっていけそうなくらいの女性が立っていた。プラチナブロンドをアップにして、かっちりとしたグレーのパンツスーツ。そのスーツを纏ったスレンダーな肢体は、いつかみた凛とした白百合のような出で立ちで、なんというか、これまでの会話の内容からすると、随分と想像から離れていた。
「……なんだ?呆けた顔を晒して。これから確実に人を一人殺そうという人間が、たかが女の一人や二人みて呆けるな。」
やや殺気が籠っている目線で射竦められる。実際、剣呑とした感じのまなざしで俺を睨んでいたように思う。
「初めまして、だな。私はアリス。アリス=R=ルミナリスだ。」
右手を差し出しながら、彼女は名乗る。
「……杉屋亮平だ。」
ファーストコンタクトで威圧されたと感じたため、やや憮然とした表情と声で彼女の右手を取り、握手する。
「ふーむ」
握手を切ったと思いきや、いきなりアリスは俺の体に視線を巡らせ、さらには背後に回ったりと、身体検査をしてきた。
「何か面白いものでもあるのか?俺に?」
「いや、特別ない。今のところは、だが」
どこか引っかかる物言いをしながら、俺と目線が合うようにまた正面に立ち、こう言った。
「さて、ビジネスをしよう。お前には足りていないものが大量にあるが、一先ずこれからどういう動きをするか。どういう訓練をして、何者である必要があるのか。これをまず固める必要がある。」
そのうえで、必要な時には直接対面しよう、とも。
マネージメントというか、育成という方がいいやり取りが開始された。
メッセージを介して、どういう手続きが必要か、どういう知識や技術の習得が必要か、ということをレクチャーされていく。まだ実際に会っていないときに、半信半疑で指定されたFAVのガレージに行ったとき、すでに担当は状況を把握していて、俺にシミュレーターを操作するように指示されたあたりで、あの女の本気度をようやく理解した。
シミュレーションの内容は歩行、ジャンプなどの基本動作がメインだったが、講義で聞いていた通りにはなかなか動かせなかった。一通りの移動操作ができるようになったところで、回避行動のシミュレーションに移る。
相手の射線からいかに早く離脱するか、関節部などの重要なところにいかにダメージをもらわないようにするかなどを訓練するわけだが。
「スコアは控えめに言って、まあ最悪だな」
胃の中を空っぽにするまで吐き倒したあと、ややはっきりしない意識を抱えながら、マネージャーの評価を受ける。言い返そうにも、言葉を出せなかった。これまで全く体験したこともないような縦横無尽に襲い来る加速、減速時のGで、内臓と意識がシェイクされ、前後不覚になるレベルだったのだ。
「ただ、初めていろいろ操作をした割には、こちらの指示を理解して動かそうとしているところは見て取れた。あとは、FAVの四肢が自分の手足並みに動かせるように今後の訓練だな。」
そうなるまでは依頼を受けない、とまで言いそうな雰囲気だったが、あの傭兵にとどめを刺すまでになるには必要なことだと、付け加えられた。そういわれて、いよいよ自分は地獄へ一歩踏み出そうとしているんだと実感した。
今思い返せば、その予感は確かに的中はしていた。しかし、それは自分が思っていた以上に、昏く、深い闇の底だった。一条の光さえも差し込むことのない、怨嗟に塗れた魂の闇だった。
「さて、いよいよL A Sの登録オーディションだが、聞いておきたいことはあるか?」
最低点を刻み付けた初回のシミュレーター訓練から3か月。
いよいよ実機での戦闘機動の訓練を開始したあたりで、アリスは俺に尋ねてきた。
「聞いておくも何も、俺はアリスの指図通りしか今は動けない。
オーディションとは実戦形式なのか?くらいしか聞くことがないな。」
いつものように、そう答えつつ、初めて対面した時のことを思い出していた。
シミュレーターで基礎動作の確認と、初回の回避機動のテスト後、日を空けてアリスと対面することになった。何度か音声でやり取りをしたことはあったり、自己紹介時にも申告があったので女性、ということはわかっていたが、それ以上に経歴や、生い立ちは知らない。それらのことは大したことじゃない、と深追いする意識を割り振らなかった、というのが大いにあるが、名前と、彼女の今の立場を理解できればそれでいいと思っていたのだ。
だから、実際に会う、なんて話を持ち掛けられたときは正直面倒くさいと思った。テキストや音声通話だけで成り立つと思い込んでいたからだ。だが、彼女はそうしなかった。直接対面しようと言い出して、一方的に日程を言い渡された。まったくこちらの都合を無視された形だ。待ち合わせは、最初にFAVのシミュレーター訓練を受けたその場所で落ち合うことになった。
そうして実際に待ち合わせた際に目にしたのは相当に整った、ブランド服の広告モデルでもやっていけそうなくらいの女性が立っていた。プラチナブロンドをアップにして、かっちりとしたグレーのパンツスーツ。そのスーツを纏ったスレンダーな肢体は、いつかみた凛とした白百合のような出で立ちで、なんというか、これまでの会話の内容からすると、随分と想像から離れていた。
「……なんだ?呆けた顔を晒して。これから確実に人を一人殺そうという人間が、たかが女の一人や二人みて呆けるな。」
やや殺気が籠っている目線で射竦められる。実際、剣呑とした感じのまなざしで俺を睨んでいたように思う。
「初めまして、だな。私はアリス。アリス=R=ルミナリスだ。」
右手を差し出しながら、彼女は名乗る。
「……杉屋亮平だ。」
ファーストコンタクトで威圧されたと感じたため、やや憮然とした表情と声で彼女の右手を取り、握手する。
「ふーむ」
握手を切ったと思いきや、いきなりアリスは俺の体に視線を巡らせ、さらには背後に回ったりと、身体検査をしてきた。
「何か面白いものでもあるのか?俺に?」
「いや、特別ない。今のところは、だが」
どこか引っかかる物言いをしながら、俺と目線が合うようにまた正面に立ち、こう言った。
「さて、ビジネスをしよう。お前には足りていないものが大量にあるが、一先ずこれからどういう動きをするか。どういう訓練をして、何者である必要があるのか。これをまず固める必要がある。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる