4 / 29
亮平
亮平 -04
しおりを挟む
暗い暗い闇の中。
「誰か」が膝を抱えて座っている。
ぼんやりと、焦点の定まらない視界でみるその横顔は、自分の眼尻にある古傷のようなシミが見えていた。
「お前は……?」
その横顔がこちらへ向いたとたんに視界は白く眩しく光り、そのまま、より深い眠りに叩き落された。
-------------------------------------------
「おい!」
ベッドの上に寝転がっていた俺の足元に、ワークブーツの蹴りが飛んでくる。
大分荒っぽい起こし方をするやつもいたもんだとうっすら目を開けると、飛び込んできたのはかなり見目整った美人だった。
そうだ、この女、俺のマネージャーだ。
「いったいいつまで寝ているつもりだ?」
あれだけの衝撃があったにもかかわらず、外傷はほとんどないらしい。シートのハーネスでこすった傷が胴を中心に見えるが、それ以外はほとんど皆無と言っていい。つまり、生き延びて、晴れてLASで仕事ができるようになったというわけだ。仕事ができる、と言っても、復讐を成し遂げるにあたって必要な条件を一つクリアした、ということに過ぎない。ライセンスを取ったところで、あの傭兵を殺せなければ何の意味もないのだ。
「……言いたいことはそれなりにあるようだが、これでお前はLASの傭兵だ。規範云々を言う気はない。お前はお前の定めた目標を見続けろ。」
アリスはそう言いながら、携帯デバイスを操作する。そして、その画面を見せた。LASの傭兵がアクセスする、ゲートウェイのページだ。
「本人が操作を必要としないところは粗方こちらで手配が終わっている。マネージャーとして私も登録したところだ。マネージャーがもつアカウント権限は傭兵本人との契約内容次第だが、とりあえず依頼の受諾、応募についてはこちらにも権限がある状態にした。」
本来、傭兵は単独でオペレーターなどの手配までもすることがあるのだが、まったくの素人である亮平が突拍子もない依頼を受けたり、あるいは害意が潜んでいそうな案件を弾く為にも、アリスがしばらく依頼の選定をすることになった。
依頼をこなしながら、ひとかどの傭兵として生計を立てられるよう、レクチャーも兼ねる、とのことだった。
「LASへ入れたらそれでお別れ、ってことじゃないんだな……」
思ったことが口をついて出てきた。
「復讐を成し遂げる前に野垂れ死んで構わん、というのなら私はマネージャーを降りるが?」
アリスはベッドの傍らにあった椅子に座り、肩をすくめて亮平に投げかけ、さらに続ける。
「それはお前が決めるところだが、まともに装備も、経験もない状態で依頼を受けて、早々に退場、となられても困るんだがなあ……」
器用に片目を瞑り、値踏みするような顔で亮平の顔を見るアリス。
「最短で行く道が、アリスのマネージメントを受けつつ行く道であるなら、俺はそっちでいい。」
強く、ただ強く目を光らせる。その外見には似合わぬほど昏い気を漂わせて、自分の行く道を宣言する。
「……よくわかった。」
そう言いながらアリスは立ち上がり、亮平に背を向け立ち去ろうとする。ドアを開け放ったあと、彼女はこう言った。
「本当を言うと、この一回で終わらせると思っていなかった。よくやった。結果がどうであれ、ひとまずの目標をクリアできたぞ。今はしっかり休め」
その言葉を聞いて、亮平はベッドに体を預ける。
また、明日から血反吐を吐き出すような教練と、さらに依頼で実戦をこなしていくことになる。今日までと違う、より昏い覚悟が必要になるだろう明日を思いながら、眠りに落ちていった。
----------------------------------------------------------------
杉屋亮平にとって不幸なことは、彼の周りの誰もがその日にいなくなってしまったことだ。
それまでの彼をよく知る友人、そこまで育てた親、そして、出会った人々。だれも、憎しみがどういうものであるのか、どう自分の周りの世界と関わっていくことが幸せに近づけるのか、伝えられるものは居なかった。
何よりも、彼が生み出された出自を知っている父が亡くなってしまい、「ヒトとして」生きる道がわからなくなってしまった。
まだ、亮平は知らない。自分が大きな災禍の中心にいることを。
「誰か」が膝を抱えて座っている。
ぼんやりと、焦点の定まらない視界でみるその横顔は、自分の眼尻にある古傷のようなシミが見えていた。
「お前は……?」
その横顔がこちらへ向いたとたんに視界は白く眩しく光り、そのまま、より深い眠りに叩き落された。
-------------------------------------------
「おい!」
ベッドの上に寝転がっていた俺の足元に、ワークブーツの蹴りが飛んでくる。
大分荒っぽい起こし方をするやつもいたもんだとうっすら目を開けると、飛び込んできたのはかなり見目整った美人だった。
そうだ、この女、俺のマネージャーだ。
「いったいいつまで寝ているつもりだ?」
あれだけの衝撃があったにもかかわらず、外傷はほとんどないらしい。シートのハーネスでこすった傷が胴を中心に見えるが、それ以外はほとんど皆無と言っていい。つまり、生き延びて、晴れてLASで仕事ができるようになったというわけだ。仕事ができる、と言っても、復讐を成し遂げるにあたって必要な条件を一つクリアした、ということに過ぎない。ライセンスを取ったところで、あの傭兵を殺せなければ何の意味もないのだ。
「……言いたいことはそれなりにあるようだが、これでお前はLASの傭兵だ。規範云々を言う気はない。お前はお前の定めた目標を見続けろ。」
アリスはそう言いながら、携帯デバイスを操作する。そして、その画面を見せた。LASの傭兵がアクセスする、ゲートウェイのページだ。
「本人が操作を必要としないところは粗方こちらで手配が終わっている。マネージャーとして私も登録したところだ。マネージャーがもつアカウント権限は傭兵本人との契約内容次第だが、とりあえず依頼の受諾、応募についてはこちらにも権限がある状態にした。」
本来、傭兵は単独でオペレーターなどの手配までもすることがあるのだが、まったくの素人である亮平が突拍子もない依頼を受けたり、あるいは害意が潜んでいそうな案件を弾く為にも、アリスがしばらく依頼の選定をすることになった。
依頼をこなしながら、ひとかどの傭兵として生計を立てられるよう、レクチャーも兼ねる、とのことだった。
「LASへ入れたらそれでお別れ、ってことじゃないんだな……」
思ったことが口をついて出てきた。
「復讐を成し遂げる前に野垂れ死んで構わん、というのなら私はマネージャーを降りるが?」
アリスはベッドの傍らにあった椅子に座り、肩をすくめて亮平に投げかけ、さらに続ける。
「それはお前が決めるところだが、まともに装備も、経験もない状態で依頼を受けて、早々に退場、となられても困るんだがなあ……」
器用に片目を瞑り、値踏みするような顔で亮平の顔を見るアリス。
「最短で行く道が、アリスのマネージメントを受けつつ行く道であるなら、俺はそっちでいい。」
強く、ただ強く目を光らせる。その外見には似合わぬほど昏い気を漂わせて、自分の行く道を宣言する。
「……よくわかった。」
そう言いながらアリスは立ち上がり、亮平に背を向け立ち去ろうとする。ドアを開け放ったあと、彼女はこう言った。
「本当を言うと、この一回で終わらせると思っていなかった。よくやった。結果がどうであれ、ひとまずの目標をクリアできたぞ。今はしっかり休め」
その言葉を聞いて、亮平はベッドに体を預ける。
また、明日から血反吐を吐き出すような教練と、さらに依頼で実戦をこなしていくことになる。今日までと違う、より昏い覚悟が必要になるだろう明日を思いながら、眠りに落ちていった。
----------------------------------------------------------------
杉屋亮平にとって不幸なことは、彼の周りの誰もがその日にいなくなってしまったことだ。
それまでの彼をよく知る友人、そこまで育てた親、そして、出会った人々。だれも、憎しみがどういうものであるのか、どう自分の周りの世界と関わっていくことが幸せに近づけるのか、伝えられるものは居なかった。
何よりも、彼が生み出された出自を知っている父が亡くなってしまい、「ヒトとして」生きる道がわからなくなってしまった。
まだ、亮平は知らない。自分が大きな災禍の中心にいることを。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる