5 / 116
3、確認 前編
しおりを挟む
HR終了後、俺は晴兄に会うために職員室へ向かった。だが数分遅かった。職員室の前は噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっていた。
これじゃまともに話せやしない。この群れを押し除けて無理やり話すか、全員帰るのを待つか俺は迷った。
どうしようかと悩んでいると、不意に教室で嗅いだ匂いよりさらに甘い、頭が溶けるような匂いがした。
――これってSubのフェロモンだ。
俺も割とランクの高いDomだから何となく分かる。この中に相当ランクの高いSubがいる。
俺はクラクラする頭を抑えながら、前の群れへ目をやる。すると群れの中心で顔を真っ青にして、震えながら笑顔を振り撒く晴兄の姿が目に入った。よく見ると、目の下の隈も酷い。その症状はまさに欲求が満たされていないSubの症状そのままだった。
――なんだ…やっぱり晴兄はSubだったんだ…
そう思ったら、あとは早かった。目の前の女子の群れから無理やり晴兄を引き剥がして無我夢中で走った。
その間、晴兄が何か叫んでいたけれど、俺の耳には入ってこなかった。
階段を駆け上がって、廊下を走って、俺は東棟3階の今は使われていない教室に駆け込んだ。
夢中で走ったおかげで俺と晴兄の息は相当上がっていた。とりあえず呼吸を整えようと、晴兄の手を離し、俺は床に座り込んだ。すると、晴兄が息絶え絶えに怒号を飛ばしてきた。
「いい加減しに、しろ!こんなところに連れ込んで、何考えてんだ」
この時俺は、初めて晴兄の怒った声を聞いた。だけど、怒るのもしょうがない。なんの説明もせずに、人気のない薄暗い教室に連れ込まれて、怒らない人なんていない。
俺は息を整えて、晴兄の前に立ち、少しずつ詰め寄っていった。
「ごめん…晴兄…でも晴兄が悪いんだよ…欲求不満で発作起きかかってたし、それに、すごく甘い香りがする…俺に会えたのが嬉しくて、無意識に出ちゃったんじゃない?」
近くに寄るとさらにクラクラする。意識が持っていかれそうで、抱きしめてぐちゃぐちゃにしたい気持ちが溢れてくる。俺は今までに感じたことがないほどの加虐心の湧き上がりに、恐怖を感じていた。
「ふざけるな。俺はNormalだ。それに俺はお前の兄貴じゃない」
「っ!…どうしてそんなこと言うの…昔よく遊んだじゃん。忘れちゃったの?」
「忘れるも何も、俺たちは今日が初対面だ」
初対面?何を言ってるのか分からないよ、晴兄。顔も声もあの時と一緒だよ。口元の黒子も左目尻の黒子も同じ位置だよ。この匂いも、さっきは思い出せなかったけど、昔と一緒。
仮に俺の記憶違いだったとしても、俺を見て今にも泣きそうな顔をしていたらなんの説得力も持たないよ、晴兄。
「嘘下手すぎ…本当に初対面なら、なんでそんな辛そうな顔してんのさ。泣きそうじゃん」
「…っ…そんな顔してない!とりあえず離れてくれ」
「嫌なら殴るなりして逃げたら?」
俺は生徒を殴れないことをいいことに、晴兄を壁際に追いやった。
ここで離したら、もう一生晴兄には触れられない。俺から離れていなくなっちゃう。
――そんなの嫌だ…もうあの暗くて冷たい気持ちになるのは嫌だ…
どうにかして晴兄を俺のものにしたい。そう思ったら無意識にCommandを口にしていた。
「Kneel」
晴兄はなんの抵抗もなく、ぺたんと床に座った。やっぱり、Commandに反応するってことは晴兄はSubなんだ。
こんなにあっさり聞いちゃうってことは、だいぶ欲求不満だったに違いない。それは想像を絶する辛さだったはずだ。
もしかして俺と離れてからずっとPlayしてなかったりして。そう考えたらゾクゾクして笑いが止まらなかった。
――ずっと俺のSubでいてくれたんだ。だったら俺が満たしてあげなきゃね。
「晴兄、Look」
「やっ…やめっ…」
晴兄は恐怖の色を見せながらも、このあと何をされるのかと期待しているように俺を見ていた。
「ようやくこっちを見てくれた。ずっと俺しか見られないようにしてあげるから」
「やめっ…ろ…は、犯罪…だぞ…」
確かに、合意のないCommandを使ったPlayは犯罪だ。だけど、晴兄の顔は嬉しそうで、合意しているように見える。「やめろ」と口では言いながら、口角は嬉しそうに上がっていると言うことが何よりの証拠だ。
心の中では嬉しいのに、何が晴兄の気持ちを抑え込んでいるのか、俺はそれが気になった。
「どうして自分の気持ちを抑え込んでいるの?俺と離れている間に晴兄に何があったの?」
「………………」
晴兄は唇を噛み締めて、無言のまま俺を睨み付けてきた。
本当はCommandなんて使う前に言って欲しかった。もしかしたら納得できる内容だったかもしれないのに。でももうこうなってしまったら、俺自身も自分を止めることはできなかった。
俺は自分でも驚くほど冷静で冷たい声で、晴兄に命令した。
「――晴兄…Say…」
「あぁっ…うぅ…さ、最後に会った日…いつもやってた遊び…「罰ゲーム」…初めて陽介は俺を縛ってくすぐってきたり、俺を物みたいにして乗ってきたり、か…噛んで…楽しんでた。俺もそれが気持ち良くてやめろって言えなかった…それから……」
「それから?」
「お…思い切り噛み付いて…くれた。陽介は無意識だったよ。でも俺、それで余計気持ち良くなっちゃって…咄嗟に逃げたけど…帰り道では…Sub space…入ってた…はぁ…はぁ…」
話してくれた内容は、俺と晴兄が最後に会った日のことだった。
どうしても言いたくなかったのか、Commandへの抵抗がすごくて、言葉は途切れ途切れだった。それでも命令に逆らえないのは、長い間欲求を抑え込んでいた反動なのだろうか。
俺は晴兄の頭を撫でて、褒めた。
「Good Boy、話してくれてありがとう」
少し頭を撫でただけなのに、晴兄はそれだけで、気持ち良さそうにとろんとした顔になった。
本当に一瞬頭を撫でただけなのに、こんなに効きやすいってことは、やっぱり晴兄はずっとPlayをしていないんだ。
「こんな精神状態で、よく平静を装って生きてこられたね…」
「も…もっとぉ…じゃない…ちがっ…」
「もっと撫でてあげるから、ゆっくりでも話すんだ、いいね?」
これじゃまともに話せやしない。この群れを押し除けて無理やり話すか、全員帰るのを待つか俺は迷った。
どうしようかと悩んでいると、不意に教室で嗅いだ匂いよりさらに甘い、頭が溶けるような匂いがした。
――これってSubのフェロモンだ。
俺も割とランクの高いDomだから何となく分かる。この中に相当ランクの高いSubがいる。
俺はクラクラする頭を抑えながら、前の群れへ目をやる。すると群れの中心で顔を真っ青にして、震えながら笑顔を振り撒く晴兄の姿が目に入った。よく見ると、目の下の隈も酷い。その症状はまさに欲求が満たされていないSubの症状そのままだった。
――なんだ…やっぱり晴兄はSubだったんだ…
そう思ったら、あとは早かった。目の前の女子の群れから無理やり晴兄を引き剥がして無我夢中で走った。
その間、晴兄が何か叫んでいたけれど、俺の耳には入ってこなかった。
階段を駆け上がって、廊下を走って、俺は東棟3階の今は使われていない教室に駆け込んだ。
夢中で走ったおかげで俺と晴兄の息は相当上がっていた。とりあえず呼吸を整えようと、晴兄の手を離し、俺は床に座り込んだ。すると、晴兄が息絶え絶えに怒号を飛ばしてきた。
「いい加減しに、しろ!こんなところに連れ込んで、何考えてんだ」
この時俺は、初めて晴兄の怒った声を聞いた。だけど、怒るのもしょうがない。なんの説明もせずに、人気のない薄暗い教室に連れ込まれて、怒らない人なんていない。
俺は息を整えて、晴兄の前に立ち、少しずつ詰め寄っていった。
「ごめん…晴兄…でも晴兄が悪いんだよ…欲求不満で発作起きかかってたし、それに、すごく甘い香りがする…俺に会えたのが嬉しくて、無意識に出ちゃったんじゃない?」
近くに寄るとさらにクラクラする。意識が持っていかれそうで、抱きしめてぐちゃぐちゃにしたい気持ちが溢れてくる。俺は今までに感じたことがないほどの加虐心の湧き上がりに、恐怖を感じていた。
「ふざけるな。俺はNormalだ。それに俺はお前の兄貴じゃない」
「っ!…どうしてそんなこと言うの…昔よく遊んだじゃん。忘れちゃったの?」
「忘れるも何も、俺たちは今日が初対面だ」
初対面?何を言ってるのか分からないよ、晴兄。顔も声もあの時と一緒だよ。口元の黒子も左目尻の黒子も同じ位置だよ。この匂いも、さっきは思い出せなかったけど、昔と一緒。
仮に俺の記憶違いだったとしても、俺を見て今にも泣きそうな顔をしていたらなんの説得力も持たないよ、晴兄。
「嘘下手すぎ…本当に初対面なら、なんでそんな辛そうな顔してんのさ。泣きそうじゃん」
「…っ…そんな顔してない!とりあえず離れてくれ」
「嫌なら殴るなりして逃げたら?」
俺は生徒を殴れないことをいいことに、晴兄を壁際に追いやった。
ここで離したら、もう一生晴兄には触れられない。俺から離れていなくなっちゃう。
――そんなの嫌だ…もうあの暗くて冷たい気持ちになるのは嫌だ…
どうにかして晴兄を俺のものにしたい。そう思ったら無意識にCommandを口にしていた。
「Kneel」
晴兄はなんの抵抗もなく、ぺたんと床に座った。やっぱり、Commandに反応するってことは晴兄はSubなんだ。
こんなにあっさり聞いちゃうってことは、だいぶ欲求不満だったに違いない。それは想像を絶する辛さだったはずだ。
もしかして俺と離れてからずっとPlayしてなかったりして。そう考えたらゾクゾクして笑いが止まらなかった。
――ずっと俺のSubでいてくれたんだ。だったら俺が満たしてあげなきゃね。
「晴兄、Look」
「やっ…やめっ…」
晴兄は恐怖の色を見せながらも、このあと何をされるのかと期待しているように俺を見ていた。
「ようやくこっちを見てくれた。ずっと俺しか見られないようにしてあげるから」
「やめっ…ろ…は、犯罪…だぞ…」
確かに、合意のないCommandを使ったPlayは犯罪だ。だけど、晴兄の顔は嬉しそうで、合意しているように見える。「やめろ」と口では言いながら、口角は嬉しそうに上がっていると言うことが何よりの証拠だ。
心の中では嬉しいのに、何が晴兄の気持ちを抑え込んでいるのか、俺はそれが気になった。
「どうして自分の気持ちを抑え込んでいるの?俺と離れている間に晴兄に何があったの?」
「………………」
晴兄は唇を噛み締めて、無言のまま俺を睨み付けてきた。
本当はCommandなんて使う前に言って欲しかった。もしかしたら納得できる内容だったかもしれないのに。でももうこうなってしまったら、俺自身も自分を止めることはできなかった。
俺は自分でも驚くほど冷静で冷たい声で、晴兄に命令した。
「――晴兄…Say…」
「あぁっ…うぅ…さ、最後に会った日…いつもやってた遊び…「罰ゲーム」…初めて陽介は俺を縛ってくすぐってきたり、俺を物みたいにして乗ってきたり、か…噛んで…楽しんでた。俺もそれが気持ち良くてやめろって言えなかった…それから……」
「それから?」
「お…思い切り噛み付いて…くれた。陽介は無意識だったよ。でも俺、それで余計気持ち良くなっちゃって…咄嗟に逃げたけど…帰り道では…Sub space…入ってた…はぁ…はぁ…」
話してくれた内容は、俺と晴兄が最後に会った日のことだった。
どうしても言いたくなかったのか、Commandへの抵抗がすごくて、言葉は途切れ途切れだった。それでも命令に逆らえないのは、長い間欲求を抑え込んでいた反動なのだろうか。
俺は晴兄の頭を撫でて、褒めた。
「Good Boy、話してくれてありがとう」
少し頭を撫でただけなのに、晴兄はそれだけで、気持ち良さそうにとろんとした顔になった。
本当に一瞬頭を撫でただけなのに、こんなに効きやすいってことは、やっぱり晴兄はずっとPlayをしていないんだ。
「こんな精神状態で、よく平静を装って生きてこられたね…」
「も…もっとぉ…じゃない…ちがっ…」
「もっと撫でてあげるから、ゆっくりでも話すんだ、いいね?」
18
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!
ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。
そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。
翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。
実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。
楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。
楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。
※作者の個人的な解釈が含まれています。
※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる