モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

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65、あなたのいない誕生日

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 文化祭も体育祭も、高校生活3年間で1番楽しいものになった。というのも、晴兄に話だけでも楽しんでもらいたくて一生懸命頑張ったからだ。
 でも準備期間中と開催日はお見舞いに行くことができなかった。それだけが心残りだった。そして家族の中でお見舞いに毎日行けたのは母さんだけだった。それが少しだけ悔しかった。
 そんな俺を気にして、母さんは毎日写真を撮ってくれて、母さんも晴兄の日記を持ってその話をしているらしかった。毎日どんなことで反応を示したか教えてくれた。
 それでも意識が戻っているという感じではなく、9月から現状維持が続いていた。目を開く回数が多い日もあれば、全く開かない日もある。
 規則性があるわけではなく、どんな話に反応を示すかは本当にバラバラだった。
 そうしてあっという間に月日は過ぎていった。

――12月25日

キラキラと煌めくイルミネーション、甘い雰囲気を纏いそれぞれの世界に入り込む恋人たち、クラスで遊ぶ学生たち、楽しそうに手を繋いでケーキを買う家族、そんな寒いのに温かい空間の中、俺は大貴とファミレスで勉強をしていた。
 というのも、晴兄が定期健診で1日色々な検査をするため、今日は面会ができないからだ。

「なにも今日することないのに…1番時間が掛けられる日だからって、めっちゃ説得された…」
「残念だったな。先生と誕生日過ごせなくて」
「そうだよ、なんで大貴と…」

俺は不貞腐れついでに、ぶくぶくと行儀悪く飲み物にストローで空気を送り続けた。

「お前、子供すぎ」

呆れた顔の大貴が「汚い」と言いながら、ノートを丸めて俺の頭を思い切り叩いた。パンと1回良い音を鳴らすと、反対の手で俺の飲み物を取り上げる。

「切り替えろよ。付き合ってやってんだから」
「今日はさすがに無理」
「呼び出しといてそれはないだろ」
「どうせ予定なかっただろ。俺もどうせないし」
「ああなかったさ。1人寂しくケーキを食べるくらいしか予定はなかったさ!」

自分で言って虚しくなったのか、大貴は大人で言うところの「自棄酒を飲む」ように自分の飲み物と俺の飲み物を飲み干した。そして何故か寝てしまった。

「いや、ジュースで寝るって…」

大貴の醜態を見て冷静になった俺は、何事もなかったかのようにドリンクバーに飲み物を取りに行き、静かに参考書を開いた。気持ちよさそうに寝る大貴を横目に、黙々と問題を解き進めた。
 でも1人での勉強は俺には向いていなかった。去年までは平気だったのに、毎日晴兄と勉強するようになって、誰かと一緒の方が俺には向いていることがわかったのだ。

「はぁ…起こすのも悪いしな…」

俺はペンを回しながら、どうしたものかと考え、無意識に晴兄の書いた誕生日カードを机に並べた。時系列に並べて、それを見て楽しんだ。

「何回読んでも晴兄の妄想ってぶっ飛んでんだよなー」

そう、このカードは晴兄の妄想でできていたのだ。最初は可愛いものだった。

 お誕生日おめでとう
 今日という日を一緒に過ごせることを嬉しく思うよ
 それから今年の体育祭は大活躍だったね
 また1つ大きくなった陽介を見られたこと
 幸せに思います
 学校サボって見に行って良かった!!!

「あはは、学校なんて絶対サボらないでしょ」

ありきたりだと書いていてつまらなかったのか、唐突に晴兄の妄想が始まる。それが俺は面白くて何度も読み返した。
 そしてこの妄想、当時の晴兄を表しているものだとも感じた。

 昔読んだ漫画に、“プレゼントはわ・た・し”っていうセリフがあったんだ
 だから今年のプレゼントは、俺!
 ていうのはどうかな?なんちゃって…

そう書かれたカードを見つけた時は、流石にどうしていいか分からなかった。晴兄はただ漫画の真似をしただけかもしれないけど、その当時の日記と合わせると、とてもそうは思えなかった。

――もうどうでもいい

明るく書いてはあったけど、自分を蔑ろにしているように感じた。

「考えすぎかもしれないけど、全部俺にくれるって嬉しいけど…」

――もっと自分を大切にしてほしい

それが今の俺が昔の晴兄に出した答えだった。
 そんなちょっと偏った内容のカードを1枚ずつ読みながら、俺も晴兄との誕生日会を妄想して楽しんだ。
 全部考え終わる頃には陽が沈んでいた。カードをしまって、バッチリなタイミングで「よく寝た」と伸びをして起き上がる大貴に文句を言って、その後俺たちは店を移動して夕飯を一緒に食べた。
 帰った後は、母さんと父さんと久々に誕生日ケーキを食べた。もう何年も誕生日にケーキなんて食べていなかったけど、父さんが久々に買ってきてくれたらしい。それは甘さ控えめのチーズケーキだった。
 晴兄が選んでいたら、すごく甘くて生クリームたっぷりのショートケーキだっただろう。それもまた良かったなと思った。
 残りの時間はお風呂に入って、少し勉強をした。寝支度を整えて冷たいベッドに入ると、午前0時をすぎていた。
 こうして今年も晴兄のいない俺の誕生日は終わっていった。
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