愛を注いで

木陰みもり

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14、お酒は飲んでも飲まれるな

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「拓真…さん?」
「あっ…やっ…見ないで…」
「邪魔は良くないですよ、お兄さん」
 四乃が煽るように尊くんに言った。
 きっと誤解された。尊くんを傷付けた。それから、嫌われた。
 今日の朝まで温かい幸せでいっぱいだったのに、今は黒いものが心に渦巻いている。
 俺は溢れる涙が止まらなかった。
 きっとこのまま、尊くんとはさよならだ。俺はそう思った。だけど尊くんは立ち去ろうとせず、逆に四乃に対して冷静に話を進めた。
「お兄さんこそ、無理やりそんなことして恥ずかしくないんですか?」
「無理やりだなんて人聞きの悪い…同意の上ですよ」
「では何故その人は泣いているんですか?」
「さぁ、首筋を舐められて気持ち良くて泣いているのでは?」
そう言って見せるように四乃は俺の首筋にキスマークをつけた。
 もう嫌だ。どうしてこんなことになっているんだ。どうして、他の男にキスマークを付けられているところを恋人に見られているんだ。もう、誰でもいいから…
「たす…けてぇ…」
心の中で助けを求めたのか、それとも口に出していったのか、分からないくらい俺は気が動転していた。
 だけどその瞬間、四乃を押しのけ尊くんが俺を抱きしめていた。一瞬何が起きたのか分からなかった。もう幻滅されたと思っていた彼に、もう感じられないと思っていた彼の腕の温もりに、今は抱きしめられている。
 それがどんなに俺の心をほぐしてくれたか、きっと彼は気付いていないだろう。例え義務感からくるものだとしても、俺をとても安心させたのだ。
「いってぇ。勝手に入り込んできて何するんだよ」
「僕は彼の恋人なので問題ありません」
「何言ってんの。俺とこいつがしてるの見ただろ。お前のものじゃないわけ、わかる?」
「分かりません。彼は僕に花束を持ってきて『好きだ』と伝えてくれました。その言葉に嘘偽りはないと思っています」
もちろん嘘で「好きだ」なんて言わないけれど、尊くんがその言葉を信じてくれたことが嬉しかった。時間で言ったらたった2日程度の付き合いなのに、そこまで俺を信じてくれていたなんて思いもよらなかった。
 その言葉を聞いてまた涙が溢れてきた。今度は温かい涙が止まらなかった。
「何それ…惚気かよ…まぁでも二階堂さん絆されやすいし、俺でも奪えそう」
「やれるもんならやってみれば」
「お前腹立つやつだな」
「自信はあるので」
「もういいよ。今日は負けだけど、俺は会社で一緒だし、明日から本気でいくし。いつか奪ってやる」
 四乃は舌を出して中指を立て出ていった。
 四乃が出て行った後、尊くんは泣きじゃくる俺を落ち着かせるように背中を撫でてくれた。その温かさに、さらに俺は涙が止まらなかった。
 そうして思い切り泣いて疲れた俺は、いつの間にか眠りに落ちていた。
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