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15、一緒に暮らして
⑤
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独占欲出しすぎたかなと思うほど、拓真さんは明白に硬直していた。やってしまったと思うけれど、もしこんな重たくても側にいてくれたら嬉しいとも思う。
だけど今は冗談で流すか、反応を待つか…暗くて顔がよく見えないから、どっちが正解なのか分からない。
「あー…えっと…」
「それってさ…ずっと側にいろってこと?」
「えっ…そ、そうです?」
「あは、何で疑問系」
「あ、また笑った…」
「笑うよ。何でそこで疑問系なんだよ」
そりゃ疑問系にもなるよ。「ずっと側にいろ」なんて恥ずかしくて肯定できないし…というか「離してあげられない」も同じか。
しっかり考えたら急に恥ずかしくなってきた。何言ってんだって、笑われたんだよね。それはそれでショックかも。僕は掛け布団を頭まで被って布団の中に篭った。
「笑ってごめん。でもありがとう。笑ったらスッキリしちゃった。それに昔の話聞けて嬉しかった。あと…」
「あと」の先を言わずに拓真さんは僕が被っている布団を勢いよく剥がしてきた。その勢いのまま、彼は僕に抱きついてきた。
「俺も離してあげられない…ずっと側にいろよ」
呆気に取られるほど拓真さんは元気だった。何か伝わって拓真さんの憂いが晴れたのなら良かった。
「元気になってくれて良かったです」
「心配かけてごめん…じゃなくて、ありがとう」
「ついでにお願いがあるんですけど」
「何だ?」
「僕、拓真さんに『尊』って呼ばれたい」
「えぇ…恥ずかしいな…」
「ダメ…ですか?」
僕は恥ずかしいと言う拓真さんに、見えているか分からないのに上目遣いをして訴えた。
昨日喘ぎながら呟いた呼び捨てがたまらなく心地よかった。だからずっと呼ばれたいと思っていた。この流れで、それは無理なんてことないだろう。僕は信じてますよ、拓真さん。
「交換条件…」
「受け入れましょう」
「くっ…何言われるか分からないのに積極的すぎ…」
「別れ話以外どうってことないので。それで交換条件は何ですか?」
「敬語禁止と俺の名前も呼び捨てにしろよな」
交換条件を出してきた時点で大体予想はできていたけれど、条件に出さなくても受け入れてくれたら僕も呼ぼうと思っていたんだけどな。しかし1つのお願いに2つで返してくるなんて、意外にも拓真さんは貪欲みたいだ。
「んー交換条件なので僕ももう1つお願いいいですか?」
「そ、そうだよな…何だ?」
拓真さんは覚悟を決めたように身体に力を入れた。別にそんな警戒するようなことは言わないんだけどな。
「毎日ここに帰ってきてください」
「それ等価交換になってなくない?」
「だって毎日会いたい…ダメ?」
情に訴えるように言うなんて姑息な手を使ったけれど、そうしないと拓真さんは色々考えて断りそうだったから。僕はどうしても拓真さんと一緒に暮らしたい。今日の出来事がさらにそう思わせた。会社にいる間あいつとずっと一緒なんて許せないし、残業したら絶対会えないじゃないか。
拓真さんは結構な時間、真剣に考えてくれた。単なる引越しではないし、今までの家具とか荷物とか、色々あるのだろう。でもどうしても僕はここに住んでほしくて、たくさん利点をプレゼンした。
会社に近いことは最大の利点だと思うし、遅くまで寝られる。それに遅くてもすぐ寝られる。帰ったら美味しいご飯と子猫と僕が待っているなんて決めるしかないでしょ、なんて言ったら笑われてしまった。でも家事は僕が全部するって言ったら真剣な顔で怒ってくれた。それは分担だろって、ちょっと格好良かった。
それでも拓真さんは答えが出なかったみたいだ。
「何か決められない理由があるんですか?」
「んー…腰と尻の穴と体力が…」
「腰と尻の穴と体力が?」
「耐えられるか心配…」
拓真さんの決められない理由が、まさかの理由すぎて笑わずにはいられなかった。まさか一緒に住んだら毎日セックスする気で話が進んでいたとは、本当に思わなかった。
「俺は真剣なんだけど!」
「だってそんなことで悩んでいたなんて思わなくて…」
「ぐぬぬ…やっぱ引越しはなし。もう寝るわ」
「あぁ待って、不貞腐れないで。拓真さんの身体が辛い時にヤりたいなんて言いませんよ。だからその心配は除外して、それでも僕とは一緒に住みたくないですか?」
「そ、それは…住みたい…かな」
「じゃあ交換条件としては成立でいいよね、拓真」
「あーもうズルい!」
半ば強引に話を進め、僕たちは晴れて同棲することに決まった。僕は嬉しかったけど、拓真さんはプリプリしながら僕に背中を向けて寝てしまった。嫌ではないと思うんだけど、恥ずかしいのかな。可愛い。
拓真さんを後ろから抱きしめると髪の毛から僕と同じシャンプーの匂いがする。変なニオイが消えたことが僕を安心させた。
「ねぇ、僕の名前も呼んで」
「…みこ…と…」
やっぱり名前を呼ばれるっていいな。ちょっと恥ずかしそうに言うとことか、どうしてこの人はこんなにも初々しいんだろう。かと思えば急に大胆になったり、突然落ち込んだり、急にそっけなくなったり、こんなに心を掻き乱されるのは初めてだ。
期待したら最後は裏切られる、期待するだけ無駄だって思っていた。だから誰に何されても気持ちなんて動かなかったけれど、拓真さんは違った。期待しては裏切られたらどうしようと思ったり、傷付けたら自分も苦しかった。人を思うってこんなに心が動くものなんだって、初めて知った。この関係がいつまでも続いたらいいな、なんてことを願ってしまった。
だけど今は冗談で流すか、反応を待つか…暗くて顔がよく見えないから、どっちが正解なのか分からない。
「あー…えっと…」
「それってさ…ずっと側にいろってこと?」
「えっ…そ、そうです?」
「あは、何で疑問系」
「あ、また笑った…」
「笑うよ。何でそこで疑問系なんだよ」
そりゃ疑問系にもなるよ。「ずっと側にいろ」なんて恥ずかしくて肯定できないし…というか「離してあげられない」も同じか。
しっかり考えたら急に恥ずかしくなってきた。何言ってんだって、笑われたんだよね。それはそれでショックかも。僕は掛け布団を頭まで被って布団の中に篭った。
「笑ってごめん。でもありがとう。笑ったらスッキリしちゃった。それに昔の話聞けて嬉しかった。あと…」
「あと」の先を言わずに拓真さんは僕が被っている布団を勢いよく剥がしてきた。その勢いのまま、彼は僕に抱きついてきた。
「俺も離してあげられない…ずっと側にいろよ」
呆気に取られるほど拓真さんは元気だった。何か伝わって拓真さんの憂いが晴れたのなら良かった。
「元気になってくれて良かったです」
「心配かけてごめん…じゃなくて、ありがとう」
「ついでにお願いがあるんですけど」
「何だ?」
「僕、拓真さんに『尊』って呼ばれたい」
「えぇ…恥ずかしいな…」
「ダメ…ですか?」
僕は恥ずかしいと言う拓真さんに、見えているか分からないのに上目遣いをして訴えた。
昨日喘ぎながら呟いた呼び捨てがたまらなく心地よかった。だからずっと呼ばれたいと思っていた。この流れで、それは無理なんてことないだろう。僕は信じてますよ、拓真さん。
「交換条件…」
「受け入れましょう」
「くっ…何言われるか分からないのに積極的すぎ…」
「別れ話以外どうってことないので。それで交換条件は何ですか?」
「敬語禁止と俺の名前も呼び捨てにしろよな」
交換条件を出してきた時点で大体予想はできていたけれど、条件に出さなくても受け入れてくれたら僕も呼ぼうと思っていたんだけどな。しかし1つのお願いに2つで返してくるなんて、意外にも拓真さんは貪欲みたいだ。
「んー交換条件なので僕ももう1つお願いいいですか?」
「そ、そうだよな…何だ?」
拓真さんは覚悟を決めたように身体に力を入れた。別にそんな警戒するようなことは言わないんだけどな。
「毎日ここに帰ってきてください」
「それ等価交換になってなくない?」
「だって毎日会いたい…ダメ?」
情に訴えるように言うなんて姑息な手を使ったけれど、そうしないと拓真さんは色々考えて断りそうだったから。僕はどうしても拓真さんと一緒に暮らしたい。今日の出来事がさらにそう思わせた。会社にいる間あいつとずっと一緒なんて許せないし、残業したら絶対会えないじゃないか。
拓真さんは結構な時間、真剣に考えてくれた。単なる引越しではないし、今までの家具とか荷物とか、色々あるのだろう。でもどうしても僕はここに住んでほしくて、たくさん利点をプレゼンした。
会社に近いことは最大の利点だと思うし、遅くまで寝られる。それに遅くてもすぐ寝られる。帰ったら美味しいご飯と子猫と僕が待っているなんて決めるしかないでしょ、なんて言ったら笑われてしまった。でも家事は僕が全部するって言ったら真剣な顔で怒ってくれた。それは分担だろって、ちょっと格好良かった。
それでも拓真さんは答えが出なかったみたいだ。
「何か決められない理由があるんですか?」
「んー…腰と尻の穴と体力が…」
「腰と尻の穴と体力が?」
「耐えられるか心配…」
拓真さんの決められない理由が、まさかの理由すぎて笑わずにはいられなかった。まさか一緒に住んだら毎日セックスする気で話が進んでいたとは、本当に思わなかった。
「俺は真剣なんだけど!」
「だってそんなことで悩んでいたなんて思わなくて…」
「ぐぬぬ…やっぱ引越しはなし。もう寝るわ」
「あぁ待って、不貞腐れないで。拓真さんの身体が辛い時にヤりたいなんて言いませんよ。だからその心配は除外して、それでも僕とは一緒に住みたくないですか?」
「そ、それは…住みたい…かな」
「じゃあ交換条件としては成立でいいよね、拓真」
「あーもうズルい!」
半ば強引に話を進め、僕たちは晴れて同棲することに決まった。僕は嬉しかったけど、拓真さんはプリプリしながら僕に背中を向けて寝てしまった。嫌ではないと思うんだけど、恥ずかしいのかな。可愛い。
拓真さんを後ろから抱きしめると髪の毛から僕と同じシャンプーの匂いがする。変なニオイが消えたことが僕を安心させた。
「ねぇ、僕の名前も呼んで」
「…みこ…と…」
やっぱり名前を呼ばれるっていいな。ちょっと恥ずかしそうに言うとことか、どうしてこの人はこんなにも初々しいんだろう。かと思えば急に大胆になったり、突然落ち込んだり、急にそっけなくなったり、こんなに心を掻き乱されるのは初めてだ。
期待したら最後は裏切られる、期待するだけ無駄だって思っていた。だから誰に何されても気持ちなんて動かなかったけれど、拓真さんは違った。期待しては裏切られたらどうしようと思ったり、傷付けたら自分も苦しかった。人を思うってこんなに心が動くものなんだって、初めて知った。この関係がいつまでも続いたらいいな、なんてことを願ってしまった。
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